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第十話
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下の階から香奈姉ちゃんの声が聞こえてきたけど、敢えて気付かないふりをした。
普段ならすぐに下の階に行って、香奈姉ちゃんを出迎えていたんだろうけど、今の時間帯がちょうど就寝時間ということもあって、出にくいのである。
それに、もしかしたら、今回は母に用事があったのかもしれないし。
そう思っていたら、誰かが部屋のドアをノックしてきた。
誰がノックしてきたかなんて、この場合は一目瞭然だ。
「はい」
それでも僕は、ノックに対して返事をする。
「私だけど。今、大丈夫?」
そう言って、彼女は僕の都合などお構いなしに部屋のドアを開け、そのまま部屋の中へと入ってきた。
「どうしたの、香奈姉ちゃん?」
僕は、部屋に入ってきた彼女──香奈姉ちゃんに視線を向ける。
香奈姉ちゃんは、いつもどおりの笑顔を浮かべ、僕の側に近づいてきた。
「ん? どうもしないよ。ただ、私が隆一さんとのデート中、楓は奈緒ちゃんと何してたのかなって思ってさ。気になって来てみたんだよね」
「奈緒さんと?」
どうやら今日一日、僕が奈緒さんと一緒にいたことは、知っているみたいだ。
「そ。奈緒ちゃんと何かあった?」
その笑顔が一番怖いんだけどなぁ。
特に何もなかった気がするけど、ホントのことを言っても『嘘だ』と言われそうな気がする。
「と、特に何もないよ」
「ホントに何もなかったの? もし嘘をついていたら──」
「ホントに何もなかったよ。香奈姉ちゃんが思っているようなことなんて何も……」
「私が思っているようなことって、例えば何かな?」
「た、例えば、その……。僕の目の前で下着を替えたりすること…とか」
「し、下着を楓の目の前で替えた⁉︎ 奈緒ちゃん、そんなことしたの⁉︎」
「いや……。例えばの話で……。実際にはやってないよ」
僕は、嘘をつく。
実際には、やったんだけどね。
僕的には、この事実をただの冗談で済ませられたらっていう願望があったのかもしれない。
しかし香奈姉ちゃんには、それが冗談には聞こえなかったみたいだ。
「ふ~ん。楓の目の前で下着を替えたんだ……。てことは、楓は奈緒ちゃんの裸を見たってことだよね?」
「裸なんて見てないよ。僕はただ──」
「それじゃ、このピンクのパンツは何?」
香奈姉ちゃんは、机の上に置きっぱなしにしてた奈緒さんの下着を手に取って、僕に見せてくる。
──しまった。
奈緒さんから渡されて机の上に置いた後、そのままにしてしまったか。
その下着は、まぎれもなく奈緒さんのものだ。
すぐに片付けようと思っていたんだけど、奈緒さんを家まで見送ってしまったので、結果的に自分の家に帰ってきたのが香奈姉ちゃんがやってくる少し前になってしまったのである。
そのため、奈緒さんの下着を片付ける暇がなかったのだ。
「それは……」
まともに答えられるわけもなく、僕は香奈姉ちゃんを見て言葉を詰まらせる。
「奈緒ちゃんのパンツだよね、これって……。 どうしてそんなものが楓の部屋にあるの?」
「なんというか、その……。これには、深い事情が──」
「それに、このパンツ。今日一日、奈緒ちゃんが穿いてたものだよね?」
「なんでわかるの?」
「だって、ぬくもりを感じるんだもん」
「ぬくもりって……」
奈緒さんのぬくもりか。
そう言われたら、たしかにぬくもりはあるかもしれない。
今日一日、穿いてたものだから。
「それと匂いも……」
香奈姉ちゃんは、くんくんと匂いを嗅ぎはじめる。
さすがに、下着の匂いを嗅ぐっていうのはない。
「いや……。匂いを嗅ぐのは、ちょっといただけないかな」
「そうかな? なんなら楓も匂いを嗅いでみる? けっこういい匂いだよ」
そう言って、奈緒さんの下着を僕に渡そうとしてくる。
いい匂いって、奈緒さんが一日穿いてたものだよ。
「…やめておくよ。さすがに倫理観が疑われるし……」
「そっかなぁ。私は、全然気にしないけどな」
──いやいや。
それを、香奈姉ちゃんが気にしなくても、僕が気にするんだよ。
勘がいい香奈姉ちゃんは、『やっぱり』といった表情で僕に言う。
「奈緒ちゃん、楓の部屋に来てたんだね」
「うん……。黙っているつもりはなかったんだけど……」
僕は、その時点で白状する。
下着を隠しきれなかった時点で、内緒にするのは無理だったな。
「私がいない間に、何があったのかな? 何もなかったなんて、とても信じられないな」
そう言って、笑顔で僕に迫ってくる香奈姉ちゃん。
その笑顔が逆に怖いんだけど……。
そんなに聞きたいのかな。
今日一日の、奈緒さんとのやりとりを──。
「ホントに何もないよ。奈緒さんに聞けばわかるよ」
「ホントかなぁ。なんか怪しいな」
香奈姉ちゃんは、訝しげな表情を浮かべて僕を見てくる。
まさか、奈緒さんに迫られたなんて言えない。
僕は、ごまかすように苦笑いをする。
「まったく……。香奈姉ちゃんってば、疑り深いんだから」
「だって……。心配なんだもん……」
「なんの心配をしているのかわからないけど、香奈姉ちゃんが思っているとおりのことにはなってないよ」
む~っと睨んでくる香奈姉ちゃんに、僕はそう言った。
「ホントにそうなってないんなら、いいんだけど……」
香奈姉ちゃんは、消化不良気味の表情を浮かべる。
その表情を見る限りでは、信頼はしてるけど信用はしてないって感じだ。
奈緒さんの下着をぎゅっと握ったままそう言ってくるあたり、きっと不安なんだと思うが。
僕自身は、奈緒さんとはまだ『何もない』から、その辺りは安心していいところなんだけど。
何かあったとしたら、奈緒さんから言ってくると思うし。
──なんにせよ。
ホント、信用ないんだな。僕って……。
香奈姉ちゃんからは、信頼はされてると思っていただけに、信用されてないのは正直言ってショックだ。
普段ならすぐに下の階に行って、香奈姉ちゃんを出迎えていたんだろうけど、今の時間帯がちょうど就寝時間ということもあって、出にくいのである。
それに、もしかしたら、今回は母に用事があったのかもしれないし。
そう思っていたら、誰かが部屋のドアをノックしてきた。
誰がノックしてきたかなんて、この場合は一目瞭然だ。
「はい」
それでも僕は、ノックに対して返事をする。
「私だけど。今、大丈夫?」
そう言って、彼女は僕の都合などお構いなしに部屋のドアを開け、そのまま部屋の中へと入ってきた。
「どうしたの、香奈姉ちゃん?」
僕は、部屋に入ってきた彼女──香奈姉ちゃんに視線を向ける。
香奈姉ちゃんは、いつもどおりの笑顔を浮かべ、僕の側に近づいてきた。
「ん? どうもしないよ。ただ、私が隆一さんとのデート中、楓は奈緒ちゃんと何してたのかなって思ってさ。気になって来てみたんだよね」
「奈緒さんと?」
どうやら今日一日、僕が奈緒さんと一緒にいたことは、知っているみたいだ。
「そ。奈緒ちゃんと何かあった?」
その笑顔が一番怖いんだけどなぁ。
特に何もなかった気がするけど、ホントのことを言っても『嘘だ』と言われそうな気がする。
「と、特に何もないよ」
「ホントに何もなかったの? もし嘘をついていたら──」
「ホントに何もなかったよ。香奈姉ちゃんが思っているようなことなんて何も……」
「私が思っているようなことって、例えば何かな?」
「た、例えば、その……。僕の目の前で下着を替えたりすること…とか」
「し、下着を楓の目の前で替えた⁉︎ 奈緒ちゃん、そんなことしたの⁉︎」
「いや……。例えばの話で……。実際にはやってないよ」
僕は、嘘をつく。
実際には、やったんだけどね。
僕的には、この事実をただの冗談で済ませられたらっていう願望があったのかもしれない。
しかし香奈姉ちゃんには、それが冗談には聞こえなかったみたいだ。
「ふ~ん。楓の目の前で下着を替えたんだ……。てことは、楓は奈緒ちゃんの裸を見たってことだよね?」
「裸なんて見てないよ。僕はただ──」
「それじゃ、このピンクのパンツは何?」
香奈姉ちゃんは、机の上に置きっぱなしにしてた奈緒さんの下着を手に取って、僕に見せてくる。
──しまった。
奈緒さんから渡されて机の上に置いた後、そのままにしてしまったか。
その下着は、まぎれもなく奈緒さんのものだ。
すぐに片付けようと思っていたんだけど、奈緒さんを家まで見送ってしまったので、結果的に自分の家に帰ってきたのが香奈姉ちゃんがやってくる少し前になってしまったのである。
そのため、奈緒さんの下着を片付ける暇がなかったのだ。
「それは……」
まともに答えられるわけもなく、僕は香奈姉ちゃんを見て言葉を詰まらせる。
「奈緒ちゃんのパンツだよね、これって……。 どうしてそんなものが楓の部屋にあるの?」
「なんというか、その……。これには、深い事情が──」
「それに、このパンツ。今日一日、奈緒ちゃんが穿いてたものだよね?」
「なんでわかるの?」
「だって、ぬくもりを感じるんだもん」
「ぬくもりって……」
奈緒さんのぬくもりか。
そう言われたら、たしかにぬくもりはあるかもしれない。
今日一日、穿いてたものだから。
「それと匂いも……」
香奈姉ちゃんは、くんくんと匂いを嗅ぎはじめる。
さすがに、下着の匂いを嗅ぐっていうのはない。
「いや……。匂いを嗅ぐのは、ちょっといただけないかな」
「そうかな? なんなら楓も匂いを嗅いでみる? けっこういい匂いだよ」
そう言って、奈緒さんの下着を僕に渡そうとしてくる。
いい匂いって、奈緒さんが一日穿いてたものだよ。
「…やめておくよ。さすがに倫理観が疑われるし……」
「そっかなぁ。私は、全然気にしないけどな」
──いやいや。
それを、香奈姉ちゃんが気にしなくても、僕が気にするんだよ。
勘がいい香奈姉ちゃんは、『やっぱり』といった表情で僕に言う。
「奈緒ちゃん、楓の部屋に来てたんだね」
「うん……。黙っているつもりはなかったんだけど……」
僕は、その時点で白状する。
下着を隠しきれなかった時点で、内緒にするのは無理だったな。
「私がいない間に、何があったのかな? 何もなかったなんて、とても信じられないな」
そう言って、笑顔で僕に迫ってくる香奈姉ちゃん。
その笑顔が逆に怖いんだけど……。
そんなに聞きたいのかな。
今日一日の、奈緒さんとのやりとりを──。
「ホントに何もないよ。奈緒さんに聞けばわかるよ」
「ホントかなぁ。なんか怪しいな」
香奈姉ちゃんは、訝しげな表情を浮かべて僕を見てくる。
まさか、奈緒さんに迫られたなんて言えない。
僕は、ごまかすように苦笑いをする。
「まったく……。香奈姉ちゃんってば、疑り深いんだから」
「だって……。心配なんだもん……」
「なんの心配をしているのかわからないけど、香奈姉ちゃんが思っているとおりのことにはなってないよ」
む~っと睨んでくる香奈姉ちゃんに、僕はそう言った。
「ホントにそうなってないんなら、いいんだけど……」
香奈姉ちゃんは、消化不良気味の表情を浮かべる。
その表情を見る限りでは、信頼はしてるけど信用はしてないって感じだ。
奈緒さんの下着をぎゅっと握ったままそう言ってくるあたり、きっと不安なんだと思うが。
僕自身は、奈緒さんとはまだ『何もない』から、その辺りは安心していいところなんだけど。
何かあったとしたら、奈緒さんから言ってくると思うし。
──なんにせよ。
ホント、信用ないんだな。僕って……。
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