忘却の艦隊

KeyBow

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第82話 拳で尋問を

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 ルシアナ少尉にとってこの艦は新たな宇宙への門であり、彼女の知識と経験はこの古びているが、品格ある壁の中では遠い夢の話のように思えた。
 フェニックスクラウン艦内の静けさは、過去と未来が交錯する神秘の空間だった。壁に掲げられた旗、通路に並ぶ装飾品が彼女の心に新たな印象を刻んだ。

 過去の激戦を思い返しながら、ルシアナはダレン司令官の慰めの言葉に安らぎを見出し、勇敢な乗組員たちの犠牲が無能な提督によって虚しくなったことを悔やんだ。

「提督がもし…もしもあなたのように、もっと…」

 彼女の言葉は涙とともに断ち切られた。

 ダレン司令官はルシアナの言葉に感じ入りつつ、彼女の経験から戦略的な知識を抽出しようと考えた。フェニックスクラウンを中心に、艦隊は未来へと進む力を蓄えていった。

 その一方で、サニー艦長は自らの任務を果たした後、フェニックスクラウンから離れ、輸送艦へと補給の為に姿を消した。
 彼は戦艦の艦長を渡したことで自らの役割を終えたと考え、「渡したからな」とひと言残し、偵察艦の任務へと戻った。
 いつものことなので誰も気にしなかったが、文字通り【お荷物】を置いていったのだ。

 ダレンはまだルシアナ少尉との面談があり、救助された戦艦の艦長たるハインリヒ大佐との応対はマクスロイ艦長に任せた。
 ハインリヒの尋問は変な抵抗があり手を焼いた。

「我々の艦隊はどうなった? お前たちの真意は何だ?」

 立場を弁えずハインリヒは挑戦的に問いかけた。マクスロイ艦長は答えようとしたが、大佐の激情は抑えきれず、会話は平行線をたどった。

 緊張が高まる中、ダレンガ現れた。
 少尉との面談と称し、同階級の者との話しがどうなるか、ミズリアを含め3人で見ていたのだ。
 どうやらこの艦長に限らず、自信過剰でオラオラ系の者が多く、男尊女卑になっている。
 女性艦長は1割にも満たないと、ルシアナが教えてくれた。いや、解説してくれた。

 尋問の様子からマクスロイが限界と察してダレンが向かった。

 ダレンが尋問をしている部屋に入ると、マクスロイが仰々しく立ち上がり敬礼した。

「ダレン指令、彼が戦艦バックボーイの艦長です」

「君がそうか。私がこの艦隊司令であるダレン少将だ」

 しかし、彼はダレンにも言動で噛みつき、埒が明かない。

「信じろと? お前たちが何ヵ月も前からラジカルの支配領域にいると? それが真実だと証明してみろ!」

 ハインリヒは憤然とした。

 ダレン司令官が格納庫での対面を決意し、冷静に応じた。

「真実は時に拳で語られるものだ。さあ、お前の力を見せてみろ」

「どういう事だ?」

「中々良い体格をしているな。さぞ強いんだろ?どうだ?司令官と模擬戦をして見ないか?勿論君が負けたら大人しく私を司令官と認め、我々の質問に応じてもらう」

「私が勝ったら?」

「君を君のいた艦隊に送り届けるまで、司令官室を使うというのではどうだ?私は士官室に移ることになるが」

 マクスロイ艦長が意見を言いかけたが、ミズリアが制した。

「あんたの副長が夜伽もしてくれるなら良いぜ」

「それならばあなたは負けたら下士官用の部屋にて過ごしてもらいますわよ」

「よかろう。上官を殴れる上にこんな美人までもらえるとはな!くくく」

 彼はハインリヒ大佐との議論を模擬戦という形で決着させることにした。

 そして、格納庫で二人は拳を交えた。
 ダレンの落ち着きとハインリヒの熱気が火花を散らし、周りの乗組員は息をのんで見守った。
 打撃の応酬の中で、ダレンはハインリヒの動きを制し、彼を地に伏せた。
 正直大した事はなかった。
 肉体は鍛え上げられていてパワーは向こうの方が上だったが、それだけだった。
 つまり力任せのごり押しだ。

「これが我々の現実だ。力を合わせて進まなければ、敵に勝つことはできない。そうだな、力は君の方が上だが、当たらなければ意味がない。艦隊も同じだ。いくら強力な武器や艦数を揃えてもきちんと運営しなければ負けるのは当たり前だ」

 ダレンは手を差し伸べ、ハインリヒはそれを受け入れた。遂に、ハインリヒの心にもフェニックスクラウンへの信頼が芽生え始めたのだった。
 いや、屈したのだ。
 強者こそ全ての者だった。

 フェニックスクラウンの壮大なる艦内では、新たな絆が結ばれ、再び未知への旅が始まった。彼らは一丸となり、未来へと進んでいくのだった。
 と言えれば良いが、ハインリヒは今時代の艦隊中では平均的な戦艦の艦長と考えると先が思いやられるなと、ダレンは頭が痛いとぼやきながら項垂れるしかなかった。
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