怖いお話。短編集

赤羽こうじ

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あの日のかくれんぼ D団地の噂

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「当時の団地じゃ防音もしっかりしてなかったのか、赤ちゃんが泣く度にその男は『うるさい子供を泣かすな』『いい加減にしろ』『うるさい出て行け』と何度も電話でクレームを入れていたらしいの。そんな男放っておけばいいと言う人もいたけど若い旦那さんは真に受けて、その度に『すいません、すいません』と繰り返し謝っていたんだって。それから暫くしてある時期を境に赤ちゃんの泣き声は聞こえなくなって、同時に奥さんの姿も見かけなくなり、やつれた旦那さんだけを見かけるようになったの」

「ちょっと待って、それって良くない事しか浮かばないんだけど」

「そうよね。当時の周りの人達もそうだったみたいで一応気になって聞いたらしいの『最近奥さんと子供はどうしてるんだ?』って。そしたら旦那さんは『今実家に帰ってまして』と返したらしいの。そう言われたら周りの人達もそれ以上は聞けなくなったらしいんだけど、結局数週間後に旦那さんは団地の屋上から飛び降りて死んじゃったって。その後、旦那さんの部屋を調べたら首を絞めて殺されてた奥さんと赤ちゃんの遺体が見つかったんだって」

 恵美は麻莉の話を聞きながら言葉を失っていた。そんな恵美を見て麻莉は更に前のめりになり、問いかけるように話してくる。

「ねぇ、でも来栖さん。それだけで団地の人達が一斉に出て行くなんて思う?」

「何が言いたいの? まだ何かある訳?」

 麻莉の少しもったいぶったような言い方に焦れた恵美はつい食い入るように聞いてしまった。

「もちろんまだあるわよ。寧ろここからが例の団地のいわく部分よ」

 何故か少し勝ち誇ったかのように麻莉は片方の口角を上げて、饒舌に語り出した。

「それから暫くの間は住民の人達も手を合わせに来たり、花を添えたりしに来ていたわ。だけど次第に皆、普段の生活に戻りそんな事件の事も忘れて行ったの。
 だけど事件から数ヶ月が経ったある日、団地内のある部屋である住人の人が寝ようとしていた時電話がかかって来たんだって。
『なんだこんな時間に?』
住人の人がそう思いながらも電話に出たけど相手は何も言わなかった。すると次の日、また別の部屋に電話がかかってきたの。住人の人が出るとやはり相手は無言だった。そして次の日も、更にまた次の日も無言電話は団地内の色々な部屋にかかってきていたの」

 麻莉の語り口調も迫真に迫っていた。抑揚を付けながら話す麻莉の話に、恵美も何時しか聞き入ってしまっていた。

「初めは自分の所だけかと思っていた住人達も次第に他の部屋にも無言電話はかかってきていると知り、団地内では謎の無言電話の噂で持ち切りになった。
 そしてその内、一人の住人が『なんかよく聞いたら小さい声ですいませんって言ってなかったか?』と言い出すと、他の住人達も『やっぱりそうだよな。聞こえるよな』と口々に言い出したの。そしてかかってくる電話からは次第に『すいません、すいません』って声がはっきりと聞こえだすようになったの。そして皆気付いた、その電話の声が飛び降りた若い旦那さんの声にそっくりだと」

 恵美がごくりと唾を飲み込むと、麻莉は頼んでいたアイスコーヒーに手を伸ばすし一口飲み、更に続けた。

「そうして住人達は悪戯電話として調査を依頼したが犯人はわからず、何処からかけられているかも不明だった。気持ち悪くなった住人達は一人、また一人と出て行き、団地にはあのクレームを入れ続けた男だけが残ったの。出て行く住人が、あんたは出て行かなくても大丈夫なのか? って聞いたら『俺は電話線を抜いてるから大丈夫だよ』と言っていたらしいの。それから暫くして男の部屋の郵便受けに郵便物が溜まっている事を不審に思った配達員の人が通報して、警察が中に入ると男は布団に包まり『電話が、電話が鳴り止まない』と言っていたんだって。警察が気になって電話を調べたけど電話線は繋がってなくて、結局男とは会話が成り立たずそのまま病院に連れて行かれたって」

 少し長めの麻莉の話を聞いて、恵美は一つ大きく息をついて自分のアイスティーを飲み干した。

「聞いてた私の方が喉がカラカラに乾いたじゃない。それって本当の話?」

「どうだろうね。最初に言った通りあくまで噂レベルの話よ。でもその団地で一家心中があって旦那さんが飛び降りたのは本当みたいだけどね」

 そう素っ気なく言う麻莉を見て、この子はオカルト好きなんじゃなくて自分が優位になれるような話をしているんだなと恵美は気付いた。
 そんな自分を優位に見せようとする女を恵美は知っている。

「じゃあ次は東海林希ちゃんの話ね」

「ああ、希ちゃんの話はいいや。私でも知ってるし。それよりあの団地で行うひとりかくれんぼについて教えてくれない?」

 恵美が希ちゃんの話を遮ると、麻莉は少し不満そうな顔を見せた。しかし恵美が耳を傾ける素振りを見せると、麻莉は満更でもなさそうに微笑む。

「そうね例の団地で行うひとりかくれんぼは一般的なひとりかくれんぼとは違うの」

 そう言って得意げに語る麻莉を見ながら『一般的なひとりかくれんぼなんて皆知らないからね』と恵美は突っ込みたかった。だがそんな横槍を入れて機嫌を損ねて話が聞けなくなる訳にはいかないので静かに聞く事にする。
 どうやら麻莉の話では
・ひとりかくれんぼのスタートは団地内の一階から。
・かくれる場所は二階の部屋。
・希ちゃんに見つかったら「見つかっちゃった」と言って身代わりのぬいぐるみを差し出す。
・希ちゃんがぬいぐるみを連れて行ったら急いで団地から出る。
・もし希ちゃんにもう一度出会ったら捕まり、連れて行かれる。

「まぁだいたいわかったかな。最後の連れて行かれるってくだりだけはよくわからないけど」

「オカルト話なんてそんな物じゃない? まぁ実際何年か前には近くで中学生が行方不明にもなってるみたいだしね」

「えっ? 何で? 嘘でしょ?」

 さりげなく言った麻莉の言葉に恵美は思わず反応してしまった。
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