最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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最終章 死の王 編

第四の愚行(2)

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この時の第四騎士団長は"ミューネ・バルッシュ"だった。
女性初の騎士団長ということもあり、当時はえらく期待された存在。

しかしそれは最初の頃だけで月日が経つごとにどんどん薄れていく。

それもそのはずで彼女の配置された場所は北方である。
第三騎士団がいるベンツォードほどではないが、良くも悪くも"何も無い"地域。

騎士といえど人間だ。
正義のために働く一方で、もう1つ、彼女率いる第四騎士団には裏の顔があった。

______________


この取り調べがおこなわれたのはロスト・ヴェロー事件の前年。
総勢200名ほどの第四騎士団の団員、全員を王都に集めたのは、なんと騎士団最高司令官であるアデルバート・アドルヴ本人だった。

"ちょっとした不正"であれば第二騎士団長のゲイン・ヴォルヴエッジが、その巧みな手腕によって上手じょうずに処理する。

しかし今回ばかりは違った。
事が大きすぎたのだ。

第四騎士団、ミューネ団長を除いた総勢200名の団員は王都まで招集が掛かり、騎士団本部にある4つの部屋に押し込められた。

調査は1人1人、アデルバート騎士団長の書斎に呼ばれて個人面談。
極めて会い難い存在の第一騎士団長に目通り叶うとなれば高揚するはずだが、今回は北で起こっている事件が絡む。
騎士のみなは口々に不安を言い、震える者までいた。

それもそのはずで第一騎士団長に直接一対一で会える人間となれば各団長、副団長、高位の貴族だけである。
さらに会った人間がみな口にする、"最高司令官の凄まじい重圧感"は末端まったんからしたら恐怖以外の何ものでもなかった。


そして遂に面談の時間が来る。
部屋まで呼びにくるのは、これまた会い難い存在の第二騎士団長のゲイン・ヴォルヴエッジ。
彼の掘りの深い顔と蛇のような目つきに、どんな屈強な騎士であっても息を呑んだ。

面談が終わった騎士は部屋には戻らず、そのまま騎士団本部を出る。
そのため、どんな質問をされたかなどは聞けず顔色すらうかがえない。

1人また1人と面談に呼ばれ、部屋がどんどんと寂しくなる。
そして最後に呼ばれたのが新任のクラリス・ベルフェルマであった。
この頃になると、もう外はすっかり暗い。
廊下の窓の外に見えるのは満天の星空と銀色に輝く月だけだ。

緊張の面持ちでゲインの後を歩くクラリス。
表情が読み取れなとれないのにも関わらずゲインは一言、

「緊張しなくてもいい、ただ質問に答えるだけだ」

と言った。

この時、クラリスは何も返答することができなかった。
目の前を歩く人物も、今から会う人物も自分とは位が全く違う。

2人はアデルバートの書斎と思われる部屋に到着すると、ゲインはクラリスだけをドアの前に立たせた。

「どうぞ。第一騎士団長がお待ちだ」

「は、はい」

ドアに向き合い、少し躊躇しつつもノックする。

「入れ」

部屋の中から聞こえた太い男の声。
これだけでクラリスの身は震えた。

中に入ると奥には本が山積みにされた机が置かれ、団長本人の姿が見えない。
恐らく席に着いているのだろうが、あまりの"圧"に開けたドアを閉められずにいた。

「ドアを閉めて、もっと中へ入りなさい」

後ろにいたゲインに促されて、ようやくクラリスは部屋に入った。
暗闇にいくつかの蝋燭だけが立ち、かろうじて部屋の形がみえるほど。

クラリスは閉められたドアの前に立ち尽くして動けなくなっていた。

「遠路はるばるご苦労様だったね」

太さの中にある、猫を撫でるような優しい声。
クラリスは悟られぬように静かに深呼吸すると、ようやく口を開いた。

「は、はい……」

冷静さを徐々に取り戻す。
やはりアデルバートは本が山積みにされた机の向こう側にいるようだ。

「君は新任だと聞いた。北の寒さには慣れたかい?」

「は、はい」

「やはり君の故郷の南とはだいぶ違うだろう。それに騎士ともなれば訓練やら何やらで女性らしいことは一切できない。不満も多くあるだろうね」

「私には不満などはありません……」

「ならいいが。しかし親元を離れるのは辛かろう。そういえば君には弟がいたね。"クラウス君"……十歳というと、そろそろ反抗期かな?」 

クラリスは困惑して眉を顰めていた。
確かに自分には弟がいる。
しかしクラリスは何千人もいる騎士団員の1人、しかも新任であり成績もよくはない。
そんな自分の弟の名前を知っているのも驚くが、さらに年齢まで把握していた。

そう思った瞬間、緊張感が一気に増す。

「は、はい。ですが、よくできた弟です。私よりも優秀だと思われます」

「それは将来が楽しみだねぇ。是非、騎士団に入ってもらいたいものだ」

「弟の夢は王宮騎士です」

「ほう。姉に憧れてのことかな?」

「それは……分かりかねます」

突然、弟のクラウスのことを思い出した。
今頃はイース・ガルダンのアカデミアで学んでいることだろう。
それも姉の背中を追いかけてのものなのかはわからない。

そんな思考しているとアデルバートは不意に口を開く。

「どちらにせよ、それなら君は弟からも尊敬される騎士にならねばな」

声色が変わる。
低い声、重圧のある気配が部屋全体を包み込む。

「単刀直入に聞く。第四騎士団でミューネ団長と共に"奴隷拷問殺人"をしている団員の名前を全員言うんだ」

「そ、それは……」

「ただ名前を言うだけで、別に書いたりしなくてもいい。私は何百、何千人いようと聞いた名前は絶対に忘れないからね」

「私は……」

「どうした?」

「私は"知りません"」

「なんだと?」

凍るような殺気。
姿は見えずとも鋭い眼光で睨まれているのが、肌身で感じる。

「他の団員をかばっているのか?」

「いえ、そんなことは……」

クラリスはそう答えた瞬間、脳裏をよぎる言葉があった。

"このことは内密に"

ある女性の声が頭の中に響く。

「では、なぜ嘘をつく?」

「嘘ではありません。私は本当に知りません」

「なら、もし君がこの王都にいる間に今言ったことが嘘であるとわかったら……」

「……」

「君を殺す」

息の止まるようの感覚に襲われた。
今にも腰を抜かしそうだ。
この部屋から走って逃げ出したい。
様々な負の感情が駆け巡り、さらに続く沈黙は数秒が数分、数時間にも感じられた。

「なるほど……疑って悪かったね。もう帰っていいよ」

「は、はい……」

「やはり北の寒さは慣れないうちは体に障る。しっかり体調を管理して任務に励みなさい」

「本日は……お時間頂きありがとうございました」

「こちらこそ」

「失礼致します」

呼吸の仕方を忘れるほどの恐怖にかられたクラリスは目の前の獣に食い殺されるのを恐れてか、後退りしつつ部屋を出た。

迎えたゲインはクラリスを一瞥すると交代するようにして書斎に入っていった。

この出来事によって第四騎士団の配置が少し変わることになるが、なぜか誰の処分も言い渡されなかった。

奇妙なことに、それはミューネ団長も含む。

______________


クラリス・ベルフェルマが出て行った後、書斎に入ったゲインは奥の机に視線を送る。

「どうでしたか?」

「やはりやってるな。加担している人間は全員でないにしても百人近くいる」

「全員、口を割ったようですね」

「いや」

「誰か嘘を言った者がいたのですか?」

「最後の女騎士だ。彼女だけが嘘を言った」

「クラリス・ベルフェルマ……彼女が嘘を言うとは」

「彼女自身は"見て見ぬふり"をしているだけのようだがね」

「罰しますか?」

「まさか、そんなことはしない。あれほど若くて優秀な人材はいないよ」

ゲインは眉を顰めた。
記憶でいけばクラリスは優秀というには程遠い存在だった気がした。

さらにアデルバートは続ける。

「君は組織人材に必要な能力がわかるかい?これは最も大事なスキルで、どの組織にいても必ず役に立つ」

「問題の迅速な処理能力ですか?」

「そんなものは特に必要ない。反復で身につくものさ。組織を保つうえで最も大事なのは"口が堅いこと"だ。不必要で不利益な噂の流布は遠からず組織崩壊に繋がる。彼女は寡黙であって口も堅い。私が探してる人間にピッタリだ」

「と、申しますと?」

「彼女をザラ姫の警護につける」

「大丈夫でしょうか?」

「彼女なら上手くやるさ。心配ならふところに置くことだ。君の近くがいいと思う」

「それは構いませんが第四はどうしますか?ミューネ団長は極刑にするとしても、クラリスだけを第二に移すのは違和感があります」

「別にいいと思うけどね。だがミューネの極刑は避けたい。こんなことが内外に知られれば大事おおごとだ。王宮騎士団の存続に関わる」

「どうされますか?」

「"ミラ姫"の話だと近々、北で大規模な戦闘がおこなわれるようだ。そこに第四を派遣する。ザイナス・ルザールというカードは持っておきたかったからちょうどいい。団長の死亡理由がであれば誰も文句は言うまい」

「確かにそれなら第四を解体してクラリスだけを引き抜けばいい……」

「そこは任せるよ。まもなく"炎の男"の選別が始まる。私はゾルだと思うんだがね……もしかすれば別の人間の可能性もある。どちらにせよ私は終幕を見ることはできない。最後の大詰めは君に一任するよ」

「はい。必ず……"死神"を討ちます」

その言葉に笑みを浮かべたアデルバートは持っていた本を開いた。
深く椅子に腰掛けると暗がりの中、視線を落として読み始める。

数少ない友に書かせた小説だ。

『"ミル・ナルヴァスロ ふたつの愛の行方"』

何度読んでも鮮明に蘇る過去の出来事を懐かしみつつ、アデルバートは頬を紅潮させた。
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