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第二章
第一話 追い詰められるキツネ
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~タマモ視点~
『シャカール走者、たった今ゴールイン! 模擬レースとは言え、歴史的快挙の達成だ! 2着、アックス。3着ピック』
シャカールの走りを目の当たりにしたあたしは、目を大きく見開く。
模擬レースとは言え、人族の走者が11メートル以上の大差をつけてゴールする光景を、今まで見たことがない。
無理やりレース会場に連れて来た以上、最後まで見届ける義務がある。委員長らしい思考で、ただレース結果を見届けるつもりだったのに、まさかこんなものを見せ付けられるとは、思ってもいなかった。
何なの? 彼って一体何者? 本当に人族なの? 人の皮を被った魔族じゃないよね?
心臓の鼓動が早鐘を打つのが聞こえる。
もし、彼があたしと同じレースに出場したとしても、今のあたしでは勝てない。そう思ってしまう程の見事な末脚だった。
彼と同じレースに出ることになれば脅威となる。きっと優勝を逃すはずだ。またあたしが負けるようなことになれば、兄さんは……。
頭の中で兄の顔を思い浮かべる。しかしその顔は笑顔ではなく、失望した者を見るような、冷たい眼差しを送っている顔だった。
兄の顔を思い浮かべた瞬間、体が震えていることに気付く。
あたしって本当にダメね。兄さんの顔を思い浮かべただけで、こんなに震えてしまうなんて。
もう、あたしに残されているのは、スカーレット家の令嬢として相応しい振る舞いをすること。レースで失望されている以上は、外見だけでもそれらしくしなければ。
実況と解説の人がシャカールのことを称賛する言葉を聞きながら、あたしは第一レース場を後にする。
重い足取りのまま寮へと帰り、ベッドに横になると、額に手を置く。
『また2着か。どうしてお前は優勝できないんだ?』『ハナの差だった? それは言い訳に過ぎない。このレース業界においては、いくら入賞しても、優勝しなければ敗者扱いだ。お前は弱いから負けたのだ。もっと根性を鍛えろ!』『今度はクビの差? 前回よりも酷くなっているじゃないか? これ以上、俺を失望させないでくれ。お前と同じ血が流れていると思うと、虫唾が走る』
「ヒック! ご……ごめんなさい。あたし、もう負けないから。次は優勝してみせるから。ごめんなさい。ごめんなさい」
これまで兄に言われたことがなん度も頭の中で繰り返され、気が付くと目尻から涙が流れていた。
これではいけない。スカーレット家の令嬢は、こんなことで涙は流すのは許されない。
直ぐに涙を拭い、自分の頬を叩く。
これで気合いを入れ直した。また明日から、スカーレット家の令嬢として、相応しい学園生活を送れば良い。
あたしはみんなの模範となるべき学級委員長なのだから。
翌日、あたしは学生寮から出て校舎へと向かう途中、道を横切る1匹の猫を見かけた。
黒い毛並みに黄色い瞳の猫だ。
学園内に野良猫が入って来るなんて珍しい。どこから入って来たのかな?
疑問に思っていると、猫はその場で座り込む。そして肉球を舐め、手を額に擦り付けて顔を洗い始める。
その光景を目の当たりにしたあたしは、胸を打たれた。
なんて可愛らしくってキュートなの!
辺りを見渡す。朝の早い時間だからか、運が良いことに、周囲には人の姿が見当たらなかった。
チャンスは今しかないわよね。
ゆっくりと歩き、野良猫に近付く。
「ほら、猫ちゃん。怖くないからね」
その場でしゃがむと、怖がらせないように下から手を出して、顎や頭を撫でる。どうやら人懐こいらしく、嫌がる素振りを見せない。
もしかしたら、あたしがキツネのケモノ族と言うのも関係しているのかな?
「まだ、周辺に生徒や先生はいないよね」
もう一度周辺にあたし以外いないのを確認すると、今度はもっと大胆に出てみる。
猫を抱きしめ、そのまま頬ズリをする。
やっば! この子、毛並み良過ぎ! 本当に野良猫なの! 学生寮がペット禁止じゃなければ、飼いたいところだわ!」
欲望のままにモフモフすると、流石に我慢の限界に達したようだ。猫は体を捻ってあたしの抱擁から逃れると、地面に着地をする。そして一度「ニャー」と鳴くと、どこかに走り去って行く。
少しだけ気分転換ができたことに満足すると、あたしは校舎に入り、教室を目指した。
「おい! 聞いているのか!」
「うるさいな! 俺は昨日のレースで疲れているんだ。それに早朝から道具の試し撮りで、猫の声を録音していたから眠いんだよ」
「意味の分からないことを言っていないで、ちゃんと俺の話しを聞け! 今回は負けてしまったが、次は絶対に勝つ! 次の模擬レースを予約するから、お前の開いている時間を教えろ!」
「なら、一生空いていない。お前の勝負に付き合うなんて言う、無駄な時間は存在しないからな」
この声はピックとシャカールじゃない。まさか、彼らがあたしよりも早く来ているなんて、思わなかったわ。以外とあの猫ちゃんに時間を取られていたのかしら?
小首を傾げていると、昨日シャカールとした約束を思い出す。
そう言えば、ピックがウザ絡みをしないように、言い包める約束をしていたわよね。優等生が約束を破る訳にはいかない。早速ピックを彼から引き剥がしましょう。
「おはよう。2人とも珍しいですね。あたしよりも早く来るなんて、思ってもいませんでした」
シャカールはともかく、ピックがいる以上、貴族令嬢としての振る舞いをしなければならない。今日もあたしは、偽りの仮面を被る。
「委員長! おはよう!」
ピックは返事を返してくれたものの、シャカールは返事を返さなかった。まぁ、こいつがあたしに返事をするとは思えないけれどね。
「タマモか。おはよう。こいつをどうにかしてくれないか? 昨日、俺に無様に負けたって言うのに、リベンジマッチを申し込むんだよ。朝から暑苦しくってかなわない。どうせ迫られるのなら、こんな豚面じゃなくって、美少女に迫られたいものだ」
ワンテンポ遅れて、シャカールが朝の返事を返してくれた。
彼はあまり寝むれていないのか、それともピックにウザ絡みをされているのが原因なのか分からないが、気だるそうだった。
「ピック、本人が嫌がることはしない方が良いわ。むしろ、彼の方から勝負を申し込みたくなるように、精進する方が現実的ではないかしら」
「なるほど! 確かにそうだな。さすが委員長だ。シャカール、お前の方から模擬戦を申し込みたくなる程、男を磨いてやる! 首を洗って待っていろ!」
ビシッと指を向け、ピックがシャカールに宣言する。するとそのタイミングで教室の扉が開かれ、担任の先生が入って来た。
「あ! 丁度よかったわ。スカーレットさん、お兄さんがお見えになっているわよ。来賓室にいるから、行ってもらって良いですか?」
「え? にい……さん……が」
兄がこの学園にやって来た。その言葉を聞いた瞬間、体が震えていることに気付く。
『シャカール走者、たった今ゴールイン! 模擬レースとは言え、歴史的快挙の達成だ! 2着、アックス。3着ピック』
シャカールの走りを目の当たりにしたあたしは、目を大きく見開く。
模擬レースとは言え、人族の走者が11メートル以上の大差をつけてゴールする光景を、今まで見たことがない。
無理やりレース会場に連れて来た以上、最後まで見届ける義務がある。委員長らしい思考で、ただレース結果を見届けるつもりだったのに、まさかこんなものを見せ付けられるとは、思ってもいなかった。
何なの? 彼って一体何者? 本当に人族なの? 人の皮を被った魔族じゃないよね?
心臓の鼓動が早鐘を打つのが聞こえる。
もし、彼があたしと同じレースに出場したとしても、今のあたしでは勝てない。そう思ってしまう程の見事な末脚だった。
彼と同じレースに出ることになれば脅威となる。きっと優勝を逃すはずだ。またあたしが負けるようなことになれば、兄さんは……。
頭の中で兄の顔を思い浮かべる。しかしその顔は笑顔ではなく、失望した者を見るような、冷たい眼差しを送っている顔だった。
兄の顔を思い浮かべた瞬間、体が震えていることに気付く。
あたしって本当にダメね。兄さんの顔を思い浮かべただけで、こんなに震えてしまうなんて。
もう、あたしに残されているのは、スカーレット家の令嬢として相応しい振る舞いをすること。レースで失望されている以上は、外見だけでもそれらしくしなければ。
実況と解説の人がシャカールのことを称賛する言葉を聞きながら、あたしは第一レース場を後にする。
重い足取りのまま寮へと帰り、ベッドに横になると、額に手を置く。
『また2着か。どうしてお前は優勝できないんだ?』『ハナの差だった? それは言い訳に過ぎない。このレース業界においては、いくら入賞しても、優勝しなければ敗者扱いだ。お前は弱いから負けたのだ。もっと根性を鍛えろ!』『今度はクビの差? 前回よりも酷くなっているじゃないか? これ以上、俺を失望させないでくれ。お前と同じ血が流れていると思うと、虫唾が走る』
「ヒック! ご……ごめんなさい。あたし、もう負けないから。次は優勝してみせるから。ごめんなさい。ごめんなさい」
これまで兄に言われたことがなん度も頭の中で繰り返され、気が付くと目尻から涙が流れていた。
これではいけない。スカーレット家の令嬢は、こんなことで涙は流すのは許されない。
直ぐに涙を拭い、自分の頬を叩く。
これで気合いを入れ直した。また明日から、スカーレット家の令嬢として、相応しい学園生活を送れば良い。
あたしはみんなの模範となるべき学級委員長なのだから。
翌日、あたしは学生寮から出て校舎へと向かう途中、道を横切る1匹の猫を見かけた。
黒い毛並みに黄色い瞳の猫だ。
学園内に野良猫が入って来るなんて珍しい。どこから入って来たのかな?
疑問に思っていると、猫はその場で座り込む。そして肉球を舐め、手を額に擦り付けて顔を洗い始める。
その光景を目の当たりにしたあたしは、胸を打たれた。
なんて可愛らしくってキュートなの!
辺りを見渡す。朝の早い時間だからか、運が良いことに、周囲には人の姿が見当たらなかった。
チャンスは今しかないわよね。
ゆっくりと歩き、野良猫に近付く。
「ほら、猫ちゃん。怖くないからね」
その場でしゃがむと、怖がらせないように下から手を出して、顎や頭を撫でる。どうやら人懐こいらしく、嫌がる素振りを見せない。
もしかしたら、あたしがキツネのケモノ族と言うのも関係しているのかな?
「まだ、周辺に生徒や先生はいないよね」
もう一度周辺にあたし以外いないのを確認すると、今度はもっと大胆に出てみる。
猫を抱きしめ、そのまま頬ズリをする。
やっば! この子、毛並み良過ぎ! 本当に野良猫なの! 学生寮がペット禁止じゃなければ、飼いたいところだわ!」
欲望のままにモフモフすると、流石に我慢の限界に達したようだ。猫は体を捻ってあたしの抱擁から逃れると、地面に着地をする。そして一度「ニャー」と鳴くと、どこかに走り去って行く。
少しだけ気分転換ができたことに満足すると、あたしは校舎に入り、教室を目指した。
「おい! 聞いているのか!」
「うるさいな! 俺は昨日のレースで疲れているんだ。それに早朝から道具の試し撮りで、猫の声を録音していたから眠いんだよ」
「意味の分からないことを言っていないで、ちゃんと俺の話しを聞け! 今回は負けてしまったが、次は絶対に勝つ! 次の模擬レースを予約するから、お前の開いている時間を教えろ!」
「なら、一生空いていない。お前の勝負に付き合うなんて言う、無駄な時間は存在しないからな」
この声はピックとシャカールじゃない。まさか、彼らがあたしよりも早く来ているなんて、思わなかったわ。以外とあの猫ちゃんに時間を取られていたのかしら?
小首を傾げていると、昨日シャカールとした約束を思い出す。
そう言えば、ピックがウザ絡みをしないように、言い包める約束をしていたわよね。優等生が約束を破る訳にはいかない。早速ピックを彼から引き剥がしましょう。
「おはよう。2人とも珍しいですね。あたしよりも早く来るなんて、思ってもいませんでした」
シャカールはともかく、ピックがいる以上、貴族令嬢としての振る舞いをしなければならない。今日もあたしは、偽りの仮面を被る。
「委員長! おはよう!」
ピックは返事を返してくれたものの、シャカールは返事を返さなかった。まぁ、こいつがあたしに返事をするとは思えないけれどね。
「タマモか。おはよう。こいつをどうにかしてくれないか? 昨日、俺に無様に負けたって言うのに、リベンジマッチを申し込むんだよ。朝から暑苦しくってかなわない。どうせ迫られるのなら、こんな豚面じゃなくって、美少女に迫られたいものだ」
ワンテンポ遅れて、シャカールが朝の返事を返してくれた。
彼はあまり寝むれていないのか、それともピックにウザ絡みをされているのが原因なのか分からないが、気だるそうだった。
「ピック、本人が嫌がることはしない方が良いわ。むしろ、彼の方から勝負を申し込みたくなるように、精進する方が現実的ではないかしら」
「なるほど! 確かにそうだな。さすが委員長だ。シャカール、お前の方から模擬戦を申し込みたくなる程、男を磨いてやる! 首を洗って待っていろ!」
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