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サラマンダー
しおりを挟むカレアの町 ギルド
室内は騒然としていた。
多くの冒険者の注目を集めたのは2人。
少年と青年。
少年は赤い短髪で背も小さい。
装備も貧弱で、上等なのは下に履く青いジーンズくらい。
布製の服の上に皮の胸当てをし、腰には町で一番安いダガーを腰に差す。
青年は長い黒髪を後ろで結っている。
黒いジーンズに白ワイシャツ。
ボロボロのマントを羽織っていた。
身なりを見ても、この2人から"強さ"など微塵も感じず、少年の隣に立っている長い赤髪の少女メイアは、まだあどけなさも残る。
明らかに、この町、いや世界でも"最弱パーティ"だろうと、ここにいる誰もが思った。
ギルドの奥にあるカウンターに立つ黒髪の青年クロードは、背の小さい老人、ギルドマスターであるノーマンと向かい合っていた。
「本当に、この依頼を受けるのか?」
「ああ。男に二言はないさ。なぁ」
クロードは赤髪の少年、ガイの方を見て笑いかける。
「あ、ああ」
ガイの顔は少し引き攣っているようにも見えたが、すぐに真剣な表情へと変わる。
そしてクロードとガイ、メイアは西の森へ向かうためギルドを後にした。
3人が出て行った後、しばらくの間、ギルド内は静まり返っていた。
__________
天候は、昼間ではあったが、曇り空のせいか薄暗い。
今にも雨が降りそうな天気だった。
カレアの町から西の森に到着したガイとメイア、そしてクロード。
ここまで会話は無かったが、ようやくクロードが口を開いた。
「前衛、頼めるかい?」
「お、俺が前衛!?」
「ああ。僕は"遠距離型"だからね。メイアもそうだろ?」
「はい……まだ攻撃はできませんが……」
クロードはその言葉に首を傾げた。
「君の波動石の色は変わり始めてる。君が攻撃してベオウルフを足止めしたんじゃないのか?」
「いえ、光を放って、目眩ししただけなんです……」
「なるほど」
そう言って申し訳なさそうに俯くが、そんなメイアを見ても構わず、クロードはニヤリと笑った。
「そこまでできたなら、波動を"属性転換"できるさ」
「属性転換?」
「波動には属性があるのは知ってるな?」
「知ってます」
「君の波動石の色は赤だ。つまり君の体の中には"炎の波動"を宿してる」
「炎の……波動?」
「炎の波動は攻撃性が高いと言われている。君の数値は五万だったか?それほどあれば、すぐに体内の波動はすぐに感じ取れるだろ?」
「はい。この石をもらってから、何か体を循環しているような感覚があります」
「それが波動さ。あとはそれを杖に送って、炎の攻撃をイメージするだけだ。どれだけ送れるかは訓練次第だが、その量が多ければ火力も高くなる」
その会話にはガイはついていけなかった。
メイアが体の中に感じる波動というのが理解できなかったのだ。
なにせガイはどんなに意識を体に集中しても、何も感じないのだから。
「お、俺は?」
「ガイは敵の動きに全意識を集中して攻撃を回避。少しの間だけ囮になってくれればいい。メイアがフォローして、僕がトドメを指す」
「あ、ああ……」
ガイはそれ以上の言葉は出なかった。
メイアの波動数値は五万。
クロードはガイより低いと言っても、何か秘策があるようだ。
「あ、あの、他の魔物がいた場合はどうするんでしょうか?」
「それは心配ないだろう。ベオウルフは群れず、単体で縄張りを持ってる。他の魔物を排除して、この森の"王"気取りだろうさ」
「それならよかった」
「だが、油断はするな。僕でも二人いっぺんには守りきれない」
ガイとメイアはその言葉に神妙な面持ちで頷く。
そして3人は西の森へと足を踏み入れた。
__________
森の中は薄暗かった。
到着と同時くらいに雨がポツリポツリと降り、そのせいか森の中には多く湿気がある。
ジメジメとした空気は体に絡みつくようで不快だった。
木々をかわし、作られた道もない獣道を3人は警戒しながら進む。
前衛はガイだった。
もうすでに戦闘態勢で、ダガーを逆手に持ち、構えつつ周囲を見ながら進む。
その後ろにメイア。
さらにその後ろにクロードと並ぶ。
しばらく進むと水辺があった。
そこは昨日ガイとメイアが薬草を採取しにきた場所だった。
そこだけ円形状に木々は無くなり、開けた場所となっていた。
「あれは……」
「ベオウルフ。久しぶりに見るな」
数十メートル先、中央に巨大な影があった。
ドス黒く、犬のような顔した魔物。
二足歩行で手足が長く、さらに前足と言うべきか、両手の爪は細く地面につくほどの長さ。
ただ無表情で佇む、その魔物は、じっと3人を見つめていた。
「初戦が……レベル8の魔物なんて……」
「そんなことは考えるな。僕は必ず君を守る」
後方からのクロードの言葉でガイは覚悟を決めた。
ダガーを構えるガイ。
それを見たベオウルフは戦闘開始とみなしたのか前屈みになると、消えるようなスピードでガイへと向かった。
「早い!!」
そう言い放ったと同時に、ベオウルフはガイに到達していた。
鋭い爪で引っ掻くようにガイへ振り下ろす。
ガイは、それをバックステップで回避するが、ベオウルフはさらに一歩踏み込み振り下ろしの引っ掻き攻撃を再度放つ。
ガイは逆手に持ったダガーで、それをガードした。
「クソ!!」
「受けるな!押し切られるぞ!」
「そんなこと言ったって!」
クロードの叫びも虚しく、ガイは横に数メールもの距離を吹き飛ばされ、大木に激突した。
「がはぁ!!」
「ガイ!!」
メイアが杖を構え、それに波動を流し込むと赤く炎が杖を包み込んだ。
「これで!!」
杖を横に振ると、炎は大きな球になって、ベオウルフへと高速で飛んだ。
それが着弾すると、ベオウルフの体は炎に包まれ、もがき苦しむ。
「凄い成長スピードだ……一度の説明だけで、杖に波動を注ぐだけでなく、属性転換から形を構成して放つまで至るとは……」
メイアの後方にいたクロードは笑みを溢していた。
だが、その笑みはすぐに真剣な表情へと変わる。
「油断するな!!何かするつもりだ!!」
「え?」
メイアが、クロードの言葉に少し振り向いた瞬間の出来事だった。
メイアの目の前に黒い影。
ベオウルフは自身のスピードで炎を掻き消し、瞬時にメイアの前に立った。
それを気を失いそうな激痛を耐えていたガイが遠目で見ていた。
「メイア!!」
「ガイ……私は……」
驚くメイアは一瞬にして悲痛の表情へと変わった。
ベオウルフの下から上への引っ掻き攻撃。
地面を抉るような攻撃にメイアの杖は真っ二つに切り裂かれ、さらに体も斜めに切られて夥しく血が飛び散った。
無惨にも、メイアの小さな体は吹き飛び、地面に落ちた。
「メイ……ア……俺は……俺は!!」
ガイの波動石が少しだけ赤くなる。
そして、黒かった瞳の色が真っ赤に染まると、さらに赤い髪が発光し始める。
ガイは、ベオウルフから数メートル離れた距離から逆手持ちのダガーを、地面スレスレで打ち上げるように振り上げる。
すると地面を炎が走り、それが猛スピードでベオウルフへと向かった。
その"炎の斬撃"は一瞬で着弾する。
すると炎はベオウルフの腰、腹、胸、肩と上り、斜めに体を切り裂いた。
「まだだぁぁぁぁぁ!!」
ガイは叫びと共に、地面を蹴ると、一瞬でベオウルフまで到達する。
そのスピードはベルウルフよりも早かった。
ダガーの振り下ろし攻撃。
炎を纏ったそれは、ベオウルフの頭部を直撃すると、ズドンという轟音が森林に響き渡り、熱波が円形状に広がった。
それでもベオウルフも意識はあった。
鋭い爪による突きの攻撃はガイの胸を貫く。
血を吐くガイだったが、それでも奥歯を噛み締め、ダガーを持つ手に力を入れる。
それは渾身の力で振り下ろされ、ベオウルフの体は完全に一刀両断された。
「や、やった……」
ベオウルフは一瞬にして灰になると、ガイは仰向けで倒れ込む。
髪は発光をやめ、瞳の色も黒に戻る。
ガイは目がうつろで意識が朦朧とし、今にも気を失いそうだった。
「メ、メイア……」
倒れるガイのもとへ、クロードはゆっくりと近寄った。
「彼女は大丈夫だ」
「よかった……がはぁ……」
「まさか、こうも早く波動の粒子を見つけるとは。"地を這う炎"……さしずめ、"サラマンダー"と言ったところか」
「波動の……粒子……?」
「低波動の人間は、自分の体の中にある波動を見つけるのに苦労するのさ。君の中には極小だが高純度の波動が"7つ"ある。その一つを今見つけたのさ」
「……」
「ガイ……君は必ず"ナイト"になる。そして僕と一緒に世界を……」
クロードのその言葉を聞き終わる前にガイは気を失った。
その後、森は豪雨に見舞われた。
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