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ディセプション・メモリー編
砂漠の雨姫(4)
しおりを挟む夜の中央広場は凄まじい熱気に包まれていた。
炎の鎧で武装したゾルア・ガウスは降る雨の全てを水蒸気へと変え、さらに熱波で吹き飛ばす。
熱波は数メートル離れたアクエリアの青く発光した髪を靡かせた。
「貴様は俺の体に指一本でも触れることはできない。少しでも触れれば灰になるぞ」
「そう……なら、あなたの波動を"封印"しちゃいましょうか」
「なんだと?」
アクエリアの言葉と同時に先ほどまで小降りだった雨が強まった。
炎の鎧によって蒸発するかに思えた雨は少しづつゾルアの炎を消していく。
「なんだこれは……」
「"青の龍涙"」
ゾルアが身に纏っていた炎は完全に掻き消され、本体があらわになる。
言葉を失いつつもアクエリアを見ると逆に彼女の体は水で覆われていく。
「まさか俺の"極帝炎鬼"を消すだと?高位の魔物ですら灰にする炎なんだぞ」
「そんなものは関係ないわ。波動を封印する波動……それが私の能力。そしてさらに一度見た波動を模倣する」
「俺のスキルを模倣する……そんなことができるのか?」
「できるわよ」
ニヤリと笑ったアクエリアの体は全て水に包まれる。
肉体が水となり、そこに立つのは水で模られた人型。
アクエリアのスレンダーなボディラインがハッキリと見え、さらに髪の毛の一本一本すらも水で作られていた。
「"極竜雨姫"……とでも名付けましょうか」
ゾルアの怒りは頂点に達した。
水たまりの地面を勢いよく蹴って前に出る。
凄まじいスピードでアクエリアに到達すると、腰に溜めた拳を打ち出す。
しかしゾルアの拳はアクエリアの水できた体を貫通する。
拳を引いて、さらに連打を繰り出すゾルアだが、ただ水面を殴っているような感覚しかない。
「クソが……こんなことがあっていいのか……」
「もう終わりかしら?」
そう言って攻撃し続けるゾルアに構うことなく、アクエリアは右拳を腰に添えて、それを一気に打ち出す。
ショートアッパーによるボディブローだった。
ズドン!という轟音が広場に響き渡り、空圧の直線が天まで走る。
「がはぁ……!!」
それを追うようにしてゾルアの体は"くの字"に曲がって数メートルほど宙に浮いた。
さらにアクエリアは水の体を勢いよく回転させて渾身の蹴りを落ちてきたゾルアの顔面に叩き込む。
ゾルアの体は数百メートルもの距離を吹き飛び、地面を何度も転がった。
「今日はそれなりに楽しめた。ほんの少しだけど暇つぶしにはなったわね」
アクエリアの体を包んでいた水はバシャンと音を立てて地面に落ち水たまりを作る。
そして羽織ったマントの胸元から一枚の紙を取り出して書かれている文章を見た。
"波動石で作る武具の件を悩める研究者に必ず伝えること。その日のうちに氷狼と炎鬼と戦いになるが、どちらも絶対に殺してはならない"
アクエリアは腰に差した自分の剣に触れ、目を細めて思考する。
「まさか、これも本当になるなんてね……一体どうなってるの?」
そう言ってアクエリアは手紙を握りつぶしてフードを被り、深呼吸すると何事もなかったかのように宿へと戻って行った。
気を失ったゾルアとミルは倒れ込んだまま起きることなく、このまま夜が明けるのだった。
________________
早朝から酒場にいるクロードとフィオナ。
ゼクスは相変わらず部屋に引きこもっているが、今回は研究の突破口を見つけたことによってのことなので喜ばしい。
これが何かのきっかけになればいいと思っていた矢先、酒場に赤髪の男が入ってきた。
見ると体は全身が泥まみれで、さらに顔にはアザがある。
カウンター席に向かう男を見てクロードとフィオナは顔を見合わせた。
「ゾルアのやつ、珍しく傷を負っているようだが……何かあったのか?」
「さぁ?」
クロードとフィオナは首を傾げた。
さらにそこに勢いよくゼクスが店に入ってくる。
昨日と打って変わって満面の笑みだ。
ゼクスはクロードとフィオナが座る席まで小走りで来て言った。
「ようやく見つけました!!私の理論が正しければこれでいけるばず!!だが大量の波動石が必要ですので今すぐこの町を出ましょう!!」
興奮気味に語るゼクスを見てクロードとフィオナは胸を撫で下ろした。
これでようやく、この町を出ることができる。
笑みを溢すクロードは立ち上がりカウンター席へと向かう。
「ゾルア、ゼクスが行けると言ってる。これなら僕たちと一緒でもいいだろ?」
「……」
無言、無表情のゾルアはグラスに注がれた酒をグッと飲み干した。
「どうしたんだゾルア?」
「俺は行かない」
「なんだと?」
「"アレ"を倒さずに移動したら一生後悔する」
その言葉を聞いたクロードとフィオナは絶句した。
昨日は"全く動けなかったゼクス"と"町を出たがっていたゾルア"。
その問題は解決したかに思われたが、なぜか状況が逆転しただけだった。
これは全て"1人の女性"の登場によるものとは、この時のクロードとフィオナは知る由もない。
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