133 / 251
フレイム・ビースト編
ホロ
しおりを挟む数年前、イース・ガルダンの闘技場で"非公開"でおこなわれた大会があった。
それは騎士団の騎士達を集めて強さを競わせるというものだった。
どうやら第一騎士団長が考えたものらしい。
ルールは通常の闘技大会と同じで3対3のチーム戦。
波動の使用は大将のみというのも変わらない。
この大会には多くの騎士が自らの力用を試すためにこぞって参加した。
みながフルチームで参加する中、"ある者"だけ、たった1人で出場した。
この男は波動を全く使用しない戦闘スタイルでトーナメントを勝ち抜き、数多くいる精鋭を全て薙ぎ倒して優勝した強者。
決勝の大将戦は"ゼニア・スペルシオ"だったが第一騎士団副団長である彼女ですら全く歯が立たず、この男の圧勝だった。
だが、この事実は隠されていおり、知っている者は騎士団の人間のみ。
情報が公開されないのは、この出来事が騎士団にとって衝撃的な出来事だったため。
"波動を使わぬ人間"が"高位の波動使い"を圧倒したなど口が裂けても言えることでは無かったのだ。
____________
ベンツォード砦
雪が降り積もる中庭。
砦を背負っているのはセリーナと名乗った女性と緑色のボサボサの長髪で修道服を着た大男。
そこから少し離れたところに男性騎士が1人。
そしてその男性騎士の後方にアッシュとローゼルがいるという構図であった。
アッシュの引き抜いた剣は真っ黒なグリップと鞘だが刃が光り輝く銀色。
グリップ部分から切先まで黒龍のような模様が刻まれた独特な細剣だった。
ローゼルは弓を下に構えて矢筒から矢を一本だけ抜くと弓に添える。
2人は完全に臨戦態勢。
アッシュは男騎士のところまで歩くと、通り過ぎる際につぶやくように言った。
「君は確かイザークだったな。すぐに居住区へ行って生存者を探すんだ」
「わかりました」
イザークは騎士たちが寝泊まりしている居住区へと走り出した。
この時もアッシュの鋭い視線はセリーナから逸らされることはない。
「だが、おかしな話だな。俺の"名"と"強さ"を知っているとなれば……やはり師匠が言っていたことは本当なのだろう」
「どういう意味かしら?」
「このベンツォードに外へ情報をばら撒いてる"スパイ"がいると」
「……」
セリーナの表情は変わらない。
それどころか少し口元が緩んだようにも見える。
「その顔を見るに、君は知ってるようだな」
「さぁ、どうかしら?それとも言ったら見逃してくれるの?」
「それは無理だな」
「なら言わないでおこうかしら。そっちの方が面白そうだから」
真剣な表情のアッシュを嘲笑うかのようにセリーナが妖艶な笑みを溢す。
「それなら仕方ない。力づくでいくとしよう」
その言葉を言い放った瞬間にアッシュはドン!と地面を蹴った。
降り積もった雪が円形状に飛び散り、茶色い地面が見えるほどの衝撃だった。
セリーナまで数百メートルといったところだがアッシュのワンステップの跳躍が尋常ではない。
恐らく次に足が地面につく前に彼女に到達するだろう。
「ホロ。全力を出さなければ殺されるわ」
「……わかった」
セリーナが"ホロ"と呼んだのは隣に立つ黒い修道服を着た大男。
手のひらをアッシュに向けて力強く握る動作をする。
「"狂風爪・隠"」
するとホロの足元から雪の上に三つ並んだ直線が入る。
直線は高速で迫るアッシュへ向かって地面を走るように進むが、なぜか途中で線が消えて無くなった。
「なるほど目に見えぬ攻撃ねぇ。まぁ見えなくてもなんとかなるさ」
そう言ってニヤリと笑ったアッシュは思いっきり地面に足を突き立てて急停止し、何も無い虚空に対して剣撃を放つ。
斜め下から斜め上へ。
グリップを逆手に持ち替えて横へ一線。
凄まじいスピードの斬撃だった。
「よし……斬ったな」
一言だけ呟くとアッシュは再び地面を蹴ってセリーナとホロの方へと向かう。
「なぜ、あれを斬れるの!?」
驚くセリーナだがホロは冷静だった。
彼女を守るようにして前に出る。
「いいねぇ、気に入ったよ。レディを守るのは男の勤めだからね」
アッシュとホロの間合いは殴り合える距離まできた。
アッシュは逆手に持った銀色の細剣を雪を切るようしにて振り上げる。
狙いは下から上への縦の胴切りだった。
ホロはすぐさま反応し、両腕をクロスして剣の刃を受ける。
その際、金属と金属がぶつかり合う甲高い音が響き渡った。
「服で隠してるが"鉄甲型の武具"だな。しかし波動を使わずともこのパワー。なかなかだね」
「"狂風圧縮"」
ホロがボソリと呟き、一気に腕に力を込める。
しかし、なぜか波動が発動しない。
この時に初めてホロは目を見開き驚いた。
「ホロ!その剣に触れてはダメよ!」
「もう遅い」
アッシュはホロの両腕の間で止まった剣から手を離すと思い切り蹴り上げる。
剣が空中で回転すると同時にホロはバンザイする形でのけ反った。
アッシュはさらに一歩踏み込み、スッーと息を吐きつつ右拳を腰に溜める。
そして一気にホロの胸めがけて溜めた拳を突き出した。
「"ルザール拳法・猛虎正拳突き"」
ズドン!という鈍い音が鳴り、ホロの巨体が宙に浮く。
そのまま数百メートル吹き飛ばされると石造りの砦の外壁へ激突した。
両膝が落ちホロは胸を両手で押さえて蹲る。
だが戦意は喪失していない。
ホロは再びアッシュの方へ手のひらを向け、波動を発動しようとした。
「させるわけがなかろう」
アッシュは空中から回転して落ちてきた銀色の細剣をホロへ向かって、回し蹴りで飛ばす。
ハイスピードで飛んだ剣の切先はホロの手のひらを貫通し、さらに砦の外壁に当たって磔にした。
「お前の波動は封印した。少しそこで黙ってろ」
ホロは剣を抜こうとグリップを掴み力を入れる。
しかし外壁に深く刺さった剣はびくともしなかった。
セリーナの顔が引き攣る。
恐らくホロは組織の中でも波動数値は随一だ。
さらに戦闘能力もかなり高く、ゾルアも一目置く存在。
それを子供をあやすように簡単に倒してしまうとは……
アッシュから睨まれたセリーナは息を呑む。
少し間があってアッシュが口を開いた。
「おっと……ちょっと待ってくれ」
そう言うと胸ポットから銀の櫛を取り出すとブロンドの髪を整え始めた。
ゆっくり後頭部を撫で付け、サイドはもう片方の手を添えて優しく。
特に入念に櫛を入れたのは少し上へ盛り上がった前髪だ。
上方に膨らませているボリュームある部分が一番気になるようだった。
「いやだねぇ、少し動くとすぐに崩れちゃうのよ。レディの前だからさぁ、身だしなみはしっかりしておかないと。あっ、これ師匠の受け売りね」
その瞬間、背後から叫び声が聞こえる。
女性の聞き覚えある声だ。
「団長なにをやってるのですか!逃げられますよ!!」
「え?」
アッシュが前方を見るとセリーナの両手には黒いグローブのようなものが着けられていた。
グローブからはバチバチと雷撃が走っている。
「流石にあなたとは戦いたくないわ。これで失礼させてもらう」
セリーナは雪の積もった地面に手のひらを当てると雷撃が周囲に走り始めた。
そして雷が落ちたような轟音が響くと積もった雪が蒸発して霧を作った。
さらに霧を伝うようにして放たれた雷撃によって視界が遮られ目を開けていられなかった。
「残念だけどデートはまた今度ね色男さん」
セリーナの気配は一瞬にして消えた。
しばらくすると霧も消えるが残っているのは、砦の石壁に腕を磔にされたホロと呼ばれる大男だけだった。
0
あなたにおすすめの小説
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる