盾の間違った使い方

KeyBow

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第50話 ココアの温もりと一食一万円の晩餐

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 バシャァァァッ!!
「ひぃっ……! つ、冷めてぇぇぇ……!!」
 結界の外、通路の暗がりで、俺は雫ちゃんにバケツに貯めてもらった聖水を、思いきって頭からかぶった。 
 更に聖水のシャワーも追加してもらった。
 とは言え、シャワーなんて上品なものじゃなく、ただの「放水」だ。
 ダンジョンの冷たい空気に晒された体温が、一気に奪われていく。
「さ、佐東さん、まだやりますか!?」
「い、いや、もう十分だ……! 臭いは落ちた……!」
 聖水の浄化作用のおかげか、あれほど酷かった腐敗臭は綺麗に消え去っていた。
 俺たちはガタガタと震えながら結界内へと駆け込み、互いに背を向けて急いでタオルで体を拭き、乾いた服に着替えた。
「……うう、寒かったですね」
「ああ。風邪を引く前に、温かいものを飲もう」
 俺は『異世界ショッピング』でインスタントのココアを購入し、お湯を注いだ。
 湯気と共に甘い香りが漂う。
「はい、雫ちゃん」
「あ、ありがとうございます……」
 俺たちはマグカップを両手で包み込み、フーフーと息を吹きかけてから少しずつ啜った。
 熱い液体が喉を通り、冷え切った内臓をじわじわと温めていく。
「はぁ……。生き返る……」
「甘くて、美味しいです……」
 しばらく無言でココアを楽しみ、体の震えが止まるのを待った。
 だが、これで終わりではない。俺たちの視線の先――雫ちゃんの『アイテムボックス』の中には、まだリザードマン二体が眠っているのだ。
「……さて。身体も温まったし、残りの仕事を片付けるか」
「はい。出しますね」
 俺たちはココアを飲み干し、気合を入れ直して立ち上がった。
 雫ちゃんが手をかざすと、ドサリ、ドサリと二体のリザードマンが床に転がり出る。
 ジェネラルほどの悪臭はないが、生温かい爬虫類の臭いが鼻をつく。
「よし。まずはこいつらをスチールラックに吊るすんだが……雫ちゃんは少し下がっていてくれ」
「え? 手伝いますよ?」
「いや、こいつらは重いし、S字フックが高い位置にある。万が一、落下してきたら危ない。吊るすのは俺一人でやる」
 俺は雫ちゃんを安全な場所まで下がらせると、リザードマンの足首にロープをかけ、気合一閃、その重い死体を持ち上げた。
 ラックがギシギシと軋むが、補強してあるから大丈夫だ。
「ふんっ……! よし、二体とも吊るせた」
 ぶら下がった二体のリザードマン。
 ここからは解体作業だ。
「よく見てくれ。まずは魔石だ」
 俺はナイフを手に取り、一体目の胸を開いて魔石を取り出した。
 そして、首元の動脈を切り裂き、血抜きを行う。ドボドボと血が流れ落ちる様は、何度見ても慣れない。
「……雫ちゃん。二体目は、君がやってみるか?」
「えっ……」
 雫ちゃんが息を呑む。
 残酷な作業だ。だが、俺は心を鬼にした。
「これは生きるための技術だ。俺に何かあった時、君一人でもこれができるようにならなきゃいけない」
「…………はい。やります」
 彼女は覚悟を決め、震える手でナイフを受け取った。
 涙目で顔を歪めながらも、彼女は決して目を逸らさず、二体目のリザードマンの胸を開き、魔石を取り出し、最後に血抜きのため、頸動脈の辺りを大きく切った。
「うぅ……っ、できました……」
「よくやった。完璧だ」
 俺はポロポロと涙をこぼす彼女の頭を、タオルの上からワシワシと撫でてやった。
 ◇
 血生臭い作業を終え、念入りに手を洗った俺たちは、ようやくテーブルについた。
 時刻はとっくに夕食時を過ぎている。
「今日は本当に頑張ったな。ジェネラルの処理に、初解体……。ご褒美が必要だ」
 俺はステータス画面を開き、本日の収支を計算した。
 リザードマンの魔石が二つで6000ポイント。スケルトンなどの雑魚も含め、そして何より……。
「ジェネラルの魔石。……こいつの査定額は2万ポイントだ」
「に、2万……!?」
 雫ちゃんが驚きの声を上げる。
 ボアが5万、中ボスが3万だったことを考えれば破格だ。
 それに、水代もかからなくなった。今の俺たちには、少しの余裕がある。
「だから今夜は、俺も食べたことのない『あれ』を解禁する」
 俺は以前から憧れていた【災害用アルファ米・五目ご飯(大盛り):1000pt】を購入した。
 1000ポイント。日本円にして1~2万円の価値がある、超高級品だ。
「せ、1000ポイントぉ!? い、いいんですか!?」
「ああ。今日くらいは贅沢しよう」
 お湯を入れて15分。
 パッケージを開けた瞬間、テントの中に醤油と出汁、そしてゴボウの香りが広がった。
 ジェネラルの悪臭とも、リザードマンの血の臭いとも違う、懐かしい文明の香りだ。
「……んっ!!」
「……ああ、美味い……」
 俺たちは向かい合って、一食一万円の五目ご飯を噛み締めた。
 お米の甘みと、出汁の旨味。
 涙目になりながら解体をした雫ちゃんも、今は笑顔でスプーンを動かしている。
「ある程度魔石を狩って稼げば、毎日一食はこれが食える計算になる。……明日からも頑張ろうな」
「はいっ! 私、なんでもやります!」
 その夜の五目ご飯の味は、俺たちのダンジョン生活が次のステージに進んだことを告げる、勝利の味がした。
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