視える私と視えない君と

赤羽こうじ

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廃病院

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 二日後。
 叶の元には約束通り義人からの迎えが来ており叶が一礼して車に乗り込むと、車は叶一人を乗せて走り出した。

「わざわざお迎えありがとうございます。今回この車には私だけですか?」

 叶が後部座席から運転手に話し掛けると、運転手は柔和な笑みを浮かべて頷く。

「はい、今回義人様や秋義様は現地に直接向かわれるそうで私は鬼龍様をお迎えして現地までお送りするよう言われております」

「そうですか、良かった」

 思わず本音が漏れてしまった叶だったが運転手はあえてそれには触れず、にこやかな笑みを浮かべたままハンドルを握り続ける。

 窓の外を流れる景色は叶の住む住宅街からやがて大きな幹線道路へと変わり、そして豊かな自然が溢れる森林地帯へと移って行った。

 今からあの人達と仕事か……ちょっと憂鬱になるけど、早く終わらせて引越しの準備にかからなきゃ――。

 叶は変わり行く景色をぼんやりと見つめ考えにふけっていた。
 そんな時、運転手が不意に問掛ける。

「鬼龍様はこういったお仕事は長いんですか?」

 運転手からの不意な問い掛けに叶は現実世界へと引き戻されたが、咄嗟に笑みを浮かべる。

「どうでしょうか、高校生の時からバイト感覚でしてたら、いつの間にか仕事みたいになってましたね」

「なるほど、こんな事をお聞きしてよろしいのか分かりませんが、死者が見えるというのは本当ですか?」

「はは、えぇ本当ですよ。場合によっては会話も出来ますし。まぁにわかには信じ難いですよね?」

 叶が眉尻を下げて苦笑しながらそう言うが、運転手はにこやかな笑みを浮かべたままかぶりを振る。

「いえいえ、我々凡人には分からぬ世界です。実は私がお仕えする旦那様、義将よしまさ様なのですが立て続けに近しい方を亡くされましてね。私なんかが差し出がましいとは思うのですが流石の旦那様も少々気落ちされておられるようで、旦那様の近くにその方々の霊がもしいるのなら、その方々がどんな顔をしておられるのか鬼龍様からお伝えして頂けたらと思いまして」

「なるほど、それ自体はかまいませんが、今回義将会長はおられないんですよね?」

「はい、今回は義人様と秋義様のお二人がおられるだけです。ですので今後もし、旦那様とお会いする機会があればでいいので」

「分かりました、覚えておきます」

「ありがとうございます」

 運転手は微笑みながら会釈し、再び車は静かに走り続ける。やがて叶を乗せた車は一時間程で目的地へと辿り着いた。
 車から降り立ち、叶が周りを見渡す。

「……ここ、何処?」

 思わず叶が呟いた通り、そこは草木が生い茂り、足元は砂利と土が入り交じった手入れが行き届いていない広場のような所だった。

「実はここから先は車では進めない為、ここからは徒歩になるそうです」

 運転手が申し訳なさそうに頭を下げると、叶は無言のまま眉根を寄せて空を見上げた。

 ああ、まぁそりゃそうか。高級車で横付け出来るような心霊スポットなんてそんなにある訳ないよね――。

 叶が虚しそうに空を見上げていると、叶と運転手のやり取りを見ていたのか、男が近付き声を掛ける。

「貴女も斗弥陀氏から依頼を受けて廃病院に向かう方ですかな?」

 声を掛けてきた男の方を振り向き、叶が男を観察するように見つめる。
 男は山伏のような特異な出で立ちで、見た感じの年齢は三十代後半から四十代程に思えた。たくわえた髭を触りながらいかつい笑みを浮かべている。
 その特異な風貌にやや困惑し、少し距離を取りながら叶は小さく頷く。

「……はい、そうです。という事は貴方も廃病院に行かれるんですか?」

「えぇ勿論。有名な心霊スポットらしいので儂の力が必要なのでしょう」

 そう言って得意げに笑う男を見て、叶も愛想笑いを浮かべていた。

 正直あまりお近付きにはなりたくないタイプね。そもそも誰なの?貴方誰ですか?なんて聞いたら『儂を知らんのか!?』とか言いそうな雰囲気だし困るな――。

 叶がそんな事を考えながら空笑いをしていると、黒塗りの高級ミニバンが叶の横に止まる。
 全員の視線がミニバンに集まるとサイドにあるスライドドアが開き、中から義人が姿を現した。

「やぁどうも。皆さん集まってるみたいだな」

 現れるなり周りを見渡しながら義人がそう言って笑うと叶を連れて来てくれた運転手達も一斉に頭を下げる。
 叶も仕方なくすまし顔で軽く頭を下げると義人が満足そうに笑みを浮かべた。
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