317 / 382
第二十五話
7
しおりを挟む
まさか家に帰るまでこのままの格好だなんて思いもしなかった。
ただでさえ、こんなゴスロリ風の黒を基調としたステージ衣装はヒラヒラしてて動きづらいのに……。
「はやく行こう、楓」
「うん」
僕のことをわざとそう呼んで、まわりの人たちに『女の子』だという認識を持たせたいのだろう。
香奈姉ちゃんは、僕の手を握り、普通に歩くくらいの速度で街の中を歩いていく。
やっぱりこんな服装で歩くには、とても違和感がある。
「あたしたち、完全に見られてるよね?」
奈緒さんが、まずその感想を漏らす。
次に言い出したのは、美沙先輩だった。
「なんか、まわりの人の視線が痛いかも……」
「いくらなんでも無理があると思うよ」
理恵先輩も、恥ずかしいのか美沙先輩にくっついて一緒に歩いている。
とりあえず、途中にある公園まで我慢だ。
「仕方ないじゃない。着替える場所がなかったんだから……」
香奈姉ちゃんは、わざとらしくそう言った。
それは絶対に嘘だ。
僕が人前に出ても緊張しないようにするために、そうしたんだろう。
巡回中の警察官がいないことが、まだ救いだが……。
どちらにしても、はやく公園に向かった方がいいんだろうな。この場合──
「とりあえず公園に向かった方がいいかもね。そこでなら、着替えもできるかも──」
僕は、そう提案してみる。
香奈姉ちゃんがそれを許してくれるかどうかわからないが……。
香奈姉ちゃん自身、訝しげな表情で僕を睨んでくる。
「ダメだよ、弟くん。せっかくその服装で歩いているんだから、楽しまなくちゃ」
やっぱり、そう言ってくるとは思っていた。
それだけなら、よかったんだけど……。
「そうそう。いくら女装するのが嫌だからって、公園に行くのは、ちょっと許せないかな」
「せっかく似合っているのに、脱いじゃうの? わたしとしては、次の衣装の参考にしたいから、そのままでいてほしいな……」
なんと理恵先輩もそう言っていた。
似合っているって言われても、あんまり嬉しくはない。
でも、先輩たちにそう言われてしまったら、そうせざるを得ないわけで……。
「わかったよ。でも派手なことは控えてくださいね。僕にも、無理なことがありますから」
「うん。気をつけるね」
「わかってるって。そこは、私たちがちゃんとエスコートしてあげるから、安心していいよ」
美沙先輩は、そう言って僕の手を握ってくる。
しかし、それを許さないのが香奈姉ちゃんだ。
「こら! ちゃっかり抜け駆けするのはダメだよ! そんなことをするなら、私だって──」
「香奈の場合は、いつも楓君を独占してるんだし。このくらいは、いいんじゃない?」
「むぅ……。奈緒ちゃんだって……。私の見てないところで、スキンシップを図ったりしてるじゃない」
香奈姉ちゃんは、ムッとした表情で言う。
奈緒さんは、ちょっとだけ驚いたような表情を見せてから、香奈姉ちゃんから視線を逸らす。
「それは、まぁ……。あたしだって、一応ね」
「奈緒ちゃんの気持ちは、なんとなくわかるなぁ。私だって、楓君と2人っきりなら、ついつい色んなことをやってしまいそうだし」
あろうことか美沙先輩は、そう言っていた。
さりげなくアプローチをしてきていたから、なんとなくはわかる。
たぶん、理恵先輩もそうなんだろうな。
「わたしも、美沙ちゃんや奈緒ちゃんには負けないよ」
やはりというべきか理恵先輩は、僕のもう片方の手を握ってくる。
まさに両手に花の状態だけど、嬉しくないのは、きっと香奈姉ちゃんと奈緒さんが原因だろう。
さて。どうしたものかな。
そう悩んでいると、香奈姉ちゃんはいかにも不満そうな顔で言ってくる。
「弟くんは、なんで喜んでいるのかな?」
「いや……。喜んでは……」
「ふ~ん。そのわりには、やけに顔が赤いけど……。それは、気のせいなのかな?」
「それは、まぁ……。いきなり触れられたら、誰でもそうなるっていうか……」
僕は、なんて言えばいいのかわからず、完全にしどろもどろになってしまう。
香奈姉ちゃんのやきもち妬きが、こんなところでも発揮してしまうとは……。
これじゃ、なにを言っても言い訳にしかならないじゃないか。
「なるほどねぇ。弟くんは、そうされたら嬉しい、と」
香奈姉ちゃんは、そう言いながらメモを取っていた。
メモ帳なんて、一体どこから出したんだろうか。
「ちょっと、香奈姉ちゃん? なんでメモなんか取ってるの?」
「ん? なにかの参考になるかなって思って」
「なんの参考にもならないよ。頼むからやめて──」
やめてほしいって言うつもりだったが、美沙先輩たちがそれを止めてくる。
「少しくらい、いいじゃない。楓君だって、まんざらでもないみたいだし」
「えっ……。でも……」
「こういうのは、素直じゃないとダメなんだからね」
そう言って、奈緒さんは僕のことを優しく抱きしめてきた。
どうやら彼女たちにとっては、場所なんかは関係ないみたいだ。
「そこまで言われたら……。僕も、みんなのことが大切だと思うから」
「うん。弟くんなら、そう言ってくれると思っていたよ」
「楓君は、私たちの大事な『弟』なんだから。私たち以外の女の子を好きになっちゃダメなんだからね!」
「それは、さすがに……。恋愛の自由くらいはあっても──」
「もしかして、他に好きな人がいたりするの?」
そんなことを訊いてくる香奈姉ちゃんは、なぜだか悲しげな表情だった。
それって重要なことなのかな。
個人的なことなのに……。
だけど、いないっていう事実は変わらない。
「いないけど……」
「なら安心かな。私個人としては、弟くんのお世話をしたいから」
「ずる~い! 私だって同じだよ!」
美沙先輩は、ムキになってそう言う。
ギュッと抱きついてくる美沙先輩は、いつもよりかずいぶんと可愛らしい。
これには奈緒さんや理恵先輩も黙ってはいられなかったみたいだ。
「あたしだって美沙と同じ気持ちなんだから……。楓君は、しっかりとついてこないとダメだからね」
「そうだよ。わたしたちにとっても、楓君は大事な『弟』なんだから。その辺をちゃんと理解してもらわないと」
「『弟』なんだ……。それなら普通に恋愛をしたって自由かと……」
「なにか言った?」
「いえ……。別に……」
そう訊いてくる香奈姉ちゃんが、さりげなく怖いな。
香奈姉ちゃんは、あくまでも笑顔だ。
その笑顔が本物であるのかどうかは、僕には判断がつかない。
ここは慎重になって香奈姉ちゃんたちを見守るしかないか。
僕は、そんなことを考えながら公園へと向かって歩いていた。
もちろん、みんなと一緒にだ。
いい加減、女装姿で歩かせるのはやめてほしい。
ただでさえ、まわりの人たちの視線が痛いのに──
ただでさえ、こんなゴスロリ風の黒を基調としたステージ衣装はヒラヒラしてて動きづらいのに……。
「はやく行こう、楓」
「うん」
僕のことをわざとそう呼んで、まわりの人たちに『女の子』だという認識を持たせたいのだろう。
香奈姉ちゃんは、僕の手を握り、普通に歩くくらいの速度で街の中を歩いていく。
やっぱりこんな服装で歩くには、とても違和感がある。
「あたしたち、完全に見られてるよね?」
奈緒さんが、まずその感想を漏らす。
次に言い出したのは、美沙先輩だった。
「なんか、まわりの人の視線が痛いかも……」
「いくらなんでも無理があると思うよ」
理恵先輩も、恥ずかしいのか美沙先輩にくっついて一緒に歩いている。
とりあえず、途中にある公園まで我慢だ。
「仕方ないじゃない。着替える場所がなかったんだから……」
香奈姉ちゃんは、わざとらしくそう言った。
それは絶対に嘘だ。
僕が人前に出ても緊張しないようにするために、そうしたんだろう。
巡回中の警察官がいないことが、まだ救いだが……。
どちらにしても、はやく公園に向かった方がいいんだろうな。この場合──
「とりあえず公園に向かった方がいいかもね。そこでなら、着替えもできるかも──」
僕は、そう提案してみる。
香奈姉ちゃんがそれを許してくれるかどうかわからないが……。
香奈姉ちゃん自身、訝しげな表情で僕を睨んでくる。
「ダメだよ、弟くん。せっかくその服装で歩いているんだから、楽しまなくちゃ」
やっぱり、そう言ってくるとは思っていた。
それだけなら、よかったんだけど……。
「そうそう。いくら女装するのが嫌だからって、公園に行くのは、ちょっと許せないかな」
「せっかく似合っているのに、脱いじゃうの? わたしとしては、次の衣装の参考にしたいから、そのままでいてほしいな……」
なんと理恵先輩もそう言っていた。
似合っているって言われても、あんまり嬉しくはない。
でも、先輩たちにそう言われてしまったら、そうせざるを得ないわけで……。
「わかったよ。でも派手なことは控えてくださいね。僕にも、無理なことがありますから」
「うん。気をつけるね」
「わかってるって。そこは、私たちがちゃんとエスコートしてあげるから、安心していいよ」
美沙先輩は、そう言って僕の手を握ってくる。
しかし、それを許さないのが香奈姉ちゃんだ。
「こら! ちゃっかり抜け駆けするのはダメだよ! そんなことをするなら、私だって──」
「香奈の場合は、いつも楓君を独占してるんだし。このくらいは、いいんじゃない?」
「むぅ……。奈緒ちゃんだって……。私の見てないところで、スキンシップを図ったりしてるじゃない」
香奈姉ちゃんは、ムッとした表情で言う。
奈緒さんは、ちょっとだけ驚いたような表情を見せてから、香奈姉ちゃんから視線を逸らす。
「それは、まぁ……。あたしだって、一応ね」
「奈緒ちゃんの気持ちは、なんとなくわかるなぁ。私だって、楓君と2人っきりなら、ついつい色んなことをやってしまいそうだし」
あろうことか美沙先輩は、そう言っていた。
さりげなくアプローチをしてきていたから、なんとなくはわかる。
たぶん、理恵先輩もそうなんだろうな。
「わたしも、美沙ちゃんや奈緒ちゃんには負けないよ」
やはりというべきか理恵先輩は、僕のもう片方の手を握ってくる。
まさに両手に花の状態だけど、嬉しくないのは、きっと香奈姉ちゃんと奈緒さんが原因だろう。
さて。どうしたものかな。
そう悩んでいると、香奈姉ちゃんはいかにも不満そうな顔で言ってくる。
「弟くんは、なんで喜んでいるのかな?」
「いや……。喜んでは……」
「ふ~ん。そのわりには、やけに顔が赤いけど……。それは、気のせいなのかな?」
「それは、まぁ……。いきなり触れられたら、誰でもそうなるっていうか……」
僕は、なんて言えばいいのかわからず、完全にしどろもどろになってしまう。
香奈姉ちゃんのやきもち妬きが、こんなところでも発揮してしまうとは……。
これじゃ、なにを言っても言い訳にしかならないじゃないか。
「なるほどねぇ。弟くんは、そうされたら嬉しい、と」
香奈姉ちゃんは、そう言いながらメモを取っていた。
メモ帳なんて、一体どこから出したんだろうか。
「ちょっと、香奈姉ちゃん? なんでメモなんか取ってるの?」
「ん? なにかの参考になるかなって思って」
「なんの参考にもならないよ。頼むからやめて──」
やめてほしいって言うつもりだったが、美沙先輩たちがそれを止めてくる。
「少しくらい、いいじゃない。楓君だって、まんざらでもないみたいだし」
「えっ……。でも……」
「こういうのは、素直じゃないとダメなんだからね」
そう言って、奈緒さんは僕のことを優しく抱きしめてきた。
どうやら彼女たちにとっては、場所なんかは関係ないみたいだ。
「そこまで言われたら……。僕も、みんなのことが大切だと思うから」
「うん。弟くんなら、そう言ってくれると思っていたよ」
「楓君は、私たちの大事な『弟』なんだから。私たち以外の女の子を好きになっちゃダメなんだからね!」
「それは、さすがに……。恋愛の自由くらいはあっても──」
「もしかして、他に好きな人がいたりするの?」
そんなことを訊いてくる香奈姉ちゃんは、なぜだか悲しげな表情だった。
それって重要なことなのかな。
個人的なことなのに……。
だけど、いないっていう事実は変わらない。
「いないけど……」
「なら安心かな。私個人としては、弟くんのお世話をしたいから」
「ずる~い! 私だって同じだよ!」
美沙先輩は、ムキになってそう言う。
ギュッと抱きついてくる美沙先輩は、いつもよりかずいぶんと可愛らしい。
これには奈緒さんや理恵先輩も黙ってはいられなかったみたいだ。
「あたしだって美沙と同じ気持ちなんだから……。楓君は、しっかりとついてこないとダメだからね」
「そうだよ。わたしたちにとっても、楓君は大事な『弟』なんだから。その辺をちゃんと理解してもらわないと」
「『弟』なんだ……。それなら普通に恋愛をしたって自由かと……」
「なにか言った?」
「いえ……。別に……」
そう訊いてくる香奈姉ちゃんが、さりげなく怖いな。
香奈姉ちゃんは、あくまでも笑顔だ。
その笑顔が本物であるのかどうかは、僕には判断がつかない。
ここは慎重になって香奈姉ちゃんたちを見守るしかないか。
僕は、そんなことを考えながら公園へと向かって歩いていた。
もちろん、みんなと一緒にだ。
いい加減、女装姿で歩かせるのはやめてほしい。
ただでさえ、まわりの人たちの視線が痛いのに──
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる