快楽に溺れ、過ちを繰り返す生命体

sky-high

文字の大きさ
178 / 189
シリアルキラー

漂流街

しおりを挟む
「じゃあ、今度はこっちが質問させてもらうが」

ソンヒョクは安全靴に仕込まれている刃を研いでいる。

「質問?答えられる範囲ならば」

達也はリングを下りて、建物の隅に置いてあった灰皿の前にある椅子に座り、タバコを吸おうとした。

「…あれ、無いや。なぁソンヒョク、タバコ持ってないか?」

どうやら、宿泊所にタバコを置き忘れたらしい。

「何だお前、タバコ吸うのか?」

「どうしても止められなくてな。タバコ持ってないか?」

達也はかなりのヘビースモーカーで、一日に三箱吸う。
何もやる事がないから、自然とタバコを手にしてしまい、気づいたら起きてる間は、しょっちゅうタバコに火を点けている。

「…なんだよ、せっかく止めてたのに」

ソンヒョクは建物の奥にある、机の引き出しを開けた。

「…ほら、これでも吸え」

ソンヒョクは禁煙していたらしく、何本か残っていたタバコのケースを達也に投げた。

「おぉ、悪い悪い。やる事ねえから、タバコ吸うぐらいしかなくてさ」

達也は早速タバコに火を点け、美味そうに煙を吐き出した。

薄暗い小屋の中で紫煙がゆらめいている。

「で、オレに質問って何だ?」

ソンヒョクはもう片方の安全靴を手入れしている。
何時、いかなる時でも任務を完璧に遂行するためには、道具の手入れは欠かせない。

「何で、殺しなんてやったんだ?」

「何でって…オレ狙われてたんだよ」

椅子に座り、天井を見ながら達也は今までの経緯をソンヒョクに話した。

「ほぅ、お前も相当なワルだな。で、今はここに身を隠してるってワケか」

「うん。まぁ、それもあるんだが、何となくこの界隈が気に入ってな。ここへ戻ってまだ日が浅いが、こんな昔ながらの町並みがあるんだって、初めて知ったよ」

以前は、道路を挟んだ向こう側のコリアンタウンにナツと住んでいた。
だがナツと別れ、居場所を転々として身を隠していたが、一番しっくりくるのがこのコリアンタウンだと気付き、再びこの地を訪れた。

「イルボンのクセに、この町並みが気に入るなんて、お前少し変わったヤツだな」

ソンヒョクは窓を開け、タバコの煙で充満した小屋の中を換気する為、空気を入れ換えた。

「オレ、ホントは小島って名前じゃねえんだよ。本名は達也。名字はワケあって、名乗れ無いけど」

達也はソンヒョクに対して包み隠さず、今まで起こった出来事を全部話した。

コイツなら何を話しても大丈夫だろう、そんな感じに思えて正直に喋った。

「社長だったヤツが、命狙われて顔まで変えて生き延びるって、随分と汚え事やってきたんだな」

ソンヒョクは鼻で笑いながら、リングの上に置いてあったオープンフィンガーグローブを取り、中の綿を入れ替えていた。

「何だよ?そりゃ、バカにしてんのか!」

バカにされたかのような言い方に、達也はイラッとした。

「生きてく為には、色々と知恵を絞っていかなきゃなんないって事だ。悪気はねえよ」

ソンヒョクも日本で生きていくには、この仕事しか無いと思い、殺し屋という稼業をやっている。

「しかしアンタ、どこでその格闘術習ったんだ?まさか殺し屋の養成所とかあんのか?」

「ブワッハッハッハ!あるワケないだろ!マンガの読みすぎだぞ!」

ソンヒョクは腹を抱えて笑った。

「じゃあ、どこで?」

ソンヒョクはリングに上がった。

「ここだよ」

そう言ってリングを指さした。

「ここは、元々ジムだったのか?」

確かに格闘技ジムの名残はある。しかし、リングとサンドバッグのみしか無い。

「いや…以前ここには、世界中にある全ての格闘術と学問を教える人物がいたんだ」

「ん?世界中って…じゃあ、テコンドーだけじゃなく、ボクシングやムエタイ、ブラジリアン柔術とかもここで覚えたのか?」

一体どんな事をやってきたんだろう?
達也はソンヒョクという人物に、益々興味が湧いてきた。

「オレは在日の2世で、オヤジとオフクロは元々韓国に住んでいたんだ。で、親戚を頼って日本に密入国してオレを生んだって事らしい。
何せ、この地域は日本の警察でさえタッチ出来ない程、同胞の集まりが多いからな。
その同胞をまとめてるのが、この地域を仕切ってるマフィアって事だ」

まるで、漂流街みたいな場所だ…

「見ての通り、ここは向こうのコリアンタウンと比べて格差の激しい地域だ。言ってみりゃ、貧民街っていうのか?そんな界隈だ。
見て分かるだろ?ここに住んでる連中は、まともに学校に行ったヤツなんてほとんどいない。
と言うか、行けないって言った方がいいのかな。
ほとんどが、密入国のヤツラだから朝鮮学校にも通えやしない。オレもその中の一人なんだが…」

これじゃ、治外法権じゃないか…今の日本にこんな踏み入れる事の出来ない場所があるとは…

何から何まで、達也には未知の世界だ。

「で、オレらガキは学校にも行けない。だから、ここで勉強と格闘術を教えてくれる人物がいて、オレはその全てを学んだって事だ」

「…ってことはやっぱり、マフィアの関係者って事か?」

ソンヒョクはコーナーへもたれかかり、軽くストレッチを始めた。テコンドーをやってるだけあってかなり身体が柔軟だ。

「いや、その人は同胞じゃない。イルボンの人だ」

「へっ…?日本人がこのコリアンタウンで勉強教えてたのか?」

益々ワケが分からなくなってきた。

この日本で、日本人でさえ踏み入れる事が出来ないこの土地で、日本人が在日コリアン相手に勉強を教えていたとは…


「達也、さっき言ってた養成所って話だが…実はここがその養成所だったってワケだ、ワハハハハ!」

…達也には理解が出来なかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...