ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳

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第十五章

第三話 天空の塔の千年龍

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 扉を開けると、そこは屋上だった。俺の視界に映ったのは、太陽が沈みかけている夕日と祭壇らしき建造物の前に突っ立っている白髪混じりのタキシードを着ている男性だった。

「サウザー!」

 男の姿を見た瞬間、俺は声を荒げて彼の名を叫ぶ。

「おや? 貴様が登って来ると言うことはセシリオのやつは失敗したか」

 サウザーの言葉に、俺は周辺の気配を探る。

 確かにセシリオさんの気配が感じられない。どういうことだ? あの後サウザーと合流したのではないのか?

 周辺が気になる。しかしやつの姿を視界から外せば、先制攻撃を受ける可能性がある。今はやつのことだけを考えるとしよう。

「太陽が沈み、月が顔を出すまでまだ時間がある。あの祭壇には近付けさせない。お前たちとはここで決着を付けさせてもらう」

 サウザーが構える。

 やつは得物を握ってはいなかった。格闘戦をしようと言うのか?

 確かにやつは、指だけで俺の一撃を受け止めたことがある。そもそも体の構造からして、人とモンスターとでは違いがある。それゆえの格闘戦なのだろう。

 完全に舐められたものだ。

 ペテンの時のように、モンスターの姿にさせてやる。

「ユリヤたちは下がっていろ。人の姿をしている今の状態なら、俺一人でも十分だ」

 鞘から太刀を抜き、彼女たちに手を出さないように指示を出す。

「ほう、ワシをたった一人で相手にしようと言うのか。舐められたものだ」

「俺の実力を舐めているのはサウザーのほうだろう。これまでの戦いで、俺もそれなりに経験を積んでいる。それにあの時は俺にビビって逃げ出したじゃないか」

「あ、あれは暗黒龍様の魂が入った宝玉を持ち帰ることを優先しただけだ! 決してビビって逃げ帰った訳ではない!」

 俺の挑発が効いたようで、サウザーは額に青筋を立てながら声を上げる。

「良いだろう。ならば、今回は本気の半分で相手をしてやる。前回は三十パーセントほどしか力を出していなかったからな」

 互いに睨み合う中、俺たちは動かなかった。おそらくサウザーも同じことを考えているのだろう。先に攻撃を仕掛けてカウンターを狙っている。

 しかし、どちらかと言うと俺の方が有利だ。

 柄に嵌めてある氷の属性玉に意識を集中する。するとやつの足元にある空気中の水分が集まり、水に変化すると瞬く間に氷へと姿を変える。

「何!」

 氷で足を覆われたサウザーは、足を動かすことができない。

 今が攻撃のチャンスだ!

 地を蹴って駆けると、足の筋肉の収縮速度を速くするように意識し、サウザーとの距離を縮める。

「遠距離攻撃ができるのは貴様だけではない!」

 距離を縮める中、サウザーは口を開けると火炎を吐いてきた。

 このままでは食らってしまう。

 横に跳び、前転をして起き上がる。地面には焦げた跡が残り、焼けた臭いが周辺に漂っていた。

 一応龍種だから火炎くらいは吐くと思っていたが、まさか人の姿でも可能にするとは思わなかったな。

 ユリヤたちの方を見ると、彼女たちもなんとか回避をしていた。

「さぁ、ワシに一太刀を当てられるものなら当ててみろ!」

 サウザーは次々と俺に向けて火炎を吐いて来る。

 連続で吐きやがって、これでは近付けないじゃないか。

 まるでストーカーの如く、俺の動きにピッタリとくっ付くかのように火炎を吐き続ける。

 そのせいで回避に集中するのに忙しく、やつに接近することができない。

 だが、この状況であっても、俺は全然苦ではなかった。寧ろこの状況を喜んでいる。

 やつは俺が仕掛けた罠に気付いていない。このままサウザーの気を俺に引き付ければ、時間と共に仕掛けたトラップが発動する。

「リュシアンさん! 頑張って!」

リュシアンピグレットなら余裕で勝てるわ!」

「わたくしたちは信じております」

 彼女たちの声援が聞こえてくる。ユリヤたちの応援を無駄にしないためにも、ここは時間稼ぎに没頭させてもらう。

 ひたすら火炎を躱して逃げに徹していると、途中からやつは炎を吐かなくなった。

 ガス欠かと思ったが、そうではなかった。

「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 サウザーが突然悲鳴を上げ、苦悶の表情を見せる。

 どうやらようやくトラップが発動してくれたようだ。

「痛い、痛い、痛い! リュシアン、ワシに何をした!」

 鋭い目つきでサウザーが俺のことを睨んでくる。別に俺自身はサウザーの足を拘束しただけだ。

 やつにダメージを与えているのは覆っている氷の方だ。

 サウザーがズボンの裾を上げる。するとやつの足は紫色に変色しつつあった。

 そう、やつは凍傷状態になっているのだ。

 氷が肉体を覆ったことで、相手から体温を奪い、神経障害を誘発させることができる。

 ゼロ度以下の環境で皮下の血管は収縮を始めるが、これは中枢の体温を逃さないために保護作用だ。だが、極度の低温に晒されると、この保護作用によって皮下の血行は極端に悪化し、その部分は血行不全に陥る。

 こうした部分はやがて凍り、身体組織は深刻な損傷が生じる。

 サウザーの足が紫に変色したのも、低酸素状態で血管内の赤血球が運ぶ酸素の量が少なくなり、細胞に必要な酸素と栄養が足りずに死んでいったからだ。

 中枢神経と受容器とを結ぶ脊髄神経を作り上げている神経細胞が死ぬことで、軸索の末端の枝がシナプスと呼ばれる結合部位を通じて、他の細胞の細胞体や樹状突起に信号が遅れず、脳に情報が遅れないことで感覚伝導路が障害され、感覚麻痺が起きた。

 その結果、ギリギリまで自分の体が死んでいることに気付かない。

「この氷か! この氷が原因なのか!」

 苦しむ顔を見せながら、サウザーは親の仇を見るかのように、憎々しげに足元の氷を睨み付ける。

 そして口から小さい炎を出して氷を溶かす。

 その光景を見た俺は、思わず口角を上げた。

 第二トラップの発動だ。

「があああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 氷が消えると更にサウザーは悲鳴を上げる。

「え、何が起きているのですか?」

リュシアンピグレットは何をしたの?」

「わたくしには何もわかりませんわ」

 遠くから見守っているユリヤたちの声が耳に入ってくる。

 彼女たちからしたら勝手にサウザーが自滅をしているように見えるだろう。

 しかしこれにも理由がある。

 治療のために凍傷の部位を暖めて復温させると、それまで虚血の状態だった部分に急速に血液が流れることで、更に組織が損傷する再灌流さいかんりゅう傷害が起きる。

 これが凍傷に隠された落とし穴だ。

「お、おのれ! ハンターであるにも関わらずトリッキーなことをしやがって、その太刀はいったいなんだ!」

「さぁ? セシリオさんからもらったものとしか答えられない。俺にもこの太刀のことは謎が多いからな」

「くそう。こんなところでやられてたまるか。不本意ではあるが、全力でお前たちを倒してみせる」

 言葉を吐き捨てると、サウザーの姿が変わる。

 着ていた衣服はビリビリと破け、やつの肉体は龍へと変わる。

 茶色い鱗を持った胴体の長い龍だ。

「みんな、サウザーの討伐を開始する! 手伝ってくれ!」
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