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忌まわしき過去
清算
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「ところで亮輔くん」
沢渡が話題をかえた。
「君は今、生活がかなり苦しいのでは?」
15才の少年が平日フルタイムで勤務しても、貰える給料はたかが知れてる。
誰の援助も受けず、ギリギリの生活をしているのだろうと。
「生活はギリギリです。給料貰っても、家賃や光熱費、定時制の月謝や飯代でほとんど消えていきます」
「それなら貯金など出来ないだろう?」
「はい、実は先生が毎月生活費を渡してくれる代わりに高校だけは卒業してくれ、と言われました。
先生がいる間は生活が楽でしたが、こんな事になってしまったので…
一応貯金はありますが、生活が苦しいので、毎月少しずつ切り崩して、底を尽きそうです」
気の毒に…亮輔と話しているうちに、我が子のように思え、不憫に感じた。
「そうか、その年で色々と苦労してるんだな。だが、この経験が今後の君の人生に大きく影響する。
大人になった時、君はこの時の事を糧に立派に生きていくんだ、わかったな?」
亮輔の目をジッと見た。
兄の達也と違い、悲しみに満ちた目をしていた。
「沢渡さん」
「ん?どうした?」
亮輔は土下座をした。
「どうしたんだ、一体?」
「お願いです!母を…母を探し出す事は出来ませんか?
母は必ず生きているはず。
沢渡さんの力で母を探し出す事はできませんか?お願いしますっ!」
亮輔は母親は必ず生きているはずだ。だが、何処に連れ去られたのかは分からない。
「亮輔くん」
「…はい」
「その件は警察が動いている」
「でも、海外に連れ去られたんですよ!警察はそこまで探すんですか?」
「この件については、私もどうにもならない。海外といっても何処なのか。
残念ながら、私はそこまでの力がない…
これが国内であれば何とか探し出せる可能性はあるんだが…」
無理もない。
沢渡は裏の世界にも精通している人物だが、海外に飛ばされたとなると、裏の力を持ってしても、探す事は不可能だ。
「…やっぱり無理ですか?」
「亮輔くん、すまない。こればかりは私でも無理なんだ、許してくれ」
沢渡は頭を下げた。
「そうですよね。いくら何でも世界中を回って探し出すなんて無理ですよね。
沢渡さん無理を言ってすみません」
亮輔も深々と頭を下げた。
「その代わりと言っては何だが」
沢渡が話を切り出した。
「何ですか?」
「君の生活をバックアップさせてもらえないだろうか?当面の生活費は勿論、学校を卒業したらウチの会社に就職させてあげよう。君の事は援助する、それで納得してもらえないだろうか?」
…面倒を見てもらう。
この言葉に何度騙された事か。
亮輔は心に秘めた思いがある。
それは、もう誰も信じない、もう誰も愛さない、と。
それにあの会社は今の亮輔にとっては、忌まわしいものでしかない。
イヤな思いしかしない会社など、入るつもりはない。
亮輔はこの申し出を断った。
「せっかくですが…僕は兄と違って、あの会社に入って、社長になってやろうなんて気持ちは全くありません。
それにあの会社の事は忘れたいんです、今は」
「そうか。君にとっては、あの会社はイヤな思い出しかないからな。すまんね、君の気持ちを汲み取らずにこんな事を言って」
「いや、そんな事ありません。沢渡さんがそこまで僕の事を思っていてくれただけでありがたいです」
再び頭を下げた。
「だが、せめて私の気持ちだけは受け取って欲しい」
そう言って沢渡は懐から、通帳と印鑑、そしてキャッシュカードを取り出した。
「亮輔くん、これだけは受け取って欲しい。これは私のほんの気持ちだ。金だけじゃないのは重々承知してる。だが、この先の生活の足しにしてくれないだろうか?」
亮輔は通帳を開いた。
そこには1000万と記載されていた。
しかも亮輔の名義だ。
「こんなの受けとれませんよ!だってこれは兄が不正で得た金じゃないですか?」
達也の金…
そんな汚い金などいらない、施しは受けるつもりはない。
「これはお兄さんの金ではない。元々は君のお母さんが今後、何かあった時の為に積み立てていた金だ。
それと、私のほんの気持ちとしていくらかの金額を足しておいた。
だからこれは君が受けとるべきなんだ、わかるな?」
オフクロがオレの為に?
通帳には500万まで積み立てていた金額、そして沢渡が更に500万追加していて、合計で1000万という大金がこの通帳に記帳されていた。
「母が…僕に?」
「そうだ。だからこれは君の物だ。だから受け取らなきゃならないんだ、いいな?」
1000万…このオレに1000万の金を?
15才の少年にとって、とてつもない金額に亮輔は現実味を感じていなかった。
「…」
しばし言葉を失った。
「亮輔くん、もし何かあったら遠慮なく私に言ってくれ。私は君の味方だ、これからもずっとな」
沢渡は立ち上がり、亮輔に肩をポンと叩いた。
「私はこれで帰るよ。亮輔くん、君は何があっても必ず生きるんだ。
二人のお母さんの為にも」
生みの母親と、育ての母親の為にシッカリと生きる。
沢渡が部屋を出た後も、亮輔はずっと通帳を見ていた。
1000万…もしかしたら、母親じゃなく、沢渡がオレの家系と縁を切る為によこした手切れ金なのかも知れない。
もう誰も信じない、と誓った亮輔は、母親がオレの為にコツコツと積み立てていたなんて信じられない。
猜疑心の塊と化した亮輔は、こんな泡銭なんか、とことん使ってやる!と心に決めた。
沢渡が話題をかえた。
「君は今、生活がかなり苦しいのでは?」
15才の少年が平日フルタイムで勤務しても、貰える給料はたかが知れてる。
誰の援助も受けず、ギリギリの生活をしているのだろうと。
「生活はギリギリです。給料貰っても、家賃や光熱費、定時制の月謝や飯代でほとんど消えていきます」
「それなら貯金など出来ないだろう?」
「はい、実は先生が毎月生活費を渡してくれる代わりに高校だけは卒業してくれ、と言われました。
先生がいる間は生活が楽でしたが、こんな事になってしまったので…
一応貯金はありますが、生活が苦しいので、毎月少しずつ切り崩して、底を尽きそうです」
気の毒に…亮輔と話しているうちに、我が子のように思え、不憫に感じた。
「そうか、その年で色々と苦労してるんだな。だが、この経験が今後の君の人生に大きく影響する。
大人になった時、君はこの時の事を糧に立派に生きていくんだ、わかったな?」
亮輔の目をジッと見た。
兄の達也と違い、悲しみに満ちた目をしていた。
「沢渡さん」
「ん?どうした?」
亮輔は土下座をした。
「どうしたんだ、一体?」
「お願いです!母を…母を探し出す事は出来ませんか?
母は必ず生きているはず。
沢渡さんの力で母を探し出す事はできませんか?お願いしますっ!」
亮輔は母親は必ず生きているはずだ。だが、何処に連れ去られたのかは分からない。
「亮輔くん」
「…はい」
「その件は警察が動いている」
「でも、海外に連れ去られたんですよ!警察はそこまで探すんですか?」
「この件については、私もどうにもならない。海外といっても何処なのか。
残念ながら、私はそこまでの力がない…
これが国内であれば何とか探し出せる可能性はあるんだが…」
無理もない。
沢渡は裏の世界にも精通している人物だが、海外に飛ばされたとなると、裏の力を持ってしても、探す事は不可能だ。
「…やっぱり無理ですか?」
「亮輔くん、すまない。こればかりは私でも無理なんだ、許してくれ」
沢渡は頭を下げた。
「そうですよね。いくら何でも世界中を回って探し出すなんて無理ですよね。
沢渡さん無理を言ってすみません」
亮輔も深々と頭を下げた。
「その代わりと言っては何だが」
沢渡が話を切り出した。
「何ですか?」
「君の生活をバックアップさせてもらえないだろうか?当面の生活費は勿論、学校を卒業したらウチの会社に就職させてあげよう。君の事は援助する、それで納得してもらえないだろうか?」
…面倒を見てもらう。
この言葉に何度騙された事か。
亮輔は心に秘めた思いがある。
それは、もう誰も信じない、もう誰も愛さない、と。
それにあの会社は今の亮輔にとっては、忌まわしいものでしかない。
イヤな思いしかしない会社など、入るつもりはない。
亮輔はこの申し出を断った。
「せっかくですが…僕は兄と違って、あの会社に入って、社長になってやろうなんて気持ちは全くありません。
それにあの会社の事は忘れたいんです、今は」
「そうか。君にとっては、あの会社はイヤな思い出しかないからな。すまんね、君の気持ちを汲み取らずにこんな事を言って」
「いや、そんな事ありません。沢渡さんがそこまで僕の事を思っていてくれただけでありがたいです」
再び頭を下げた。
「だが、せめて私の気持ちだけは受け取って欲しい」
そう言って沢渡は懐から、通帳と印鑑、そしてキャッシュカードを取り出した。
「亮輔くん、これだけは受け取って欲しい。これは私のほんの気持ちだ。金だけじゃないのは重々承知してる。だが、この先の生活の足しにしてくれないだろうか?」
亮輔は通帳を開いた。
そこには1000万と記載されていた。
しかも亮輔の名義だ。
「こんなの受けとれませんよ!だってこれは兄が不正で得た金じゃないですか?」
達也の金…
そんな汚い金などいらない、施しは受けるつもりはない。
「これはお兄さんの金ではない。元々は君のお母さんが今後、何かあった時の為に積み立てていた金だ。
それと、私のほんの気持ちとしていくらかの金額を足しておいた。
だからこれは君が受けとるべきなんだ、わかるな?」
オフクロがオレの為に?
通帳には500万まで積み立てていた金額、そして沢渡が更に500万追加していて、合計で1000万という大金がこの通帳に記帳されていた。
「母が…僕に?」
「そうだ。だからこれは君の物だ。だから受け取らなきゃならないんだ、いいな?」
1000万…このオレに1000万の金を?
15才の少年にとって、とてつもない金額に亮輔は現実味を感じていなかった。
「…」
しばし言葉を失った。
「亮輔くん、もし何かあったら遠慮なく私に言ってくれ。私は君の味方だ、これからもずっとな」
沢渡は立ち上がり、亮輔に肩をポンと叩いた。
「私はこれで帰るよ。亮輔くん、君は何があっても必ず生きるんだ。
二人のお母さんの為にも」
生みの母親と、育ての母親の為にシッカリと生きる。
沢渡が部屋を出た後も、亮輔はずっと通帳を見ていた。
1000万…もしかしたら、母親じゃなく、沢渡がオレの家系と縁を切る為によこした手切れ金なのかも知れない。
もう誰も信じない、と誓った亮輔は、母親がオレの為にコツコツと積み立てていたなんて信じられない。
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