視える私と視えない君と

赤羽こうじ

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廃病院⑫

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 そうして一階まで降りて来た一行は出口を目指して歩みを進めて行く。

「いつの間にかもう真っ暗だな」

 後方で何気なく呟いた義人の声が聞こえてくる。
気付けば窓から射す光もいつしか無くなり、建物内は懐中電灯で照らさなければ足元も見えないほど真っ暗になっていたのだ。

 思ったより時間かかっちゃったか――。

 そう思い叶が自身の腕時計に目を向けると十七時を指していた。

「えっ、どういう事?」

 思わず叶が声を上げて立ち止まる。

「どうかした?」

 すぐ後ろにいた奏音が驚き声を掛けるが、叶は無言のまま思慮を巡らせていた。

 いくらなんでも暗すぎるでしょ――。

 叶がそう思うのも無理はなかった。
 夏の暑さはやわらいだとはいえ、まだ残暑が残る秋口。日は幾分か短くなったとはいえ、十七時で完全に日が落ちるのはあまりにも早すぎる。

「……ちょっとまずいかもしれません。ちゃんとついて来て下さいね」

 叶が真剣な眼差しを向けると、奏音も思わず息を飲む。
 その後、全員が無言のまま叶の後をついて行く。
だがどれ程歩いて行こうとも、出口のロビーに辿り着く事はなかった。

 誰しもが違和感と不安を覚えたが、全員口を開く事はなく、重苦しい空気が一行を包み込んだ。

 やがて叶が足を止めると真剣な眼差しで後ろを振り返る。

「皆さん、お気付きだとは思いますが出口が見つかりません。ひょっとしたら迷い込んでしまったかもしれませんね」

「こんな単純な建物で普通迷うかよ?」

 叶の言葉に義人が反論を浴びせると、叶は少し冷たい目をして僅かに口角を上げた。

「ええ、ですから普通じゃない事が起こってるんだと思います。皆さんはここで少し待っていて下さい。私はちょっと見回って来ます」

「えっ?おい――」

 義人が思わず声を上げたが叶はすぐさまそれを遮った。

「いいですか?絶対に誰も動かず待っていて下さいよ」

 叶はそう告げると全員を残し歩いて行ってしまった。
 残された者達は口を閉ざしたままその場にしゃがみ込み、一行は再び重い空気に包まれていく。

 叶は一人暗い廊下を懐中電灯で照らしながら歩いて行く。真っ暗な廊下に叶の〝コツコツ〟という足音だけが反響していた。やがて歩みを進めていた叶の足がゆっくりと止まる。

 誰?後ろに誰かいる……。

 背後に何かの気配を感じ暫くそのまま佇んでいた。

「……はぁ、何かいるよね?」

 叶は呟くように問い掛けるとゆっくりと後ろを振り返った。
 そこには姿を消した筈の宇津崎紗奈が立っていた。
 叶は紗奈を見つめると冷笑を浮かべる。

「あら紗奈ちゃん。急に消えたと思ったら次は急に現れるのね」

「ふふふ、いんちきオヤジとは違って鬼龍さんはやっぱり本物なんですね」

「ええまぁね。それでね、こんな私でも帰りを待ってくれてる人も一応いるのよ。早く帰りたいんだけど?」

「ふふふ、鬼龍さんも帰りたいんだ?あはははは、そうだよね……私も帰りたいな」

 最後に儚い笑顔を見せて、再び紗奈は姿を消した。
 暗い廊下に一人残された叶は片手で髪を軽くかきあげながらかぶりを振った。

「ふぅ、貴女はどうしたいのよ?」

 軽くため息をつくと叶は再び歩き始めた。

 一方、残された一行はどうしていいかも分からず、ただひたすら叶が戻って来るのを待っていた。

「スマホの電波も入らねぇしどうなってんだよ」

 壁にもたれるようにして立ち、片手でスマホを触りながら義人が苛立ちをあらわにしていた。

「まぁそんな苛つくなよ義人兄ちゃん」

「苛つきもするだろ!こんな所で訳の分からない状態になるし、頼りの霊能力者は一人は正気を失い、一人は俺達を置いてどっかに行っちまったんだぞ」

「まぁそうだけどさ……」

 秋義がなんとか義人をなだめようとするが、義人は不満をぶちまける。

 そんな中、後方から光が近付いてくる事に奏音が気付いた。

「ん?ちょっとあれって」

 そう言って奏音が指をさす方を見ると、懐中電灯を片手に持った叶がゆっくりと歩いて来ていた。
 近付いてくる叶を全員が固唾を呑んで見つめていると、それに気付いた叶が僅かに速度を上げて近付く。

「皆さんお待たせしました。ちゃんと皆動かずに待っていてくれましたか?」

「ああ見たら分かるだろ?それより何か見つかったのかよ?」

 苛立ちをあらわにしながら問い掛けてくる義人を見て、叶は含みのある笑みを浮かべる。
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