義父の連れ子から逃れたい。猛勉強して志望校変更したら、家庭内ストーカーになった義弟

東山 庭子

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添い寝編

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「……という訳なんだけど、どうすればいい?」
「そんなことは南が考えろ……」

椿の家に相談に行ったら、あっさり突き放されてしまった。椿さえもお手上げ案件なのだろうけど、椿に頼ることを止められないのだ。

成績優秀だった椿は観音高校か、もしくはさらに上の高校に進学するのかと思っていたら、中高一貫の学校を外部入試で受験し、合格した。何故そこそこのランクの学校を受験したのかを聞いたら「私は校長にこの身を捧げるために生まれてきたんだ」とよく分からないことを言っていた。どうやら学校説明会に来てた校長に一目惚れしたようだった。確かにあの学校の校長は美熟女だったけど……。椿もまた、性癖を拗らせた人間の一人なのだろうか……?

「私としては向き合うと決めた以上、きょうだいとして、ゆっくり心を開いていければって思うんだけど……」
「そりゃ無理だろ。相手の熱量が大き過ぎる」
「う゛ぅ~~……もしかして大人しく同じ高校行くべきだった……?」
「高校で酷い目にあっても良ければな」

そうだ。今でこそ蓮と学校が違うから平穏無事に過ごせてるけど、あの状態で同じ高校なんか行ってたら、私が壊れていたかもしれない。

「私が助かったら蓮が壊れるなんて、誰が予想出来るかっての!!」
「いや……そこは私の見積もりが甘かった。ごめんな……」
「椿のせいじゃないよ……」

椿お気に入りの紅茶を飲みながら喋っていると、大きめの足音がした。ドアを開けて入ってきたのは、椿のハトコ、亜耶だった。

「椿~~、お土産ありがとな~~……って南もいたのか?」
「久しぶりだね亜耶」
「おお、思ったより元気そうで良かった」

入学前に蓮とのゴタゴタに巻き込んでしまった申し訳なさもあり、少し気まずい。

「おお亜耶、ちょうど良かった。男性目線のアドバイスもくれ」

椿が亜耶の分のお茶を淹れてくると言って出て行った。

「あ~~……あれから蓮と、どんな感じ……?」

春休みから今までのことを話すと、亜耶は顔を顰めた。

「中学の時から危うい奴だなぁ……って思って見てたけど、まさかそこまで拗らせてるとは……」
「そうだよね……ねぇ、男の人の意見を聞きたいんだけど、やっぱり童貞って大事なものなの?」
「お゛お゛ん!!?」
「オイ……亜耶にシモネタ振るなよ……」

ティーポットを持ってきた椿が呆れた顔をする。

「え?亜耶中学の時彼女何人かいたよね?……すぐ別れてたけど……」
「だってすぐフラれるんだもんッッ!!お宅の蓮と一緒にしないでよッッ!!」
「え……ごめん……」

王子様系イケメンの亜耶は、中学の時隠れファンが沢山いたけど、表立ってモテている様子はあまり無かった。何故なら椿と付き合ってるとよく勘違いされていたからである。それでも彼女は居なくはなかったけど、いつの間にか別れていたという印象だ。

「亜耶カッコいいし、優しいのにねぇ……なんでフラれるんだろう?」
「……色々因縁があるんだよ……遠い昔のな……」

椿がため息混じりにそう言った。椿と亜耶は、古い術師の家系だと聞いたことがある。本人たちも、いわゆる「見える人」らしい。

「俺のことより、南のことだろ?童貞云々ってどういうことなん?」

自分で聞いておいて、今さら蓮のプライベートなことを話すのを躊躇ってしまう。

「いや……蓮が童貞でいたかった?とか急に言い出すから……」
「誤解しないで聞いて欲しい……大抵の男子中高生は、早く童貞を捨てたいという思いで頭がいっぱいなんだ」

キリッとした顔でそう言う亜耶に、思わず笑ってしまった。

「くれぐれも誤解しないで聞いてくれ。男子中高生の頭の中なんて、エロいことが大半を占めてるんだ」
「それ……椿の前で言っても良いやつ……?」
「椿なら俺たち男子の気持ちを分かってくれるよ。なあ、椿?」
「うむ……まあ、分かるよ……前世男だからな……」
「えっ!?何それ詳しく!?」
「話が逸れるわw つまり、義弟君が健全な成長を歪めてそう思うほど、ショックな出来事があったんだろ?そこまで話したのならもう話せ」

もしかしたら、椿たちには話さずともある程度は見えているのかもしれない。私は覚悟を決めて、中1の時の出来事を話した。


「はぁーーーーっっ!!?何それレイプじゃん!!被害届出せば良かったのに!!」
「うわぁ……闇深くなるわけだ……」

椿はドン引きし、亜耶は憤っている。

「そんなことがあったから、私も蓮のことずっと避けてて、実際女の子取っ替え引っ替えだったし……」
「避けたくなる気持ちは分かるが、それが義弟君をより追い詰めたんだろうな……」
「うん……だから、今後はゆっくり距離を縮めていきたくて……」

椿はしばらく思案すると、徐に棚の引き出しを開けた。

「これ、しばらく肌身離さず持ってな」

そう言って手渡されたのは、水晶で出来た勾玉だった。

「これは……?」
「まあ、お守りみたいなもんだ」
「え?怖いんだけど……何のお守り?」
「身を護るお守りだ……念のため持っとけ」

亜耶も深刻な顔で頷いている。二人は偶に未来が見えたりするそうだ。もしかして私の良くない未来が見えたのだろうか……?



渡されたお守りを手に、椿の家を出た。家に着くと、蓮が玄関の前に立っていた。

「今日は逃げなかったんだね……」
「椿だって旅行ばっかり行ってないでしょ?あの時はたまたまだよ。家入ろ?」
「……南……男の匂いがする……」
「え?途中から亜耶も一緒にいたけど……てか、そんなこと匂いで分かるの!?」

同じ空間で話をしただけで!?これくらいの距離感なら、普段学校でも男子と話す時の距離だけど!?

「学校ある時は我慢してたけど……俺以外の男とは喋らないで……」

私の頭皮に顔を埋めながら、そんな無茶なことを言う蓮。

「蓮君……この世の半分は男なんですよ?」
「じゃあこの世の全てと縁切りしようか?」

ニッコリ笑って恐ろしいことを言う蓮。思わず椿から貰った水晶のお守りを握りしめた。

神様仏様椿様……どうか私の命をお守りください……心の中でそう唱えながら、蓮をギュッと抱きしめた。取り敢えず今の私には、こんなことしか出来ない。

「……ずるいよ南……そんなご褒美貰えたら……嫌われたくなくなっちゃうじゃん……♡♡♡」

よっしゃ!!手応えあり!!このままハグ程度のスキンシップでのらりくらりと躱していこう!!

「あ、聞いてよ南!母さんを説得出来たんだ♡♡♡」
「………ん??」
「毎日一緒に寝るお許しが出たんだよ♡♡♡」
「ん゛ッッ!!?」

神様仏様椿様……どうか私の命と……貞操をお守りください……。

「残念ながら、絶対に手を出さないって約束させられたんだけどね……俺今夜から南の部屋で寝るから、よろしくね♡♡♡」
「ママァァァァーーーーーーッッ!!!?」



「婚約してるんだから、一緒に寝るくらい良いじゃないの♡」

とママに言われてしまい、逃げ道を塞がれてしまった……ママ……この恨み……忘れないからね……。

大学は飛行機の距離のとこ受けようと密かに決意しながらお風呂から出ると、ニッコニコの蓮がベッドの上で正座していた……。

「さ、寝よっか♡♡♡」

両手を広げてニコニコする蓮。ここは黙って従わないと、命の危険すらありそうだ……。

蓮に抱き付きながら、変な習慣が出来ちゃったな、トホホ……などと思っていたら、鼻を啜る音が聞こえてきた。

「ずっ……ぐすっ……南が腕の中にいる……嬉しいっっ……」
「何も泣かなくても……」
「そうだねっ…♡♡ さっ、寝よっか♡♡♡」

いつもの自室、いつもの寝具……いつもと違うのは、蓮に背後を取られていることくらいか……蓮の腕が、私のお腹に回り、背中にピッタリとくっ付かれている……。

「蓮……近過ぎない……?」
「そりゃ~~南のベッドが狭いんだもん……仕方ないよ……」

そりゃ一人寝用のシングルベッドだからね!!

「蓮……お尻に何か当たってるんだけど……」
「えへへ♡♡ 南が可愛過ぎてつい……♡♡♡ 手は出さないから安心して♡♡♡ ……今は♡♡♡」
「ねぇ蓮……ママは蓮のこと信頼して許してるんだからね……?そこんとこ理解出来てる?」
「もちろんだよ♡♡ あ、でも孕ませなければ何やってもバレないよね??♡♡♡」
「ママァァァァーーーッッ!!?蓮が約束破ろうとしてるぅぅーーーーッッ!!!モゴッ…」
「ちょw うるせぇw ヤんねーからッッ!!……今は……」
「今は今はって、いつヤるつもりなのよっっ!?」
「……高校卒業したら……?」

何ということだろう……タイムリミットまで3年もないのか!!?それまでに何とか普通のきょうだいに収まらなければ……!!!

「いっ……今は約束守ってよねっ!?」
「守るから……そんなに怖がらないでよ……」
「怖がらせてるのは誰かなぁ??」

あまりの言い分に、振り返って蓮を睨み付ける。

「ごめんって……俺、こんな風にしか南と関われないから……でも嬉しい。こうやって普通にお喋りするのも、ずっとしてみたかったから♡♡♡」
「ぐぬぬ……そんなこと言われたら怒れないじゃん……」
「あはは……南が俺のことまだ嫌ってるのは知ってる……だけど、少しずつでも良いから……好きになってよ……」
「それは聞き捨てならないなぁ。別に嫌いじゃないよ。まだ好きでもないけど」

ゴクリ……と、生唾を飲み込む音がした。目を見開いた蓮がマジマジと私を見る。

「本当?……嘘じゃなくて??俺のこと嫌いじゃないの!?」
「嫌いじゃないよ。可愛い弟……くらいにはなってるよ。恋愛の好きじゃなくて申し訳ないけど……」
「良いよ。きょうだいから始めようって話したもんね♡♡♡ 嫌われたまま結婚する覚悟してたから……嬉しい♡♡♡」

心底嬉しそうにそう言う蓮にちょっと絆されてしまった私は、微笑む蓮の頭を撫でた。そう言えば同居を始めた当時は、こんな風に義弟を構ってやりたいとか思ってたな……と、懐かしい気持ちになった。


ピピピピ……ピピピピ……

「んぁ……?」
「おはよう南♡♡♡」

……そうだった。蓮と一緒に寝たんだった……徐々に覚醒する意識。なんか、蓮の声がくぐもっているような……?
視界がハッキリすると、自分の胸元に蓮の頭があることに気付いた。そして、自分の下腹が何故か濡れていることにも気付いた……。

「もう……南ったら、一晩中離してくれないんだもん……♡♡♡ おかげで、3回もノーハンドで出しちゃった♡♡♡」
「ママァァァァァァァァァァッッ!!?」


……まさか生娘のまま男性の……性的な体液を付着させて寝ることになるなんて、夢にも思わなかった……。


着替えて、スッキリした顔でリビングに降りてくる蓮を睨むと

「むしろ一人で耐え続けたことを褒めてよ♡♡♡」

と、返答に困る返しをされた。

「そんなに辛い思いするくらいなら、別々で寝れば良いのに……」
「え??なんて??」

ニコニコ笑いながら圧をかけてくる蓮。それでも、最初の頃のような危なっかしさは薄れている。もう即犯されることは無いだろうな……と、思えるくらいには。



一人耐えていたはずの蓮は、ツヤッツヤの顔で学校まで送ってくれた。

「おはよう南!婚約者君も、おはよう」

クラスメイトの七海に声をかけられる。挨拶を返すと、私と蓮を交互に見る七海。

「アレ?婚約者君、何か今日キラキラしてない?何か良いことでもあった?」
「やっぱり分かる?♡♡♡ 昨日とうとう南と一線を越えたんだ~~♡♡♡」

突然の爆撃を喰らい、絶句する私と七海。

「ちっ……違う!!そうじゃない!!!」
「へぇ~~……お盛んだね……」
「違うんだってばぁぁぁ!!!」

かと言って、どう違うのかの説明も出来ず、地団駄を踏むことしか出来ない。

「今までの人生で一番幸せな射精だったんぐっ」
「黙りなさいよぉぉーーーーッッ!!?」

慌てて蓮の口を押さえたけど、時すでに遅し。白い目で見る七海を口止めしておかなければと強く思いつつ、これからの生活を想像して天を仰ぎたくなった。




「う゛わああああああああッッ!!!開けてよ南ッッ!!開けろよォォォーーーッッ!!」
「……ご近所迷惑だから……」

蓮がお風呂に入っている隙に、部屋に入って鍵を閉めた。抵抗はするだろうなとは思っていたけど、ドアの外で泣き喚くとは思わなかった……。

「ちょっと何してるの南?蓮が可哀想でしょうが。開けてあげなさいよ」

最近ではすっかり蓮の味方になってしまったママに諌められ、観念してドアを開けた。開けた瞬間に飛び込んで来て私を抱き締める蓮に心苦しいものはあるのだが、これでは蓮のためにも良くないとため息を吐いた。

何しろこの一週間、蓮は毎晩子種をお出しになるのである。毎朝独特の匂いを放つ部屋で目覚める事にも耐えられないものがあるが、蓮の健康状態も気にならないと言えば嘘になる。

「そろそろちゃんと睡眠取らないと……蓮の体調が心配なんだよ」
「体調は絶好調だからッッ!!寧ろ今さら別々で寝たら死ぬ!!寂しくて死ぬ!!」

ベッドに腰掛ける私を後ろから抱き締める蓮。どうしてこんなことになってしまったのか……と遠い目をする私の髪を弄っている。

「シーツとか汚れるのが嫌ならオムツ履いて寝たって良いからッッ!!」
「……そこまで尊厳を奪うつもりは無いよ……」
「そんなものより南と一緒にいたいよ……」

オムツを履いた蓮に羽交締めにされる自分というものを想像して少しゾッとした。何と言うか、字面が怖い。少しは精神的に安定したかと油断していたが、まだまだ警戒が必要である。

ポケットに忍ばせたお守りを握り締め、南無阿弥陀と唱えた。

「嫌われてないって……安心したいんだよ……」

私の毛先を弄りながらそう呟く蓮。嫌いじゃないなら一緒に寝ろという要求が既に理不尽ではあるが、そんなことを言われてしまったら無碍に断れない。

「蓮ってさ……髪弄るの好きだよね」
「だって、毛先のクルンってなってるとこ大好きだから……♡♡♡」

私は微妙な癖毛で、ロングだろうがボブだろうが、長さを変えても必ず毛先がくるんとカールする。そんな不思議な現象を起こすこの髪が好きなのか……変わり者だな。

「俺、最近すごく穏やかでいられるんだ……やっぱり南が一緒に寝てくれるからだよね?♡♡♡ だから……拒絶しないで……お願い……」

私と寝るだけでそんなに精神的な変化があるのだろうか?それとももしかして……ポケットのお守りに意識を向ける。確か水晶って、魔物を祓うとかそういう効果もあったような……?

ありがとうございます神様仏様椿様。これからも何卒何卒お助けくださいませよろしくお願いいたします。

「分かった……でも、その……出すのは……何とかして欲しい……」
「え~~?いずれ南の中に全部出すやつだよ?♡♡♡」
「だからッッ……そーいうとこやぞ!?」

ムカつきのあまり蓮の頬を引っ張る。

「いひゃいよぉ~~♡♡♡」

痛いと言いながらもヘラヘラ笑う蓮に負けて、この日も羽交締めにされながら眠りについたのだった……。



夢の中に出てきた神様は、薄紅色の羽織を着た女性だった。

「お願いします!どうか私と蓮を普通のきょうだいに戻してください!!」

私がそう叫ぶと、女神様は困ったような顔をして首を横に振った。



……どうやら神様でもお手上げのようだ……
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