快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

sky-high

文字の大きさ
131 / 189
流浪の如く

オレに関わってはいけない

しおりを挟む
テレビも無い静寂な部屋で、ナツの話す声だけが聞こえる。

オレはただ黙って話を聞いていた。

「お姉ちゃんに一度も会った事無いんだけどね。でも、同じ都内にいるなら会ったみたいなぁ」

児童養護施設で育てられた姉。
しかも、高校の教師をしている。

鴨志田?いや、それは無いだろう。
そもそも、鴨志田はもうこの世にはいないし、そのぐらいの情報はナツの耳にも入ってるはずだ。

「その後、施設にいたお姉ちゃんを引き取らなかったの?」

姉の事を聞いてみた。
ちょっと気になる。もう少し探ってみよう。

「その頃、両親とも10代で、特にお母さんの親が大反対して、今すぐ堕ろせ!って言われたんだけど、もうお腹が膨れて中絶なんて無理な状態らしくて…

父と駆け落ちして産んだんだけど、ちょうど父の勤めていた会社が倒産して、とても育てられるような状況じゃないから、里子に出すか、施設に預けるかってぐらい貧乏で、結局は施設に預けたらしいんだけどね」

「その後、アンタが生まれたワケだろ?そんときは生活は出来たのか?」

「ちょっと~、アンタって呼び方止めてくれるかな?ナツでいいよ」

どう呼んでいいのか分からないから、そう呼んだだけだ。

「だから、ナツが生まれた時は暮らしはどうだったの?」

「私は何不自由なく育てられたよ。裕福ではないけど、普通の暮らしはしてたかな」

「何で、その時に姉ちゃんを引き取らなかったの?」

「それはよく分からないんだけど…
聞いた話だと、お姉ちゃんを引き取りに、お母さんが何度か施設に行ったみたいだけど、お姉ちゃんは自分は捨てられたって思ってるから、今更一緒に暮らそうなんて出来ない!とか怒って、高校を卒業するまで施設にいたみたいよ。
そりゃそうだよね、生んでおいて、育てられないからって施設に預けっぱなしで、何年か経って親だから一緒に暮らそうなんて都合が良すぎるもん」

「だろうな。今更、母親面してノコノコ出てくんじゃねぇ、ってな感じになるよな」

「そうだよね?でもね…それを初めて聞かされたのは、お母さんが亡くなる数日前だったの…
それ聞いた時はショックだったな…それからお母さんも亡くなったし、もう、悲しくて悲しくて…」

その当時を思いだしたのか、涙が頬をつたった。

「だから、一度も会ったことが無いってワケか」

「…うん。だから会ってみたいの…一度でいいから【お姉ちゃん】て呼んでみたいの…」

…鴨志田って、何処の出身だったのだろうか?そういう事は一切言わなかったから、オレもよく知らない。

それにしても、環境が似すぎてる。

「高校の教師をしてるって事は、こっちに来て大学に通ったって事?」

もう少し聞いてみよう。

「じゃないのかな?だって、先生になるぐらいだから大学に行かないとなれないでしょ?」

それはそうだが…ナツはどこまで姉の事を知ってるんだろうか?

「それって、お母さんから聞いた話?」

「…うん。お母さんと、施設の所長って言うの?その人にはよく連絡してたみたい。
お姉ちゃんにとっては、親みたいな存在だから」

「だったら、興信所にでも頼んでみたらどう?そういうのも引き受けてくれると思うよ」

「…あのね、実は一度興信所に行って調べて欲しいって依頼したんだけど、費用がかなり高くて。それじゃあ自分で探してみよう、って思ってキャバクラに勤めたの」

「え?姉ちゃん探すのにキャバクラ?ちょっと意味分かんないんだけど」

何故キャバクラなのか。

「ああいう店ってね、ケッコーお堅い人が来るの。勿論、学校の先生もね。だから上手く話を聞いて、少しでも情報を得ようとして働いたのがキャバクラってワケ」

それで、情報聞き出せるものなのか?よっぽど話が上手いと聞き出せないようなもんだ。

「それで、何か情報を得たワケ?」

「…古賀くん、さっきから何度もお姉ちゃんの事聞いてるけど、もしかして知ってるの?」

オレの目をジッと見ている。

何て目をしてるんだ。
端から見れば、二重瞼で綺麗な瞳だが、その奥底にはかなり辛い過去を見てきたワケだ。
ここで目を逸らしたら、何か知ってると思われてしまう。

オレは目を逸らさずに、ナツの目を見た。

「…知るワケないよね、これだけの情報じゃ…でも古賀くんもかなり苦労したでしょ?私ね、これでも色んなお客を相手にしてるから、目を見れば大体分かるんだ、どんな人かって」

だから、指名が常に上位なのか。

売れっ子のキャバ嬢だと、月に幾らぐらい貰ってるんだろうか。

オレよりは遥かに貰ってるのは分かるが、平均は幾らぐらいなんだろ?帰ったら山下に聞いてみるか。

「結局見つかりそうなの、姉ちゃんは?」

もう少し聞いてみないと分からないな。

「それがね、人によって情報がバラバラなの」

「バラバラ?何だそりゃ?」

一体、どんな情報を得てるのか。
ましてや、コイツは人の事を観察するのが長けている。
深追いするのは止めた方がいいかもな。

「養子縁組になったとか、教師辞めて風俗で働いてるとか、そんな事あるワケないじゃん?その時はすごくムカついたよ」

…間違いない、鴨志田の事だ!となると、オレは鴨志田の実の子供だから、コイツは叔母になるのか?

一気に顔から、血の気が引いたような感じがした。

…また、息苦しくなってきた。
オレは、あれから何度も過呼吸に悩まされ続けている。

「…はぁ、何か食いすぎたかな。腹痛っ、ちょっとトイレ…」

オレはトイレに駆け込み、便座に座ると、ゆっくりと息を吐いて鼻から息を吸った。
意識的に何度も繰り返し、とにかく悟られないよう、息苦しいのを堪えながら、とにかくゆっくりと呼吸をして、心拍数の速さを正常にさせるよう、心の中でイメージした。
リラクゼーション出来るイメージを。

「古賀くん、大丈夫?もしかして食中毒とかじゃないよね?」

ドア越しにナツの心配そうな声が響く。
「う、うん、ただ食いすぎたから腹痛いだけ…」

もう少しだ、後ちょっとで呼吸が楽になる。

もう少しここにいよう。
完全に落ち着くまで、ここで時間を稼ぐしかない。

徐々に呼吸が楽になった。
よし、大丈夫だ!

トイレから出て洗面所で手を洗い、鏡で顔を見た。

うん、大丈夫。顔色も問題ない。

「大丈夫?お腹壊した?」

ナツが心配そうな表情を浮かべる。

「はぁ、ようやく治った。やっぱり、美味いからって食い過ぎは良くないな、うん」

何とかごまかせた。

だが、ナツの言う姉とは鴨志田の事に違いない。

これがバレたら、大変な事になりそうだ。

(もう、コイツとは関わるな!関わったらいずれはバレてしまう。だから今日限りで一切連絡するな!)

オレの頭の中で非常ベルが鳴った。
ナツと関わるのはこれっきりにしよう、と。

そろそろ帰る事にしよう。

「…とにかく、姉ちゃん見つかるといいな。じゃあ、悪いけどオレ、これから家に帰ってあのバカの飯作らなきゃ」

「今、一緒に住んでるんだってね。何であんな男がボーイやってんだか」

ナツは山下の事がキライみたいだ。

「まぁ、その分家計が楽になるからいいけど、早いとこ出てってもらわないとな。じゃ、そういうワケでご馳走さま、そしてお邪魔しました」

「うん、また連絡するね」

「じゃ、また」

オレは玄関のドアを閉めると、ダッシュでマンションを出た。

まさか、ナツが鴨志田の妹だなんて…

兄のせいでこの世を去った、なんて言えない。
もし言ったら、オレは兄の代わりに…
いや、それ以上に、オレと関わると悲惨な最期を遂げるだろう。

今まで何人もの人がこの世を去ったのだろうか。

だからオレの為にも、ナツの為にも、これ以上深入りしてはならない。

ナツの番号を着信拒否した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...