3 / 3
第一章『婚約破棄、お受けいたします』
2.
しおりを挟む
「見て。本日もお一人よ」
「本当ね。お可哀想に。殿下は....」
「あそこよ。今日もあの令嬢と....」
「あら、本当。....見まして?あの距離」
「ええ。....どう考えても」
「しっ。それ以上は不敬よ」
「そうね。.....まぁ、でも....婚約者があれじゃあ、ねえ」
「....まぁね」
煌びやかなシャンデリアがキラキラと照らすホールの中央で、モーリャント王国第一王子である王太子殿下がサラサラの金髪を靡かせ青い瞳を細めて笑っていた。
隣には愛らしい薄桃色の髪の毛、同じ色の瞳の大きな目を持つ、華やかな化粧と輝くアクセサリーで彩られた令嬢が寄り添っていた。
ジェシカ・トランドル男爵令嬢。
年は私より二つ下の十八歳。確かまだ、貴族の令嬢・令息たちが通うモーリャント第一学院の学生だ。最近、街で殿下と一緒のところをよく目撃されていて貴族の間では噂になっていた。
皆、豊満な胸を押し付けるようにしなだれかかる彼女を見て、一人ぽつんと置き去りにされている殿下の婚約者である私を憐んでいる。嘲笑を含んで。
彼女らが言いたいことは大体わかる。
私の容姿が気に入らないのだ。この、地味で華やかさに欠ける姿が。自分でも自覚はあるから皆が言っていることも一理ある。
本を読み耽る手を休め、一度自分の身体に視線を落としてみる。
「............」
まぁ、少し地味かしらね。でも本を読むのにひらひら揺れるレースなんて邪魔なだけなのだもの。
私は興味を失って、そっと続きのページを開いた。
「.....ふふ」
「.........?」
すると、近くで鈴を転がす様な声で笑い声が響いた。
見ると王太子殿下と並んで立っていたトランドル男爵令嬢が一人で何かに視線を向けていた。
殿下は侍従に呼ばれ席を外した様子だ。
トランドル男爵令嬢は優雅な笑みを浮かべて、給仕からドリンクを受け取っている。
赤紫色の液体がたぷたぷと揺れるグラスを楽しそうに華奢な手に持って、コツコツ高いヒールを鳴らし近づいていく先には、一人のご令嬢。
この国の貴族の令嬢にはあまり居ないショートカットの髪の毛は、月光の如く輝く白銀色。私と同じく眼鏡をかけていて、瞳の色は判別できない。けれど通った鼻筋や艶やかな唇から整った顔のつくりであることがうかがえた。
着るドレスは他国のものだろうか。モーリャント王国の令嬢たちが着るものとは違っていて、紫のチャイナドレスに近い形だった。一見シンプルだが、生地は上質で、刺された刺繍も見事な意匠だ。
.....留学生かしら。
そう思っていると、そのご令嬢のそばまで来たトランドル男爵令嬢が、何も言わず立ったままの彼女のドレスに向かってあろうことかグラスを傾けたのだ。
「........っ」
パシャと小さく音を立てじわっとシミを広げていく液体。声にならない悲鳴をあげて一歩後ずさった令嬢をみてトランドル男爵令嬢の艶めくリップがぐにゃりといやらしく歪む。
彼女の手からグラスが手放されてヒュッと勢いを緩めず床に落ちていった。
.....カシャン!
大理石の白い床にキラキラとガラスが飛び散り、割れたグラスが無惨な破片となっていた。
その音にホールにいる全員ではないものの、近くに陣取っていた令嬢や令息たちのグループは一斉にトランドル男爵令嬢と留学生と思しきご令嬢の方を振り向く。
それを見計らってトランドル男爵令嬢が声を上げた。
「本当ね。お可哀想に。殿下は....」
「あそこよ。今日もあの令嬢と....」
「あら、本当。....見まして?あの距離」
「ええ。....どう考えても」
「しっ。それ以上は不敬よ」
「そうね。.....まぁ、でも....婚約者があれじゃあ、ねえ」
「....まぁね」
煌びやかなシャンデリアがキラキラと照らすホールの中央で、モーリャント王国第一王子である王太子殿下がサラサラの金髪を靡かせ青い瞳を細めて笑っていた。
隣には愛らしい薄桃色の髪の毛、同じ色の瞳の大きな目を持つ、華やかな化粧と輝くアクセサリーで彩られた令嬢が寄り添っていた。
ジェシカ・トランドル男爵令嬢。
年は私より二つ下の十八歳。確かまだ、貴族の令嬢・令息たちが通うモーリャント第一学院の学生だ。最近、街で殿下と一緒のところをよく目撃されていて貴族の間では噂になっていた。
皆、豊満な胸を押し付けるようにしなだれかかる彼女を見て、一人ぽつんと置き去りにされている殿下の婚約者である私を憐んでいる。嘲笑を含んで。
彼女らが言いたいことは大体わかる。
私の容姿が気に入らないのだ。この、地味で華やかさに欠ける姿が。自分でも自覚はあるから皆が言っていることも一理ある。
本を読み耽る手を休め、一度自分の身体に視線を落としてみる。
「............」
まぁ、少し地味かしらね。でも本を読むのにひらひら揺れるレースなんて邪魔なだけなのだもの。
私は興味を失って、そっと続きのページを開いた。
「.....ふふ」
「.........?」
すると、近くで鈴を転がす様な声で笑い声が響いた。
見ると王太子殿下と並んで立っていたトランドル男爵令嬢が一人で何かに視線を向けていた。
殿下は侍従に呼ばれ席を外した様子だ。
トランドル男爵令嬢は優雅な笑みを浮かべて、給仕からドリンクを受け取っている。
赤紫色の液体がたぷたぷと揺れるグラスを楽しそうに華奢な手に持って、コツコツ高いヒールを鳴らし近づいていく先には、一人のご令嬢。
この国の貴族の令嬢にはあまり居ないショートカットの髪の毛は、月光の如く輝く白銀色。私と同じく眼鏡をかけていて、瞳の色は判別できない。けれど通った鼻筋や艶やかな唇から整った顔のつくりであることがうかがえた。
着るドレスは他国のものだろうか。モーリャント王国の令嬢たちが着るものとは違っていて、紫のチャイナドレスに近い形だった。一見シンプルだが、生地は上質で、刺された刺繍も見事な意匠だ。
.....留学生かしら。
そう思っていると、そのご令嬢のそばまで来たトランドル男爵令嬢が、何も言わず立ったままの彼女のドレスに向かってあろうことかグラスを傾けたのだ。
「........っ」
パシャと小さく音を立てじわっとシミを広げていく液体。声にならない悲鳴をあげて一歩後ずさった令嬢をみてトランドル男爵令嬢の艶めくリップがぐにゃりといやらしく歪む。
彼女の手からグラスが手放されてヒュッと勢いを緩めず床に落ちていった。
.....カシャン!
大理石の白い床にキラキラとガラスが飛び散り、割れたグラスが無惨な破片となっていた。
その音にホールにいる全員ではないものの、近くに陣取っていた令嬢や令息たちのグループは一斉にトランドル男爵令嬢と留学生と思しきご令嬢の方を振り向く。
それを見計らってトランドル男爵令嬢が声を上げた。
7
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
百姓貴族だから嫌われていいますが、婚約者には愛されているのでお気になさらず!
ユウ
恋愛
社交界でツマハジキにされているうだつの上がらない伯爵令嬢のモニカは南部に位置する百姓貴族令嬢だった。
貴族とは名ばかりで同年代の貴族令嬢から見下され、冷たい扱いを受けていた。
婚約者は第二王子殿下の側近で国王からも信頼も厚く、貴族令嬢から熱い視線を向けられていた。
誰もが相応しくないと言われてしまう。
「別れなさい。愛のない婚約なんて気の毒だわ」
誰からも祝福されない婚約だと言われ悲しむモニカは悲しみのあまり学校を休んでしまうのだが、その間にとんでもない事件が起きるのだった。
学園内で婚約破棄が流行し、数多の令嬢が公の場で婚約破棄を告げられてしまうのだ。
領地に戻っていたモニカは何も知らずにいたのだが…
「どうして貴女だけ婚約破棄をされていないのよ!」
婚約破棄された令嬢がモニカに八つ当たりをしてきたのだったが…
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
25番目の花嫁 ~妹の身代わりで嫁いだら、冷徹公爵が私を溺愛し始めました~
朝日みらい
恋愛
王都の春。
貴族令嬢リリアーナ・エインズワースは、第一王子ライオネル殿下との婚約を一方的に破棄された。
涙を見せないことが、彼女に残された唯一の誇りだった。だが運命は、彼女を思いがけない方向へ導く。
「氷の公爵」と呼ばれる孤高の男、ヴァレンティーヌ公爵。
二十四人の花嫁候補を断り続けた彼の元へ、「二十五番目の花嫁」として赴いたリリアーナ。
家の体裁のための結婚――そう割り切っていたはずなのに、氷のような瞳の奥に垣間見えた孤独が、彼女の心に小さな炎を灯してゆく。
今さら執着されても困ります
メイリリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」
婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった――
アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。
いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。
蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。
ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。
「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」
ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。
彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。
一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる