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第35話 オリエンテーション
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前書き失礼します。24日予約投稿ミスっていました。24日投稿する筈の分です。今後、基本一日一話となります。
一杯200ポイント、日本円にして約2000円もする贅沢な『災害備蓄用カフェオレ』。その甘い香りが、洞窟内の冷えた空気に溶けていく。
俺は三段脚立の上にどかッと腰を下ろし、改めて周囲の「拠点」を見渡した。
「見ての通り、この一ヶ月で最低限の生活基盤は整えた。冷蔵庫もあるし、寝る場所もある。これからは、雫ちゃんにも少しずつ生活の手伝いをしてもらいたいと思ってるんだ。……二人なら、できることも増えるからな」
雫ちゃんは、まだ自分のスマホの日付と俺の話を交互に確認するように、ゆっくりと視線を巡らせていた。
「現状、ここから脱出するには、入り口に向かってダンジョンを『逆進行』するしかなさそうなんだ。俺も早く脱出したいんだけど、いきなり最奥(ラスボス部屋)に転移させられちまったみたいでな。周りの魔物が強すぎて、今はまだ厳しい。だからこうして、この階層のマッピングと狩り、保存食作りに追われながら、力を蓄えているところだよ」
そこまで一気に喋り、俺はふと我に返った。一ヶ月ぶりの「人間」との会話だ。誰かと話ができるのが嬉しくて、どうにもはしゃいで、少しばかり空回りしている自覚があった。俺は少し照れくささを感じながら、ふっと思いついたキザな台詞を口にしてみた。
「君が来るのにあわせて、ちょうど拠点が完成して、俺のレベルも上がって……。なんだか、俺は君という主役を守るための『騎士(ナイト)』として、君が生きるための準備をしに、一足先に送り込まれたんじゃないかって気がしてきたんだ」
だが、雫ちゃんの反応は予想を遥かに超えていた。
「え……き、騎士……様……?」
彼女は紙コップを握りしめたまま固まり、耳の付け根まで見る見るうちに真っ赤に染まっていく。その瞳は冗談として聞き流す風でもなく、どこか熱っぽく、真剣に俺を見つめていた。
雫はこの異常事態に、とにかく正確な情報を欲していた。そして何より、今の自分はこのおじさんに依存しなければ一分(いちぶ)も生きられないことを本能的に悟り、その存在を、その言葉を、心の底から真っ直ぐに受け入れようとしていたのだ。
(……あ、やば。今の、死ぬほど恥ずかしいな)
真っ直ぐすぎる純粋なリアクションに、俺の背中に変な汗が流れた。
「な、なんてな! 冗談だ、今の! 久しぶりに人と話したからちょっと浮かれてただけだよ。忘れてくれ、ハハハ……」
俺は照れ隠しに空回りした笑い声をあげ、パンと手を叩いて話題を切り替えた。
「コホン、じゃあ、気を取り直して本題だ。これからの生存戦略を立てるために、まずは君の『現状(スペック)』を確認しよう。……まあ、騙されたと思って『ステータス・オープン』って言ってみて。もし声に出すのが恥ずかしいなら、心の中で強く念じるだけでもいいからさ」
「ステータス……オープン……ですか?」
雫ちゃんがその言葉を反芻するように口にした、その直後だった。
「うわっ! な、な……なんか出ましたよ!?」
彼女が椅子から落ちんばかりに仰け反った。彼女の目の前の空間に、俺には見えないはずの青白い光の板が浮かび上がっている。彼女の瞳が、その光を反射してキラキラと揺れていた。
「よし、出たな。じゃあ、それをこのノートに記録してくれ。他人に見せるのは本来リスクだが、俺たちはチームだ。俺が君のスペックを把握していないと、安全な運用……プロデュースができないからな」
彼女は戸惑いながらも、一文字ずつ丁寧に数値をノートに書き写していく。
その間に、俺は棚からステータスを記録しているメモ帳を取り出した。一ヶ月間、血と脂にまみれて更新し続けてきた俺の生存記録だ。実は比較対象がいなかったから、自分のパラメータを最近はろくに見ていなかったんだ。
「……書けました。あの、これって、どうなんですか?」
手渡されたノート。そこには、俺の常識を根底から覆す「異常な数値」が並んでいた。
【如月 雫:ステータス】
レベル: 1
筋力: 75
賢さ: 120
敏捷: 95
体力: 80
魔力: 250
ギフト: 『聖女の祈り』『異世界言語』
スキル: 聖魔法(中)
「…………は?」
思わず、間の抜けた声が出た。俺は震える手で、自分のメモ帳を彼女のノートの横に並べた。
「……あー、参考までに、これを見てくれ。俺の初期値と、レベルが10に上がった時の記録だ」
【佐東:Lv1(初期)】
筋力: 100
賢さ: 80
敏捷: 40
体力: 80
魔力: 15
スキル: なし
【佐東:Lv10】
筋力: 145
賢さ: 80
敏捷: 58
体力: 125
魔力: 40
スキル: 毒耐性(小)、聖魔法(小)
「…………え?」
雫ちゃんがポカンと口を開けた。何度も自分のノートと、俺のメモ帳を見比べる。
「……いいか、雫ちゃん。まず、俺の敏捷は40だ。これ、なんでこんなに低いのか自分でもよく分かってないんだが、君と比べると……。40対95じゃ、俺が三輪車で君はフェラーリだ。大人と子供の差どころじゃない」
さらに俺は、魔力の欄を指差した。
「それに魔力だ。俺の初期値は15。君は250・・・6倍以上の差がある。俺は一ヶ月、死ぬ気でレベルを上げて、ようやく40になっただけなんだぞ。スキルだって、俺が必死に手に入れた『小』を、君は最初から『中』で持っている。……俺が必死に貯金して軽自動車を買った横で、君は免許取り立てでフェラーリを納車されているようなもんだよ」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ。……雫ちゃん。さっきは冗談だと言ったが、訂正させてもらうよ」
俺は脚立から降り、彼女の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「君は守られるだけの人じゃない。俺が君を導く騎士なら、雫ちゃん。君は、間違いなくこの世界の『聖女(せいじょ)』だ」
「せ、聖女・・・」
雫ちゃんは、またしても顔を真っ赤にしたが、今度は目を逸らさなかった。恥ずかしそうに、しかし「自分もこの人の役に立てる」という確かな光を見出したように、小さな声で「はい、騎士様」と頷いた。
品質管理担当・佐藤柾、50歳。想定外の相棒を得た俺の、本当のサバイバルがここから始まる。
「よし、じゃあ聖女様。明日はさっそく、聖魔法の『試運転』から始めようか。今日は混乱しているだろうから、ここでのことを話し合おうか。つまりオリエンテーションだ!」
「はい! よろしくお願いします、騎士様!」
一杯200ポイント、日本円にして約2000円もする贅沢な『災害備蓄用カフェオレ』。その甘い香りが、洞窟内の冷えた空気に溶けていく。
俺は三段脚立の上にどかッと腰を下ろし、改めて周囲の「拠点」を見渡した。
「見ての通り、この一ヶ月で最低限の生活基盤は整えた。冷蔵庫もあるし、寝る場所もある。これからは、雫ちゃんにも少しずつ生活の手伝いをしてもらいたいと思ってるんだ。……二人なら、できることも増えるからな」
雫ちゃんは、まだ自分のスマホの日付と俺の話を交互に確認するように、ゆっくりと視線を巡らせていた。
「現状、ここから脱出するには、入り口に向かってダンジョンを『逆進行』するしかなさそうなんだ。俺も早く脱出したいんだけど、いきなり最奥(ラスボス部屋)に転移させられちまったみたいでな。周りの魔物が強すぎて、今はまだ厳しい。だからこうして、この階層のマッピングと狩り、保存食作りに追われながら、力を蓄えているところだよ」
そこまで一気に喋り、俺はふと我に返った。一ヶ月ぶりの「人間」との会話だ。誰かと話ができるのが嬉しくて、どうにもはしゃいで、少しばかり空回りしている自覚があった。俺は少し照れくささを感じながら、ふっと思いついたキザな台詞を口にしてみた。
「君が来るのにあわせて、ちょうど拠点が完成して、俺のレベルも上がって……。なんだか、俺は君という主役を守るための『騎士(ナイト)』として、君が生きるための準備をしに、一足先に送り込まれたんじゃないかって気がしてきたんだ」
だが、雫ちゃんの反応は予想を遥かに超えていた。
「え……き、騎士……様……?」
彼女は紙コップを握りしめたまま固まり、耳の付け根まで見る見るうちに真っ赤に染まっていく。その瞳は冗談として聞き流す風でもなく、どこか熱っぽく、真剣に俺を見つめていた。
雫はこの異常事態に、とにかく正確な情報を欲していた。そして何より、今の自分はこのおじさんに依存しなければ一分(いちぶ)も生きられないことを本能的に悟り、その存在を、その言葉を、心の底から真っ直ぐに受け入れようとしていたのだ。
(……あ、やば。今の、死ぬほど恥ずかしいな)
真っ直ぐすぎる純粋なリアクションに、俺の背中に変な汗が流れた。
「な、なんてな! 冗談だ、今の! 久しぶりに人と話したからちょっと浮かれてただけだよ。忘れてくれ、ハハハ……」
俺は照れ隠しに空回りした笑い声をあげ、パンと手を叩いて話題を切り替えた。
「コホン、じゃあ、気を取り直して本題だ。これからの生存戦略を立てるために、まずは君の『現状(スペック)』を確認しよう。……まあ、騙されたと思って『ステータス・オープン』って言ってみて。もし声に出すのが恥ずかしいなら、心の中で強く念じるだけでもいいからさ」
「ステータス……オープン……ですか?」
雫ちゃんがその言葉を反芻するように口にした、その直後だった。
「うわっ! な、な……なんか出ましたよ!?」
彼女が椅子から落ちんばかりに仰け反った。彼女の目の前の空間に、俺には見えないはずの青白い光の板が浮かび上がっている。彼女の瞳が、その光を反射してキラキラと揺れていた。
「よし、出たな。じゃあ、それをこのノートに記録してくれ。他人に見せるのは本来リスクだが、俺たちはチームだ。俺が君のスペックを把握していないと、安全な運用……プロデュースができないからな」
彼女は戸惑いながらも、一文字ずつ丁寧に数値をノートに書き写していく。
その間に、俺は棚からステータスを記録しているメモ帳を取り出した。一ヶ月間、血と脂にまみれて更新し続けてきた俺の生存記録だ。実は比較対象がいなかったから、自分のパラメータを最近はろくに見ていなかったんだ。
「……書けました。あの、これって、どうなんですか?」
手渡されたノート。そこには、俺の常識を根底から覆す「異常な数値」が並んでいた。
【如月 雫:ステータス】
レベル: 1
筋力: 75
賢さ: 120
敏捷: 95
体力: 80
魔力: 250
ギフト: 『聖女の祈り』『異世界言語』
スキル: 聖魔法(中)
「…………は?」
思わず、間の抜けた声が出た。俺は震える手で、自分のメモ帳を彼女のノートの横に並べた。
「……あー、参考までに、これを見てくれ。俺の初期値と、レベルが10に上がった時の記録だ」
【佐東:Lv1(初期)】
筋力: 100
賢さ: 80
敏捷: 40
体力: 80
魔力: 15
スキル: なし
【佐東:Lv10】
筋力: 145
賢さ: 80
敏捷: 58
体力: 125
魔力: 40
スキル: 毒耐性(小)、聖魔法(小)
「…………え?」
雫ちゃんがポカンと口を開けた。何度も自分のノートと、俺のメモ帳を見比べる。
「……いいか、雫ちゃん。まず、俺の敏捷は40だ。これ、なんでこんなに低いのか自分でもよく分かってないんだが、君と比べると……。40対95じゃ、俺が三輪車で君はフェラーリだ。大人と子供の差どころじゃない」
さらに俺は、魔力の欄を指差した。
「それに魔力だ。俺の初期値は15。君は250・・・6倍以上の差がある。俺は一ヶ月、死ぬ気でレベルを上げて、ようやく40になっただけなんだぞ。スキルだって、俺が必死に手に入れた『小』を、君は最初から『中』で持っている。……俺が必死に貯金して軽自動車を買った横で、君は免許取り立てでフェラーリを納車されているようなもんだよ」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ。……雫ちゃん。さっきは冗談だと言ったが、訂正させてもらうよ」
俺は脚立から降り、彼女の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「君は守られるだけの人じゃない。俺が君を導く騎士なら、雫ちゃん。君は、間違いなくこの世界の『聖女(せいじょ)』だ」
「せ、聖女・・・」
雫ちゃんは、またしても顔を真っ赤にしたが、今度は目を逸らさなかった。恥ずかしそうに、しかし「自分もこの人の役に立てる」という確かな光を見出したように、小さな声で「はい、騎士様」と頷いた。
品質管理担当・佐藤柾、50歳。想定外の相棒を得た俺の、本当のサバイバルがここから始まる。
「よし、じゃあ聖女様。明日はさっそく、聖魔法の『試運転』から始めようか。今日は混乱しているだろうから、ここでのことを話し合おうか。つまりオリエンテーションだ!」
「はい! よろしくお願いします、騎士様!」
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