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第六話
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僕が通っている高校は、家から徒歩で10分~20分くらいの場所にあるため、バスや電車を使う必要もなく通うことができる。
香奈姉ちゃんが通っている女子校も、徒歩で20分くらいらしいが実際に行ったことはない。
用件もないので行く必要もないんだけど……。
向かう方向が途中までは同じなので、登校する時は自ずと一緒になる。
いつもどおりに談笑しながら香奈姉ちゃんと一緒に歩いていると、女子校の制服を着た女の子が誰かを待っているかのようにそこに立っていた。
男子校と女子校では場所こそ異なるが、途中まで一緒なので、ここで女子校の女の子と出会っても不思議なことじゃない。
誰なのかは、一目瞭然でわかった。
奈緒さんだ。
髪をショートカットにした女の子は、女子校でもそんなにはいない。
「おはよう、香奈。楓君も」
奈緒さんは、こちらに気づくといつもどおりの微笑を浮かべて挨拶してくる。
「おはよう、奈緒ちゃん」
「おはようございます、奈緒さん」
僕と香奈姉ちゃんは、共に挨拶をした。
この時間に、奈緒さんがいるのはめずらしい。
練習に出られないと言って、その一週間後に姿を見せるなんて(香奈姉ちゃんたちは、学校で会っているかもしれないが……)、何かあったのかな。
「こんなところで会うなんてめずらしいですね、奈緒さん。何かあったんですか?」
先に口を開いたのは、僕だった。
香奈姉ちゃんたちは毎日会っているかもしれないが、僕は一週間は会っていない。だから、こうして奈緒さんが会いにくるのは、何かあったとしか思えないのだ。
奈緒さんは、いつもと変わらない微笑を浮かべて言った。
「ん? 特に何もないよ。楓君に会いたいなって思ったから、ここで待っていただけだよ」
「え? 僕にですか?」
僕は、思案げな顔で奈緒さんを見る。
「うん。楓君に会いたくてね──」
奈緒さんは、そう言うといきなり僕に抱きついてきた。
ちょっと……。いきなり、どうしたんだ?
「わわっ! ちょっと……」
僕は、あまりのことにあたふたしてしまう。
傍にいた香奈姉ちゃんは、びっくりした様子で奈緒さんに言った。
「ちょっと奈緒ちゃん! ずるいよ!」
「何がずるいのかな? あたしは、こうしていたいからしてるだけだよ。香奈も、したければすればいいじゃない」
奈緒さんは、自信ありげな笑みを浮かべる。
──奈緒さん。気持ちはわかるんだけど、そうやって抱きつかれるとすごく恥ずかしいんだけど……。
「そうしたい気持ちはあるにはあるけど……。こんな人前で……」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに言う。
香奈姉ちゃんがそう言うのも当然だ。
よく見れば、周囲の人たちが羨ましそうな目でこちらを見ている。
前にも似たようなことがあったような……。
「さぁ、楓君。途中までだけど、一緒に行こうか?」
「う、うん」
僕は、奈緒さんの言葉に頷く。
たしかに、このままだと遅刻してしまうし。
すると、香奈姉ちゃんは──
「弟くん!」
と言って、僕の腕にしがみついた。
その顔を見れば、やけくそになっているのはすぐにわかる。
家の中では、しょっちゅうやってくる癖に。
「どうしたの? 香奈姉ちゃん」
僕は、香奈姉ちゃんに視線を向ける。
いつの間にか、僕のことを『弟くん』と呼んでるし。
「弟くんは、私以外の女の子を好きになったらいけないの! …そのことをちゃんと、わかってる?」
「あの……えっと……。その……」
そんなこと言われても困るよ。
奈緒さんが、してきていることだし……。
「奈緒ちゃんも、そういうことをするのなら、私にちゃんと許可を取らないとダメなんだからね!」
「フフ……。さすがに楓君のことになると、敏感に反応するね」
「そんなの当たり前じゃない。他の女の子にとられたくないんだから」
「それって、あたしも含まれてるってわけか。…なるほどね」
奈緒さんは、妙に納得したかのようにそう言った。
「当然じゃない。弟くんは、私の彼氏さんなんだから──」
香奈姉ちゃんは、ムッとした表情でそう言う。
彼氏…ね。
まぁ、そう言えばだいたいは納得してくれるんだけどさ。
簡単に諦める奈緒さんじゃないのは、すぐにわかる。
「あたしは楓君を諦める気はないよ。香奈がその気なら、あたしにも考えがあるよ」
「どうするつもりなの?」
香奈姉ちゃんは、少しだけ強張ったような表情で奈緒さんを見る。
奈緒さんのことに関しては、知り合ってそんなに経ってないからよくわからないけど、やってくることはとても素直でまっすぐだ。
今、こうして僕の腕にしがみついているのを見ると、本当に諦める気はないようである。
「それは教えないよ。だけど、どんな手を使っても楓君を絶対に振り向かせてみせるよ」
そう言うと奈緒さんは、僕の腕をぐいぐい引っ張っていく。
「あ……。ちょっと……」
僕は、困り顔で奈緒さんを見る。
いきなり腕にしがみつかれたこともそうだけど、強引に引っ張っていくことについても多少、抵抗がある。
周りの人が見ているというのに、奈緒さんは全然気にした様子はないし。
僕は、たまらず香奈姉ちゃんの方に視線を向ける。
香奈姉ちゃんは、ムッとした表情で「負けないんだから」と言い、僕の左隣を歩いていった。
「──それで、バンドの件はどうなりました?」
歩き始めてしばらく経ち、頃合いを見て僕は再び聞いてみる。
奈緒さんは、気にした様子もなく言った。
「バンドのことについては、一応、解決したかな。リーダーさんが不調だったみたいだけど、なんとかなったみたいだよ」
たぶん、兄のことだ。
しばらくの間、僕が、兄と曲合わせをやっていたから、無事に立ち直ることができたんだろう。
この事は内緒だ。僕も、言うつもりはない。
「そっか。それじゃ、私たちのところに戻ってこれるんだね?」
「うん。おかげさまでね」
奈緒さんは、微笑を浮かべる。
「よかった。間に合って──」
僕は、安堵の息を吐く。
女子校の文化祭まで、まだ期間はあるから、そういう意味では安心した。
僕には、あまり関係はない話かと思うが、香奈姉ちゃんからチケットを貰っているので、そうもいかないと思っていたのだ。
今年の文化祭で、香奈姉ちゃんは曲を披露するって言ってるから、僕も無関係ではない。
ベース担当として頑張らないといけないな。
「楓君は、どう?」
「どうって?」
「調子はどうなの? 調子良い?」
「うん。すこぶる順調だよ」
僕は、微笑を浮かべて言った。
特に不調だということはない。いつもどおりにできるし。
「弟くんに限って、調子悪いってことはないよ」
香奈姉ちゃんは、自信満々の笑顔で言う。
そりゃ、家でいつも僕の様子を見てるからなぁ。調子が悪ければ、すぐに気づくだろうし。
「そうなの?」
奈緒さんは、不思議そうに僕と香奈姉ちゃんを見る。
香奈姉ちゃんは、きっぱりと言った。
「弟くんは、料理が得意なんだ。だから、不調を訴えてる時は、料理の味付けもおかしくなるんだよね」
「なるほどね。そういうことなんだね」
「そうなんだよ。弟くんは結構、繊細だからね」
「そっか。楓君が料理が得意なら、改めてごちそうになりたいな」
「僕の料理を、ですか?」
「うん。ダメかな?」
奈緒さんは、可愛い顔で「お願い」って強請るようにそう言ってくる。
相手が香奈姉ちゃんなら、まだいいんだけどなぁ。
「ダメってことはないけど。ちょっと自信がないな」
「弟くんが自信がないって言うなら、私の料理なんてもっと自信がないよ」
と、香奈姉ちゃん。
僕の料理の腕を、そんなに褒めないでほしいな。
「いや。ホントに自信はないし」
「この間、お弁当交換したじゃない。その時の弟くんのお弁当は、とっても美味しかったんだから」
「香奈姉ちゃんは、半分家族みたいなものだからさ。僕の料理は食べ慣れてるでしょ。奈緒さんは、僕の料理は食べたことがないから、もしかしたら口に合わないかもしれないよ」
「そんなことはないと思うよ。…そうだよね。奈緒ちゃん」
「うん。そんなことはないかな」
「どうして?」
「だって奈緒ちゃんは、弟くんの料理を食べているんだもん」
香奈姉ちゃんは、なぜか自慢げにそう言った。
どういうことだ。
僕の料理を奈緒さんが?
いったい、いつの事だ?
「え? どういうこと?」
「実は、この間のお弁当交換の日に、奈緒ちゃんと理恵ちゃんと美沙ちゃんに弟くんのお弁当を披露しちゃったんだ」
「ちょっ……。それって、まさかあの時の……」
「そうだよ! 奈緒ちゃんが、どうしても弟くんの手料理を食べたいって言うから、お弁当のおかずを少しだけ分けたんだよ。そしたら、奈緒ちゃんだけじゃなく、私たちのクラスで大盛況だったんだよ」
「なんてことを……」
香奈姉ちゃんの言葉に、僕はがっくりと肩を落とす。
まさか、僕の手作り弁当でそんなことになっているとは思わなかったのだ。
香奈姉ちゃんは、そんな僕の都合などお構いなしに話を続ける。
「だから、今度の文化祭は楽しみなんだよね。私の彼氏さんを、みんなに紹介できるからね」
「そんな……」
僕は、香奈姉ちゃんの言葉に愕然となってしまう。
ただでさえ香奈姉ちゃんは、男子校の生徒たちの中では羨望の的となっている。
そんな人が、僕の彼女なんていう話が出てしまったら、確実に敵対視されかねない。
「香奈だけの彼氏じゃないでしょ。あたしたちみんなの彼氏でもあるんだからね」
「そんなぁ……。せっかく弟くんと二人で文化祭のイベントを見てまわろうかと思っていたのに……」
「文化祭の日のイベントには、あたしが責任を持って連れて行くから。香奈が心配する必要はないよ」
「それだけは、絶対にダメ! 弟くんを連れて行くのは私の役割なんだから──」
「そんなの承諾できるわけないじゃない。あたしにだって楓君をエスコートする権利はあるよ」
「そんな権利、奈緒ちゃんには──」
「まぁまぁ。二人とも喧嘩はよくないよ。僕なら、てきとーにまわろうかと思っているから……」
僕が、そう言ったから悪かったのか、二人はすごい剣幕で僕を見る。
「ダメだよ、弟くん! 弟くんは、私と一緒にまわるんだよ」
「いやいや。あたしとだよ」
「だから奈緒ちゃんは、ダメだって……」
「どうしてさ?」
「奈緒ちゃんは、普段からモテるんだから、わざわざ弟くんとまわらなくてもいいじゃない」
「いやだよ。あたしは、楓君と一緒にまわるからね」
また始まったよ。
香奈姉ちゃんと奈緒さんは、また口論をし始める。
もう、どうでもいいから、そんなことで口論しないでほしいな。
僕は、小さくため息を吐いていた。
香奈姉ちゃんが通っている女子校も、徒歩で20分くらいらしいが実際に行ったことはない。
用件もないので行く必要もないんだけど……。
向かう方向が途中までは同じなので、登校する時は自ずと一緒になる。
いつもどおりに談笑しながら香奈姉ちゃんと一緒に歩いていると、女子校の制服を着た女の子が誰かを待っているかのようにそこに立っていた。
男子校と女子校では場所こそ異なるが、途中まで一緒なので、ここで女子校の女の子と出会っても不思議なことじゃない。
誰なのかは、一目瞭然でわかった。
奈緒さんだ。
髪をショートカットにした女の子は、女子校でもそんなにはいない。
「おはよう、香奈。楓君も」
奈緒さんは、こちらに気づくといつもどおりの微笑を浮かべて挨拶してくる。
「おはよう、奈緒ちゃん」
「おはようございます、奈緒さん」
僕と香奈姉ちゃんは、共に挨拶をした。
この時間に、奈緒さんがいるのはめずらしい。
練習に出られないと言って、その一週間後に姿を見せるなんて(香奈姉ちゃんたちは、学校で会っているかもしれないが……)、何かあったのかな。
「こんなところで会うなんてめずらしいですね、奈緒さん。何かあったんですか?」
先に口を開いたのは、僕だった。
香奈姉ちゃんたちは毎日会っているかもしれないが、僕は一週間は会っていない。だから、こうして奈緒さんが会いにくるのは、何かあったとしか思えないのだ。
奈緒さんは、いつもと変わらない微笑を浮かべて言った。
「ん? 特に何もないよ。楓君に会いたいなって思ったから、ここで待っていただけだよ」
「え? 僕にですか?」
僕は、思案げな顔で奈緒さんを見る。
「うん。楓君に会いたくてね──」
奈緒さんは、そう言うといきなり僕に抱きついてきた。
ちょっと……。いきなり、どうしたんだ?
「わわっ! ちょっと……」
僕は、あまりのことにあたふたしてしまう。
傍にいた香奈姉ちゃんは、びっくりした様子で奈緒さんに言った。
「ちょっと奈緒ちゃん! ずるいよ!」
「何がずるいのかな? あたしは、こうしていたいからしてるだけだよ。香奈も、したければすればいいじゃない」
奈緒さんは、自信ありげな笑みを浮かべる。
──奈緒さん。気持ちはわかるんだけど、そうやって抱きつかれるとすごく恥ずかしいんだけど……。
「そうしたい気持ちはあるにはあるけど……。こんな人前で……」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに言う。
香奈姉ちゃんがそう言うのも当然だ。
よく見れば、周囲の人たちが羨ましそうな目でこちらを見ている。
前にも似たようなことがあったような……。
「さぁ、楓君。途中までだけど、一緒に行こうか?」
「う、うん」
僕は、奈緒さんの言葉に頷く。
たしかに、このままだと遅刻してしまうし。
すると、香奈姉ちゃんは──
「弟くん!」
と言って、僕の腕にしがみついた。
その顔を見れば、やけくそになっているのはすぐにわかる。
家の中では、しょっちゅうやってくる癖に。
「どうしたの? 香奈姉ちゃん」
僕は、香奈姉ちゃんに視線を向ける。
いつの間にか、僕のことを『弟くん』と呼んでるし。
「弟くんは、私以外の女の子を好きになったらいけないの! …そのことをちゃんと、わかってる?」
「あの……えっと……。その……」
そんなこと言われても困るよ。
奈緒さんが、してきていることだし……。
「奈緒ちゃんも、そういうことをするのなら、私にちゃんと許可を取らないとダメなんだからね!」
「フフ……。さすがに楓君のことになると、敏感に反応するね」
「そんなの当たり前じゃない。他の女の子にとられたくないんだから」
「それって、あたしも含まれてるってわけか。…なるほどね」
奈緒さんは、妙に納得したかのようにそう言った。
「当然じゃない。弟くんは、私の彼氏さんなんだから──」
香奈姉ちゃんは、ムッとした表情でそう言う。
彼氏…ね。
まぁ、そう言えばだいたいは納得してくれるんだけどさ。
簡単に諦める奈緒さんじゃないのは、すぐにわかる。
「あたしは楓君を諦める気はないよ。香奈がその気なら、あたしにも考えがあるよ」
「どうするつもりなの?」
香奈姉ちゃんは、少しだけ強張ったような表情で奈緒さんを見る。
奈緒さんのことに関しては、知り合ってそんなに経ってないからよくわからないけど、やってくることはとても素直でまっすぐだ。
今、こうして僕の腕にしがみついているのを見ると、本当に諦める気はないようである。
「それは教えないよ。だけど、どんな手を使っても楓君を絶対に振り向かせてみせるよ」
そう言うと奈緒さんは、僕の腕をぐいぐい引っ張っていく。
「あ……。ちょっと……」
僕は、困り顔で奈緒さんを見る。
いきなり腕にしがみつかれたこともそうだけど、強引に引っ張っていくことについても多少、抵抗がある。
周りの人が見ているというのに、奈緒さんは全然気にした様子はないし。
僕は、たまらず香奈姉ちゃんの方に視線を向ける。
香奈姉ちゃんは、ムッとした表情で「負けないんだから」と言い、僕の左隣を歩いていった。
「──それで、バンドの件はどうなりました?」
歩き始めてしばらく経ち、頃合いを見て僕は再び聞いてみる。
奈緒さんは、気にした様子もなく言った。
「バンドのことについては、一応、解決したかな。リーダーさんが不調だったみたいだけど、なんとかなったみたいだよ」
たぶん、兄のことだ。
しばらくの間、僕が、兄と曲合わせをやっていたから、無事に立ち直ることができたんだろう。
この事は内緒だ。僕も、言うつもりはない。
「そっか。それじゃ、私たちのところに戻ってこれるんだね?」
「うん。おかげさまでね」
奈緒さんは、微笑を浮かべる。
「よかった。間に合って──」
僕は、安堵の息を吐く。
女子校の文化祭まで、まだ期間はあるから、そういう意味では安心した。
僕には、あまり関係はない話かと思うが、香奈姉ちゃんからチケットを貰っているので、そうもいかないと思っていたのだ。
今年の文化祭で、香奈姉ちゃんは曲を披露するって言ってるから、僕も無関係ではない。
ベース担当として頑張らないといけないな。
「楓君は、どう?」
「どうって?」
「調子はどうなの? 調子良い?」
「うん。すこぶる順調だよ」
僕は、微笑を浮かべて言った。
特に不調だということはない。いつもどおりにできるし。
「弟くんに限って、調子悪いってことはないよ」
香奈姉ちゃんは、自信満々の笑顔で言う。
そりゃ、家でいつも僕の様子を見てるからなぁ。調子が悪ければ、すぐに気づくだろうし。
「そうなの?」
奈緒さんは、不思議そうに僕と香奈姉ちゃんを見る。
香奈姉ちゃんは、きっぱりと言った。
「弟くんは、料理が得意なんだ。だから、不調を訴えてる時は、料理の味付けもおかしくなるんだよね」
「なるほどね。そういうことなんだね」
「そうなんだよ。弟くんは結構、繊細だからね」
「そっか。楓君が料理が得意なら、改めてごちそうになりたいな」
「僕の料理を、ですか?」
「うん。ダメかな?」
奈緒さんは、可愛い顔で「お願い」って強請るようにそう言ってくる。
相手が香奈姉ちゃんなら、まだいいんだけどなぁ。
「ダメってことはないけど。ちょっと自信がないな」
「弟くんが自信がないって言うなら、私の料理なんてもっと自信がないよ」
と、香奈姉ちゃん。
僕の料理の腕を、そんなに褒めないでほしいな。
「いや。ホントに自信はないし」
「この間、お弁当交換したじゃない。その時の弟くんのお弁当は、とっても美味しかったんだから」
「香奈姉ちゃんは、半分家族みたいなものだからさ。僕の料理は食べ慣れてるでしょ。奈緒さんは、僕の料理は食べたことがないから、もしかしたら口に合わないかもしれないよ」
「そんなことはないと思うよ。…そうだよね。奈緒ちゃん」
「うん。そんなことはないかな」
「どうして?」
「だって奈緒ちゃんは、弟くんの料理を食べているんだもん」
香奈姉ちゃんは、なぜか自慢げにそう言った。
どういうことだ。
僕の料理を奈緒さんが?
いったい、いつの事だ?
「え? どういうこと?」
「実は、この間のお弁当交換の日に、奈緒ちゃんと理恵ちゃんと美沙ちゃんに弟くんのお弁当を披露しちゃったんだ」
「ちょっ……。それって、まさかあの時の……」
「そうだよ! 奈緒ちゃんが、どうしても弟くんの手料理を食べたいって言うから、お弁当のおかずを少しだけ分けたんだよ。そしたら、奈緒ちゃんだけじゃなく、私たちのクラスで大盛況だったんだよ」
「なんてことを……」
香奈姉ちゃんの言葉に、僕はがっくりと肩を落とす。
まさか、僕の手作り弁当でそんなことになっているとは思わなかったのだ。
香奈姉ちゃんは、そんな僕の都合などお構いなしに話を続ける。
「だから、今度の文化祭は楽しみなんだよね。私の彼氏さんを、みんなに紹介できるからね」
「そんな……」
僕は、香奈姉ちゃんの言葉に愕然となってしまう。
ただでさえ香奈姉ちゃんは、男子校の生徒たちの中では羨望の的となっている。
そんな人が、僕の彼女なんていう話が出てしまったら、確実に敵対視されかねない。
「香奈だけの彼氏じゃないでしょ。あたしたちみんなの彼氏でもあるんだからね」
「そんなぁ……。せっかく弟くんと二人で文化祭のイベントを見てまわろうかと思っていたのに……」
「文化祭の日のイベントには、あたしが責任を持って連れて行くから。香奈が心配する必要はないよ」
「それだけは、絶対にダメ! 弟くんを連れて行くのは私の役割なんだから──」
「そんなの承諾できるわけないじゃない。あたしにだって楓君をエスコートする権利はあるよ」
「そんな権利、奈緒ちゃんには──」
「まぁまぁ。二人とも喧嘩はよくないよ。僕なら、てきとーにまわろうかと思っているから……」
僕が、そう言ったから悪かったのか、二人はすごい剣幕で僕を見る。
「ダメだよ、弟くん! 弟くんは、私と一緒にまわるんだよ」
「いやいや。あたしとだよ」
「だから奈緒ちゃんは、ダメだって……」
「どうしてさ?」
「奈緒ちゃんは、普段からモテるんだから、わざわざ弟くんとまわらなくてもいいじゃない」
「いやだよ。あたしは、楓君と一緒にまわるからね」
また始まったよ。
香奈姉ちゃんと奈緒さんは、また口論をし始める。
もう、どうでもいいから、そんなことで口論しないでほしいな。
僕は、小さくため息を吐いていた。
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