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シリアルキラー
漂流街
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「じゃあ、今度はこっちが質問させてもらうが」
ソンヒョクは安全靴に仕込まれている刃を研いでいる。
「質問?答えられる範囲ならば」
達也はリングを下りて、建物の隅に置いてあった灰皿の前にある椅子に座り、タバコを吸おうとした。
「…あれ、無いや。なぁソンヒョク、タバコ持ってないか?」
どうやら、宿泊所にタバコを置き忘れたらしい。
「何だお前、タバコ吸うのか?」
「どうしても止められなくてな。タバコ持ってないか?」
達也はかなりのヘビースモーカーで、一日に三箱吸う。
何もやる事がないから、自然とタバコを手にしてしまい、気づいたら起きてる間は、しょっちゅうタバコに火を点けている。
「…なんだよ、せっかく止めてたのに」
ソンヒョクは建物の奥にある、机の引き出しを開けた。
「…ほら、これでも吸え」
ソンヒョクは禁煙していたらしく、何本か残っていたタバコのケースを達也に投げた。
「おぉ、悪い悪い。やる事ねえから、タバコ吸うぐらいしかなくてさ」
達也は早速タバコに火を点け、美味そうに煙を吐き出した。
薄暗い小屋の中で紫煙がゆらめいている。
「で、オレに質問って何だ?」
ソンヒョクはもう片方の安全靴を手入れしている。
何時、いかなる時でも任務を完璧に遂行するためには、道具の手入れは欠かせない。
「何で、殺しなんてやったんだ?」
「何でって…オレ狙われてたんだよ」
椅子に座り、天井を見ながら達也は今までの経緯をソンヒョクに話した。
「ほぅ、お前も相当なワルだな。で、今はここに身を隠してるってワケか」
「うん。まぁ、それもあるんだが、何となくこの界隈が気に入ってな。ここへ戻ってまだ日が浅いが、こんな昔ながらの町並みがあるんだって、初めて知ったよ」
以前は、道路を挟んだ向こう側のコリアンタウンにナツと住んでいた。
だがナツと別れ、居場所を転々として身を隠していたが、一番しっくりくるのがこのコリアンタウンだと気付き、再びこの地を訪れた。
「イルボンのクセに、この町並みが気に入るなんて、お前少し変わったヤツだな」
ソンヒョクは窓を開け、タバコの煙で充満した小屋の中を換気する為、空気を入れ換えた。
「オレ、ホントは小島って名前じゃねえんだよ。本名は達也。名字はワケあって、名乗れ無いけど」
達也はソンヒョクに対して包み隠さず、今まで起こった出来事を全部話した。
コイツなら何を話しても大丈夫だろう、そんな感じに思えて正直に喋った。
「社長だったヤツが、命狙われて顔まで変えて生き延びるって、随分と汚え事やってきたんだな」
ソンヒョクは鼻で笑いながら、リングの上に置いてあったオープンフィンガーグローブを取り、中の綿を入れ替えていた。
「何だよ?そりゃ、バカにしてんのか!」
バカにされたかのような言い方に、達也はイラッとした。
「生きてく為には、色々と知恵を絞っていかなきゃなんないって事だ。悪気はねえよ」
ソンヒョクも日本で生きていくには、この仕事しか無いと思い、殺し屋という稼業をやっている。
「しかしアンタ、どこでその格闘術習ったんだ?まさか殺し屋の養成所とかあんのか?」
「ブワッハッハッハ!あるワケないだろ!マンガの読みすぎだぞ!」
ソンヒョクは腹を抱えて笑った。
「じゃあ、どこで?」
ソンヒョクはリングに上がった。
「ここだよ」
そう言ってリングを指さした。
「ここは、元々ジムだったのか?」
確かに格闘技ジムの名残はある。しかし、リングとサンドバッグのみしか無い。
「いや…以前ここには、世界中にある全ての格闘術と学問を教える人物がいたんだ」
「ん?世界中って…じゃあ、テコンドーだけじゃなく、ボクシングやムエタイ、ブラジリアン柔術とかもここで覚えたのか?」
一体どんな事をやってきたんだろう?
達也はソンヒョクという人物に、益々興味が湧いてきた。
「オレは在日の2世で、オヤジとオフクロは元々韓国に住んでいたんだ。で、親戚を頼って日本に密入国してオレを生んだって事らしい。
何せ、この地域は日本の警察でさえタッチ出来ない程、同胞の集まりが多いからな。
その同胞をまとめてるのが、この地域を仕切ってるマフィアって事だ」
まるで、漂流街みたいな場所だ…
「見ての通り、ここは向こうのコリアンタウンと比べて格差の激しい地域だ。言ってみりゃ、貧民街っていうのか?そんな界隈だ。
見て分かるだろ?ここに住んでる連中は、まともに学校に行ったヤツなんてほとんどいない。
と言うか、行けないって言った方がいいのかな。
ほとんどが、密入国のヤツラだから朝鮮学校にも通えやしない。オレもその中の一人なんだが…」
これじゃ、治外法権じゃないか…今の日本にこんな踏み入れる事の出来ない場所があるとは…
何から何まで、達也には未知の世界だ。
「で、オレらガキは学校にも行けない。だから、ここで勉強と格闘術を教えてくれる人物がいて、オレはその全てを学んだって事だ」
「…ってことはやっぱり、マフィアの関係者って事か?」
ソンヒョクはコーナーへもたれかかり、軽くストレッチを始めた。テコンドーをやってるだけあってかなり身体が柔軟だ。
「いや、その人は同胞じゃない。イルボンの人だ」
「へっ…?日本人がこのコリアンタウンで勉強教えてたのか?」
益々ワケが分からなくなってきた。
この日本で、日本人でさえ踏み入れる事が出来ないこの土地で、日本人が在日コリアン相手に勉強を教えていたとは…
「達也、さっき言ってた養成所って話だが…実はここがその養成所だったってワケだ、ワハハハハ!」
…達也には理解が出来なかった。
ソンヒョクは安全靴に仕込まれている刃を研いでいる。
「質問?答えられる範囲ならば」
達也はリングを下りて、建物の隅に置いてあった灰皿の前にある椅子に座り、タバコを吸おうとした。
「…あれ、無いや。なぁソンヒョク、タバコ持ってないか?」
どうやら、宿泊所にタバコを置き忘れたらしい。
「何だお前、タバコ吸うのか?」
「どうしても止められなくてな。タバコ持ってないか?」
達也はかなりのヘビースモーカーで、一日に三箱吸う。
何もやる事がないから、自然とタバコを手にしてしまい、気づいたら起きてる間は、しょっちゅうタバコに火を点けている。
「…なんだよ、せっかく止めてたのに」
ソンヒョクは建物の奥にある、机の引き出しを開けた。
「…ほら、これでも吸え」
ソンヒョクは禁煙していたらしく、何本か残っていたタバコのケースを達也に投げた。
「おぉ、悪い悪い。やる事ねえから、タバコ吸うぐらいしかなくてさ」
達也は早速タバコに火を点け、美味そうに煙を吐き出した。
薄暗い小屋の中で紫煙がゆらめいている。
「で、オレに質問って何だ?」
ソンヒョクはもう片方の安全靴を手入れしている。
何時、いかなる時でも任務を完璧に遂行するためには、道具の手入れは欠かせない。
「何で、殺しなんてやったんだ?」
「何でって…オレ狙われてたんだよ」
椅子に座り、天井を見ながら達也は今までの経緯をソンヒョクに話した。
「ほぅ、お前も相当なワルだな。で、今はここに身を隠してるってワケか」
「うん。まぁ、それもあるんだが、何となくこの界隈が気に入ってな。ここへ戻ってまだ日が浅いが、こんな昔ながらの町並みがあるんだって、初めて知ったよ」
以前は、道路を挟んだ向こう側のコリアンタウンにナツと住んでいた。
だがナツと別れ、居場所を転々として身を隠していたが、一番しっくりくるのがこのコリアンタウンだと気付き、再びこの地を訪れた。
「イルボンのクセに、この町並みが気に入るなんて、お前少し変わったヤツだな」
ソンヒョクは窓を開け、タバコの煙で充満した小屋の中を換気する為、空気を入れ換えた。
「オレ、ホントは小島って名前じゃねえんだよ。本名は達也。名字はワケあって、名乗れ無いけど」
達也はソンヒョクに対して包み隠さず、今まで起こった出来事を全部話した。
コイツなら何を話しても大丈夫だろう、そんな感じに思えて正直に喋った。
「社長だったヤツが、命狙われて顔まで変えて生き延びるって、随分と汚え事やってきたんだな」
ソンヒョクは鼻で笑いながら、リングの上に置いてあったオープンフィンガーグローブを取り、中の綿を入れ替えていた。
「何だよ?そりゃ、バカにしてんのか!」
バカにされたかのような言い方に、達也はイラッとした。
「生きてく為には、色々と知恵を絞っていかなきゃなんないって事だ。悪気はねえよ」
ソンヒョクも日本で生きていくには、この仕事しか無いと思い、殺し屋という稼業をやっている。
「しかしアンタ、どこでその格闘術習ったんだ?まさか殺し屋の養成所とかあんのか?」
「ブワッハッハッハ!あるワケないだろ!マンガの読みすぎだぞ!」
ソンヒョクは腹を抱えて笑った。
「じゃあ、どこで?」
ソンヒョクはリングに上がった。
「ここだよ」
そう言ってリングを指さした。
「ここは、元々ジムだったのか?」
確かに格闘技ジムの名残はある。しかし、リングとサンドバッグのみしか無い。
「いや…以前ここには、世界中にある全ての格闘術と学問を教える人物がいたんだ」
「ん?世界中って…じゃあ、テコンドーだけじゃなく、ボクシングやムエタイ、ブラジリアン柔術とかもここで覚えたのか?」
一体どんな事をやってきたんだろう?
達也はソンヒョクという人物に、益々興味が湧いてきた。
「オレは在日の2世で、オヤジとオフクロは元々韓国に住んでいたんだ。で、親戚を頼って日本に密入国してオレを生んだって事らしい。
何せ、この地域は日本の警察でさえタッチ出来ない程、同胞の集まりが多いからな。
その同胞をまとめてるのが、この地域を仕切ってるマフィアって事だ」
まるで、漂流街みたいな場所だ…
「見ての通り、ここは向こうのコリアンタウンと比べて格差の激しい地域だ。言ってみりゃ、貧民街っていうのか?そんな界隈だ。
見て分かるだろ?ここに住んでる連中は、まともに学校に行ったヤツなんてほとんどいない。
と言うか、行けないって言った方がいいのかな。
ほとんどが、密入国のヤツラだから朝鮮学校にも通えやしない。オレもその中の一人なんだが…」
これじゃ、治外法権じゃないか…今の日本にこんな踏み入れる事の出来ない場所があるとは…
何から何まで、達也には未知の世界だ。
「で、オレらガキは学校にも行けない。だから、ここで勉強と格闘術を教えてくれる人物がいて、オレはその全てを学んだって事だ」
「…ってことはやっぱり、マフィアの関係者って事か?」
ソンヒョクはコーナーへもたれかかり、軽くストレッチを始めた。テコンドーをやってるだけあってかなり身体が柔軟だ。
「いや、その人は同胞じゃない。イルボンの人だ」
「へっ…?日本人がこのコリアンタウンで勉強教えてたのか?」
益々ワケが分からなくなってきた。
この日本で、日本人でさえ踏み入れる事が出来ないこの土地で、日本人が在日コリアン相手に勉強を教えていたとは…
「達也、さっき言ってた養成所って話だが…実はここがその養成所だったってワケだ、ワハハハハ!」
…達也には理解が出来なかった。
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