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第十四話
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──朝。女子校にて。
奈緒ちゃんは、いつもどおりに私の頬を指で突いてくる。
「おはよう、香奈。今日は、いつもと違うみたいだけど。どうしたのかな?」
「今日はね。楓と一緒に登校できなかったんだよね……」
私は、しゅんと落ち込んだような表情を浮かべてそう言っていた。
ホントに落ち込んでるんだよね。
「そうなの? 香奈が何かやったとか?」
「心当たりがないんだよね。昨日までは、普通に接してくれたし」
「そっか。心当たりがない…か。それなら香奈じゃなくて、別の人が絡んでいるのかな?」
「まさか隆一さんが……。そんなことあるわけがないか。…でも、あきらかに私を避けているようでもあったし……。う~ん……」
今日に限って、楓は私のことを待たずに、先に学校に行ってしまったから。
やっぱり、あんなことをしたその次の日だから、恥ずかしかったのかな?
だとしたら、楓には申し訳ないことをしたかも……。
奈緒ちゃんにとっては、そんな表情を浮かべている私が、めずらしかったのかもしれない。
奈緒ちゃんは、フッと微笑を浮かべて言ってくる。
「まぁ、一日くらい一緒に登校できない日があってもいいんじゃない。あたしなんて、そもそも通学路と通う時間帯が違うから、楓君とは全然会わないし」
「そうなのかな。…そういうものなのかな」
「香奈は、意識しすぎだと思うよ。それも、楓君のお姉さん的な幼馴染だからよけいに──」
「幼馴染なら、途中まででも一緒に登校するのが普通だと思うんだけど……。逆に一人で登校する方が不自然なんじゃないかな」
「そんなことないよ。むしろ楓君のことを気にしすぎだと思うくらいだよ。たまには、そっとしておいてあげるのも優しさってものだと思うよ」
「そんなことしたら──。楓のことだから、他の女の子と登下校しそうで──」
私は、不安そうな表情を浮かべてそう言っていた。
奈緒ちゃんは、そんな私を見て何を思ったのか、微笑を浮かべたまま突然頭を撫でてくる。
「香奈は、心配症だね。…大丈夫だよ。楓君に限っては、あたしが目を付けてるから。他の女の子に誘われることなんて絶対にないよ」
「でも……」
「大丈夫。楓君を信じなさい。楓君だって、香奈のことを信じてるはずだよ」
「奈緒ちゃんがそう言うのなら……。信じてみようかな」
楓が私のことを避けている理由は気にはなるけど。
とりあえず、楓のことを信じてみようかな。
タイミングよく学校のチャイムが鳴ったので、奈緒ちゃんは
「また後でね」
と言って、自分の席へと戻っていった。
放課後。
私は、さっさと教科書とノートを鞄に入れていく。
今日は、一人で帰る予定なんだけど。
きっと私が楓の学校に行っても避けられてしまうんだろうな。
そんなことを考えながら、教科書などを入れていくと鞄を肩に担ぎ、教室を後にする。
そのまま廊下を歩いていると、生徒会長の宮繁彩奈にばったり遭遇した。
腰のあたりまで伸ばした髪は、黒の中に茶が混じっていって綺麗ではないけど、さらりとしている。
基本、眼鏡をかけているが目元はキツめというよりも、優しそうな感じだ。
さすが女子校の生徒会長というだけあって、左腕の方にしている腕章がとても似合っている。
普段なら彼女の他に二人ほど女子生徒を連れているのだが、今回は一人らしい。
宮繁先輩は、私の顔を見るなり、微笑を浮かべて話しかけてくる。
「あら。西田さんじゃない」
「宮繁先輩。こんにちは」
私は、宮繁先輩に会釈をする。
なぜ宮繁先輩に名前を覚えられてるかというと、彼女が次の生徒会長候補にしている女子生徒に私を指名しているからだ。
私は、断っているんだけど。
「西田さんは、今から、帰りなの?」
「あ、はい。そうなんです。男子校に私の幼馴染がいて、その人と一緒に帰るつもりですが」
一緒に帰るっていうのは、たぶん嘘だ。
楓のことだから、私のことなんて待っていないだろうと思う。
今日は、なんだか避けられているみたいだし、間違いない。
「男子校に?」
宮繁先輩は、訝しげな表情になる。
というのも、宮繁先輩は極度の男性嫌いなのだ。
それはもはや、有名になっているほどである。
「はい。男子校にです」
「それはダメよ!」
「え……。ダメって?」
「西田さんは、次期生徒会長になるに相応しい人なのよ。そんな人が、幼馴染とはいえ男子校の生徒と帰るだなんて、いけないことよ」
宮繁先輩は、ビシィッと指を突きつけてそう言ってくる。
宮繁先輩は、私に会うといつもそう言ってくるんだけど。
その理由は、いたって簡単なものだ。
彼女は、私に恋愛禁止を言い渡しているのだ。
次の生徒会長にしたいがために……。
「それは、どうしても私を生徒会長にしたいからですよね?」
「そうよ。だから、西田さんは男子となんか付き合ったらダメなのよ」
「残念だけど、私。もう付き合っている人がいるの。だから、宮繁先輩の要望には応えられないかな」
「だったら、すぐに別れなさいよ」
何を言うかと思えば、楓と別れろだなんて。
そんなこと、できるわけがない。
だって、私は楓と──。
「そんなこと。…できるわけないでしょ!」
「どうして? 付き合ってる男の子を振るのは簡単でしょ?」
「そんなことできるわけないじゃない! ただでさえ楓は、中学生時代に──」
私がそう言うと、宮繁先輩は『ふ~ん……』と何かを納得したように頷いていた。
──しまった。
感情的になって、つい楓の名前を出してしまった。
生徒会長の前では、出さないでおこうと決めていたのに。
「『楓』って言うんだね。西田さんが付き合ってる男の名前って」
「そうだよ。何か悪いことなの?」
「もしかして、文化祭の時にメイド服を着て女装してもらった男の子のことかな?」
「どうして、それを?」
私がそう訊くと、宮繁先輩は『ふふん……』と勝ち誇ったような笑みを浮かべて言った。
「こう見えても、私はこの学校の生徒会長よ。文化祭の時に来た男の子の名前は、ちゃんと覚えてるのよ」
自慢げにそう言われてもな。
文化祭の日のことは、楓にとっては、少しトラウマだったんじゃないのかなって思うけど。
「それは……。なんというか、すごいですね」
「そういえば、西田さんの幼馴染の男の子の名前もたしか……」
「とにかく、私は先に帰りますので──」
そう言って、私は宮繁先輩を振り切るように歩き出す。
「ちょっと……。まだ話は終わって──」
宮繁先輩はそう言ってきたが、追いかけるつもりはないようだ。
私は、そのまま廊下を歩いていき、下駄箱のある場所まで向かっていった。
これから男子校に向かうつもりだけど、待ってくれていたら嬉しいんだけどな。
きっと楓はいないだろうと思うけど、一応…ね。
私は、期待半分、落胆半分という気持ちで楓のことを想って歩いていた。
奈緒ちゃんは、いつもどおりに私の頬を指で突いてくる。
「おはよう、香奈。今日は、いつもと違うみたいだけど。どうしたのかな?」
「今日はね。楓と一緒に登校できなかったんだよね……」
私は、しゅんと落ち込んだような表情を浮かべてそう言っていた。
ホントに落ち込んでるんだよね。
「そうなの? 香奈が何かやったとか?」
「心当たりがないんだよね。昨日までは、普通に接してくれたし」
「そっか。心当たりがない…か。それなら香奈じゃなくて、別の人が絡んでいるのかな?」
「まさか隆一さんが……。そんなことあるわけがないか。…でも、あきらかに私を避けているようでもあったし……。う~ん……」
今日に限って、楓は私のことを待たずに、先に学校に行ってしまったから。
やっぱり、あんなことをしたその次の日だから、恥ずかしかったのかな?
だとしたら、楓には申し訳ないことをしたかも……。
奈緒ちゃんにとっては、そんな表情を浮かべている私が、めずらしかったのかもしれない。
奈緒ちゃんは、フッと微笑を浮かべて言ってくる。
「まぁ、一日くらい一緒に登校できない日があってもいいんじゃない。あたしなんて、そもそも通学路と通う時間帯が違うから、楓君とは全然会わないし」
「そうなのかな。…そういうものなのかな」
「香奈は、意識しすぎだと思うよ。それも、楓君のお姉さん的な幼馴染だからよけいに──」
「幼馴染なら、途中まででも一緒に登校するのが普通だと思うんだけど……。逆に一人で登校する方が不自然なんじゃないかな」
「そんなことないよ。むしろ楓君のことを気にしすぎだと思うくらいだよ。たまには、そっとしておいてあげるのも優しさってものだと思うよ」
「そんなことしたら──。楓のことだから、他の女の子と登下校しそうで──」
私は、不安そうな表情を浮かべてそう言っていた。
奈緒ちゃんは、そんな私を見て何を思ったのか、微笑を浮かべたまま突然頭を撫でてくる。
「香奈は、心配症だね。…大丈夫だよ。楓君に限っては、あたしが目を付けてるから。他の女の子に誘われることなんて絶対にないよ」
「でも……」
「大丈夫。楓君を信じなさい。楓君だって、香奈のことを信じてるはずだよ」
「奈緒ちゃんがそう言うのなら……。信じてみようかな」
楓が私のことを避けている理由は気にはなるけど。
とりあえず、楓のことを信じてみようかな。
タイミングよく学校のチャイムが鳴ったので、奈緒ちゃんは
「また後でね」
と言って、自分の席へと戻っていった。
放課後。
私は、さっさと教科書とノートを鞄に入れていく。
今日は、一人で帰る予定なんだけど。
きっと私が楓の学校に行っても避けられてしまうんだろうな。
そんなことを考えながら、教科書などを入れていくと鞄を肩に担ぎ、教室を後にする。
そのまま廊下を歩いていると、生徒会長の宮繁彩奈にばったり遭遇した。
腰のあたりまで伸ばした髪は、黒の中に茶が混じっていって綺麗ではないけど、さらりとしている。
基本、眼鏡をかけているが目元はキツめというよりも、優しそうな感じだ。
さすが女子校の生徒会長というだけあって、左腕の方にしている腕章がとても似合っている。
普段なら彼女の他に二人ほど女子生徒を連れているのだが、今回は一人らしい。
宮繁先輩は、私の顔を見るなり、微笑を浮かべて話しかけてくる。
「あら。西田さんじゃない」
「宮繁先輩。こんにちは」
私は、宮繁先輩に会釈をする。
なぜ宮繁先輩に名前を覚えられてるかというと、彼女が次の生徒会長候補にしている女子生徒に私を指名しているからだ。
私は、断っているんだけど。
「西田さんは、今から、帰りなの?」
「あ、はい。そうなんです。男子校に私の幼馴染がいて、その人と一緒に帰るつもりですが」
一緒に帰るっていうのは、たぶん嘘だ。
楓のことだから、私のことなんて待っていないだろうと思う。
今日は、なんだか避けられているみたいだし、間違いない。
「男子校に?」
宮繁先輩は、訝しげな表情になる。
というのも、宮繁先輩は極度の男性嫌いなのだ。
それはもはや、有名になっているほどである。
「はい。男子校にです」
「それはダメよ!」
「え……。ダメって?」
「西田さんは、次期生徒会長になるに相応しい人なのよ。そんな人が、幼馴染とはいえ男子校の生徒と帰るだなんて、いけないことよ」
宮繁先輩は、ビシィッと指を突きつけてそう言ってくる。
宮繁先輩は、私に会うといつもそう言ってくるんだけど。
その理由は、いたって簡単なものだ。
彼女は、私に恋愛禁止を言い渡しているのだ。
次の生徒会長にしたいがために……。
「それは、どうしても私を生徒会長にしたいからですよね?」
「そうよ。だから、西田さんは男子となんか付き合ったらダメなのよ」
「残念だけど、私。もう付き合っている人がいるの。だから、宮繁先輩の要望には応えられないかな」
「だったら、すぐに別れなさいよ」
何を言うかと思えば、楓と別れろだなんて。
そんなこと、できるわけがない。
だって、私は楓と──。
「そんなこと。…できるわけないでしょ!」
「どうして? 付き合ってる男の子を振るのは簡単でしょ?」
「そんなことできるわけないじゃない! ただでさえ楓は、中学生時代に──」
私がそう言うと、宮繁先輩は『ふ~ん……』と何かを納得したように頷いていた。
──しまった。
感情的になって、つい楓の名前を出してしまった。
生徒会長の前では、出さないでおこうと決めていたのに。
「『楓』って言うんだね。西田さんが付き合ってる男の名前って」
「そうだよ。何か悪いことなの?」
「もしかして、文化祭の時にメイド服を着て女装してもらった男の子のことかな?」
「どうして、それを?」
私がそう訊くと、宮繁先輩は『ふふん……』と勝ち誇ったような笑みを浮かべて言った。
「こう見えても、私はこの学校の生徒会長よ。文化祭の時に来た男の子の名前は、ちゃんと覚えてるのよ」
自慢げにそう言われてもな。
文化祭の日のことは、楓にとっては、少しトラウマだったんじゃないのかなって思うけど。
「それは……。なんというか、すごいですね」
「そういえば、西田さんの幼馴染の男の子の名前もたしか……」
「とにかく、私は先に帰りますので──」
そう言って、私は宮繁先輩を振り切るように歩き出す。
「ちょっと……。まだ話は終わって──」
宮繁先輩はそう言ってきたが、追いかけるつもりはないようだ。
私は、そのまま廊下を歩いていき、下駄箱のある場所まで向かっていった。
これから男子校に向かうつもりだけど、待ってくれていたら嬉しいんだけどな。
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