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第13話 索敵と骨折り損のボディプレス
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慎重な性格もあり、幻影の壁から少し離れた場所で俺は足を止めた。
周囲に魔物の気配はない。
よし、テスト開始だ。
「スキル……『索敵』」
意識を集中し、念じる。
すると、視界の端にレーダーのようなものが浮かぶわけではなく、もっと直感的な、第六感が拡張されたような感覚が脳内を走った。
半径数十メートル以内の「気配」が、ボヤッとした熱源のように感じ取れる。
「いるな」
右前方、約30メートル。
明確な反応が一つ。動いている。こちらに向かってくるわけではなく、徘徊しているようだ。
説明は難しいが、スキルにより、感覚的に【分かる】としかいえない。自転車に乗れる人に、なぜ転ばずに漕げるのかと聞くようなものだ。理屈ではなく、感覚が実装されている。
「よし、獲物だ」
俺は口元を緩めた。
ボアのような巨大な反応ではない。人間と同じくらいのサイズだ。
ゴブリンか? それともオークか?
いずれにせよ、生物であるなら「肉」である可能性が高い。
今日の晩飯は、追加の肉料理だ。
俺は慎重に足を運び、曲がり角からそっと顔を出した。
いた。
カラン、コロン……。
無機質な音を立てて歩く、人型の影。
「……あ?」
俺の期待は、一瞬で裏切られた。
肉がない。皮もない。
あるのは、古びた鎧を纏った、白骨死体。
「スケルトン……かよ」
装備から骸骨騎士(スケルトンナイト)ってところか。
右手に錆びたロングソード、左手には朽ちかけた盾を持っている。
俺は大きく溜息をついた。
「なんでこんな食えねぇ相手がいるんだよ」
モチベーションは、正直言って地の底へ落ちた。
腹の足しにもならない相手との戦い。怪我でもしたら、それこそ「骨折り損」のくたびれ儲けだ。
だが、避けては通れない。これは実地検証(バリデーション)だ。俺の盾スキルが通用するかどうか、試すには丁度いい相手かもしれない。
どうやら俺の存在に気がついたようで、こちらに向かってくる。
諦めた俺が姿を現すと、スケルトンナイトの眼窩に青白い光が宿った。
明確な敵意。
カラン、コロンと音を立てて、距離を詰めてくる。
キィン!
相手が振り下ろしたロングソードを、左手の円形盾で受け止める。
腕に、痺れるような衝撃が走った。
怖い。
理屈では盾が防いでくれるとわかっていても、刃物が自分に向けられるという事実は、俺の本能をすくませるには十分だった。
「くそっ!」
防戦一方だ。
後ずさりながら、盾で攻撃を受け流すだけで精一杯。
押されている。じりじりと、しかし確実に、俺は追い詰められていた。
やはり、素人がいきなり剣を持った相手に勝てるほど甘くないのか?
このままじゃダメだ。やられる!
腹を括るしかない。俺は、習得したばかりのスキルに意識を集中した。
「(シールドバッシュ!)」
心の中で叫ぶと同時、左手の盾に、ぐっ、と力が漲る感覚があった。
相手が再び剣を振りかぶった瞬間を狙い、俺は盾を力任せに突き出した。
ドゴォッ!
鈍い打撃音と共に、通常ではありえないほどの衝撃が生まれた。
スケルトンナイトの身体がくの字に折れ曲がり、ボールのように弾き飛ばされる。勢いそのままに、数メートル後ろの通路の壁に叩きつけられた。
「すげぇ……!」
これがスキルの威力か。
動きが鈍った。今だ!
俺は好機を逃すまいと、両手の円形盾を、シンバルを叩き合わせるように、左右からスケルトンナイトの胴体めがけて何度も叩きつけた。
ガキン! ゴキン!
肋骨が砕けるような、乾いた音が響き渡る。
だが、相手はまだ崩れない。ふらつきながらも、剣を支えに立ち上がろうとしている。アンデッド特有のしぶとさか。
「しぶといな、骨のくせに!」
俺は悪態をつきながら、がら空きになっている相手の足元(膝関節)に、思い切り安全靴での蹴りを入れた。
カクン、とバランスを崩したスケルトンナイトが、ガチャガチャと大きな音を立てて仰向けに倒れる。
好機(チャンス)!
俺の脳裏に、なぜかテレビで見た昭和のプロレス技が閃いた。
「よし! これでも食らいやがれ!」
数歩、助走をつける。
短く跳躍し、空中で身体を捻り、背負っていた大盾(タワーシールド)を亀の甲羅のように下に向け、重力に身を任せる。
喰らえ、装備重量プラス、長年蓄積した内臓脂肪(メタボ)の結晶!
今だけ限定のメタボパワーを食らえ!
今後、いや既に……意図しない強制ダイエットに入ってるからな!
必殺・大盾プレスだッ!
グシャリ!!!
俺の全体重と大盾の質量、そして落下のエネルギーが乗った一撃が、スケルトンナイトの胸部を粉砕した。
骨が砕け散る、嫌な感触が背中に伝わる。
眼窩の青白い光が、ふっ、と消えた。
「はぁ……はぁ……」
大盾の上から身を起こすと、身体に、ふわりと何か温かいものが流れ込んでくる感覚があった。
これが、経験値か。やはり、食べた時と同じ感覚だ。
粉々になった骨の中心に、昨日のボアのものより一回り小さい、淡い光を放つ魔石が転がっていた。
「……まあ、手ぶらよりはマシか」
俺は魔石を拾い上げ、そばに落ちていたロングソードを手に取る。
「……お?」
手に取った瞬間、俺は眉をひそめた。
見た目は赤錆だらけのボロ剣だ。顔を近づけてよく見たが、刃こぼれはないものの、やはり錆が酷い。
だが、ずしりと重い。それに、妙に手に馴染む。
(……いい鉄を使ってるな)
職業柄、金属にはうるさいつもりだ。
錆びてはいるが、中身は死んでいない。芯まで腐食が進んでおらず、密度が詰まっている感じがする。
腐っても鯛、ならぬ、腐っても鋼鉄か。
錆を落として研ぎ直せば、化けるかもしれない。
それよりも、剣として以外にも使い道があるかもしれない。単純に『頑丈な鉄の棒』としても使えるし、加工すれば別の工具の材料になるかもしれない。
あの場所(拠点)は広い。不要なら放置しておけばいいだけのことだ。
俺の電工ナイフよりはリーチがあるし、最悪、鉄資源(スクラップ)として再利用もできる。
だが、鞘がない。裸のまま持ち歩くのは危ないし、腰に差すこともできない。
「どうしたものか……」
結局、俺は一度、安全地帯の入り口まで戻ることにした。
幻影の壁のすぐ内側、「玄関」にあたる場所に、戦利品である剣と魔石を置く。
「よし」
これで、身軽になった。
俺は一息つくと、再び外の通路へと向き直った。
最初の戦闘は、泥臭くて散々だったが、勝ちは勝ちだ。
バリデーション(検証)の結果は合格。俺の戦術は通用する。
仕切り直しの再出撃。
次こそは食える相手を探すぞ!いや、出てください・・・
周囲に魔物の気配はない。
よし、テスト開始だ。
「スキル……『索敵』」
意識を集中し、念じる。
すると、視界の端にレーダーのようなものが浮かぶわけではなく、もっと直感的な、第六感が拡張されたような感覚が脳内を走った。
半径数十メートル以内の「気配」が、ボヤッとした熱源のように感じ取れる。
「いるな」
右前方、約30メートル。
明確な反応が一つ。動いている。こちらに向かってくるわけではなく、徘徊しているようだ。
説明は難しいが、スキルにより、感覚的に【分かる】としかいえない。自転車に乗れる人に、なぜ転ばずに漕げるのかと聞くようなものだ。理屈ではなく、感覚が実装されている。
「よし、獲物だ」
俺は口元を緩めた。
ボアのような巨大な反応ではない。人間と同じくらいのサイズだ。
ゴブリンか? それともオークか?
いずれにせよ、生物であるなら「肉」である可能性が高い。
今日の晩飯は、追加の肉料理だ。
俺は慎重に足を運び、曲がり角からそっと顔を出した。
いた。
カラン、コロン……。
無機質な音を立てて歩く、人型の影。
「……あ?」
俺の期待は、一瞬で裏切られた。
肉がない。皮もない。
あるのは、古びた鎧を纏った、白骨死体。
「スケルトン……かよ」
装備から骸骨騎士(スケルトンナイト)ってところか。
右手に錆びたロングソード、左手には朽ちかけた盾を持っている。
俺は大きく溜息をついた。
「なんでこんな食えねぇ相手がいるんだよ」
モチベーションは、正直言って地の底へ落ちた。
腹の足しにもならない相手との戦い。怪我でもしたら、それこそ「骨折り損」のくたびれ儲けだ。
だが、避けては通れない。これは実地検証(バリデーション)だ。俺の盾スキルが通用するかどうか、試すには丁度いい相手かもしれない。
どうやら俺の存在に気がついたようで、こちらに向かってくる。
諦めた俺が姿を現すと、スケルトンナイトの眼窩に青白い光が宿った。
明確な敵意。
カラン、コロンと音を立てて、距離を詰めてくる。
キィン!
相手が振り下ろしたロングソードを、左手の円形盾で受け止める。
腕に、痺れるような衝撃が走った。
怖い。
理屈では盾が防いでくれるとわかっていても、刃物が自分に向けられるという事実は、俺の本能をすくませるには十分だった。
「くそっ!」
防戦一方だ。
後ずさりながら、盾で攻撃を受け流すだけで精一杯。
押されている。じりじりと、しかし確実に、俺は追い詰められていた。
やはり、素人がいきなり剣を持った相手に勝てるほど甘くないのか?
このままじゃダメだ。やられる!
腹を括るしかない。俺は、習得したばかりのスキルに意識を集中した。
「(シールドバッシュ!)」
心の中で叫ぶと同時、左手の盾に、ぐっ、と力が漲る感覚があった。
相手が再び剣を振りかぶった瞬間を狙い、俺は盾を力任せに突き出した。
ドゴォッ!
鈍い打撃音と共に、通常ではありえないほどの衝撃が生まれた。
スケルトンナイトの身体がくの字に折れ曲がり、ボールのように弾き飛ばされる。勢いそのままに、数メートル後ろの通路の壁に叩きつけられた。
「すげぇ……!」
これがスキルの威力か。
動きが鈍った。今だ!
俺は好機を逃すまいと、両手の円形盾を、シンバルを叩き合わせるように、左右からスケルトンナイトの胴体めがけて何度も叩きつけた。
ガキン! ゴキン!
肋骨が砕けるような、乾いた音が響き渡る。
だが、相手はまだ崩れない。ふらつきながらも、剣を支えに立ち上がろうとしている。アンデッド特有のしぶとさか。
「しぶといな、骨のくせに!」
俺は悪態をつきながら、がら空きになっている相手の足元(膝関節)に、思い切り安全靴での蹴りを入れた。
カクン、とバランスを崩したスケルトンナイトが、ガチャガチャと大きな音を立てて仰向けに倒れる。
好機(チャンス)!
俺の脳裏に、なぜかテレビで見た昭和のプロレス技が閃いた。
「よし! これでも食らいやがれ!」
数歩、助走をつける。
短く跳躍し、空中で身体を捻り、背負っていた大盾(タワーシールド)を亀の甲羅のように下に向け、重力に身を任せる。
喰らえ、装備重量プラス、長年蓄積した内臓脂肪(メタボ)の結晶!
今だけ限定のメタボパワーを食らえ!
今後、いや既に……意図しない強制ダイエットに入ってるからな!
必殺・大盾プレスだッ!
グシャリ!!!
俺の全体重と大盾の質量、そして落下のエネルギーが乗った一撃が、スケルトンナイトの胸部を粉砕した。
骨が砕け散る、嫌な感触が背中に伝わる。
眼窩の青白い光が、ふっ、と消えた。
「はぁ……はぁ……」
大盾の上から身を起こすと、身体に、ふわりと何か温かいものが流れ込んでくる感覚があった。
これが、経験値か。やはり、食べた時と同じ感覚だ。
粉々になった骨の中心に、昨日のボアのものより一回り小さい、淡い光を放つ魔石が転がっていた。
「……まあ、手ぶらよりはマシか」
俺は魔石を拾い上げ、そばに落ちていたロングソードを手に取る。
「……お?」
手に取った瞬間、俺は眉をひそめた。
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錆びてはいるが、中身は死んでいない。芯まで腐食が進んでおらず、密度が詰まっている感じがする。
腐っても鯛、ならぬ、腐っても鋼鉄か。
錆を落として研ぎ直せば、化けるかもしれない。
それよりも、剣として以外にも使い道があるかもしれない。単純に『頑丈な鉄の棒』としても使えるし、加工すれば別の工具の材料になるかもしれない。
あの場所(拠点)は広い。不要なら放置しておけばいいだけのことだ。
俺の電工ナイフよりはリーチがあるし、最悪、鉄資源(スクラップ)として再利用もできる。
だが、鞘がない。裸のまま持ち歩くのは危ないし、腰に差すこともできない。
「どうしたものか……」
結局、俺は一度、安全地帯の入り口まで戻ることにした。
幻影の壁のすぐ内側、「玄関」にあたる場所に、戦利品である剣と魔石を置く。
「よし」
これで、身軽になった。
俺は一息つくと、再び外の通路へと向き直った。
最初の戦闘は、泥臭くて散々だったが、勝ちは勝ちだ。
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