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シリアルキラー
韓国料理より納豆
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ソンヒョクはコリアンタウンを抜け、 一本裏手の路地にある、お世辞にも綺麗とは言い難い、大衆酒場に入った。
入り口では、すっかり色褪せた群青の暖簾と、その横で破れかけの赤提灯が明滅していた。
立て付けの悪い引き戸が、ガタガタと音をたてる。
この退廃的オンボロさも、ここまで徹底されれば、却って心地がいいというものだ。
「あら、いらっしゃ~い!久しぶりね」
カウンターの奥から、眼鏡をかけた60代ぐらいの小太りな女将がソンヒョクを見て、にこやかに迎えてくれた。
「オバチャン久しぶり、元気?」
ソンヒョクは女将と顔見知りなのだろうか…
ソンヒョクと達也はカウンターに座り、壁に書かれた色褪せたメニュー表を見ていた。
「ここは夜は赤提灯で、昼間は定食屋になってんだ。オバチャン、オレいつものやつね」
ソンヒョクは食べ慣れたメニューを注文した。
「はぁーい、そちらのお客さんは?」
「あ、オレ?じゃあ、さばの味噌煮定食で」
「はい、さばの味噌煮ね。ちょっと待っててね」
元気のいい女将の声がこの狭い店内に響く。
「達也、ビール飲むか?それとも酒は苦手か?」
「…あ、いや大丈夫だが」
「あ、オバチャン!それと瓶ビール一本とグラス2つね!」
先程までの顔つきはどこやら、ソンヒョクは穏やかな顔つきで女将が出したお茶を飲んでいる。
「なぁ、ソンヒョク…」
達也が言い掛けたのを遮るように、ソンヒョクは達也を制した。
「シッ…詳しいことは後で話す。ここはオレのオアシスなんだ」
オアシスねぇ…この寂れた感じの店が好きなのか。
「あい、お待ちどう様」
女将は栓を抜いた瓶ビールとグラスを二つ、カウンターに置いた。
「ほら、達也」
ソンヒョクはビールを持って達也のグラスに注いだ。
「…あ、じゃあソンヒョク」
お返しに達也はソンヒョクのグラスにビールを注ぐ。
「じゃ、お疲れさん!乾杯」
「…あ、あぁ、乾杯」
グラスを鳴らし、ソンヒョクはグーっと、一気にビールを飲み干した。
「…早いな、じゃあもう一杯」
達也は空になったグラスに注ごうとしたが、ソンヒョクは手で制した。
「オレは一杯までと決めてんだ。残りはお前が飲め」
「…はぁ」
これがついさっきまで所要時間僅か一秒、いやコンマ何秒の速さで人を仕留めた人間の顔なのか?
あまりの変わりように、達也は戸惑うばかりだ。
「あいよ~、ソンちゃん!いつものヤツね」
「おおっ、来た来た!美味そうだな!」
ソンヒョクの目の前に置かれた定食は、サンマの塩焼き、納豆、冷奴に漬け物とワカメの味噌汁。ご飯は山盛りだ。
「…ソンヒョク、それ納豆じゃんか。大丈夫なのか?」
納豆を嫌う外国人は多い。ソンヒョクは、コリアンタウンの貧民街に住んでるにも関わらず、韓国料理より、日本人が食べる定食を好んでいる。
「何言ってんだ、納豆美味いじゃないか。なぁ、オバチャン?」
奥で、達也が注文したさばの味噌煮定食を作っている女将に声をかけた。
「ねぇ、ホント。ソンちゃんは納豆好きだもんね」
「そうだよ、オバチャン。オレはここで飯食うのが一番の楽しみなんだ。だから、いつまでも元気でいてくれよ」
(何だ、このやりとりは?)
「はい、さばの味噌煮定食お待ちどう様」
女将は達也のカウンターの前に置いた。
「そっちのお兄さんは、ソンちゃんみたいに大盛りじゃなくていいの?」
ソンヒョクの食べるご飯はかなりの山盛りだ。凄い食欲だ…しかも、あんな事をしたばかりなのに、よく食べるもんだ…と。
「いや、オレはこれで十分」
達也は定食に手を付けた。
「な?美味いだろ?このオバチャンの作る飯は一番だぜ。オレ韓国料理あんまり好きじゃないしな」
「えっ…?」
「でしょ?ソンちゃん少し変わってるのよ。韓国の飯より、ここの飯の方が断然美味いって、納豆なんか二つも食べる時があるからねぇ、ホントに」
女将はソンヒョクの納豆好きに笑いながら答えた。
「オバチャン!やっぱ、納豆サイコーだよ!それとこのサンマ!もうこれだけで、何杯でも食えるって」
ソンヒョクは女将と話ながら飯を食うのを、心底楽しんでいる。
「…やっぱ変わってるよな、アンタ」
達也は定食を食べながら笑った。
定食を食べ終え、席を立った。
「あ、ソンヒョク。ここは割り勘の方が…」
「いいっていいって!ここはオレのオゴリだ、気にすんな」
爪楊枝をくわえながら、ソンヒョクは会計を済ませた。
「じゃオバチャン、ご馳走さん!また来るね」
「はぁ~い、ありがとうね」
女将の優しく元気な声を背に店を出た。
「…なぁ、ソンヒョク。そろそろ教えてくれてもいいだろ?」
達也はどうやって人混みの中、ポケットから手を出さずに人を殺せるのか?
それが知りたくてウズウズしていた。
「達也、焦るな。向こうに帰ったらゆっくり説明するから。オレは仕事を終えたら、オバチャンとこで飯食ってから女買いに行くんだ。達也、お前もどうだ?」
「買うって、ソープとかか?」
「その時によりけりかなぁ。ソープの時もあれば、ホテルでデリヘルって時もあるし…じゃ、ソープ行こうぜ!金なら心配すんな、お前の分も払ってやるから」
ガハハハハと豪快に笑い、達也の肩を組んで二人は風俗街へ向かった…
(ソンヒョク…コイツ、随分と面白いヤツだな)
とりあえず、今は性欲を満たしてから後で聞けばいいか…達也はソンヒョクとは気が合いそうだ、そんな事を思い、今は余計な事を考えるのは止めよう、そう思った。
入り口では、すっかり色褪せた群青の暖簾と、その横で破れかけの赤提灯が明滅していた。
立て付けの悪い引き戸が、ガタガタと音をたてる。
この退廃的オンボロさも、ここまで徹底されれば、却って心地がいいというものだ。
「あら、いらっしゃ~い!久しぶりね」
カウンターの奥から、眼鏡をかけた60代ぐらいの小太りな女将がソンヒョクを見て、にこやかに迎えてくれた。
「オバチャン久しぶり、元気?」
ソンヒョクは女将と顔見知りなのだろうか…
ソンヒョクと達也はカウンターに座り、壁に書かれた色褪せたメニュー表を見ていた。
「ここは夜は赤提灯で、昼間は定食屋になってんだ。オバチャン、オレいつものやつね」
ソンヒョクは食べ慣れたメニューを注文した。
「はぁーい、そちらのお客さんは?」
「あ、オレ?じゃあ、さばの味噌煮定食で」
「はい、さばの味噌煮ね。ちょっと待っててね」
元気のいい女将の声がこの狭い店内に響く。
「達也、ビール飲むか?それとも酒は苦手か?」
「…あ、いや大丈夫だが」
「あ、オバチャン!それと瓶ビール一本とグラス2つね!」
先程までの顔つきはどこやら、ソンヒョクは穏やかな顔つきで女将が出したお茶を飲んでいる。
「なぁ、ソンヒョク…」
達也が言い掛けたのを遮るように、ソンヒョクは達也を制した。
「シッ…詳しいことは後で話す。ここはオレのオアシスなんだ」
オアシスねぇ…この寂れた感じの店が好きなのか。
「あい、お待ちどう様」
女将は栓を抜いた瓶ビールとグラスを二つ、カウンターに置いた。
「ほら、達也」
ソンヒョクはビールを持って達也のグラスに注いだ。
「…あ、じゃあソンヒョク」
お返しに達也はソンヒョクのグラスにビールを注ぐ。
「じゃ、お疲れさん!乾杯」
「…あ、あぁ、乾杯」
グラスを鳴らし、ソンヒョクはグーっと、一気にビールを飲み干した。
「…早いな、じゃあもう一杯」
達也は空になったグラスに注ごうとしたが、ソンヒョクは手で制した。
「オレは一杯までと決めてんだ。残りはお前が飲め」
「…はぁ」
これがついさっきまで所要時間僅か一秒、いやコンマ何秒の速さで人を仕留めた人間の顔なのか?
あまりの変わりように、達也は戸惑うばかりだ。
「あいよ~、ソンちゃん!いつものヤツね」
「おおっ、来た来た!美味そうだな!」
ソンヒョクの目の前に置かれた定食は、サンマの塩焼き、納豆、冷奴に漬け物とワカメの味噌汁。ご飯は山盛りだ。
「…ソンヒョク、それ納豆じゃんか。大丈夫なのか?」
納豆を嫌う外国人は多い。ソンヒョクは、コリアンタウンの貧民街に住んでるにも関わらず、韓国料理より、日本人が食べる定食を好んでいる。
「何言ってんだ、納豆美味いじゃないか。なぁ、オバチャン?」
奥で、達也が注文したさばの味噌煮定食を作っている女将に声をかけた。
「ねぇ、ホント。ソンちゃんは納豆好きだもんね」
「そうだよ、オバチャン。オレはここで飯食うのが一番の楽しみなんだ。だから、いつまでも元気でいてくれよ」
(何だ、このやりとりは?)
「はい、さばの味噌煮定食お待ちどう様」
女将は達也のカウンターの前に置いた。
「そっちのお兄さんは、ソンちゃんみたいに大盛りじゃなくていいの?」
ソンヒョクの食べるご飯はかなりの山盛りだ。凄い食欲だ…しかも、あんな事をしたばかりなのに、よく食べるもんだ…と。
「いや、オレはこれで十分」
達也は定食に手を付けた。
「な?美味いだろ?このオバチャンの作る飯は一番だぜ。オレ韓国料理あんまり好きじゃないしな」
「えっ…?」
「でしょ?ソンちゃん少し変わってるのよ。韓国の飯より、ここの飯の方が断然美味いって、納豆なんか二つも食べる時があるからねぇ、ホントに」
女将はソンヒョクの納豆好きに笑いながら答えた。
「オバチャン!やっぱ、納豆サイコーだよ!それとこのサンマ!もうこれだけで、何杯でも食えるって」
ソンヒョクは女将と話ながら飯を食うのを、心底楽しんでいる。
「…やっぱ変わってるよな、アンタ」
達也は定食を食べながら笑った。
定食を食べ終え、席を立った。
「あ、ソンヒョク。ここは割り勘の方が…」
「いいっていいって!ここはオレのオゴリだ、気にすんな」
爪楊枝をくわえながら、ソンヒョクは会計を済ませた。
「じゃオバチャン、ご馳走さん!また来るね」
「はぁ~い、ありがとうね」
女将の優しく元気な声を背に店を出た。
「…なぁ、ソンヒョク。そろそろ教えてくれてもいいだろ?」
達也はどうやって人混みの中、ポケットから手を出さずに人を殺せるのか?
それが知りたくてウズウズしていた。
「達也、焦るな。向こうに帰ったらゆっくり説明するから。オレは仕事を終えたら、オバチャンとこで飯食ってから女買いに行くんだ。達也、お前もどうだ?」
「買うって、ソープとかか?」
「その時によりけりかなぁ。ソープの時もあれば、ホテルでデリヘルって時もあるし…じゃ、ソープ行こうぜ!金なら心配すんな、お前の分も払ってやるから」
ガハハハハと豪快に笑い、達也の肩を組んで二人は風俗街へ向かった…
(ソンヒョク…コイツ、随分と面白いヤツだな)
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