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エピローグ③
しおりを挟む斗弥陀邸での騒動から半年後。
貸テナントの一室で椅子に腰掛け、叶は電話をかけていた。
「志穂さん、奏音さんから招待状届きましたよね?奏音さんが返信が来ないって言ってましたよ。行きますよね?」
電話をしながら窓の外に目をやる。眼下に綺麗に並んだ街路樹には新緑が芽吹いており、新たな季節の到来を感じさせていた。
「えぇ、まぁ届いたけどどうしようかなって思っててさ。仕事もあるし、何よりそんなお祝いの席に私なんかが行っても相応しいとも思えなくてさ」
「そんな、式の予定なんてまだ半年以上先ですよ。仕事なんかどうにでもなるじゃないですか。それに奏音さんが招待してるんですから相応しいに決まってるじゃないですか。奏音さんと秋義さんの折角の門出なんだからうだうだ言っても無理矢理迎えに行きますからね」
遠慮がちに自分を卑下する志穂に対して、叶が少し強い口調で正すと志穂は少し笑った。
「もぉ、わかったわよ。ちゃんと行くから無理矢理引きずって行くのはやめてよね。それでさ、鬼龍ちゃんちょっとお願いがあるんだけどさ――」
志穂の言葉を聞き、叶の胸に嫌な予感がよぎる。
「ちょっと待って下さい。今は奏音さんと秋義の結婚式の話ですからそれ以外は――」
「まぁまぁ、話ぐらい聞いてよ。最近ちょっと噂になってる古い団地の案件があるんだけどね、別で廃村で行方不明になってる案件もあってさ、どっちか手伝ってくれない?」
叶は項垂れると片手で髪をかきあげ、憂鬱そうにため息を漏らす。
「絶対どっちも普通の案件じゃないですよね?志穂さんが持ってくる仕事、だいたいろくな事にならないんですけど」
「私達の所に来る案件で普通な事の方が珍しいでしょ?それに斗弥陀の件だって結果、奏音さんと知り合えた訳だし、それなりの報酬だって得られたでしょ?」
「……まぁそうなんですけどね」
「そうでしょ?だからお願い。じゃないと過労で倒れちゃうかもしれないしさ」
明るい口調で笑いながら言う志穂に対して、叶は少し呆れた様に笑った。
「過労で倒れるのは嵯峨良さんでしょ?私は私で仕事受けてるんで時間が合えば考えます」
「じゃあ両方の資料送るから、またいつから取り掛かれるか教えてね、それじゃぁ」
「えっ、ちょっと――」
叶が問い掛けようとした時には既に電話は切られており、スマホを恨めしそうに見つめる。
「なんか受ける流れになってるじゃん」
叶が椅子に腰掛け、深いため息をつくと、幸太がひょっこり顔を覗かせた。
「叶さん、お客さん来たよ」
幸太の明るい声を聞き、思わず笑みがこぼれる。
「ありがとう、ひとまずこっちに通してあげて」
叶の言葉を聞き幸太は笑顔で頷き、振り返り歩いて行った。
そんな幸太の背中を見つめながら微笑む。
なんだろ、最近穏やかだな。平穏に過ごせてるのも悪くはないよね。こんな普通の幸せも慣れたら平凡に感じちゃうのかな?――。
叶がそんな事を考えながら笑みを浮かべていると、幸太がお客さんである女子高生三人を連れて戻って来る。
「さぁこっちに座って下さい」
幸太に促され女子高生達が腰を下ろすと、叶が柔らかな笑みを浮かべて一礼する。
「こんにちは、私が鬼龍探偵事務所の鬼龍叶です」
叶がそう言って微笑みかけると女子高生達は少し戸惑うように顔を見合わせていた。
そして真ん中にいた女子高生が少し伏し目がちに叶を見つめゆっくりと口を開く。
「私、神様に殺されちゃうかもしれないんです。助けて下さい」
懇願する様に訴える女子高生を、叶は穏やかに見つめていた。
ああ、私の平穏は短いんだ。騒然とした日々が列を作って待ってるんだな――。
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~視える私と視えない君と~完~
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