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9.稀人マイ
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マイは漆黒の髪に紫の瞳のスラリとした娘だ。
服飾職人から流行を聞いたのだろう。ほとんど手直しの必要のないドレスばかりだが、普段に着るには豪華すぎる。晩餐会や式典のような公の場に着るものだ。
「ご機嫌いかが?マイ嬢」
わざと慇懃な礼をすると、以外にもマイは膝を折って礼を返した。
しかし発した言葉は面喰うものだった。
「シャイロ姫、私は味方です」
味方とは?何もできない娘に味方していただくほど、わたくしの地位は弱くないのに。
「味方とはどういう意味でしょうか?」
微笑んで尋ねる。
「私はザイディー推しじゃないの。エドガー様一筋よ」
「ダイクロン伯爵令息と面識はありませんよね?『エルダー王国の花聖女と12人の守護者』と関係がありますか?」
マイの顔が満面の笑顔になる。
「やっぱり『ハナシュゴ』の世界なのね!大丈夫。私はあなたの邪魔はしないから」
「しかし、聖女を名乗っていらっしゃいますよね?」
「だって私は召喚された聖女だもの!」
ここで「聖女ではない」と言えば、せっかく好意的なマイから情報を得られないだろう。
「それはなんなのか教えていただけませんか?」
侍女達にお茶の用意をさせる。苛立ちのはけ口に、今日の茶菓はミルフィーユを用意した。ああ、わたくし、我ながら意地悪だわ。
マイの話を聞いてわたくしは頭痛と眩暈を覚えた。
『エルダー王国の花聖女と十二人の守護者』は、マイ達の世界で「ゲーム」と呼ばれる娯楽で、要は恋愛を楽しむものだった。
うまく選択肢を選んだり、「イベント」を達成したり、プレゼントや「アイテム」で好感度を上げて目的の男性を「攻略」する。相手によって邪魔をしてくる「悪役令嬢」がおり、最後は成敗されるという。
舞台は王立学園だった。
学園の卒業パーティーで「悪役令嬢」は断罪されるという。
「私はエドガー様だけだから、あなたとは敵対しないわ」
つまり今まで面会したマリとホノカはザイディーを狙っているということか。
あら?確かホノカはザイディーとジウンとザイルの名を出していたわ。マリも複数をほのめかしていた。
「一筋とおっしゃいましたが、違う場合もあるのでしょうか?」
マイは待っていましたとばかりに食い気味に言う。
「逆ハーよ!!あなたを倒すとザイディー様ルートと逆ハールートになるのよ」
「逆ハー?」
「全員を攻略するのよ!」
は?道義的にこの国ではありえない。
そんなわたくしの気持ちが表情に漏れたのであろう。
「だって聖女ですもの」
たとえ聖女だとしても、倫理的に許されないのだが。
マイの話から、様々な齟齬を感じた。
「学園が舞台ならば、ジウン兄上はじめ他の方々とどこで会うのでしょうか?」
「学園に決まってるじゃない。みんな生徒だもの」
そこからおかしいのだ。そもそも、我が国の名前は「エルダー」ではなく「エルダン」だ。
ここでマイに言うべきか迷ったが、未練なく帰還していただくには言った方がいい気がした。
「マイ嬢、この国の名前はエルダンです。エルダーではございません」
「え?どういうこと?」
マイは戸惑っているようだ。
「少しわたくしの話を聞いてくださいませ。マイ嬢のお話とはかなり違う部分があります」
わたくしは相違をマイに話し始めた。
まず現在王立学園在籍の人物は十二人のうち三人。セイディ・クルドー侯爵令息十四歳、ガイ・ナイアル伯爵令息十六歳、エリック・シュナウツ伯爵令息十七歳。
他にまだ学園入学年齢に達していない十二歳のジュリア・クサンク伯爵令息以外は卒業しており、ザイディーと来年結婚予定のエグゼル以外は既婚者である。
第一王子ジウン二十五歳、第二王子ダイル二十一歳、ザイディー・シンダール侯爵令息二十歳、ジリアン・エイナイダ公爵令息二十一歳、エグゼル・シェイン伯爵令息十九歳、ジグムンド・サンクルード伯爵令息二十二歳、アンリ・サグワー伯爵令息二十六歳、エドガー・ダイクロン伯爵令息二十七歳。
ザイディーが未婚であるのは、婚約者であるわたくしがまだ学園に通っている身で、再来年の卒業後に結婚するからだ。
そしてジウンは第一王子ではあるが、我が国の国法によって第二王位継承者である。
第一王位継承者は第一王女であるわたくしだ。ザイディーは未来の王配である。王位継承権は二十七位。
よってジウンと結婚しても王太子妃にも王妃にもなれない。
ザイディーに選ばれても王妃にはなれない。
ザイディーが王位に就くには国王を含め二十七人を、なんらかの形で害さねばならないのだ。そのなかにはジウンの娘と息子、ダイルの娘も含まれる。
マイの顔は青ざめ小さく震えていた。
皿の中で、ボロボロに崩れたミルフィーユはマイの心と同じだろうか。
服飾職人から流行を聞いたのだろう。ほとんど手直しの必要のないドレスばかりだが、普段に着るには豪華すぎる。晩餐会や式典のような公の場に着るものだ。
「ご機嫌いかが?マイ嬢」
わざと慇懃な礼をすると、以外にもマイは膝を折って礼を返した。
しかし発した言葉は面喰うものだった。
「シャイロ姫、私は味方です」
味方とは?何もできない娘に味方していただくほど、わたくしの地位は弱くないのに。
「味方とはどういう意味でしょうか?」
微笑んで尋ねる。
「私はザイディー推しじゃないの。エドガー様一筋よ」
「ダイクロン伯爵令息と面識はありませんよね?『エルダー王国の花聖女と12人の守護者』と関係がありますか?」
マイの顔が満面の笑顔になる。
「やっぱり『ハナシュゴ』の世界なのね!大丈夫。私はあなたの邪魔はしないから」
「しかし、聖女を名乗っていらっしゃいますよね?」
「だって私は召喚された聖女だもの!」
ここで「聖女ではない」と言えば、せっかく好意的なマイから情報を得られないだろう。
「それはなんなのか教えていただけませんか?」
侍女達にお茶の用意をさせる。苛立ちのはけ口に、今日の茶菓はミルフィーユを用意した。ああ、わたくし、我ながら意地悪だわ。
マイの話を聞いてわたくしは頭痛と眩暈を覚えた。
『エルダー王国の花聖女と十二人の守護者』は、マイ達の世界で「ゲーム」と呼ばれる娯楽で、要は恋愛を楽しむものだった。
うまく選択肢を選んだり、「イベント」を達成したり、プレゼントや「アイテム」で好感度を上げて目的の男性を「攻略」する。相手によって邪魔をしてくる「悪役令嬢」がおり、最後は成敗されるという。
舞台は王立学園だった。
学園の卒業パーティーで「悪役令嬢」は断罪されるという。
「私はエドガー様だけだから、あなたとは敵対しないわ」
つまり今まで面会したマリとホノカはザイディーを狙っているということか。
あら?確かホノカはザイディーとジウンとザイルの名を出していたわ。マリも複数をほのめかしていた。
「一筋とおっしゃいましたが、違う場合もあるのでしょうか?」
マイは待っていましたとばかりに食い気味に言う。
「逆ハーよ!!あなたを倒すとザイディー様ルートと逆ハールートになるのよ」
「逆ハー?」
「全員を攻略するのよ!」
は?道義的にこの国ではありえない。
そんなわたくしの気持ちが表情に漏れたのであろう。
「だって聖女ですもの」
たとえ聖女だとしても、倫理的に許されないのだが。
マイの話から、様々な齟齬を感じた。
「学園が舞台ならば、ジウン兄上はじめ他の方々とどこで会うのでしょうか?」
「学園に決まってるじゃない。みんな生徒だもの」
そこからおかしいのだ。そもそも、我が国の名前は「エルダー」ではなく「エルダン」だ。
ここでマイに言うべきか迷ったが、未練なく帰還していただくには言った方がいい気がした。
「マイ嬢、この国の名前はエルダンです。エルダーではございません」
「え?どういうこと?」
マイは戸惑っているようだ。
「少しわたくしの話を聞いてくださいませ。マイ嬢のお話とはかなり違う部分があります」
わたくしは相違をマイに話し始めた。
まず現在王立学園在籍の人物は十二人のうち三人。セイディ・クルドー侯爵令息十四歳、ガイ・ナイアル伯爵令息十六歳、エリック・シュナウツ伯爵令息十七歳。
他にまだ学園入学年齢に達していない十二歳のジュリア・クサンク伯爵令息以外は卒業しており、ザイディーと来年結婚予定のエグゼル以外は既婚者である。
第一王子ジウン二十五歳、第二王子ダイル二十一歳、ザイディー・シンダール侯爵令息二十歳、ジリアン・エイナイダ公爵令息二十一歳、エグゼル・シェイン伯爵令息十九歳、ジグムンド・サンクルード伯爵令息二十二歳、アンリ・サグワー伯爵令息二十六歳、エドガー・ダイクロン伯爵令息二十七歳。
ザイディーが未婚であるのは、婚約者であるわたくしがまだ学園に通っている身で、再来年の卒業後に結婚するからだ。
そしてジウンは第一王子ではあるが、我が国の国法によって第二王位継承者である。
第一王位継承者は第一王女であるわたくしだ。ザイディーは未来の王配である。王位継承権は二十七位。
よってジウンと結婚しても王太子妃にも王妃にもなれない。
ザイディーに選ばれても王妃にはなれない。
ザイディーが王位に就くには国王を含め二十七人を、なんらかの形で害さねばならないのだ。そのなかにはジウンの娘と息子、ダイルの娘も含まれる。
マイの顔は青ざめ小さく震えていた。
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