最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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ディセプション・メモリー編

蒼色の真実(1)

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ナイト・ガイが王都に到着する数刻ほど前。

早朝にマリン・ディアールの門を潜った4人の冒険者がいた。
先頭に立っていたのは短い青髪の女性だ。
ボロボロのフード付きローブを羽織り、その下は白のキャミソール、青のホットパンツとブラウンのブーツを履いる。
腰には銀色の美しい細剣を差していた。

"ローラ・スペルシオ"

この国の三大貴族のスペルシオ家の次女だ。
ローラは貴族特権で長い行列を無視して王都へと入った。
王都の中央に建つ巨大な王城、"ディアール城"を見つめる彼女の瞳は凛々しいものだった。

ローラの後ろにいた3人のうち、2人が深く被っていたフードをとった。

こちらも短い青髪だが青年。
もう1人は緑色の長髪で大きな体の男。

青髪の青年は口を開く。

「ローラさん。私たちはここまでだ」

「レイ……」

ローラは振り向いてレイを見る。
その表情は少し寂しそうだ。

「私は元騎士団で逃亡者だ。君と一緒に行くわけにはいかない」

「でも北にも戻れないでしょ。あいつら、あなたを殺そうとしているし」

「そうだね。だがボスが行方不明になったという噂を聞けば戻らざるおえない。集落の皆や子供たちを守れる者も少ないからね」

「王宮騎士団なら……」

ローラが言い終わる前にレイは首を横に振った。
レイはこの国で正義を貫く王宮騎士団と呼ばれる団体の闇を見てきた人物だ。
そこに戻るということが何を意味するのかローラには、その深い部分はわからない。

「私は大丈夫」

「レイ……」

「それよりもローラさんは自分の意思を貫いた方がいい。君なら必ず真実に辿り着けるよ」

レイは笑顔で言った。
誘拐される形でヨルデアンまで行ったローラだが、そのおかげで今ここにいる。
真実の目の前まで来ているのだ。

さらにもう1人。
北へとさらわれたお陰で出会えた人物がいる。

「大丈夫、彼女は俺が守るさ。なにせ俺の弟と妹のパーティメンバーだからな」

そう言ってフードを取った男。
短髪の赤髪の背が高い細身の青年だった。

「ヴァン・ガラード……"獄炎"と呼ばれた伝説の冒険者なら任せられる」

「伝説ってほどでもない。俺のパーティは壊滅しちまったからな。だが残された者は必ず守り切るさ」

「お願いします」

レイはヴァンに笑いかけた。
なぜか全員がローラの保護者のような状況だった。

「あんたらね、あたしは一人だって大丈夫なのよ!」

怒りを露わにするローラだが、すぐに寂しそうな表情に変わった。

「レイもシグルスも元気でね」

「ええ。縁があれば、またどこかで」

「うん」

こうしてローラはレイとシグルスと別れた。
2人の姿が見えなくなるまで、その場を離れることができなかった。

________________


ようやく日が出てきた頃、ローラとヴァンは王都の中央部にある貴族街へと足を踏み入れた。

マリン・ディアールの騎士団宿舎は王城内部にある。
通常は平民はおろか、一般貴族ですらも気安く近づくことはない場所だ。

ローラたちは貴族街からさらに中央へと進み、数十段ある階段を上る。
すると数百メートル先には王城の入り口となる巨大な門が目に飛び込んできた。

先頭を歩くローラは息を呑んだ。
貴族同士の社交パーティで一度だけ来たことある場所だった。

「門番が二人だけか?」

「そ、そうみたいね……」

ローラと違って緊張感のかけらもないヴァン。

「そういえば元S級冒険者ってことは、あなたもここに来てるの?」

「俺は来てない。ここに入ったのはリーダーと"ヤツ"だけだな」

「なんで来なかったのよ。平民が王城に入れる機会なんて滅多にないわよ」

「いや、だって面倒くさいじゃないか」

ヴァンはため息混じりに言った。
この男には虚栄心のようなものはないのか?
平民が王城に入ったという事実だけでも下級層の間では崇められるようなものだ。
間違いなく、ひ孫の代まで自慢できる"とっておきの話"になるはず。

「俺はランクなんてどうだってよかった。S級冒険者なんてものにも興味はない。ナイトがどうとか言い出したのは"ヤツ"だからな」

「お姫様と婚約の話ね。そういえばガイにも同じ話をしていた気がするわ」

「ヤツはナイトと言うより、なぜか"姫様"に執着してた気がする。結局その時は姫様とは会えなかったらしいけどな」

「え?」

「ナイトの称号を受け取りに城に来た時、運悪く姫様は町にいなかったんだよ。リーダーはひどく落ち込んでたのを覚えてる」

「へー、なんでだろ?」

「さぁな。なんでも姫様は美食家とかいうやつで各地を周って美味いもん食いまくってるって聞いた。それで町にいなかったんじゃないか」

「なるほどね」

「俺には理解でないけどな。美食家なんて、ただ食い意地張ってるだけだろ」

ヴァンの言葉を聞いたローラは苦笑いを浮かべた。
これと全く同じセリフを言っていた人物がいるが、やはり兄弟といったところなのか。
ヴァンはガイをそのまま大きくしたような男だとローラは思った。

「君は貴族だから来たことがあるんだろ?ここからは任せる。俺は何も持たない平民だからな」

「え……ええ!これでも、あたしは三大貴族のスペルシオ家なのよ!第一騎士団長だろうが王様だろうが、なんでも相手になってやるわよ!」

「これは頼りになるね」

ローラは胸を張って歩き出した。
後方に続くヴァンは周囲を警戒しつつ進む。
王城なのにも関わらず、なぜか警備が手薄なのが気になった。

そして王城の門前。
重厚な鎧を身に纏った2人の騎士は持っていた長槍を重ね合わせて大きな"バツ"を作る。
槍は門を完全に塞ぐ形だった。

「貴様ら何用だ?」

「格好を見るに冒険者だな。早々に立ち去れ。でなければ斬り捨てる」

騎士たちは無機質で感情こもらぬような言葉を吐く。
ローラは凄まじい圧を感じて顔を引き攣らせて後退りした。

ため息混じりに前に出たのはヴァンだった。

「こちらはスペルシオ家の御令嬢だ。無礼は許さんぞ」

騎士たちの呼吸が一瞬止まったのがわかった。
ヴァンの鋭い眼光を見た2人の騎士は全く動けなくなってしまったのだ。

「き、貴様こそ、冒険者の分際で……我々に歯向かう気か!!」

「スペルシオ家は知ってる。だが、その汚い格好はなんだ?嘘を言っていれば極刑だ!!ここで切り殺してくれる!!」 

さらに殺気立つ騎士たちにローラは身を震わせて数歩下がる。
しかしヴァンは一歩も引かず、不適な笑みを浮かべて言った。

「てめぇら、その程度の"闘気"で俺とやろうっての?いい度胸してるぜ。死んでも文句言うなよ」

これ以上はマズイとローラが思った瞬間、王城の門が轟音を立てて開いた。
真っ直ぐに赤い絨毯が敷かれた豪華絢爛な造りは貴族が住む家ともまた違う。

何事かと思って振り向いて中を覗く2人の騎士は、絨毯の上をゆっくりと歩いてくる男性を見て槍を引っ込めた。

「まさか、本当に来るとはな」

長い銀髪を後ろで結って肩に流し、白を基調とした服の上に軽装の鎧を着た痩せ型の男だった。

「第二騎士団長ゲイン・ヴォルヴエッジ……」

ローラが呟くように言った。

ゲインは蛇のような目つきでヴァンとローラを交互に見ると、すぐに口を開く。

「中へ入るといい。アデルバート第一騎士団長の許可は出ている」

ヴァンとローラは顔を見合わせる。
最初から2人がこの場所を訪れることがわかっていたかのような口ぶりだ。

2人はゲインと共にディアール城の内部へと足を踏み入れるのだった。
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