【完結】仕方がないので結婚しましょう

七瀬菜々

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「ローズ商会の息子か?」
「はい」

 アメリアが一目惚れしたのは、輸入菓子や茶葉をメインに取り扱う商会の息子、ダグラス・ローズ。
 歳はアメリアより10も上の優しく朗らかな好青年だ。

「あの歳で未婚なんて、訳ありじゃないのか?」

 ジトっとした目で、エドワードは向かいの婚約者を見た。

「まあ、一目惚れするほどの容姿ではありませんし、人畜無害のいい人止まりタイプの男性なので何だかんだと婚期を逃しているのかもしれません」
「…お前、好きなんだよな?」

 想い人に対して、辛辣すぎる評価をするアメリア。
 エドワードはその恋心を疑いたくなる。

「一応好きですよ?ただ現実を見ているだけです。それに結婚出来ないのは妹がまだ幼いというのもあるでしょう」

 ローズ家には母親がいない。 数年前に儚くなったそうだ。
 ダグラスの妹は、まだ10歳。
 しっかり者と噂だが、それでもまだ子どもだ。母親代わりの兄がそばにいてやらねばと彼は思っているらしい。 

 エドワードは「ふーん」と、その話を興味なさげに聞く。

「やる気出してください!殿下だってミアと結婚したいでしょ?」
「…できるもんならな」

 エドワードは自嘲するように答えた。
 エドワードもまた、お忍びで訪れた城下で気になる少女を見つけたらしい。
 その娘の名はミア。ダグラス・ローズの妹である。
 そう、2人はローズ商会が経営するカフェでお忍びデートをし、そこでローズ兄妹と出会ったのだ。

「ミア、美しい子ですよね」
「…そうだな」

 エドワードは、ローズ商会の紅茶を啜りながら考える。
 何がどうなって、彼女の中での自分の想い人が10歳の小娘になってしまったのかと。

「しかし、いくら美しいからといえど10歳の女の子に目をつけるなんて思いませんでしたわ。実は幼女趣味ロリコンですか?」

 アメリアは疑惑の目を向ける。

「そこは青田買いと言ってくれ。美人を愛でるのに年齢は関係ない」
「物は言いようですね」
「大体、幼女と言うが別に幼女ほど幼くはないだろう。まあ見てろ、アレはあと3年もすれば大輪を咲かせるぞ?」

 エドワードはなぜか得意げに言う。
 女を見る目には自信があるらしい。
 そういう所がアメリアの誤解を招く原因でもあるのだが、男の性か、やめられない。


「あと3年してもまだ13ですけどね」

 やはり幼女趣味ロリコンか、とアメリアは目の前の婚約者を半眼で見た。
 エドワードは態とらしく咳払いする。

「あのな、アメリア。何度も言うが本当に違うからな?あの時だって数年後が楽しみだと言っただけだからな?」
「でも、ダグラスさんに『嫁にしたいか』と聞かれたとき、『そうだな』と答えいらっしゃいましたわ」
「そう答える雰囲気だったからだ」

 幼女趣味ロリコンではないと一応念押しする。
 真面目で快活で善良だが、思慮の浅いアメリアはいつ口を滑らせるかわからない。
 王宮に『王太子幼女趣味ロリコン疑惑』が広まるのも時間の問題だろう。


「まあ、兎に角!当たって砕けろですわ、殿下!」
「砕けたくはないなぁ」
「そこは言葉の綾というやつです」 

 砕けたくはないけれど、エドワードは一応婚約者としてアメリアの話に耳を傾ける。

「それで、婚約破棄宣言?」
「そうなんですけど、実際に参考としたいのはそこではなく、その前の段階です」
「前段階?」
「はい。私たちの目的は私たちの婚約を破棄し、新たに想い人と結ばれることです。しかし、王命であるこの婚約を破棄させるためにはそれ相応の理由が必要。なので巷で話題の恋愛小説を参考に、私が嫉妬に狂ってミアに嫌がらせをしたするのです。そうすれば次期王妃としての資質がないとされ、婚約を破棄できるという流れです!」

 完璧な計画だろうとでも言いたげに胸を張って主張するアメリア。
 しかし、エドワードの反応は微妙だ。

「それは無理だ。たとえお前との婚約を破棄できたとしても、俺にはまた別の令嬢をあてがわれるだけだ」

 的確にアメリアの作戦の穴をつく。
 流石に、次期王妃に平民の娘を据えるわけにはいかない。 

「それに、してもいない嫌がらせなんてすぐにバレるぞ」

 周囲はアメリアが平民の小娘に嫌がらせをするような女ではない事も、そもそも嫉妬に狂うほどエドワードに恋情など抱いていない事も知っている。
 この案を実行しても、すぐに全てを明らかにされてしまうのは目に見えている。

「…あと、そもそもだ。お前に冤罪をかけてまで欲しいと思うものなど、俺にはない」
「そこはお気になさらずとも」
「気にするさ。お前はダグラス・ローズが初恋かもしれんが、俺はお前が初恋だからな」
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