【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい

文字の大きさ
42 / 45

16 新たな形。そして、共に(2)

しおりを挟む
********




 暗いグレーのガウンをはおり、玄関に向かうと、そこにはーーー。



「.....い、いぬ?」



 そこには、ふさふさの黒い毛を揺らしながら、尻尾を振る小さな犬。


 リードネストを見据えて、行儀良くお座りしている。

 はっはっ、と荒い息が聞こえるが、興奮しているのだろうか。



 犬を凝視していると、カーヴィンが申し訳なさそうに答えた。





「........はい。........実は.....その、あの犬が、いつの間にやら、邸の敷地内に入っていたそうで。ハルカたちが、なんとか外に出そうと手を尽くしてみたのですが、全く動かず。無理やり摘み出せば良いのですが、どうもこちらの言葉を理解している素振りがあって、気になったものですから」


「........言葉を理解?......そんなこと、あるわけがないだろう。犬、だぞ?」


「.......そのはずなのですが.......」


 カーヴィンが、そう言い淀んだところで、犬が一声吠えた。

 見た目よりも低い声で、「わん!」と。


「......まぁ、いい。ちょっと見てみよう」


 何はともあれ、近づいてよく観察してみよう、と階段を降りて玄関に立てば、ますます犬は尻尾をぶんぶん振りながら鼻息を荒くする。


 そこで、はた、とリードネストは気づいた。



「.....おい......この瞳......」



 犬の瞳の色は、琥珀色をしている。



 この色。どこかで見たことがある.....どこだったか。


 しばしその姿を見つめて、必死に記憶を辿る。



 止まっていた歩みをすすめ、さらに数歩近づいたところで、よく知る香りが鼻を掠めた。





 これは......?




 その瞬間、リードネストは雷に打たれるほどの衝撃に襲われる。


 
「........ローネル!?」




 その声に、犬はますます嬉しいとばかりに、尻尾を振り回し、飛びかかってきた。



 そしてーーー。




「ふふ、やっほー!リード!元気?」



「お、お前!!本当にローネルなのか!?......その姿、しかも......喋って?」



「驚いた?」


 してやったり、という顔でリードネストにのしかかっている犬......いや、ローネルは、イタズラが成功した時みたいな笑みを浮かべて.......いるように見える。
 犬だから、まぁ、わかりにくいが。



「驚いたもなにも、一体どうなってるんだ?お前、今度は何をした?」


 モモネリアにした仕打ちを思えば、警戒して当然だ。



 のしかかられていた体を退け、体勢を立て直して問えば、「きゅぅぅん」とわかりやすく尻尾を丸めて、怖がっているフリをする。




「うわぁー。そんなに怖い顔しないでよ.....」




「.....これでも、冷静に話をしている方だ。俺がお前を捕まえようとしているのは知っているだろう。わざわざ会いにくるとは......何を考えている」




「わかってるよー。モモネリアにも.....本当に悪いことをしたと思ってる。とても怖がらせたよね.....。ごめん」




 いつもふざけた態度のローネルには珍しく、本当に反省している様子.......なのだろう。


 伏せのポーズで前足に頭を乗せて、ひたすら上目遣いで目をうるうる......。


「わかっているならいい。話はあとでじっくり聞こう。......お前から出てきてくれたんだ。これから、俺はお前を捕まえて牢にいれる。処遇が決まるまで、おとなしくしていろ」




 体ごと抱き上げようと手を差し出すと、ローネルは慌てて起き上がってひょいっと後退りした。




「ま、ま、待ってよ。.....確かに、僕はモモネリアを危険に晒した。本当に申し訳なかったと思ってる。もう二度としない。約束するよ。何なら、魔法契約書で契約を結んでもいい。........あれ?でもその場合サインは、肉球でスタンプすれば......いけるかな?」



 途中、座り込んで右手をあげて、自分の肉球を真剣に見つめる。


 そして。


「もちろん、ペナルティはたっぷりと付け加えてもらっていい。だから.....また.....モモネリアのそばに置いてくれないかな」





「.........はぁ!?」





 怒りと困惑と驚きと.....色々な感情が渦巻いてリードネストは大きな声をあげた。




 魔法契約とは、ローネルの国、ナターシェリア国で魔法使いが作る特別な紙、『魔法契約書』というものを使って契約を結ぶ。



 契約が破られた際のペナルティをお互いの了承があれば自由に設けることができ、魔法による拘束力があるため、もし本当に契約が破られた時にはペナルティから逃れることはできないというものだ。



 ペナルティを重いものにすればするほど、契約を結ぶ相手の本気度がうかがえ、社会的にも信用が高い。




「.......お願いだよ。リード。......モモネリアに会わせて」




 複雑な感情をなんとかおしとどめ、勝手に力が入りわなわなと震えだす身体をなだめながら、リードネストは低く、威圧的な声音で答えた。




「......魔法契約は知っている。だが、無理な相談だ。.....モモネリアは、俺の命より大切な、可愛い番だ。......あいつを危険な目にあわせたお前を、二度と会わせるつもりはない」




「........リード」





 付け入る隙も与えない言い方に、ローネルも俯いてしまった。





 その時......。




 カタッ。




 小さな音がして、二人は振り返る。




 今しがた、リードネストが降りてきた階段を見上げれば、可愛らしい女性が心許ない様子でガウンの裾をきゅっと合わせてきつく握っていた。



 モモネリアだ。




「モモネリア!」




 すぐさまリードネストが階段をかけあがり、踊り場で立ちすくむ婚約者を抱き寄せる。




「どうして?先に寝ていてと言っただろう?」





「ごめんなさい.....。なんだか、大きな声が聞こえたから......心配になって。どうかしたの?」




「............」



 どう答えたものか、思案しながら、チラリと玄関をみたリードネストの視線を追って、モモネリアも玄関を見遣る。




「......犬??」




 不安げだった瞳はさっと色を変え、今度は驚きの色を見せている。





「........あぁ」



「可愛い~。もしかして、迷子犬なの?」




 こぢんまりとお座りをして、きゅるん、と首を傾げている可愛らしい犬を見て、モモネリアは駆け寄った。



「あっ......モモネリア、そいつは.......」


 焦って声をかけるも、モモネリアは犬のもとに辿り着き腰を低く落としてしまった。

 そして、あろうことかそのままヨシヨシと体を撫で始めた。

 ローネルも、お座りの姿勢のまま、気持ちよさそうに目を細め、はっはっと舌をだらんと垂らしている。


 イラァッと、胸の内がざわつくが、仕方ないとモモネリアに説明することにした。




「.......はぁ。モモネリア、そいつはどうやら、犬に姿を変えたローネルだ」


 ピタリと動きが静止する。
 


「.......ロー、ネル?......え、だって......」




 口をパクパクさせながら、何かブツブツ呟く婚約者に、リードネストはまたひとつ小さなため息を漏らす。




「......しかも......あれは、お前に会いにきた」




「むぅっ!?.....“あれ“とは、さすがに失礼じゃない?」



「.........!?」


「........そして、喋る」



「...........」



 ........よく見れば、毛並みの色や瞳が、ローネルのそれと同じだ。



「.......モモネリア」



 自分の名前を呼ばれてモモネリアは、犬を凝視する。

 間違いない。確かに、ローネルだ。




「......ローネル、久しぶりね。.....その姿、一体どうしたの?」




 しばらく言葉に迷っていた彼は、意を決して話し出した。
 モモネリアに自分の気持ちを押し付けていたこと。

 心から謝罪しに来たこと。


 そして、またモモネリアのそばにいるために、『禁術』を使って動物に姿を変えたこと。

 そして、許されるなら、これからはモモネリアの“友人“としてそばに居たいこと。



「この姿なら、リードも、モモネリアのそばに居てもいいって言ってくれるんじゃないかと思って」


 話しを聞くうちに、もともと大きなモモネリアの目はさらに溢れんばかりに見開かれていく。


 モモネリアの頭の中は、フル回転で忙しく動き回っていた。


 そんな様子をリードネストが、見逃すわけがない。




「.......もしかして、ローネルにここにいてほしいのか?」


「........っ!?......ど、どうして!?」




「.......はぁ。......お前のことは、なんとなくわかる。お前のどんな表情も、見逃したくないからな」


「.........」




 愛おしそうに、でも、困った顔で微笑むリードネストに申し訳なくなりながら、モモネリアはおずおずと口を開いた。


「.........わ、たし。.......ローネルと、友人になりたいわ」





「............」




「........ダメ?」


 リードネストの服の裾をきゅっとひっぱりながら、眉を下げて上目遣いで尋ねられれば、モモネリアに激甘なリードネストは、拒否できない。



 グッと小さく唸って、それはそれは長く、息を吐いて、諦めたように額に手を当てた。




「.........わかった」




「......本当!?」



 キラキラと目を輝かせて自分を見上げてくる番には、敵わないなぁ、と苦笑いを浮かべて、リードネストは続けた。




「あぁ。ただし.....これから上げる条件をのむなら、だ」



 モモネリアと一緒に、表情をパッと明るくして今にも邸の中に足を踏み入れようとするローネルに、リードネストは指をつき立てて制止した。




「.......ぐっ!!......はい。何なりと」




 何かとんでもない条件を出されると予感したのだろう。

 ローネルは、咄嗟に一歩後退りして、だが、仕方ないと腹を括るみたいに言葉を発した。


 案の定、リードネストが出した条件は、かなり、いや、ほとんどローネルに自由がないものだった。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~

百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。 放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!? 大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

処理中です...