104 / 382
第十一話
8
しおりを挟む
バイト先の喫茶店にたどり着きスタッフルームで準備していると、店長の佐田さんが入ってくる。
「あ、周防君。ちょうどいいところに」
「店長。どうしたんですか?」
「あのね。今日から、新人さんが一人、入ってくるんだけど……。お願いできる?」
「新人…ですか?」
「今、お店に来てるから紹介するわね。──どうぞ、古賀さん」
「はい」
佐田さんにそう言われ、スタッフルームに入ってきたのは古賀千聖だった。
なんで彼女がこんなところに……。
僕は、あまりのことに呆然となる。
もう喫茶店の制服を着こなしてるし。
千聖は、僕の顔を見ると笑顔を浮かべ、自己紹介をした。
「今日から、一緒にお仕事させていただく、古賀千聖です。不束者ですが、よろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
僕は、佐田さんに悟られないように自然な笑顔を作り、そう言った。
この際、新しいバイトとして千聖さんが入ってきたことに関しては、偶然のものとしてとらえよう。
「古賀さんには、さっそくホールに入ってもらうことになるけど、わからないことがあったら周防君に聞いてね」
「はい。わかりました」
佐田さんの言葉に、千聖は素直にそう答えた。
基本的には、いい子なんだけどな。
どこに問題があるのか、まったくわからないんだけど。
「そういうことだから、周防君。後は、よろしく頼むわね」
「あ、はい」
僕の返事を聞くと、佐田さんは足早にスタッフルームから去っていく。
その場に残された千聖は、僕の顔を見て言う。
「ここでバイトしてたんだね。楓君」
「まぁね」
「わからないことがあったら、教えてくれるんですよね?」
「そういうことになっているからね」
「やっぱり優しいよね。楓君って──」
「これも仕事の内だから、しょうがないけど。わからないことがあったら、遠慮なく言ってね。…できる限りサポートするから」
僕は、軽く息を吐いてそう言った。
サポートって言ったって、そこまで難しいものじゃないと思うんだけど。
ホールでやることといえば、接客してオーダーを聞くことと会計をすることくらいだし。
「ありがとう」
千聖は、笑顔を浮かべお礼を言った。
なんか嫌な予感がするんだけど、僕だけかな。
杞憂に終わればいいんだけど。
着替えを終えた僕は、そのままタイムカードを通してスタッフルームを後にした。
今日も、いつもどおりに頑張ろう。
バイトが終わると、僕は「お疲れ様でした」と言って喫茶店を後にした。
時間は、二十時になっている。
僕は、バイト帰りに必ず通る公園に来ていた。
公園としては比較的規模が大きくて、夜の時間は男女のカップルが最も多い。
香奈姉ちゃんが僕のことを待つときには、必ずと言っていいほどここにいる。
近くにいないのを見ると、香奈姉ちゃんはまだバイト中かな。
もしそうだったら、しばらく待っていようかな。
「ねぇ、楓君」
そう思って一人で待っていると、後ろから女の子に声をかけられた。
相手は言うまでもなく千聖だ。
「どうしたの? 千聖さん」
僕は、振り返って千聖さんを見る。
まだ家に帰ってなかったのか、制服姿だ。
「良かったら、一緒に帰らない?」
「悪いんだけど、人を待ってるんだ」
「それって、もしかして西田先輩?」
「そうだけど」
どうして、そんなことがわかるんだろう。
怪訝そうな顔をしている僕に、千聖はなぜか嬉しそうな表情で言った。
「やっぱりそうなんだ。楓君って、わかりやすいなぁ」
「それって、僕が単純バカだって言いたいの?」
「ううん。違うよ。一途なんだなって思ってね」
「一途? 僕が?」
「うん。そんなに西田先輩のことが好きなんだなぁって」
そんなことを言われたのは初めてだ。
たしかに僕は、香奈姉ちゃんのことが好きだけど。
単純に好きって言ったら、美沙先輩も理恵先輩も奈緒先輩もそれに当てはまる。
だけど、この場合は恋愛的なことでの『好き』だから、ちょっと違うのかもしれない。
「香奈姉ちゃんだからね。嫌いなわけがないよ」
僕の姉的存在の幼馴染にして、僕の大切な人なんだから。
「お姉ちゃん…か」
「そうだよ。僕にとって香奈姉ちゃんは最高の彼女なんだ」
「それって、私のことは恋愛対象にはならないってことだよね?」
「まぁ、付き合っている彼女がいるわけだしね」
そんなの当たり前のことだ。
付き合っている彼女がいるっていうのに、別の女の子と付き合えるわけがない。
友達としてなら、まだわかるが。
「ハッキリ言わせてもらうけど、私は楓君のことを諦めるつもりはないからね」
「え……。それって……?」
千聖の発言に、僕は唖然となってしまう。
千聖は、ビシィッと指をつきつける。
「私が西田先輩よりもいい女だってことを証明させてあげるんだから。覚悟してなさいよね!」
「覚悟って……」
「そういうことだから、楓君。あなたを振り向かせるためなら、私はどんなことだってするからね。覚悟しなさいよ」
千聖は、僕に軽くウィンクをしてそう言うと、踵を返しそのまま走り去っていった。
そんなこと言われても……。
ハッキリ言うけど、他の子を好きになるつもりはないんだけどな。
僕は、彼女の姿が見えなくなるまで見送っていた。
それからしばらくしないうちに、香奈姉ちゃんが向こうからやってきた。
香奈姉ちゃんは、申し訳なさそうな表情で聞いてくる。
「ごめん、楓。…待ったかな?」
「ううん、全然。ついさっき、ここに着いたところだよ」
僕は、香奈姉ちゃんに心配させまいとそう言った。
千聖と話をしていたことは、香奈姉ちゃんには言わないでおこう。
「そっか。それなら良かった」
香奈姉ちゃんは、そう言って安堵の表情を浮かべる。
本当なら、ここで僕のことを待つつもりだったんだろう。
香奈姉ちゃんもバイトの帰り道には、この場所は必ず通るし。
「それじゃ、帰ろっか?」
「うん。そうだね」
香奈姉ちゃんは頬を染め、手を握ってきた。
僕は、握ってきた香奈姉ちゃんの手を優しく握り返すと、ゆっくりと歩き出す。
それを遠巻きに見ていた男の人たちは、そんな僕たちを見て舌打ちしている。
どうやら、香奈姉ちゃんに声をかけようとしていたみたいだ。
無駄なことなのに。
香奈姉ちゃんも、周囲の男の人たちの視線に気づいていたのか、周りにアピールするかのようにそのまま僕の腕にギュッとしがみついてくる。
「家に着くまでこのままで行こう」
「う、うん」
僕は、小さく頷いた。
真っ直ぐ家に帰るだけだというのに、ここまでしなきゃいけないなんて……。
香奈姉ちゃんって、どれだけ注目の的になってるんだろうか。
それを考えると、すごく恐ろしいな。
「あ、周防君。ちょうどいいところに」
「店長。どうしたんですか?」
「あのね。今日から、新人さんが一人、入ってくるんだけど……。お願いできる?」
「新人…ですか?」
「今、お店に来てるから紹介するわね。──どうぞ、古賀さん」
「はい」
佐田さんにそう言われ、スタッフルームに入ってきたのは古賀千聖だった。
なんで彼女がこんなところに……。
僕は、あまりのことに呆然となる。
もう喫茶店の制服を着こなしてるし。
千聖は、僕の顔を見ると笑顔を浮かべ、自己紹介をした。
「今日から、一緒にお仕事させていただく、古賀千聖です。不束者ですが、よろしくお願いします」
「うん。よろしくね」
僕は、佐田さんに悟られないように自然な笑顔を作り、そう言った。
この際、新しいバイトとして千聖さんが入ってきたことに関しては、偶然のものとしてとらえよう。
「古賀さんには、さっそくホールに入ってもらうことになるけど、わからないことがあったら周防君に聞いてね」
「はい。わかりました」
佐田さんの言葉に、千聖は素直にそう答えた。
基本的には、いい子なんだけどな。
どこに問題があるのか、まったくわからないんだけど。
「そういうことだから、周防君。後は、よろしく頼むわね」
「あ、はい」
僕の返事を聞くと、佐田さんは足早にスタッフルームから去っていく。
その場に残された千聖は、僕の顔を見て言う。
「ここでバイトしてたんだね。楓君」
「まぁね」
「わからないことがあったら、教えてくれるんですよね?」
「そういうことになっているからね」
「やっぱり優しいよね。楓君って──」
「これも仕事の内だから、しょうがないけど。わからないことがあったら、遠慮なく言ってね。…できる限りサポートするから」
僕は、軽く息を吐いてそう言った。
サポートって言ったって、そこまで難しいものじゃないと思うんだけど。
ホールでやることといえば、接客してオーダーを聞くことと会計をすることくらいだし。
「ありがとう」
千聖は、笑顔を浮かべお礼を言った。
なんか嫌な予感がするんだけど、僕だけかな。
杞憂に終わればいいんだけど。
着替えを終えた僕は、そのままタイムカードを通してスタッフルームを後にした。
今日も、いつもどおりに頑張ろう。
バイトが終わると、僕は「お疲れ様でした」と言って喫茶店を後にした。
時間は、二十時になっている。
僕は、バイト帰りに必ず通る公園に来ていた。
公園としては比較的規模が大きくて、夜の時間は男女のカップルが最も多い。
香奈姉ちゃんが僕のことを待つときには、必ずと言っていいほどここにいる。
近くにいないのを見ると、香奈姉ちゃんはまだバイト中かな。
もしそうだったら、しばらく待っていようかな。
「ねぇ、楓君」
そう思って一人で待っていると、後ろから女の子に声をかけられた。
相手は言うまでもなく千聖だ。
「どうしたの? 千聖さん」
僕は、振り返って千聖さんを見る。
まだ家に帰ってなかったのか、制服姿だ。
「良かったら、一緒に帰らない?」
「悪いんだけど、人を待ってるんだ」
「それって、もしかして西田先輩?」
「そうだけど」
どうして、そんなことがわかるんだろう。
怪訝そうな顔をしている僕に、千聖はなぜか嬉しそうな表情で言った。
「やっぱりそうなんだ。楓君って、わかりやすいなぁ」
「それって、僕が単純バカだって言いたいの?」
「ううん。違うよ。一途なんだなって思ってね」
「一途? 僕が?」
「うん。そんなに西田先輩のことが好きなんだなぁって」
そんなことを言われたのは初めてだ。
たしかに僕は、香奈姉ちゃんのことが好きだけど。
単純に好きって言ったら、美沙先輩も理恵先輩も奈緒先輩もそれに当てはまる。
だけど、この場合は恋愛的なことでの『好き』だから、ちょっと違うのかもしれない。
「香奈姉ちゃんだからね。嫌いなわけがないよ」
僕の姉的存在の幼馴染にして、僕の大切な人なんだから。
「お姉ちゃん…か」
「そうだよ。僕にとって香奈姉ちゃんは最高の彼女なんだ」
「それって、私のことは恋愛対象にはならないってことだよね?」
「まぁ、付き合っている彼女がいるわけだしね」
そんなの当たり前のことだ。
付き合っている彼女がいるっていうのに、別の女の子と付き合えるわけがない。
友達としてなら、まだわかるが。
「ハッキリ言わせてもらうけど、私は楓君のことを諦めるつもりはないからね」
「え……。それって……?」
千聖の発言に、僕は唖然となってしまう。
千聖は、ビシィッと指をつきつける。
「私が西田先輩よりもいい女だってことを証明させてあげるんだから。覚悟してなさいよね!」
「覚悟って……」
「そういうことだから、楓君。あなたを振り向かせるためなら、私はどんなことだってするからね。覚悟しなさいよ」
千聖は、僕に軽くウィンクをしてそう言うと、踵を返しそのまま走り去っていった。
そんなこと言われても……。
ハッキリ言うけど、他の子を好きになるつもりはないんだけどな。
僕は、彼女の姿が見えなくなるまで見送っていた。
それからしばらくしないうちに、香奈姉ちゃんが向こうからやってきた。
香奈姉ちゃんは、申し訳なさそうな表情で聞いてくる。
「ごめん、楓。…待ったかな?」
「ううん、全然。ついさっき、ここに着いたところだよ」
僕は、香奈姉ちゃんに心配させまいとそう言った。
千聖と話をしていたことは、香奈姉ちゃんには言わないでおこう。
「そっか。それなら良かった」
香奈姉ちゃんは、そう言って安堵の表情を浮かべる。
本当なら、ここで僕のことを待つつもりだったんだろう。
香奈姉ちゃんもバイトの帰り道には、この場所は必ず通るし。
「それじゃ、帰ろっか?」
「うん。そうだね」
香奈姉ちゃんは頬を染め、手を握ってきた。
僕は、握ってきた香奈姉ちゃんの手を優しく握り返すと、ゆっくりと歩き出す。
それを遠巻きに見ていた男の人たちは、そんな僕たちを見て舌打ちしている。
どうやら、香奈姉ちゃんに声をかけようとしていたみたいだ。
無駄なことなのに。
香奈姉ちゃんも、周囲の男の人たちの視線に気づいていたのか、周りにアピールするかのようにそのまま僕の腕にギュッとしがみついてくる。
「家に着くまでこのままで行こう」
「う、うん」
僕は、小さく頷いた。
真っ直ぐ家に帰るだけだというのに、ここまでしなきゃいけないなんて……。
香奈姉ちゃんって、どれだけ注目の的になってるんだろうか。
それを考えると、すごく恐ろしいな。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる