盾の間違った使い方

KeyBow

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第11話 レベル10のボーナスと、聖なる光

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 スキル習得の実行ボタンを念じ、押そうとした。
だが、その前に確認しておくべきことが残っていると気づき、俺は一度手を止めた。

 現状の資産状況(キャッシュフロー)の確認だ。
 俺はノートの隅に、現在の所持ポイントを計算して書き出した。
【ショッピングポイント収支】
 ・収入
 ブルータルボアの魔石(大): +50,000 PT
 ・支出
 水、燃料、調理器具、トイレ、寝具、文房具など: 約 -6,000 PT
 現在所持ポイント: 約 44,000 PT
「……4万4千か」
 あれだけ散財したつもりだったが、まだこれだけある。
 だが、油断は禁物だ。このポイントは、俺の命そのもの(ライフライン)だ。無駄遣いはできない。
 さて、次はスキルだ。
 俺はステータス画面を開き、『シールドバッシュ(初級)』と『索敵(初級)』のスキル名に、意識を集中した。
 するとウィンドウにメッセージがポップアップした。
『シールドバッシュ(Lv.1)を習得しますか? 消費スキルポイント:1』
「……やはり、ポイントが必要か」
 世の中そんなに甘くはない。レベルアップで得た9ポイントは、このためにあるってことか。
 俺はヘルプ機能らしきものを開き、スキル習得のルールを詳しく確認してみる。
 どうやら、スキルレベルを「1」上げるのに、そのレベルと同じ数のポイントが必要らしい。
 つまり、Lv.0→Lv.1には1ポイント。Lv.1→Lv.2にするには2ポイント、Lv.2→Lv.3にするには3ポイントを必要とするのか。
レベルが高くなるほど、コストが跳ね上がる仕組みだ。
「なるほどな……リソース管理が重要ってわけだ」
 ますますゲームらしくなってきた。
 俺は、ノートに書いた優先順位に従い、まずは『シールドバッシュ』と『索敵』を習得することに決めた。これで2ポイントを消費する。残り7ポイント。
 その時。
 スキルリストの一番下に、これまで気づかなかったアスタリスク(※)付きの注釈があるのに目が留まった。
 ※レベル10到達ボーナス:任意の属性魔法(Lv.1)を1つ、スキルポイント消費なしで習得可能です。
「……ボーナス?」
 なんだそれは。
 俺は慌てて項目を選択した。新たなウィンドウが開く。
【選択可能な属性魔法】
 火魔法(Lv.1)
 水魔法(Lv.1)
 風魔法(Lv.1)
 土魔法(Lv.1)
 聖魔法(Lv.1)
 闇魔法(Lv.1)

「魔法……だと……?」
 SFじみた通販ギフトだけでなく、ファンタジーの王道まで出てきたか。
 俺は顎に手を当て、品証部の脳でシミュレーションを開始する。
 火は攻撃や火起こしに使えるが、俺には『草焼きバーナー』がある。
 水は『工業用精製水』が100ポイントで買える。
 風や土も、今の閉鎖空間で即座に役立つビジョンが見えない。
 だが、最後の二つ。特に「聖」に、俺の目は釘付けになった。
 俺は祈るような気持ちで、『聖魔法(Lv.1)』の詳細を選択した。
【聖魔法(Lv.1)で習得可能な魔法】
 ヒール(軽傷治癒)
 ライト(光源生成)
「……ヒール」
 思わず声が漏れた。
 回復魔法。
 そうだ。この世界に来てから、俺の頭からずっと離れなかった最大の懸念事項(リスク)。
 それは、「怪我や病気に対する無力さ」だ。
 電工ナイフで指を切っただけでも、そこから雑菌が入れば破傷風で死ぬ可能性がある。
 骨折でもすれば、このダンジョンでは即ち「死」だ。
 ショッピングサイトで薬を探しても、『絆創膏』や『包帯』はあっても、『抗生物質』や『化膿止め』は見つからなかった。
 この世界には、現代医療がない。
 だが、これがあれば。
 ヒールがあれば、その最大のリスクをヘッジ(回避)できる。
「……一択だろ、こんなの」
 攻撃魔法? いらない。
 今の俺に必要なのは、火力じゃない。「安全」だ。
 俺は迷わず『聖魔法(Lv.1)』を選択した。
 改めて、最終確認。
 俺は心の中で、一つ一つ指差し呼称するように、決定を下していく。
「スキルポイントを1消費、『シールドバッシュ(Lv.1)』習得、ヨシ!」
『シールドバッシュ(Lv.1)を習得しました』
「スキルポイントを1消費、『索敵(Lv.1)』習得、ヨシ!」
『索敵(Lv.1)を習得しました』
「レベル10ボーナス、『聖魔法(Lv.1)』習得、ヨシ!」
『聖魔法(Lv.1)を習得しました。ヒール、ライトが使用可能です』
 連続するアナウンスと共に、頭の中に新しい知識と、身体の奥底に温かい力が流れ込んでくるのを感じた。
 残りスキルポイントは7。これは温存だ。
 俺はゆっくりと立ち上がり、両手の盾を構え直した。
 昨日までの、ただ逃げ惑うだけのDIY好きのおっさんじゃない。
 スキルと、魔法を操る、異世界の生存者(サバイバー)だ。
「よし。……まずは仕込みだ。それが終わったら、行くぞ」
 準備は整った。
 まずは種芋の毒抜き処理を仕込んでから、近場の探索に出る。
 テストだ。
 この新しい力と、俺の生存計画が通用するかどうかの、実地検証(バリデーション)を行う。
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