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第二十話
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バイト先。スタッフルームにて。
古賀千聖は、いつもよりも上機嫌な様子でスタッフルームに入ってきて、僕に話しかけてくる。
「ねぇ、楓君。今度の14日なんだけど、暇かな?」
「突然、どうしたの?」
いきなりの事に話がついていけず、僕はつい聞き返していた。
その日はちょうどイベントがある日だから、暇っていうわけではないんだけど……。
素直に言った方がいいかな。
「あのね。今度の14日にね。渡したいものがあるんだ。だから、その日は暇かなって思ってさ」
「その日は、ちょうどバンドのイベントがあるかな」
「イベントかぁ。それは、ちょっと残念だな……。それなら、前日に渡す必要があるのかな」
それって確実にバレンタインデーのチョコだよね?
「前日って……。そういう大切なものは、当日に渡した方がいいと思うけど……」
僕は、なんとなくそう言っていた。
他でもない古賀千聖からのバレンタインデーのチョコレートだ。
貰える人は、とても幸せだろう。
僕にとっては、恋愛対象にならない女の子だが。
「当日かぁ。でも楓君は、その日は難しいんだよね?」
「うん、まぁ……。でも他の人にあげるんでしょ? それなら、問題はないかと思うけど」
「問題あるよぉ~。私が渡す相手が、他ならぬ『あなた』だからこんなに悩んでいるのに……」
「ごめん……」
「なんで謝るかなぁ。プレゼントするのは、私なんだよ。そんな申し訳なさそうな顔をしなくても……」
「うん……。わかってはいるんだけど……」
貰えるのは嬉しい事だけど、そうなると『お返し』のチョコを渡さないといけないな。
僕は、こうした事はしっかりしないと気が済まないのだ。
千聖は僕の腕をギュッと掴み、笑顔で言った。
「楓君は、素直に喜んでいいんだよ」
そんなアプローチをされたら、どうしていいのかわからない。
とりあえず、素直に喜ぶべきなのかな。
「う、うん……。ありがとうね」
「もう! そういうのは、ちゃんとプレゼントを貰ってから言ってよね! 今、言われたって、全然嬉しくないんだから!」
「それもそうか。それじゃ、貰ってから言おうかな」
「楓君、わざと言っているでしょ?」
千聖は、不機嫌そうな顔をしてそう訊いてくる。
別に意図的にやっているわけじゃないんだけど。
「え……。いや、その……」
こんな時、なんて言ったらいいのかわからない。
しかし、千聖は俄然やる気なのか、僕に指を突きつけてこう言った。
「それならイベント後の帰り時間に渡すから。文句はないよね?」
「イベント後って……。ひょっとして、ライブに来るつもりなの?」
「当たり前じゃない。その日は、女の子にとって大切な日なんだから。行くに決まっているでしょ」
そこまで言われてしまうと引き止めるのが逆に失礼な気がする。
「でも……。今回のイベントは……」
僕はライブ中のことを思い出してしまい、言うのを途中でやめてしまう。
確実に女装してのライブになるから、千聖にはあんまり見られたくないのが本音だ。
そんなこととはつゆ知らず、千聖は思案げな表情で首を傾げる。
「どうかしたの? ちょっと都合が悪かったかな?」
「そんなことはないんだけど。ちょっとね……」
僕は、そう言って苦笑いをした。
勘の良い女の子なら、これで察してくれるはずだ。
しかし、千聖に限ってはそんなはずもなく。
「なに? 見られたら困るようなことでもあるの?」
と、むしろそんなことを訊いてくるくらいである。
まるで知っているかのような口ぶりだ。
僕は、しどろもどろになり口を開いた。
「いや……。困るっていうか、その……」
さすがに
『女装してライブをやるんだ』
とは言いにくい。
でもライブ当日はバレンタインデーでもあるから、女の子にとっては大切な日でもあるし。
やはり千聖さんも、同じ用件なんだろう。
どうしても、その日じゃないとダメなんだろうか。
ライブ当日は、たぶん女装してライブをするから、女の子からチョコレートを貰うのは体裁が悪い気がする。
僕が不審な目で見られかねない。
しかし、千聖さんはその事にも気づいていないんだろうな。
千聖は、ちゃんと理解しているのか、ため息混じりに言った。
「女装してライブをやるんでしょ? 私、ちゃんと知ってるよ」
「どうしてそれを?」
「だって西田先輩たちのライブは、ちょくちょく観に行ってるからね。楓君が女装してることもよく知ってるよ」
「そうなんだ。どうりで詳しいわけだ……」
僕は、肩の力が抜けたような感じになる。
まぁ、知っているのなら別に構わないか。
──いやいや。
たとえ知っているからと言って、ライブを観に行くという判断にはならないだろう。
これには、何かしらの意味があると思われる。
「うん。私は主に楓君の姿を見てるんだよね」
「え……」
「楓君はベース担当だから、すぐにわかるんだよね。弾いている曲自体はよくわからないけど、あまりにも女装が似合っているから、つい見惚れてしまうんだ」
「………」
千聖の正直な感想に、僕は何も言えなくなってしまった。
見惚れてしまうって、僕の女装のどこにそんなものがあるんだろうか。
真剣に考えてしまいそうなことだけに、自分自身、かなり深刻な悩みだ。
でも休憩時間はそろそろ終わりそうなので、僕は準備をし始める。
「──さて。休憩時間もそろそろ終わりだし。残りの時間も頑張ろうかな」
「ちょっと! 誤魔化さなくてもいいじゃない! ホントのことなんだから!」
千聖は、そう言って僕の腕をギュッと掴む。
なんか、ちっとも嬉しくないんだけど……。
女装姿が似合うと言われて、嬉しい気分になったりはしないだろう。
特にも、男である僕に対して言っていいことではない。
「そうなんだ……。ホントのこと…なんだ」
僕は、心の中でガックリと項垂れてしまった。
古賀千聖は、いつもよりも上機嫌な様子でスタッフルームに入ってきて、僕に話しかけてくる。
「ねぇ、楓君。今度の14日なんだけど、暇かな?」
「突然、どうしたの?」
いきなりの事に話がついていけず、僕はつい聞き返していた。
その日はちょうどイベントがある日だから、暇っていうわけではないんだけど……。
素直に言った方がいいかな。
「あのね。今度の14日にね。渡したいものがあるんだ。だから、その日は暇かなって思ってさ」
「その日は、ちょうどバンドのイベントがあるかな」
「イベントかぁ。それは、ちょっと残念だな……。それなら、前日に渡す必要があるのかな」
それって確実にバレンタインデーのチョコだよね?
「前日って……。そういう大切なものは、当日に渡した方がいいと思うけど……」
僕は、なんとなくそう言っていた。
他でもない古賀千聖からのバレンタインデーのチョコレートだ。
貰える人は、とても幸せだろう。
僕にとっては、恋愛対象にならない女の子だが。
「当日かぁ。でも楓君は、その日は難しいんだよね?」
「うん、まぁ……。でも他の人にあげるんでしょ? それなら、問題はないかと思うけど」
「問題あるよぉ~。私が渡す相手が、他ならぬ『あなた』だからこんなに悩んでいるのに……」
「ごめん……」
「なんで謝るかなぁ。プレゼントするのは、私なんだよ。そんな申し訳なさそうな顔をしなくても……」
「うん……。わかってはいるんだけど……」
貰えるのは嬉しい事だけど、そうなると『お返し』のチョコを渡さないといけないな。
僕は、こうした事はしっかりしないと気が済まないのだ。
千聖は僕の腕をギュッと掴み、笑顔で言った。
「楓君は、素直に喜んでいいんだよ」
そんなアプローチをされたら、どうしていいのかわからない。
とりあえず、素直に喜ぶべきなのかな。
「う、うん……。ありがとうね」
「もう! そういうのは、ちゃんとプレゼントを貰ってから言ってよね! 今、言われたって、全然嬉しくないんだから!」
「それもそうか。それじゃ、貰ってから言おうかな」
「楓君、わざと言っているでしょ?」
千聖は、不機嫌そうな顔をしてそう訊いてくる。
別に意図的にやっているわけじゃないんだけど。
「え……。いや、その……」
こんな時、なんて言ったらいいのかわからない。
しかし、千聖は俄然やる気なのか、僕に指を突きつけてこう言った。
「それならイベント後の帰り時間に渡すから。文句はないよね?」
「イベント後って……。ひょっとして、ライブに来るつもりなの?」
「当たり前じゃない。その日は、女の子にとって大切な日なんだから。行くに決まっているでしょ」
そこまで言われてしまうと引き止めるのが逆に失礼な気がする。
「でも……。今回のイベントは……」
僕はライブ中のことを思い出してしまい、言うのを途中でやめてしまう。
確実に女装してのライブになるから、千聖にはあんまり見られたくないのが本音だ。
そんなこととはつゆ知らず、千聖は思案げな表情で首を傾げる。
「どうかしたの? ちょっと都合が悪かったかな?」
「そんなことはないんだけど。ちょっとね……」
僕は、そう言って苦笑いをした。
勘の良い女の子なら、これで察してくれるはずだ。
しかし、千聖に限ってはそんなはずもなく。
「なに? 見られたら困るようなことでもあるの?」
と、むしろそんなことを訊いてくるくらいである。
まるで知っているかのような口ぶりだ。
僕は、しどろもどろになり口を開いた。
「いや……。困るっていうか、その……」
さすがに
『女装してライブをやるんだ』
とは言いにくい。
でもライブ当日はバレンタインデーでもあるから、女の子にとっては大切な日でもあるし。
やはり千聖さんも、同じ用件なんだろう。
どうしても、その日じゃないとダメなんだろうか。
ライブ当日は、たぶん女装してライブをするから、女の子からチョコレートを貰うのは体裁が悪い気がする。
僕が不審な目で見られかねない。
しかし、千聖さんはその事にも気づいていないんだろうな。
千聖は、ちゃんと理解しているのか、ため息混じりに言った。
「女装してライブをやるんでしょ? 私、ちゃんと知ってるよ」
「どうしてそれを?」
「だって西田先輩たちのライブは、ちょくちょく観に行ってるからね。楓君が女装してることもよく知ってるよ」
「そうなんだ。どうりで詳しいわけだ……」
僕は、肩の力が抜けたような感じになる。
まぁ、知っているのなら別に構わないか。
──いやいや。
たとえ知っているからと言って、ライブを観に行くという判断にはならないだろう。
これには、何かしらの意味があると思われる。
「うん。私は主に楓君の姿を見てるんだよね」
「え……」
「楓君はベース担当だから、すぐにわかるんだよね。弾いている曲自体はよくわからないけど、あまりにも女装が似合っているから、つい見惚れてしまうんだ」
「………」
千聖の正直な感想に、僕は何も言えなくなってしまった。
見惚れてしまうって、僕の女装のどこにそんなものがあるんだろうか。
真剣に考えてしまいそうなことだけに、自分自身、かなり深刻な悩みだ。
でも休憩時間はそろそろ終わりそうなので、僕は準備をし始める。
「──さて。休憩時間もそろそろ終わりだし。残りの時間も頑張ろうかな」
「ちょっと! 誤魔化さなくてもいいじゃない! ホントのことなんだから!」
千聖は、そう言って僕の腕をギュッと掴む。
なんか、ちっとも嬉しくないんだけど……。
女装姿が似合うと言われて、嬉しい気分になったりはしないだろう。
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僕は、心の中でガックリと項垂れてしまった。
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