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第十八話
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まさか私が、あの子にお昼ご飯を奢るはめになるとは思わなかったな。
おかげで財布の中身が違う意味で寒くなってしまった。
「あー、美味しかった。ありがとう、西田先輩。おかげでお腹いっぱいになったよ」
「いいのよ。ふふ……」
古賀千聖にそう言われて、私は自虐的に笑う。
本当なら一人で、楓たちを尾行しようと思っていたのにな。
なんで彼女に、ご飯を奢らなきゃいけないんだろうか。
結局、楓たちは、食事を済ませた後、特に混み入った話などはなくファミレスを後にした。
私の方はというと、後輩に奢るという形で店を出たのだが。
なんだろう。
途端に虚しい気がするのは一体……。
「もしかして、西田先輩は一人で楓君たちを追いかけようとしてました?」
と、傍にいた古賀千聖からそう訊かれる。
鋭い一言だ。
図星なだけに、よけいに恥ずかしい。
「そうだけど。何かいけないことなの?」
「別に~。私には、止める資格も義理もないから、なんとも言えないけど。楓君のことを一途に想っているのなら、信じてあげることも必要かなっと思ってね」
「信じるって言っても……。あの状況だと、二人とも何をするかわからないじゃない」
美沙ちゃんのあの様子だと、まだデートを続けるつもりだろうし。
そんな二人を見ていると、私の心がざわざわする。
「まぁ、気持ちはわかりますけど……。だけど楓君のお姉さん的な存在なら、もう少しだけ楓君のことを信頼してもいいんじゃないかな。私的には、そう思えるけど」
「………」
彼女の言葉に、私は何も言えなくなってしまう。
たしかに最近は、楓とのスキンシップがほとんどないせいか信頼関係が危うい感じになってる…ような気がするが。
楓は、どう思っているんだろうか。
知る術はないが、今は彼女の言葉が正しい。認めたくはないが……。
「あなたの言うとおりかもしれないわ。私ったら、いつの間にか弟くんのことを信頼してなかったかも……」
「楓君は、二股とかをするタイプじゃないから、その辺りは安心してるんだよね。まぁ、あの後の二人が気になるのはたしかですけど」
「それなら、こっそりと追いかけてみる?」
「いいですね。『毒を食らわば皿まで』ってやつですね」
古賀千聖は、なぜかウキウキとしてそう言っていた。
「そういう例えはちょっと……。あくまでも気になるからだよ」
その例えは、ちょっと違うような気がするんだけど。
楓を尾行することに対して、ここまでワクワクしてしまうのは、もはや好意を持っているからってだけではないような。
バンドメンバーだから?
それとも、弟的な存在の楓の行動に興味があるから?
違う。
恋人だからだ。
これはちょっとした浮気調査みたいなものだ。
そう考えると、彼女も私と同じなのかな?
──いや。古賀千聖とは違う。
古賀千聖は、楓のバイト仲間だ。
そんな深い関係はないはず。たぶん。
しばらく二人で街の中を歩いていたら、私たちのかなり前を歩いている楓たちを発見する。
「いましたよ。そんなに遠くに行ってなかったみたいですね。よかったぁ」
古賀千聖は、二人を見て安堵している様子だった。
そんなに安堵するところなのかな。
問題の二人を見ていると、とても仲良さそうに歩いている。まるで──
「よかったけど。なんだか仲良さそう。まるで恋人同士みたい」
「むむ……。これは……。さらなる監視が必要ですね」
私の言葉に、拍車がかかったんだと思う。
古賀千聖は、さらに険しい表情になる。
いい加減、ただジッと見ているのも疲れてきてるんだけど……。
そんな本音を言ったら、きっと彼女に怒られるんだろうな。
「いつまで監視をするつもりなの?」
「う~ん……。いつまでかな? 西田先輩は、いつまでがいいと思いますか?」
「私に訊かれても……。監視っていうのは、ストーカーみたいでちょっと……。私的には、タイミングが良い時に楓たちに近づいてみようかなって──」
「ダメですよ。それだと監視の意味がないじゃないですか! 今日一日は、楓君たちの監視だけにしましょうよ」
「監視だけって……。それって、あわよくば、私を色んなところに連れて行って、奢ってもらおうって考えかな?」
「ギクッ」
私の言葉に、古賀千聖はビクッとなる。
どうやら図星だったらしい。
私は、軽くため息を吐いていた。
「やっぱりね。あなたのことだから、そんなことじゃないかって思ってたわ」
「しょうがないじゃないですか。まさか、あんなところで楓君が他の女の子と待ち合わせをするなんて思わなかったし……」
「あくまでも弟くんが原因なんだね……」
「当たり前じゃないですか。私だって、楓君とデートはしたいです」
古賀千聖は、本音と思われることを口にする。
彼女は、楓のどこを好きになったんだろう。
こんなことを思ったら、私の気持ちに迷いが生じてしまうので考えないようにしてきたけど。
改めて古賀千聖を見ていたら、私の気持ちを再確認するきっかけができた。
そうだ。
私は、楓の優しくていつも温かく見守ってくれるところが好きなんだ。
隆一さんも、たしかに優しくて頼りになるお兄さん的なところがあるかもしれない。だけど、私のことを見守ってくれるっていうところがないし。逆に私を無理矢理引っ張っていこうとするきらいがあるから、どうしても恋愛感情にならないんだよな。
「私に内緒で、何度もデートをしてるのに?」
私のその一言で古賀千聖は表情をわずかに引き攣らせ、私から視線をわずかに逸らす。
「いや……。あれは、偶然で──」
「へぇ、偶然ねぇ」
「いいじゃないですか! 西田先輩は、いつでもイチャイチャできるんですから」
そんな羨ましそうに言われてもな。
私的には、イチャイチャしてる回数は少ないと思うんだけど……。
「たしかに、いつでもイチャイチャできるけど。でも弟くんは、そういうのは苦手で、なかなかそういうことは──」
「なるほど。楓君は、意外に奥手なんですね。初めて知りました」
古賀千聖は、なぜか笑みを浮かべる。
何だろう。
その笑みは、獲物を逃がさないって言うような感じのものだ。
「ちょっと。…今、何を考えたのよ?」
私は、ジト目で彼女のことを睨む。
すると彼女は、惚けてみせる。
「別に~。なんでもないですよ」
その顔は、絶対に何かするつもりだよね。
楓に何かしたら、私が許さないんだから。
そんな事を思っているうちに、楓たちはカラオケ店に入っていった。
たしか、あそこのカラオケ店は──。
私と古賀千聖は、しばし顔を見合わせる。
「どうするんですか?」
「どうするって言われても……」
あいにくと友達でもない女の子と二人で、カラオケ店に入る行動力はない。
無理な事ではないんだけど、さすがに美沙ちゃんにバレてしまいそうだ。
「さすがにバレちゃいますよね?」
古賀千聖も、さすがにそう思ったのか私に訊いてきた。
「うん。さすがにね……」
私は、そう答える。
さすがに、これ以上は無理だ。
これ以上の尾行は不可能だと察したのか、古賀千聖は軽くため息を吐く。
「仕方ない。もう帰ろうか。これ以上は、さすがにまずいと思うし──」
「そうね」
私は、肩をすくめてそう言っていた。
今回は、楓にバレてないだけマシか。
やっぱり楓の家で静かに待つことにしよう。
おかげで財布の中身が違う意味で寒くなってしまった。
「あー、美味しかった。ありがとう、西田先輩。おかげでお腹いっぱいになったよ」
「いいのよ。ふふ……」
古賀千聖にそう言われて、私は自虐的に笑う。
本当なら一人で、楓たちを尾行しようと思っていたのにな。
なんで彼女に、ご飯を奢らなきゃいけないんだろうか。
結局、楓たちは、食事を済ませた後、特に混み入った話などはなくファミレスを後にした。
私の方はというと、後輩に奢るという形で店を出たのだが。
なんだろう。
途端に虚しい気がするのは一体……。
「もしかして、西田先輩は一人で楓君たちを追いかけようとしてました?」
と、傍にいた古賀千聖からそう訊かれる。
鋭い一言だ。
図星なだけに、よけいに恥ずかしい。
「そうだけど。何かいけないことなの?」
「別に~。私には、止める資格も義理もないから、なんとも言えないけど。楓君のことを一途に想っているのなら、信じてあげることも必要かなっと思ってね」
「信じるって言っても……。あの状況だと、二人とも何をするかわからないじゃない」
美沙ちゃんのあの様子だと、まだデートを続けるつもりだろうし。
そんな二人を見ていると、私の心がざわざわする。
「まぁ、気持ちはわかりますけど……。だけど楓君のお姉さん的な存在なら、もう少しだけ楓君のことを信頼してもいいんじゃないかな。私的には、そう思えるけど」
「………」
彼女の言葉に、私は何も言えなくなってしまう。
たしかに最近は、楓とのスキンシップがほとんどないせいか信頼関係が危うい感じになってる…ような気がするが。
楓は、どう思っているんだろうか。
知る術はないが、今は彼女の言葉が正しい。認めたくはないが……。
「あなたの言うとおりかもしれないわ。私ったら、いつの間にか弟くんのことを信頼してなかったかも……」
「楓君は、二股とかをするタイプじゃないから、その辺りは安心してるんだよね。まぁ、あの後の二人が気になるのはたしかですけど」
「それなら、こっそりと追いかけてみる?」
「いいですね。『毒を食らわば皿まで』ってやつですね」
古賀千聖は、なぜかウキウキとしてそう言っていた。
「そういう例えはちょっと……。あくまでも気になるからだよ」
その例えは、ちょっと違うような気がするんだけど。
楓を尾行することに対して、ここまでワクワクしてしまうのは、もはや好意を持っているからってだけではないような。
バンドメンバーだから?
それとも、弟的な存在の楓の行動に興味があるから?
違う。
恋人だからだ。
これはちょっとした浮気調査みたいなものだ。
そう考えると、彼女も私と同じなのかな?
──いや。古賀千聖とは違う。
古賀千聖は、楓のバイト仲間だ。
そんな深い関係はないはず。たぶん。
しばらく二人で街の中を歩いていたら、私たちのかなり前を歩いている楓たちを発見する。
「いましたよ。そんなに遠くに行ってなかったみたいですね。よかったぁ」
古賀千聖は、二人を見て安堵している様子だった。
そんなに安堵するところなのかな。
問題の二人を見ていると、とても仲良さそうに歩いている。まるで──
「よかったけど。なんだか仲良さそう。まるで恋人同士みたい」
「むむ……。これは……。さらなる監視が必要ですね」
私の言葉に、拍車がかかったんだと思う。
古賀千聖は、さらに険しい表情になる。
いい加減、ただジッと見ているのも疲れてきてるんだけど……。
そんな本音を言ったら、きっと彼女に怒られるんだろうな。
「いつまで監視をするつもりなの?」
「う~ん……。いつまでかな? 西田先輩は、いつまでがいいと思いますか?」
「私に訊かれても……。監視っていうのは、ストーカーみたいでちょっと……。私的には、タイミングが良い時に楓たちに近づいてみようかなって──」
「ダメですよ。それだと監視の意味がないじゃないですか! 今日一日は、楓君たちの監視だけにしましょうよ」
「監視だけって……。それって、あわよくば、私を色んなところに連れて行って、奢ってもらおうって考えかな?」
「ギクッ」
私の言葉に、古賀千聖はビクッとなる。
どうやら図星だったらしい。
私は、軽くため息を吐いていた。
「やっぱりね。あなたのことだから、そんなことじゃないかって思ってたわ」
「しょうがないじゃないですか。まさか、あんなところで楓君が他の女の子と待ち合わせをするなんて思わなかったし……」
「あくまでも弟くんが原因なんだね……」
「当たり前じゃないですか。私だって、楓君とデートはしたいです」
古賀千聖は、本音と思われることを口にする。
彼女は、楓のどこを好きになったんだろう。
こんなことを思ったら、私の気持ちに迷いが生じてしまうので考えないようにしてきたけど。
改めて古賀千聖を見ていたら、私の気持ちを再確認するきっかけができた。
そうだ。
私は、楓の優しくていつも温かく見守ってくれるところが好きなんだ。
隆一さんも、たしかに優しくて頼りになるお兄さん的なところがあるかもしれない。だけど、私のことを見守ってくれるっていうところがないし。逆に私を無理矢理引っ張っていこうとするきらいがあるから、どうしても恋愛感情にならないんだよな。
「私に内緒で、何度もデートをしてるのに?」
私のその一言で古賀千聖は表情をわずかに引き攣らせ、私から視線をわずかに逸らす。
「いや……。あれは、偶然で──」
「へぇ、偶然ねぇ」
「いいじゃないですか! 西田先輩は、いつでもイチャイチャできるんですから」
そんな羨ましそうに言われてもな。
私的には、イチャイチャしてる回数は少ないと思うんだけど……。
「たしかに、いつでもイチャイチャできるけど。でも弟くんは、そういうのは苦手で、なかなかそういうことは──」
「なるほど。楓君は、意外に奥手なんですね。初めて知りました」
古賀千聖は、なぜか笑みを浮かべる。
何だろう。
その笑みは、獲物を逃がさないって言うような感じのものだ。
「ちょっと。…今、何を考えたのよ?」
私は、ジト目で彼女のことを睨む。
すると彼女は、惚けてみせる。
「別に~。なんでもないですよ」
その顔は、絶対に何かするつもりだよね。
楓に何かしたら、私が許さないんだから。
そんな事を思っているうちに、楓たちはカラオケ店に入っていった。
たしか、あそこのカラオケ店は──。
私と古賀千聖は、しばし顔を見合わせる。
「どうするんですか?」
「どうするって言われても……」
あいにくと友達でもない女の子と二人で、カラオケ店に入る行動力はない。
無理な事ではないんだけど、さすがに美沙ちゃんにバレてしまいそうだ。
「さすがにバレちゃいますよね?」
古賀千聖も、さすがにそう思ったのか私に訊いてきた。
「うん。さすがにね……」
私は、そう答える。
さすがに、これ以上は無理だ。
これ以上の尾行は不可能だと察したのか、古賀千聖は軽くため息を吐く。
「仕方ない。もう帰ろうか。これ以上は、さすがにまずいと思うし──」
「そうね」
私は、肩をすくめてそう言っていた。
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