怖いお話。短編集

赤羽こうじ

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あの日のかくれんぼ 真相② 終

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「あの事故以来、希ちゃんの事故は私のせいじゃないか、みたいな目で見て来る奴らもいたし」

 実際あの日、紗妃と希が一緒にいた事は噂にはなっていた。一部では『紗妃がそそのかして、希を団地に呼び出したんじゃないか』なんていう噂までまことしやかに囁く者もいたのだ。

「私と関わると希ちゃんみたいになるとかって、虐めに近い事もされたし」

「貴女と関わるとろくな事ないのは事実でしょ?  だいたい貴女のその性格知ってるから皆そんな風に言うんじゃない」

「うるさい!  みんなあんたが悪い。あんたのせいで私が悪者みたいに――」

 捲し立てる様に文句を言って、恵美に突っかかる紗妃だったが突然言葉に詰まった様に口を噤んだ。不思議に思った恵美が眉根を寄せて少し不愉快そうに詰め寄る。

「……?  悪者みたいに何?  言ってて自分が悪いって気付いた訳?  まぁそんな実直な性格な訳ないか……何?」

 少し笑みを浮かべていた恵美だったが紗妃の表情がみるみる恐怖に変わって行くのを見て、何か異変が起きている事に気付いた。
 恵美が紗妃を見つめるが、紗妃と目が合うことはなく、紗妃の視線は恵美の背後を見つめている様だった。そんな紗妃の瞳は恐怖に染まり、明らかに怯えている。

「そ、そんな……嫌、来ないで……私は悪くないでしょ!」

 突然叫び、反転すると紗妃は思いっきり駆け出した。
 紗妃の表情や言動を考えると恵美も自らの背後を振り返るのは躊躇ってしまう。しかし何があるのか気になってしまった恵美は恐る恐る、ゆっくりと振り返った。

 しかしそこには何もなく、恵美が立てたろうそくの火がゆらゆらと揺らめいており、強いて言うなら真ん中に置いていたぬいぐるみが倒れているぐらいだった。

『ぬいぐるみが倒れて驚いた?  まさかね』

 紗妃の怯え方を見るとそれだけではやはり不可解に思える。恵美は紗妃が何を見たのか問いただすべく、すぐに紗妃の後を追った。

 一本道の団地の廊下を、途中にある部屋に目をやりながら走って行くと廊下の突き当たりで紗妃は壁を背にして立ち尽くしていた。

「途中どこかの部屋に入られたら分からなくなるなって思ってたけど、真っ直ぐ突き当たりまで走っただけなんてね。何してるの?  私をからかってるつもり?」

 恵美が問いただすが紗妃は恵美の言葉が耳に届いてない様に、歯をカチカチと鳴らしながら視線をあちこちに走らせている。

「ねぇ貴女聞いてるの?」

 焦れた恵美が近付こうとした時、紗妃がようやく口を開く。

「ひっ、く、来るな……あんたが呼び出したんでしょ?  二人で私に復讐するつもり?」

「呼び出した?  何言ってんの?  だいたい貴女が勝手に――」

「ひっ、嫌……嫌!」

 会話が成り立たない紗妃に不快感をあらわにした恵美だったが突然、紗妃が取り乱し叫びだした。困惑する恵美だったが次の瞬間――

 紗妃の真上の天井が音を立てて、突然崩れた。
 轟音を立てて崩れ落ちる天井に恵美は驚き、慌てて後方へ飛び退く。辺りは埃が舞い、視界が遮られる。

 暫くして埃が晴れ視界が戻ると、恵美は目の前の光景に絶句する。
 紗妃が先程までいたその場所には崩落したコンクリートや鉄筋が山積みとなり、さっきまでそこにいた筈の紗妃の姿や気配は既に無かった。

「……嘘……紗妃ちゃん……」

 恵美が怯えながら呼び掛けたが、何も返答はなかった。

 怖くなった恵美は踵を返すと一目散に出口に向かって走り出した。

『嘘でしょ?  何があった?  落ち着いて考えなきゃ』

 団地を飛び出し、敷地内の草むらに身を潜めながら恵美は必死に振り返っていた。

『私が希ちゃんに謝ろうと思ってたらあの子が突然現れて、少し言い合いになったと思ったらあの子が突然走り出した。私が追いかけて追い付いた頃には何かパニックになってて、気が付いたら天井が突然崩れた。多分紗妃ちゃんは……』

 あの状況を考えるとそれ以上想像するのは躊躇われた。まだ中学生だった恵美は混乱と恐怖に支配され、どうしていいかも分からずその場を去ってしまう。

 それから暫くしても団地で崩落事故があったという報道や、団地で女子中学生が遺体となって発見されたという報道がされる事はなかった。
 女子中学生が一人行方不明になったというニュースだけが流れたが、次々に起こる事件や事故に上書きされ、すぐに世間の関心は薄れて行った。

『O市にある団地でひとりかくれんぼをすると希ちゃんが現れる』

 そんな噂が流れだしたのも丁度その頃だった。

 ――現在
『あの時、紗妃ちゃんは報いを受けたの。だって意地悪ばかりするし、私の事だって……』

 ニヤリと口角を上げて恵美が空を見上げる。

「恵美、どうしたの?  何か笑ってる?」

「え?  ああ、ううん。やっと自由になれたなぁって思ってさ」

「自由に?  やっぱりあの団地に囚われてたんだね」

「……そうね。本当に囚われてたの……ずっと……」

 そう言って恵美は片側の口角を上げて含み笑いを見せる。その表情を見た麗は僅かな違和感を感じた。

「……恵美?  大丈夫?  なんか少し変じゃない?」

「え?  ああ、ごめんごめん。つい解放されたのが嬉しくて自分の世界入ってたかも」

「はは、そっか。ほらさっきから恵美、私の事『麗』って呼ばずに『貴女』とか言うからさ、私の名前すら忘れたんじゃないかと思って心配したよ」

「ははは、そんな訳ないじゃん。麗は私の一番の友達なんだから」

「あはは、そうだよね。なんかさっきからたまに恵美が恵美じゃないみたいに思えてさ」

「……そうなんだ。ほら、あの団地の事がすっきりしたからさ、私の気持ちもちょっとは変化したからかもね」

 一瞬冷たい目をした恵美だったが、すぐにいつも通りの笑顔を見せる。

「恵美本当にもう大丈夫?   私が目覚めた時、恵美の方が倒れてたからびっくりしちゃったんだよ。あれからすぐに目覚めたって言ってたけど」

「うん大丈夫だよ。目覚めた時はまだ混乱してて皆の顔とか名前とかごちゃ混ぜになってたけど、時間が経ってゆっくり考えてたらちゃんと思い出せたし、今はちゃんと身体も自由に動かせるしね」

「そっか、なら良かった。ねぇ今日は二人の回復祝いにどっかで美味しい物食べようよ」

 そう言って元気に笑う麗を見て、恵美も無邪気に笑っていた。

「おっ、いいねぇ。私甘いのが食べたいな」

 二人はそんな事を言いながら歩いて行く。

 ――
「ねぇねぇ知ってる?   D団地の噂」

「希ちゃんの話でしょ?   知ってるわよ」

「違うわよ。最近は女子高生の霊が出るんだって」

「えっ嘘?   マジで?」

「うん、なんかね。団地でひとりかくれんぼをすると、その女子高生が現れて『返して、お願い私の体を返して』って言って追いかけて来るんだって」

  あの日のかくれんぼ ~完~
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