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第六話
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──朝。
いつもどおりに準備を済ませ家を出たら、香奈姉ちゃんが玄関先で待っていた。
ちょうど、呼び鈴を鳴らすか鳴らさないかのタイミングだ。
「おはよう、楓。今日も途中までだけど、一緒に学校に行こう」
「うん」
僕は、忘れずに鞄と手作りのお弁当を持って家を出た。
家を出てしばらくしないうちに、僕は忘れないように香奈姉ちゃんに手作りのお弁当を渡す。
「はい、これ。約束してたお弁当だよ」
「ありがとう。それじゃ、これ。私の手作りのお弁当だよ。…味わって食べてね」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに顔を赤らめて僕にお弁当を渡してきた。
「ありがとう」
僕は、素直にお弁当を受け取ると、笑顔を浮かべてお礼を言う。
パッと見で見た感じには、特に何もない。普段どおりのお弁当だ。
しかし、香奈姉ちゃんのことだ。きっと何かを仕込んでいるに違いない。
この前のハートマークのお弁当が、まだ記憶に残っている。
香奈姉ちゃんは、いつもの笑顔を浮かべて学校に向かって歩いていく。
「どうしたの、楓? 何かあったの?」
どうやら、少し考え込んでいたみたいだ。
香奈姉ちゃんは、いつの間にか僕に近付いていて、心配そうな表情で僕の顔を覗き込んでくる。
「ん……。なんでもないよ」
僕は、香奈姉ちゃんを心配させまいといつもの笑顔を浮かべていた。
香奈姉ちゃんは、釈然としない表情を浮かべ
「それなら、いいんだけど……」
と言う。
その顔には「何か困ったことがあったら、なんでも聞いてよ」といったような態度が、表情に出ていた。
残念なことに、僕は何も困っていないし、悩み事もないので、香奈姉ちゃんに相談する事柄は特にない。
なので僕は
「香奈姉ちゃんは、何かあったの?」
と、聞き返してみる。
香奈姉ちゃんは、はじめはキョトンとしていたが、だんだんと表情に熱が入り、口を開いた。
「私は、特にないよ。ちょっとこの前、他の男の子から告白されただけで……」
「そうなんだ。他の男の子から告白されたんだね」
「え、あ、う……」
香奈姉ちゃんは、僕を見て気まずそうな表情になる。
たぶん、他の男の子から告白されたっていうのは、本当のことだろう。
でもそれは、眉目秀麗の香奈姉ちゃんだったら当たり前のことだと思うし、怒るところじゃないだろうな。
「どうしたの、香奈姉ちゃん?」
「あ、いや……。もちろん告白の返事は、その場でしたよ。ちゃんと断ったんだからね」
「そっか。ちゃんと断ったんだね」
「当たり前じゃない。よく知らない相手だったし。なにより、楓が近くにいて了承する方がおかしいでしょ」
「そんなものなの?」
「そんなものなんですよ。楓も、もし知らない相手に告白されたら、ちゃんと断りなさいよ」
「う、うん。その時は、丁重にお断りするけど……。それ以前に、僕に告白してくる女の子がいるかどうか疑問なんだけどね」
最後の方はボソリと聞こえないように言っていた。
「何か言った?」
「ううん。なんでもないよ」
「とにかく、楓は私以外の女の子と付き合うなんて、絶対に許さないんだからね」
香奈姉ちゃんは、そう言うと僕の腕にしがみついてくる。
もう、何度その言葉を聞いただろうか。
香奈姉ちゃんってば、独占欲が強すぎだよ。
こんな時、奈緒さんたちがいれば、まだブレーキが効いたのかもしれないが、いないものだからよけいに調子に乗ってしまう。
香奈姉ちゃんは、顔を近づけてくる。
僕は、訝しげな表情になり訊いていた。
「ちょっと、香奈姉ちゃん……。何をしようとしてるのかな?」
「親愛の証に、ね」
香奈姉ちゃんは、そう言うと目を閉じてキスしようとしてくる。
「朝っぱらから、やめてよ。さすがに、それは恥ずかしいよ」
「そうかな? 恋人同士なら当然の行いだと思うけど」
「僕たち、まだそんな仲じゃないでしょ⁉︎ 何言ってるの、香奈姉ちゃん!」
「私たちは、付き合っているんだよね?」
「うん。そうだとは思うけど……」
僕は、曖昧に答えた。
付き合っているっていう定義が、どこまでのものなのかわからなかったからだ。
「だったら、キスをするのは何も間違っちゃいないよ。少なくとも私は、そうしたいからするんだよ」
「でも……」
「でもも、だってもないよ。それとも楓は、私とキスしたくないのかな?」
「え、いや……。それは……」
香奈姉ちゃんにそう言われ、僕は返答できずにいた。
そんなこと言われても、香奈姉ちゃんとキスするのって、すごく緊張しちゃうし。なにより恥ずかしい。
「どうなの? 楓」
香奈姉ちゃんは、怒ったような表情を浮かべて僕を睨んでくる。
なにも、そこまで怒らなくてもいいと思うんだけど……。
「キスに関しては、雰囲気が大事だと思うよ。それに……」
と、僕が言いかけたところで、香奈姉ちゃんは唇を押し付けてきた。
「っ……⁉︎」
あまりに一瞬のことだったので、僕は言葉を失い、その場に固まってしまう。
香奈姉ちゃんは、押し付けた唇をゆっくりと離し、悪戯っぽく笑った。
「雰囲気が大事なんだよね? 私も、同じことを思ったから、ついしちゃったよ」
「香奈姉ちゃん⁉︎」
僕は、慌てて自分の唇に手を添える。
「たしかに雰囲気っていうのは大事だと思うんだよね。雰囲気が悪いと、何をするにしても盛り上がらないしね。それに……」
「それに?」
「本当にその人が好きなのかどうかの確認にならないしね」
「そんなものなの?」
「うん。そんなものだよ」
香奈姉ちゃんは、自分の唇に軽く指を当ててそう言う。
その行為は、僕の唇に触れたことに対する嬉しさなのか、若干喜んでいたようにも見えた。
「…なるほど」
好きな人の確認…か。
好きだからキスをするのが普通だと思うんだけど、香奈姉ちゃんの場合は本当にその人が好きなのかの確認をしながらキスをするんだ。
それなら、なおさら思うことだけど、香奈姉ちゃんはこんな僕のどこに惚れたんだろうか。その辺りがよくわからない。
「さぁ、はやく行かないと遅刻しちゃうよ」
香奈姉ちゃんは、いつもの笑顔を浮かべて手を掴んだ。
「あ……。うん」
僕は、香奈姉ちゃんに手を引かれ、そのまま走っていった。
いつもどおりに準備を済ませ家を出たら、香奈姉ちゃんが玄関先で待っていた。
ちょうど、呼び鈴を鳴らすか鳴らさないかのタイミングだ。
「おはよう、楓。今日も途中までだけど、一緒に学校に行こう」
「うん」
僕は、忘れずに鞄と手作りのお弁当を持って家を出た。
家を出てしばらくしないうちに、僕は忘れないように香奈姉ちゃんに手作りのお弁当を渡す。
「はい、これ。約束してたお弁当だよ」
「ありがとう。それじゃ、これ。私の手作りのお弁当だよ。…味わって食べてね」
香奈姉ちゃんは、恥ずかしそうに顔を赤らめて僕にお弁当を渡してきた。
「ありがとう」
僕は、素直にお弁当を受け取ると、笑顔を浮かべてお礼を言う。
パッと見で見た感じには、特に何もない。普段どおりのお弁当だ。
しかし、香奈姉ちゃんのことだ。きっと何かを仕込んでいるに違いない。
この前のハートマークのお弁当が、まだ記憶に残っている。
香奈姉ちゃんは、いつもの笑顔を浮かべて学校に向かって歩いていく。
「どうしたの、楓? 何かあったの?」
どうやら、少し考え込んでいたみたいだ。
香奈姉ちゃんは、いつの間にか僕に近付いていて、心配そうな表情で僕の顔を覗き込んでくる。
「ん……。なんでもないよ」
僕は、香奈姉ちゃんを心配させまいといつもの笑顔を浮かべていた。
香奈姉ちゃんは、釈然としない表情を浮かべ
「それなら、いいんだけど……」
と言う。
その顔には「何か困ったことがあったら、なんでも聞いてよ」といったような態度が、表情に出ていた。
残念なことに、僕は何も困っていないし、悩み事もないので、香奈姉ちゃんに相談する事柄は特にない。
なので僕は
「香奈姉ちゃんは、何かあったの?」
と、聞き返してみる。
香奈姉ちゃんは、はじめはキョトンとしていたが、だんだんと表情に熱が入り、口を開いた。
「私は、特にないよ。ちょっとこの前、他の男の子から告白されただけで……」
「そうなんだ。他の男の子から告白されたんだね」
「え、あ、う……」
香奈姉ちゃんは、僕を見て気まずそうな表情になる。
たぶん、他の男の子から告白されたっていうのは、本当のことだろう。
でもそれは、眉目秀麗の香奈姉ちゃんだったら当たり前のことだと思うし、怒るところじゃないだろうな。
「どうしたの、香奈姉ちゃん?」
「あ、いや……。もちろん告白の返事は、その場でしたよ。ちゃんと断ったんだからね」
「そっか。ちゃんと断ったんだね」
「当たり前じゃない。よく知らない相手だったし。なにより、楓が近くにいて了承する方がおかしいでしょ」
「そんなものなの?」
「そんなものなんですよ。楓も、もし知らない相手に告白されたら、ちゃんと断りなさいよ」
「う、うん。その時は、丁重にお断りするけど……。それ以前に、僕に告白してくる女の子がいるかどうか疑問なんだけどね」
最後の方はボソリと聞こえないように言っていた。
「何か言った?」
「ううん。なんでもないよ」
「とにかく、楓は私以外の女の子と付き合うなんて、絶対に許さないんだからね」
香奈姉ちゃんは、そう言うと僕の腕にしがみついてくる。
もう、何度その言葉を聞いただろうか。
香奈姉ちゃんってば、独占欲が強すぎだよ。
こんな時、奈緒さんたちがいれば、まだブレーキが効いたのかもしれないが、いないものだからよけいに調子に乗ってしまう。
香奈姉ちゃんは、顔を近づけてくる。
僕は、訝しげな表情になり訊いていた。
「ちょっと、香奈姉ちゃん……。何をしようとしてるのかな?」
「親愛の証に、ね」
香奈姉ちゃんは、そう言うと目を閉じてキスしようとしてくる。
「朝っぱらから、やめてよ。さすがに、それは恥ずかしいよ」
「そうかな? 恋人同士なら当然の行いだと思うけど」
「僕たち、まだそんな仲じゃないでしょ⁉︎ 何言ってるの、香奈姉ちゃん!」
「私たちは、付き合っているんだよね?」
「うん。そうだとは思うけど……」
僕は、曖昧に答えた。
付き合っているっていう定義が、どこまでのものなのかわからなかったからだ。
「だったら、キスをするのは何も間違っちゃいないよ。少なくとも私は、そうしたいからするんだよ」
「でも……」
「でもも、だってもないよ。それとも楓は、私とキスしたくないのかな?」
「え、いや……。それは……」
香奈姉ちゃんにそう言われ、僕は返答できずにいた。
そんなこと言われても、香奈姉ちゃんとキスするのって、すごく緊張しちゃうし。なにより恥ずかしい。
「どうなの? 楓」
香奈姉ちゃんは、怒ったような表情を浮かべて僕を睨んでくる。
なにも、そこまで怒らなくてもいいと思うんだけど……。
「キスに関しては、雰囲気が大事だと思うよ。それに……」
と、僕が言いかけたところで、香奈姉ちゃんは唇を押し付けてきた。
「っ……⁉︎」
あまりに一瞬のことだったので、僕は言葉を失い、その場に固まってしまう。
香奈姉ちゃんは、押し付けた唇をゆっくりと離し、悪戯っぽく笑った。
「雰囲気が大事なんだよね? 私も、同じことを思ったから、ついしちゃったよ」
「香奈姉ちゃん⁉︎」
僕は、慌てて自分の唇に手を添える。
「たしかに雰囲気っていうのは大事だと思うんだよね。雰囲気が悪いと、何をするにしても盛り上がらないしね。それに……」
「それに?」
「本当にその人が好きなのかどうかの確認にならないしね」
「そんなものなの?」
「うん。そんなものだよ」
香奈姉ちゃんは、自分の唇に軽く指を当ててそう言う。
その行為は、僕の唇に触れたことに対する嬉しさなのか、若干喜んでいたようにも見えた。
「…なるほど」
好きな人の確認…か。
好きだからキスをするのが普通だと思うんだけど、香奈姉ちゃんの場合は本当にその人が好きなのかの確認をしながらキスをするんだ。
それなら、なおさら思うことだけど、香奈姉ちゃんはこんな僕のどこに惚れたんだろうか。その辺りがよくわからない。
「さぁ、はやく行かないと遅刻しちゃうよ」
香奈姉ちゃんは、いつもの笑顔を浮かべて手を掴んだ。
「あ……。うん」
僕は、香奈姉ちゃんに手を引かれ、そのまま走っていった。
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