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ifの世界線のお話
10:話し合い(1)
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次の週、サイモンの姿は何故か王城のサロンにあった。
高い天井に豪華なシャンデリア。ふかふかのソファに金糸の刺繍が施されたクッション。
大きな窓から差し込む太陽の眩しい光が、宙に舞う埃を反射してキラキラと輝いて見える。
「…な、何故?」
暖炉前のソファに浅く腰掛けたサイモンは、絞り出したような小さな声でポツリと呟いた。
しかし彼が困惑するのも無理はない。何故ならここは本来、平民の身分では入る事が許されない場所。
サイモンは、明らかに場違いなこの部屋の雰囲気に肩を硬らせる。
隣に座るシャロンはそんな彼を見てクスッと笑みをこぼした。
「貴方が公爵邸以外の場所を指定したんでしょ?」
「確かにそうですが、城を指定した覚えはありません」
あくまでもシャロンが冷静でいられるようにという意味で公爵邸以外を指定した過ぎない。
だから別にジルフォードの家でも良かったのだ。それなのにハディスは何故か、わざわざこの場所を借りた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「そりゃあ、お嬢は慣れてるかもしれませんけどね?俺はこういう場所は数回しか来た事がないんですよ」
「本来なら貴族しか入れないところに来てるんだから、バレないように堂々としていなさい」
「む、むり…」
緊張しすぎて吐きそうだと言うサイモンの背中を、シャロンは仕方なくさすってやる。
そして彼の服を見ながら小さくため息をこぼした。
「というか、サイモン。服はその服しかなかったの?」
「城のサロンに入れる服を俺は持ってないので借りました」
「だれに?」
「ハディス様に」
ハディスに借りた趣味の悪い刺繍の入った背広を身に纏うサイモンは『恥ずかしいから服装に触れないで欲しい』と言い、顔を隠してしまう。
「何故、ハディス兄様に借りたのよ」
「ユアン様の方がマシでしたか?」
「2割くらいマシよ」
「マジかぁ…」
ジルフォード兄弟は揃いも揃って二人とも趣味が悪いが、長兄の方が2割ほどマシだったらしい。
選択を間違えたハディスは項垂れた。
「まあ、大丈夫よ。そんな服を着ていても、サイモンはかっこいいわ」
趣味の悪い背広も、金髪碧眼のイケメンが着れば様になるのだから不思議なものだとシャロンは言う。
無意識だろうが何だろうが、彼女に『かっこいい』と言われれば耳まで赤くなっても仕方がない。
「そんなに恥ずかしいなら着替えてくる?」
「恥ずかしいけど、恥ずかしい原因は別なやつだから気にしないで」
「そう?」
キョトンと首を傾げるシャロンが何だか腹立たしく、サイモンはとりあえずいつも通りにデコピンを食らわせた。
シャロンはおでこを抑えながら抗議する。
「何すんのよ」
「なんか腹立つから」
「意味わかんない」
頬を膨らませたシャロンはサイモンの両頬を摘み、横に引っ張った。
そして何を思ったか、不意にジーッと彼の目を見つめる。
「…にゃにするんでふか」
「サイモンの瞳って青だけど、どちらかというと海の青よね」
「は?」
瞳を覗こうと、グッと顔を近づけてくるシャロンにサイモンは焦った。
「お嬢、近い近い近い」
自分の頬を掴む彼女の手を掴み、後ろに体を晒せるサイモン。
平静を装うが心臓の鼓動はあり得ないほどに早くなっていた。
しかし、そんな彼の心情を沙汰することのできないシャロンは更に顔を近づける。
「サイモンの目、綺麗ね」
「どうもっす。あの、本当離れて…」
「…抉り出したい」
「真顔で言わないでください。怖い」
「冗談よ」
「表情筋死んでる奴が冗談を言うのは誤解を生むからやめなさい。あと、本当に近いって…」
迫ってくるシャロンにタジタジのサイモンを救ったのは、珍しく王太子の側仕えらしいキチンとした服装をしたハディスだった。
彼は妹の後頭部を軽く叩くと苦言を呈する。
「イチャついてんじゃねーぞ、コラ。ハディスお兄様ここにいるからね?」
実はずっと同じ部屋にいたハディスはまるで自分がいないかのように、平然とイチャつく二人に非難の視線を送る。
「シャロン、その距離感は良くない。離れなさい」
「兄様までそんなことを言うんですね。サイモンは家族よ?」
「違う。サイモンはただの異性だ、シャロン」
珍しく怒ったような顔をして睨みつけてくるハディスに、シャロンは納得できないという表情をしつつも、素直に座り直した。
「サイモンは家族だわ…」
「お前はそろそろ自分が酷い事をしていることに気づきなさい」
「意味がわかりません」
「わからないのなら節度ある距離感を保て」
兄が苛立っているという事実は理解できても、何故苛立っているのかが理解できないシャロンは眉を顰める。
険悪な空気が流れて居た堪れなくなったサイモンは、『もういい』とハディスを諌めた。
「お嬢、今から久しぶりの旦那様に会えますよ」
「う、うん」
「良かったですね」
「…どうして嫌味っぽい言い方をするの?」
「別に。気にしないでください」
嫌味っぽい口調でも表情は寂しそうなサイモンに、シャロンは首を傾げた。
高い天井に豪華なシャンデリア。ふかふかのソファに金糸の刺繍が施されたクッション。
大きな窓から差し込む太陽の眩しい光が、宙に舞う埃を反射してキラキラと輝いて見える。
「…な、何故?」
暖炉前のソファに浅く腰掛けたサイモンは、絞り出したような小さな声でポツリと呟いた。
しかし彼が困惑するのも無理はない。何故ならここは本来、平民の身分では入る事が許されない場所。
サイモンは、明らかに場違いなこの部屋の雰囲気に肩を硬らせる。
隣に座るシャロンはそんな彼を見てクスッと笑みをこぼした。
「貴方が公爵邸以外の場所を指定したんでしょ?」
「確かにそうですが、城を指定した覚えはありません」
あくまでもシャロンが冷静でいられるようにという意味で公爵邸以外を指定した過ぎない。
だから別にジルフォードの家でも良かったのだ。それなのにハディスは何故か、わざわざこの場所を借りた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「そりゃあ、お嬢は慣れてるかもしれませんけどね?俺はこういう場所は数回しか来た事がないんですよ」
「本来なら貴族しか入れないところに来てるんだから、バレないように堂々としていなさい」
「む、むり…」
緊張しすぎて吐きそうだと言うサイモンの背中を、シャロンは仕方なくさすってやる。
そして彼の服を見ながら小さくため息をこぼした。
「というか、サイモン。服はその服しかなかったの?」
「城のサロンに入れる服を俺は持ってないので借りました」
「だれに?」
「ハディス様に」
ハディスに借りた趣味の悪い刺繍の入った背広を身に纏うサイモンは『恥ずかしいから服装に触れないで欲しい』と言い、顔を隠してしまう。
「何故、ハディス兄様に借りたのよ」
「ユアン様の方がマシでしたか?」
「2割くらいマシよ」
「マジかぁ…」
ジルフォード兄弟は揃いも揃って二人とも趣味が悪いが、長兄の方が2割ほどマシだったらしい。
選択を間違えたハディスは項垂れた。
「まあ、大丈夫よ。そんな服を着ていても、サイモンはかっこいいわ」
趣味の悪い背広も、金髪碧眼のイケメンが着れば様になるのだから不思議なものだとシャロンは言う。
無意識だろうが何だろうが、彼女に『かっこいい』と言われれば耳まで赤くなっても仕方がない。
「そんなに恥ずかしいなら着替えてくる?」
「恥ずかしいけど、恥ずかしい原因は別なやつだから気にしないで」
「そう?」
キョトンと首を傾げるシャロンが何だか腹立たしく、サイモンはとりあえずいつも通りにデコピンを食らわせた。
シャロンはおでこを抑えながら抗議する。
「何すんのよ」
「なんか腹立つから」
「意味わかんない」
頬を膨らませたシャロンはサイモンの両頬を摘み、横に引っ張った。
そして何を思ったか、不意にジーッと彼の目を見つめる。
「…にゃにするんでふか」
「サイモンの瞳って青だけど、どちらかというと海の青よね」
「は?」
瞳を覗こうと、グッと顔を近づけてくるシャロンにサイモンは焦った。
「お嬢、近い近い近い」
自分の頬を掴む彼女の手を掴み、後ろに体を晒せるサイモン。
平静を装うが心臓の鼓動はあり得ないほどに早くなっていた。
しかし、そんな彼の心情を沙汰することのできないシャロンは更に顔を近づける。
「サイモンの目、綺麗ね」
「どうもっす。あの、本当離れて…」
「…抉り出したい」
「真顔で言わないでください。怖い」
「冗談よ」
「表情筋死んでる奴が冗談を言うのは誤解を生むからやめなさい。あと、本当に近いって…」
迫ってくるシャロンにタジタジのサイモンを救ったのは、珍しく王太子の側仕えらしいキチンとした服装をしたハディスだった。
彼は妹の後頭部を軽く叩くと苦言を呈する。
「イチャついてんじゃねーぞ、コラ。ハディスお兄様ここにいるからね?」
実はずっと同じ部屋にいたハディスはまるで自分がいないかのように、平然とイチャつく二人に非難の視線を送る。
「シャロン、その距離感は良くない。離れなさい」
「兄様までそんなことを言うんですね。サイモンは家族よ?」
「違う。サイモンはただの異性だ、シャロン」
珍しく怒ったような顔をして睨みつけてくるハディスに、シャロンは納得できないという表情をしつつも、素直に座り直した。
「サイモンは家族だわ…」
「お前はそろそろ自分が酷い事をしていることに気づきなさい」
「意味がわかりません」
「わからないのなら節度ある距離感を保て」
兄が苛立っているという事実は理解できても、何故苛立っているのかが理解できないシャロンは眉を顰める。
険悪な空気が流れて居た堪れなくなったサイモンは、『もういい』とハディスを諌めた。
「お嬢、今から久しぶりの旦那様に会えますよ」
「う、うん」
「良かったですね」
「…どうして嫌味っぽい言い方をするの?」
「別に。気にしないでください」
嫌味っぽい口調でも表情は寂しそうなサイモンに、シャロンは首を傾げた。
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