162 / 251
フレイム・ビースト編
謎
しおりを挟むヨルデアンの南東にある森林地帯。
獄炎と名乗った男によってアイザックは制圧された。
シグルスが言うには組織の中では相当な強さを誇り、性格はレイとは真逆で残虐であるとのこと。
獄炎との戦いの後、気を失ったアイザックの髪の色は青色へと戻っているため、今は恐らくレイなのだろう。
ローラを仕留めるために来たアイヴィーは2人の戦闘中、隙を見て姿をくらました。
ローラとシグルスに背負われたレイの3人は獄炎の案内によって森林地帯の東にある小屋へ向かった。
元々は南下してコーブライドという町に行くために目印としてブラック・ラビットが建てた小屋だったが、今は獄炎の寝床となっているそうだ。
小屋に到着する頃には日が落ちていた。
ローラの足はもう限界で今にも倒れそうな状態だった。
フラフラになりながらも小屋に入るローラ。
レイを背負ったシグルスもそれに続く。
小屋はさほど大きくはない。
左右に分かれた2つの寝床と奥には小さな暖炉がある。
ローラには様々に気になることがあった。
なぜ自分が襲われたのか、獄炎という男は何者なのか。
謎が解ける前にさらなる謎が増えていくという状況ではあったが、抱える疑問よりも疲労感の方が勝っていた。
寝床はローラとレイが使い、獄炎とシグルスは暖炉の火の前で体を休めた。
____________
早朝、寒さで目を覚ましたローラは上体を起こす。
室内を見渡すと向かいの寝床にはレイが眠り、暖炉の前にはシグルスが寝ていた。
「……あの人、どこいったんだろ?」
ローラは2人を起こさぬようにとゆっくりと立ち上がると、小屋の入り口まで向かい外に出た。
日の光が降り積もった雪に反射して眩しい。
そんな中でも細目で辺りを見渡していると森の中に人影が見えた。
短い赤髪の男。
ボロボロのグレーのローブ、腰には異様な形状の黒い杖を差してあり、手には今さっき仕留めてきたのか小動物が抱えられていた。
「ずいぶん朝が早いじゃないか」
「寒さで起きてしまって」
ローラにはまだ警戒心があった。
素性も不明、なぜ助けてくれたのかも不明、なぜこの場所に滞在しているのかも不明……と謎だらけの男だ。
「そうか。まぁ寒さってのは慣れるまで時間が掛かるからな」
そう言って小屋への方に歩いてくる。
ローラはその姿をまじまじと見ていた。
「なんだ?」
「え……っと、なんで助けてくれたのかなって」
「さぁ、なんでだろうな」
ローラは眉を顰めた。
何の理由もなく助けたということなのか?
この世界では無利益に人は動かないというのが暗黙の了解であるはずだ。
だが、ふと思うに自分が知り合った人物の中で同じような人間がいたことを思い出す。
「じゃあ、俺からも質問。なぜこの森林に入った?」
「それは……」
3人の目的、もといブラック・ラビットの目的は王都侵攻。
そして騎士団を壊滅させることを最終目標としていた。
そんなことを部外者に話せるはずはない。
「言いたくないならいいさ」
「いえ、話せるわ」
「ん?」
「姉の死の真相を知りたい。だから王都へ向かおうとしていたのよ」
「わざわざヨルデアンからロスト・ヴェロー、コーブライドを通ってか?」
「ええ。あたしは"黒い兎"だから」
「なるほど。なかなか複雑な事情のようだな」
この男が"複雑な事情"と言うのは無理もないだろう。
ブラック・ラビットのメンバーであるローラが同組織と思われる者達に襲われていたのだから。
「あたしたちのことは知ってるの?」
「"黒い兎"の噂はBランク以上の冒険者なら誰だって知ってるさ。"その組織には絶対に手を出すな"というのは北の常識さ」
「助けたこと後悔した?」
「いや、俺は知っていても助けただろうな」
笑みをこぼして語る獄炎。
その表情と言葉を聞いたローラはやはり彼と似ていると思った。
獄炎の男はさらに続けて、
「だが今はあまり目立った行動は控えたい。これでも身を隠してるんだ」
「全く隠してないじゃない」
「そう見えるか?」
「目立ち過ぎよ」
呆れ顔のローラの表情を見て、獄炎は苦笑いしながら頭を掻く。
「まぁ、とにかくそういうことだから朝飯を食ったらさっさと出て行ってくれ」
「はぁ……」
「不満か?」
「いえ別に」
助けてもらって文句も言えるはずもなかった。
ローラはこれ以上は口をつぐみ、2人で小屋へ入るとささやかな食事を済ませるのだった。
____________
昼前頃になると雪も少し降り始めてきた。
森の中の雪はこうして消えることがないのだろう。
ローラとシグルスは小屋の前で助けてくれた男と向かい合う。
レイは相変わらず起きないため、シグルスに背負われていた。
獄炎は笑みを浮かべて口を開く。
「まずはロスト・ヴェローに行くことだな。そこで休んでからコーブライドに向かうことをおすすめするよ」
「ええ。そうします」
「では、またどこかで」
そう言って獄炎は小屋の中へ戻ろうとした。
ローラはハッとして引き留めるようにして言った。
「あ、あの!」
「ん?」
「そういえば名前は?」
「名乗ってなかったかな?」
「"獄炎"とは聞きましたけど」
「ああ、そうだったか。俺の名はヴァン。"ヴァン・ガラード"だ」
「え……じゃあ、ガイとメイアの……?」
ローラの心臓の鼓動が早くなる。
この獄炎こそガイとメイアの兄であるヴァンであった。
そして2人の旅の目的である人物だ。
「ガイとメイアを知ってるのか?」
「え、ええ。兄から手紙がきたからロスト・ヴェローへ行くって。旅の途中で出会って、イース・ガルダンまではずっと一緒だったんだけど……」
「手紙?なんのことだ?」
「え……?」
「俺は手紙なんて送った覚えないぞ」
ローラは眉を顰めた。
彼ら兄妹の旅の目的であったヴァンと出会えたことは幸運と言っていい。
だがガイとメイアの旅のきっかけとなったはずの"兄からの手紙"というのは一体なんだったのか?
再び大きな謎が増えるのだった。
1
あなたにおすすめの小説
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
最弱属性魔剣士の雷鳴轟く
愛鶴ソウ
ファンタジー
十二の公爵によって統制された大陸の内、どの公爵にも統治されていない『東の地』
そこにある小さな村『リブ村』
そしてそこで暮らす少年剣士『クロト』。
ある日リブ村が一級魔物『ミノタウロス』によって壊滅させられる。
なんとか助かったクロトは力を付け、仲間と出会い世界の闇に立ち向かっていく。
ミノタウロス襲撃の裏に潜む影
最弱属性魔剣士の雷鳴が今、轟く
※この作品は小説サイト『ノベルバ』、及び『小説家になろう』にも投稿しており、既に完結しています。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
不死身のボッカ
暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる