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第十九話
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大晦日。
自分の部屋の掃除を済ませると、私はすぐに料理に取り掛かる。
こんなギリギリになるまで自分の部屋の掃除ができなかったのは、私としてもだらしないとさえ思う。
だけどバンドメンバーから遊びとかに誘われたら、行かないわけにはいかないだろう。
ちなみに、バンドメンバーと話していたのは初詣の日の予定だ。
晴れ着はもちろん着ていくつもりだけど、奈緒ちゃんたちも当然、着てくるよね。
楓は、どんな服装で来るんだろうか。
やっぱり普通に私服で来るのかな。
考えても仕方ない。
男の子の場合は、当日に着てくる服装などはそこまで意識しなくてもいいみたいだから。
かえって和装でいって笑われてしまうこともあるらしいし。
「花音は、部屋の掃除は終わったの?」
「もちろん! あとは『楓』の家に行くだけかな」
花音は、当然のことのようにそう言った。
私は、花音の言葉にすぐに反応する。
「ダメよ。向こうだって、掃除やら料理をしてるはずだし。行ったって邪魔になるだけだよ」
「え~。でも……」
「でもも何もないよ。ダメなものはダメなの! 少しは自重しなさい」
「ぶぅ……」
花音は、不機嫌そうな表情で私を睨む。
行けるものなら、私だって行きたいくらいなのに。
本音を言ってしまったら、花音に示しがつかない。
それに、花音は『隆兄ちゃん』の家ではなくて『楓』の家と言ったのだ。
その時点で、誰に用件があるのかすぐにわかってしまう。
大晦日は、楓と一緒に過ごしたいんだな。
そうはいかないんだから。
楓と大晦日を過ごすのは、私なんだからね。
楓の家にやって来ると、楓と楓のお母さんがキッチンで料理を作っていた。
そんな二人に私は声をかける。
「弟くん。手伝いにきたよ」
「え……。香奈姉ちゃん。どうして? 今日は、自分の家で大晦日を過ごすんじゃ──」
「そう思っていたんだけどね。誰かさんが、弟くんと一緒に過ごしたいって言うもんだから、私も一応…ね」
「あ……。なるほど」
「な、なんで私を見るのよ⁉︎ お姉ちゃんだって──」
私の近くにいた花音は、頬を赤くして取り乱す。
隆一さんじゃなくて楓に用件があるっていうのは、あからさますぎだと思う。
「とりあえず、手伝ってくれるのならありがたいかな。まずは──」
「うんうん。お姉ちゃんに任せなさい」
「なにをしたらいいの? 私も手伝うから」
「ありがとうね。香奈ちゃん。花音ちゃん」
私と花音は、楓のお母さんからお礼の言葉をもらう。
こういうのも、ちょっと嬉しいかも。
そういえば、隆一さんはどうしたんだろう。
家にいないみたいだけど。
「ところで、隆一さんは?」
「隆一なら、いつもの友達と遊びに行ったよ。まぁ、こんな時に家にいても掃除くらいしかしないから、いてもいなくても変わらないんだけどね」
楓のお母さんは、ため息混じりにそう言った。
いつもの友達というのは、きっとバンドメンバーだろう。
隆一さんに料理を手伝ってもらうとかは無理だから、割り切ったのかもしれない。
「…そうですか」
私は、そうとだけ答える。
すると花音は、やけにニヤニヤしながら訊いてきた。
「もしかして、お姉ちゃん。隆兄ちゃんのことが気になってたり──」
「聞いてみただけだよ。他意はないよ」
「そっかぁ。それなら、いいんだけど……」
そんな残念そうな表情で言われてもな。
ホントに他意はないんだけど……。
「そんなことよりも。弟くんたちを手伝わないと……」
「は~い」
私の言葉に、花音はしっかりと返事をした。
私も、楓の傍で料理のお手伝いをするのは楽しいからいいんだけどね。
大晦日に作る料理もひと段落して、みんなでソファーやら床に腰掛けているとき、隆一さんが帰ってきた。
「ただいま~」
その言葉に反応する人は不思議なことに誰もいなかった。
私が反応すると、また勘違いしそうだし。
花音も、返事をしていいものか悩んでいる様子だ。
私の方を見て、何か言いたげに見てくる。
隆一さんは、居間の方にやってきた。
「おお! なんだか美味しそうないい匂いだな。…て、あれ? 香奈に花音じゃん。──来てくれてたのか。いつもありがとうだぜ」
「うん。弟くんの手伝いにね」
「私もだよ。楓には、いつも勉強を見てもらったり、お世話になってるから──」
「そうか。それはよかったな。それにしても、また香奈の手料理がまた食べられるのか。なんだか嬉しいなぁ」
別に隆一さんのために作ったわけじゃないんだけどな……。
そんな私の本心を言ったところで、隆一さんには『照れ隠し』になってしまうんだろうな。
どうしてそんなポジティブに考えられるのかわからないんだけど、それがバンド活動をやっていく上で必要なことなのは事実だから、何も言わないでおく。
「年越し蕎麦を作ったから、みんなで食べよっか」
楓は、嬉しそうな顔をしている隆一さんにそう言った。
隆一さんも、楓の料理の腕は認めているのか笑顔で答える。
「そうだな。香奈たちも一緒なら、俺は構わないぜ」
「私は、別に構わな──」
「ごめんね。私たちは、手伝いに来ただけだから。年越し蕎麦は、自分の家で食べることにするよ」
花音の言葉を遮って、私はそう言った。
楓と一緒にいたいっていう気持ちはもちろんあったが、今日はしょうがないなっていう諦めの気持ちの方が上だったのだ。
楓は、わかっていたのか微笑を浮かべて言う。
「それならしょうがないね。大晦日は家族と一緒にいる方が大事だと思うし」
「うん。ありがとうね。弟くん」
「ちょっと! 私は、楓と──」
「ダメよ、花音。今日は大晦日なんだから、年越し蕎麦は自分の家で作ったものがあるでしょ」
「そうだけど……。むぅ……」
花音は、不機嫌そうに声をもらす。
気持ちがわからないでもない。
私だって、本当は楓と一緒にいたいから。
でも楓のお母さんや隆一さんがいたんじゃ、恋人同士がやるスキンシップなんかできやしない。
それなら、せめて元旦の日に楓と二人っきりで過ごせればいいかなって思っていたりする。
「それじゃ、弟くん。また明日ね」
「あ、うん。また明日。…って、え? 明日は、何かあったっけ?」
「初詣──一緒に行くよね?」
「も、もちろん」
楓は、思い出したのかそう答えた。
バンドメンバーたちと初詣の約束をしてたから、反故にするわけにはいかなかったんだと思う。
特にも奈緒ちゃんとは、あれだけ仲良さげに話していたからね。風邪でも引かない限りは大丈夫だろう。
明日は、私たちと一緒だ。
「それでよし。それじゃあね」
私は、花音と一緒に楓の家を後にした。
明日は、バンドメンバーたちと一緒に初詣だ。
約束は守ってもらうんだからね。弟くん。
自分の部屋の掃除を済ませると、私はすぐに料理に取り掛かる。
こんなギリギリになるまで自分の部屋の掃除ができなかったのは、私としてもだらしないとさえ思う。
だけどバンドメンバーから遊びとかに誘われたら、行かないわけにはいかないだろう。
ちなみに、バンドメンバーと話していたのは初詣の日の予定だ。
晴れ着はもちろん着ていくつもりだけど、奈緒ちゃんたちも当然、着てくるよね。
楓は、どんな服装で来るんだろうか。
やっぱり普通に私服で来るのかな。
考えても仕方ない。
男の子の場合は、当日に着てくる服装などはそこまで意識しなくてもいいみたいだから。
かえって和装でいって笑われてしまうこともあるらしいし。
「花音は、部屋の掃除は終わったの?」
「もちろん! あとは『楓』の家に行くだけかな」
花音は、当然のことのようにそう言った。
私は、花音の言葉にすぐに反応する。
「ダメよ。向こうだって、掃除やら料理をしてるはずだし。行ったって邪魔になるだけだよ」
「え~。でも……」
「でもも何もないよ。ダメなものはダメなの! 少しは自重しなさい」
「ぶぅ……」
花音は、不機嫌そうな表情で私を睨む。
行けるものなら、私だって行きたいくらいなのに。
本音を言ってしまったら、花音に示しがつかない。
それに、花音は『隆兄ちゃん』の家ではなくて『楓』の家と言ったのだ。
その時点で、誰に用件があるのかすぐにわかってしまう。
大晦日は、楓と一緒に過ごしたいんだな。
そうはいかないんだから。
楓と大晦日を過ごすのは、私なんだからね。
楓の家にやって来ると、楓と楓のお母さんがキッチンで料理を作っていた。
そんな二人に私は声をかける。
「弟くん。手伝いにきたよ」
「え……。香奈姉ちゃん。どうして? 今日は、自分の家で大晦日を過ごすんじゃ──」
「そう思っていたんだけどね。誰かさんが、弟くんと一緒に過ごしたいって言うもんだから、私も一応…ね」
「あ……。なるほど」
「な、なんで私を見るのよ⁉︎ お姉ちゃんだって──」
私の近くにいた花音は、頬を赤くして取り乱す。
隆一さんじゃなくて楓に用件があるっていうのは、あからさますぎだと思う。
「とりあえず、手伝ってくれるのならありがたいかな。まずは──」
「うんうん。お姉ちゃんに任せなさい」
「なにをしたらいいの? 私も手伝うから」
「ありがとうね。香奈ちゃん。花音ちゃん」
私と花音は、楓のお母さんからお礼の言葉をもらう。
こういうのも、ちょっと嬉しいかも。
そういえば、隆一さんはどうしたんだろう。
家にいないみたいだけど。
「ところで、隆一さんは?」
「隆一なら、いつもの友達と遊びに行ったよ。まぁ、こんな時に家にいても掃除くらいしかしないから、いてもいなくても変わらないんだけどね」
楓のお母さんは、ため息混じりにそう言った。
いつもの友達というのは、きっとバンドメンバーだろう。
隆一さんに料理を手伝ってもらうとかは無理だから、割り切ったのかもしれない。
「…そうですか」
私は、そうとだけ答える。
すると花音は、やけにニヤニヤしながら訊いてきた。
「もしかして、お姉ちゃん。隆兄ちゃんのことが気になってたり──」
「聞いてみただけだよ。他意はないよ」
「そっかぁ。それなら、いいんだけど……」
そんな残念そうな表情で言われてもな。
ホントに他意はないんだけど……。
「そんなことよりも。弟くんたちを手伝わないと……」
「は~い」
私の言葉に、花音はしっかりと返事をした。
私も、楓の傍で料理のお手伝いをするのは楽しいからいいんだけどね。
大晦日に作る料理もひと段落して、みんなでソファーやら床に腰掛けているとき、隆一さんが帰ってきた。
「ただいま~」
その言葉に反応する人は不思議なことに誰もいなかった。
私が反応すると、また勘違いしそうだし。
花音も、返事をしていいものか悩んでいる様子だ。
私の方を見て、何か言いたげに見てくる。
隆一さんは、居間の方にやってきた。
「おお! なんだか美味しそうないい匂いだな。…て、あれ? 香奈に花音じゃん。──来てくれてたのか。いつもありがとうだぜ」
「うん。弟くんの手伝いにね」
「私もだよ。楓には、いつも勉強を見てもらったり、お世話になってるから──」
「そうか。それはよかったな。それにしても、また香奈の手料理がまた食べられるのか。なんだか嬉しいなぁ」
別に隆一さんのために作ったわけじゃないんだけどな……。
そんな私の本心を言ったところで、隆一さんには『照れ隠し』になってしまうんだろうな。
どうしてそんなポジティブに考えられるのかわからないんだけど、それがバンド活動をやっていく上で必要なことなのは事実だから、何も言わないでおく。
「年越し蕎麦を作ったから、みんなで食べよっか」
楓は、嬉しそうな顔をしている隆一さんにそう言った。
隆一さんも、楓の料理の腕は認めているのか笑顔で答える。
「そうだな。香奈たちも一緒なら、俺は構わないぜ」
「私は、別に構わな──」
「ごめんね。私たちは、手伝いに来ただけだから。年越し蕎麦は、自分の家で食べることにするよ」
花音の言葉を遮って、私はそう言った。
楓と一緒にいたいっていう気持ちはもちろんあったが、今日はしょうがないなっていう諦めの気持ちの方が上だったのだ。
楓は、わかっていたのか微笑を浮かべて言う。
「それならしょうがないね。大晦日は家族と一緒にいる方が大事だと思うし」
「うん。ありがとうね。弟くん」
「ちょっと! 私は、楓と──」
「ダメよ、花音。今日は大晦日なんだから、年越し蕎麦は自分の家で作ったものがあるでしょ」
「そうだけど……。むぅ……」
花音は、不機嫌そうに声をもらす。
気持ちがわからないでもない。
私だって、本当は楓と一緒にいたいから。
でも楓のお母さんや隆一さんがいたんじゃ、恋人同士がやるスキンシップなんかできやしない。
それなら、せめて元旦の日に楓と二人っきりで過ごせればいいかなって思っていたりする。
「それじゃ、弟くん。また明日ね」
「あ、うん。また明日。…って、え? 明日は、何かあったっけ?」
「初詣──一緒に行くよね?」
「も、もちろん」
楓は、思い出したのかそう答えた。
バンドメンバーたちと初詣の約束をしてたから、反故にするわけにはいかなかったんだと思う。
特にも奈緒ちゃんとは、あれだけ仲良さげに話していたからね。風邪でも引かない限りは大丈夫だろう。
明日は、私たちと一緒だ。
「それでよし。それじゃあね」
私は、花音と一緒に楓の家を後にした。
明日は、バンドメンバーたちと一緒に初詣だ。
約束は守ってもらうんだからね。弟くん。
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