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序章:断罪の儀
断罪の鐘は鳴る
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荘厳な鐘の音が、王都の空を震わせた。
神託の間──王宮でも最も神聖とされるその場に、王太子、貴族、騎士や神官たちをはじめ、同席を許された一部の民等が一堂に会していた。
誰もが、静かに息を潜め、一人壇上で祈りをささげている美しい女の姿をじっと見つめている。
女の名は聖女ミラ・セレスタ。その白い祭衣には光の加護を身にまとうかのように銀糸が豪奢に織り込まれ、彼女こそがまさに信仰の象徴であるということを訴えかけていた。
「主の言葉を、ここに記す」
祈りが止み、ミラが朗々と語り始める。
聖堂に設けられた石版から抜き出されたというその古くから伝わる文言は、民の間では古くから“予言”として知られていた。
「汝ら、聖の座を汚す者を見よ
彼の者は光を戴きて生まれ、されど闇を孕みし者なり
ただ歩を進めれば、大地は割れ、空は裂け、流れは枯れん
穢れし祝福は子等を惑わし、父をも欺く
その者、ついに咎を負いて退けられん
されど一つ、覚えよ──
闇と光交わるとき、大地より三度立ち上がり、すべてを流さんとす」
読み上げられるたびに、場の空気が重く沈んでいく。
やがて──
「この神託は、今まさに現実となろうとしています」
ミラの声が震えるように響く。
視線の先には、一人の女性がいた。
王太子妃筆頭候補、クラリス・アルデンティア。
今日執り行われる儀式は、婚礼の儀、であるはずだった。
クラリスは王子リオネルの「王太子妃候補」、ではなく正式な「王太子妃」として、皆に祝福されるために、この場に立つはずだった。
笑顔に包まれ、万雷の拍手喝さいの中、幸せの鐘の音を浴びるはずであった。
祝福の祈りを、聖女よりかけられるはずであった。
しかし、クラリスにかけられたものは、決して祈りの言葉などではなかった。
「この神託が示す“聖の座を汚す者”」
その場にいる誰もが一斉に息をのむ。
「──それは、クラリス・アルデンティアその人です」
「……なっ……!」
クラリスは思わず声をあげた。
周囲のざわめきが一気に高まり、それらはやがて、唸るような声の圧となってクラリスに襲い掛かる。
──何それ?私は何もしていないし、きっと何かの間違い、王子にならわかってもらえるはず……
祈るような気持ちで、クラリスはリオネルを見たが、そんなクラリスにリオネルは軽く一瞥をくれただけだった。
やがてリオネルは、場が静まるのを少しの間待つと、ゆっくりと席から立ち上がった。
きっ、とまっすぐにクラリスを睨みつけるように見据えるリオネル。
それは迷いが無いというよりも、むしろ自身の心が決して揺らがないようにと強がっているようでもあった。
「聞いての通りだ、クラリス。申し開きがあれば言ってみろ」
「王子、私は何も……!」
「クラリス!!」
クラリスが何かを言おうとするやいなや、王子の声がぴしゃりと飛ぶ。
「……ミラの……いや、神の御言葉に抗おうとするとは……君の信仰心というものは、いったいぜんたい何に対する信仰なのか……?」
そう言うと、天を仰ぎ、寂しそうに笑った。
「王子!」
涙が出そうになるのをぐっとこらえ、クラリスは王子に呼びかける。
「もういい……王国と神の名において、余は……余は、クラリス・アルデンティアとの婚約を破棄する!そして王都からの追放を、ここに命ずる」
その瞬間、玉座の間を包む空気が凍りついた。
王子のその言葉は、剣よりも鋭く、冷たかった。そして、とてつもなく重かった。
「……そんな……」
クラリスの唇が震える。何かを言おうとしたが、喉は乾き、言葉が出てこない。
そんなクラリスの様子に、ミラは悲哀と、困惑の混じった声で、まるで子供をなだめるかのように静かに語り掛けた。
「神の言葉はすべて。これまでも、これからも。クラリス……私も、どうして?という気持ちがいっぱいでなりません」
──違う、違う、違う、違う、これは間違いだ!
あの神託が、なぜ私の事だというの!?
王子のことを思って、神様にだって毎日しっかりお祈りして、今まで生きてきた私が!?
「……違います、私は神託にあるような人間じゃありません! ……そんなものじゃ……!」
クラリスの声が、虚しく響く。
だが誰も、それに応えようとはしない。
広間の奥で誰かが扉を開ける音が聞こえた。
国にあだなす者を送り出すための、重たい鉄の扉。
クラリスは瞳に涙を浮かべ、その場に立ち尽くしていたが、やがて騎士に促されるように、鉄扉へと歩を進めた。
話しかけることすら罪であると感じたのか、クラリスに声をかけるものは誰もいない。
皆が遠巻きにクラリスを蔑むように見つめ、やがて、その人々の波が引いた後は自然と扉へ続く道となった。
振り返ると、いつの間にか、王子も、ミラも、この場から立ち去っていたようだった。
「……神様……私は間違っていたのでしょうか」
──あの重い扉が、一度閉まってしまったのならば、きっと二度と私に開かれることはないのだろうな。
ずっと、「なぜ」「どうして」だけがクラリスの頭の中でこだましている。
「……どうして何も答えて下さらないのですか、神様?」
神託の間──王宮でも最も神聖とされるその場に、王太子、貴族、騎士や神官たちをはじめ、同席を許された一部の民等が一堂に会していた。
誰もが、静かに息を潜め、一人壇上で祈りをささげている美しい女の姿をじっと見つめている。
女の名は聖女ミラ・セレスタ。その白い祭衣には光の加護を身にまとうかのように銀糸が豪奢に織り込まれ、彼女こそがまさに信仰の象徴であるということを訴えかけていた。
「主の言葉を、ここに記す」
祈りが止み、ミラが朗々と語り始める。
聖堂に設けられた石版から抜き出されたというその古くから伝わる文言は、民の間では古くから“予言”として知られていた。
「汝ら、聖の座を汚す者を見よ
彼の者は光を戴きて生まれ、されど闇を孕みし者なり
ただ歩を進めれば、大地は割れ、空は裂け、流れは枯れん
穢れし祝福は子等を惑わし、父をも欺く
その者、ついに咎を負いて退けられん
されど一つ、覚えよ──
闇と光交わるとき、大地より三度立ち上がり、すべてを流さんとす」
読み上げられるたびに、場の空気が重く沈んでいく。
やがて──
「この神託は、今まさに現実となろうとしています」
ミラの声が震えるように響く。
視線の先には、一人の女性がいた。
王太子妃筆頭候補、クラリス・アルデンティア。
今日執り行われる儀式は、婚礼の儀、であるはずだった。
クラリスは王子リオネルの「王太子妃候補」、ではなく正式な「王太子妃」として、皆に祝福されるために、この場に立つはずだった。
笑顔に包まれ、万雷の拍手喝さいの中、幸せの鐘の音を浴びるはずであった。
祝福の祈りを、聖女よりかけられるはずであった。
しかし、クラリスにかけられたものは、決して祈りの言葉などではなかった。
「この神託が示す“聖の座を汚す者”」
その場にいる誰もが一斉に息をのむ。
「──それは、クラリス・アルデンティアその人です」
「……なっ……!」
クラリスは思わず声をあげた。
周囲のざわめきが一気に高まり、それらはやがて、唸るような声の圧となってクラリスに襲い掛かる。
──何それ?私は何もしていないし、きっと何かの間違い、王子にならわかってもらえるはず……
祈るような気持ちで、クラリスはリオネルを見たが、そんなクラリスにリオネルは軽く一瞥をくれただけだった。
やがてリオネルは、場が静まるのを少しの間待つと、ゆっくりと席から立ち上がった。
きっ、とまっすぐにクラリスを睨みつけるように見据えるリオネル。
それは迷いが無いというよりも、むしろ自身の心が決して揺らがないようにと強がっているようでもあった。
「聞いての通りだ、クラリス。申し開きがあれば言ってみろ」
「王子、私は何も……!」
「クラリス!!」
クラリスが何かを言おうとするやいなや、王子の声がぴしゃりと飛ぶ。
「……ミラの……いや、神の御言葉に抗おうとするとは……君の信仰心というものは、いったいぜんたい何に対する信仰なのか……?」
そう言うと、天を仰ぎ、寂しそうに笑った。
「王子!」
涙が出そうになるのをぐっとこらえ、クラリスは王子に呼びかける。
「もういい……王国と神の名において、余は……余は、クラリス・アルデンティアとの婚約を破棄する!そして王都からの追放を、ここに命ずる」
その瞬間、玉座の間を包む空気が凍りついた。
王子のその言葉は、剣よりも鋭く、冷たかった。そして、とてつもなく重かった。
「……そんな……」
クラリスの唇が震える。何かを言おうとしたが、喉は乾き、言葉が出てこない。
そんなクラリスの様子に、ミラは悲哀と、困惑の混じった声で、まるで子供をなだめるかのように静かに語り掛けた。
「神の言葉はすべて。これまでも、これからも。クラリス……私も、どうして?という気持ちがいっぱいでなりません」
──違う、違う、違う、違う、これは間違いだ!
あの神託が、なぜ私の事だというの!?
王子のことを思って、神様にだって毎日しっかりお祈りして、今まで生きてきた私が!?
「……違います、私は神託にあるような人間じゃありません! ……そんなものじゃ……!」
クラリスの声が、虚しく響く。
だが誰も、それに応えようとはしない。
広間の奥で誰かが扉を開ける音が聞こえた。
国にあだなす者を送り出すための、重たい鉄の扉。
クラリスは瞳に涙を浮かべ、その場に立ち尽くしていたが、やがて騎士に促されるように、鉄扉へと歩を進めた。
話しかけることすら罪であると感じたのか、クラリスに声をかけるものは誰もいない。
皆が遠巻きにクラリスを蔑むように見つめ、やがて、その人々の波が引いた後は自然と扉へ続く道となった。
振り返ると、いつの間にか、王子も、ミラも、この場から立ち去っていたようだった。
「……神様……私は間違っていたのでしょうか」
──あの重い扉が、一度閉まってしまったのならば、きっと二度と私に開かれることはないのだろうな。
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