盾の間違った使い方

KeyBow

文字の大きさ
18 / 78

第18話 マイホームと男のギア

しおりを挟む
 ジュウウウゥッ……!
 塩を振ったホーンラビットの肉が、最高の焼き色を見せている。
 溶け出したラードと肉汁が混ざり合い、パチパチと小気味よい音を立てる。そして香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
 俺は喉を鳴らした。食いたい。今すぐにでもかぶりつきたい。
 だが、ここで問題が発生した。
 「箸」がない。
「今さらだろ」って思ったか?
 違うんだなこれが。
 確かにこれまでは、焼いた肉をナイフで突き刺し、そのまま口へ運んだりしていたよ。
 でも、それはあくまで「栄養補給」だ。原始人のやり方だ。
 目の前にあるのは塩で味付けされた、正真正銘の「料理」だ。
 これをナイフで突き刺して食う?
 ノンノン。それは文明人のやり方じゃないよね。
 俺は人間としての尊厳を取り戻したいんだ。
 せっかく文明人らしい食事にありつけるというのに、マナーを欠いては台無しだ。
 計量カップで水を飲んだ時のように、何か代用品を探さなければ。
 俺はショッピング画面を開く。
 「キッチン用品」カテゴリには、やはり菜箸もフォークもない。
 だが、俺はもう学習している。ホームセンターの真髄は、専門コーナーにある。
 「アウトドア・キャンプ用品」カテゴリを開く。
 あった。
 家庭用の使いやすい箸やフォークではない。質も、大きさも、家庭用に比べれば一段落ちる。
 だが、妙に「こだわり」を感じるギアたちが。
『チタン製・分割式携帯箸(収納ケース付)』:500 PT
『折りたたみ式 ステンレス先割れスプーン』:300 PT
『スタッキング(積み重ね)マグカップ』:400 PT
「……いちいち、ギミックが凝ってやがる」
 ネジで連結して一本にする箸や、柄が折り畳めるスプーン。
 日常で使うには面倒くさいし、継ぎ目に汚れが溜まりそうで洗いにくい。
 だが、この「メカメカしさ」が、男の道具欲を妙に刺激する。不便さを愛でるのが、キャンプ道具というものだ。
 俺は苦笑しながら、分割式の箸と、取り皿代わりの『シェラカップ(直火OKの万能カップ)』を購入した。
 ドサッと届いた小箱を開け、チタン製の箸をカチャカチャとねじ込んで組み立てる。精度は悪くない。
 俺はその箸で熱々の肉を一切れ掴み、シェラカップに移した。
 フーフーと息を吹きかけ、口に運ぶ。
「……うまいッ!!」
 塩だ。塩が効いている。
 アルコールで臭みも消え、カリッと焼けた表面と、噛みごたえのある肉質。
 美味い、とか、不味い、とか、そういう次元の話ではなかった。
 それは、失われていた日常の味。
 妻が生きていた頃、食卓に当たり前のように並んでいた、ただの塩焼きの味。
 この理不尽な世界に来てから、忘れるしかなかった「人間らしい」食事の味だった。
 ポロリ、と。
 自分でも気づかないうちに、一筋の涙が頬を伝った。
 味は、並(なみ)だ。
 何の変哲もない、ただの塩味の肉だ。
 だが、それは、この世界で初めて味わう、「文明」の味であり、「人間」の味だった。
 俺は、涙でしょっぱさを増した肉を、ただ黙々と、噛み締め続けた。
 毒による痺れも、不快感もない。完璧な処理だったようだ。
 腹が満たされると人心地つく。

ふう~と息を吐き、改めて周囲を見渡す。
 ブロックのカマド、養生マットの寝床、そして簡易トイレ。
 生活感が出てきた。だが、何かが足りない。
 そう、「壁」と「屋根」だ。
 広い洞窟の中で、養生マットの上に転がるのは、精神的に落ち着かない。いつ敵が来るかわからない場所で、背中や頭上がスカスカなのはストレスだ。
 プライベート空間(個室)が欲しい。
 俺は再びアウトドアカテゴリを開いた。狙うは一つ。
『ソロキャンプ用 ドームテント(1~2人用)』:3,000 PT
 布団は売っていなくても、テントなら売っている。それがホームセンターだ。
 前室があり、靴や荷物が置けるタイプ。耐水圧も十分。ポイントの残高はまだ余裕がある。
 俺は購入ボタンを押した。
 ドスン! と大きなバッグが現れる。
 俺は説明書も見ずに(こういうのは得意だ)、ポールを組み立て、スリーブに通し、フックを掛けていく。
 わずか10分足らずで、カーキ色のドームテントが立ち上がった。
 ジジッ……と入り口のファスナーを開け、中に入る。
 新品のナイロンの匂いがした。
 養生クッションマットを敷き詰めれば、そこは完璧な「部屋」だ。
 だが、ここで一つ気づいた。
 出入りするたびに、紐で縛るタイプの「安全靴」を脱ぎ履きするのは、致命的に面倒くさい。それに、リラックスタイムまで鉄板入りの重い靴を履いていたくない。
 俺は追加で、「園芸・作業靴」コーナーを開いた。
 狙うは、ホームセンターの入り口ワゴンによく積んである、アレだ。
『EVA軽量サンダル(黒・Lサイズ)』:500 PT
 いわゆるクロックス風のサンダル。
 軽くて水に強く、何より脱ぎ履きが楽だ。テント周りの「つっかけ」には最高だ。
 俺はそれを購入し、安全靴を脱いで履き替えた。
 足指が解放される感覚。これだよ、これ。
「……ふぅ」
 大の字に寝転がる。
 天井の低い圧迫感が、逆に心地よい。守られているという安心感。
 これが、俺の「マイホーム」だ。
 汗と煤でベトついた体を、濡らしたタオル(10枚セットで購入済み)で拭うと、生まれ変わったような爽快感があった。
 カマドで火を熾し、キャンプ用の箸で飯を食い、テントで眠る。
 サバイバルというより、少し不自由なソロキャンプ生活。だが、それでいい。
 生活の質(QOL)を上げることは、精神衛生(メンタルヘルス)を保つための最重要事項だ。
 俺はランタン代わりの『LEDワークライト』をテントの天井に吊るし、その明かりの下で、今日の「収支決算」を行うことにしたのだった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

処理中です...