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第一章 回想
光春(みつはる)①
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花乃は19歳になっていた。
最近の花乃は起き上がるのも難しいほど、病魔に侵され、すぐにバイタルが急変するようになった。
そんな状況に、母・照乃も精神的に落ち込み、父・啓治も仕事を休んで二人で泊まり込むようになっている。
「...おばさん、おじさん。花乃の様子はどうですか?」
「あぁ、千春くん。...今日も来てくれたのか」
気づかぬうちに、ドアをノックしていたらしい千春が、反応のない病室をちらりとのぞいて声をかけてきた。
「はい。花乃が心配で...」
そう言いながら、ゆっくり足を踏み入れる。
「...目を覚まさないんだ。昨日、夜中にまた急変してね。どんどんバイタルが落ちるから...もうダメかと思ったけれど...何とか持ちこたえてくれたよ」
「...花乃。花乃?...なぁ、聞こえるか?今日は花乃の好きな書天堂の筆饅頭買って来たぞ。ほら...いい匂いだろ?食べたかったら、目、覚ませよ」
花乃の好きな店の筆の先のような形をしている饅頭を千春が、彼女の鼻先に近づける。
「...いつもありがとうね。全くこの子は、本当、心配ばっかりかけて。...早く起きて、笑ってほしいわ」
「.......」
ぐすっと鼻をすすって笑う花乃の母は、見ていられないほど辛そうだった。
「千春くん、大事な試験受かったんだって?春から研修医か。立派になって」
啓治が、しみじみと千春をみて言った。先日、国家試験の合格を経て、千春は春から研修医になることが決まっていた。
「...ありがとう、ございます」
千春は、花乃が心配で、上の空で答えていた。花乃は目を覚まさず、千春は面会時間ギリギリまで居て、帰っていった。
*******
そんな時だった。千春の兄が亡くなったのは。
時間を見つけて花乃の顔を見に来ていた千春は、まだ目を覚まさない友人の頬を撫でながら、今日あった出来事や花乃に話したいことを話していた。聞こえていると信じて。
すると、忙しない足音が廊下から響いてきたかと思うと、ガラッと大きく音を立ててドアが開いた。
「千春!た、大変なの!み、み、光春が...事故にあったって!」
母・名子が青ざめた顔で震えながら病室に駆け込んできた。千春は、すごい力で縋り付いてくる母を宥めつつ、冷静に病院を聞き出し、花乃の両親に理由を告げて病室をあとにした。
急いでそちらに向かう。
「...即死ですね。打ちどころが悪かったのでしょう。運ばれて来た時にはすでに心肺停止状態。手の施しようがありませんでした」
「そ、そんなっ!いや...いやよ、光春!光春ー!目を開けてちょうだい!どうして、どうして...この子がこんな目に...!」
千春は、医者の言葉に泣き崩れる母をただ黙って見ているしかなかった。
********
「本当、どうしてあんな優秀な子が」
「飲酒運転の車だったらしい」
「まぁ...世の中わからないもんじゃな」
「立派な後継ぎがいて、この病院は安泰だとおもうとったのに」
大人たちが勝手なことをヒソヒソ話していた。横で焦燥している母は、そんな声聞こえてなどいない。
兄の光春は、将来の後継ぎとして優秀な人間だった。
頭もよく、常に成績はトップクラス。聞き分けもいい。大人に反論など、ただの一度もしたことがない。
そんな人間を、祖父や父、母。周りの近しい大人たちは自慢に思っていたのだろう。
光春の注目度が高まれば高まるほど、弟・千春への関心が薄れた。元々高圧的な祖父や、祖父の操り人形でしかない父には嫌気がさしていたからそれでよかった。むしろ、ありがたかった。
あんな家でも、比較的、千春は自由を与えてもらっていたのは間違いなく、兄のおかげだった。
大きくなった今なら、それがよくわかる。
もしかしたら、光春は千春に重圧がのしかからないように隠れ蓑になってくれていたのかもしれない。
そんなことを考えると、急に涙腺が緩んだ。
優しい兄だったと思う。常に大人たちが周りにいて、兄弟同士で話す時間などほとんどなかったけれど。
こんなことなら、もっと兄と話をしていれば良かった。
後悔しても遅い、ということを千春は身にしみて感じていた。
最近の花乃は起き上がるのも難しいほど、病魔に侵され、すぐにバイタルが急変するようになった。
そんな状況に、母・照乃も精神的に落ち込み、父・啓治も仕事を休んで二人で泊まり込むようになっている。
「...おばさん、おじさん。花乃の様子はどうですか?」
「あぁ、千春くん。...今日も来てくれたのか」
気づかぬうちに、ドアをノックしていたらしい千春が、反応のない病室をちらりとのぞいて声をかけてきた。
「はい。花乃が心配で...」
そう言いながら、ゆっくり足を踏み入れる。
「...目を覚まさないんだ。昨日、夜中にまた急変してね。どんどんバイタルが落ちるから...もうダメかと思ったけれど...何とか持ちこたえてくれたよ」
「...花乃。花乃?...なぁ、聞こえるか?今日は花乃の好きな書天堂の筆饅頭買って来たぞ。ほら...いい匂いだろ?食べたかったら、目、覚ませよ」
花乃の好きな店の筆の先のような形をしている饅頭を千春が、彼女の鼻先に近づける。
「...いつもありがとうね。全くこの子は、本当、心配ばっかりかけて。...早く起きて、笑ってほしいわ」
「.......」
ぐすっと鼻をすすって笑う花乃の母は、見ていられないほど辛そうだった。
「千春くん、大事な試験受かったんだって?春から研修医か。立派になって」
啓治が、しみじみと千春をみて言った。先日、国家試験の合格を経て、千春は春から研修医になることが決まっていた。
「...ありがとう、ございます」
千春は、花乃が心配で、上の空で答えていた。花乃は目を覚まさず、千春は面会時間ギリギリまで居て、帰っていった。
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そんな時だった。千春の兄が亡くなったのは。
時間を見つけて花乃の顔を見に来ていた千春は、まだ目を覚まさない友人の頬を撫でながら、今日あった出来事や花乃に話したいことを話していた。聞こえていると信じて。
すると、忙しない足音が廊下から響いてきたかと思うと、ガラッと大きく音を立ててドアが開いた。
「千春!た、大変なの!み、み、光春が...事故にあったって!」
母・名子が青ざめた顔で震えながら病室に駆け込んできた。千春は、すごい力で縋り付いてくる母を宥めつつ、冷静に病院を聞き出し、花乃の両親に理由を告げて病室をあとにした。
急いでそちらに向かう。
「...即死ですね。打ちどころが悪かったのでしょう。運ばれて来た時にはすでに心肺停止状態。手の施しようがありませんでした」
「そ、そんなっ!いや...いやよ、光春!光春ー!目を開けてちょうだい!どうして、どうして...この子がこんな目に...!」
千春は、医者の言葉に泣き崩れる母をただ黙って見ているしかなかった。
********
「本当、どうしてあんな優秀な子が」
「飲酒運転の車だったらしい」
「まぁ...世の中わからないもんじゃな」
「立派な後継ぎがいて、この病院は安泰だとおもうとったのに」
大人たちが勝手なことをヒソヒソ話していた。横で焦燥している母は、そんな声聞こえてなどいない。
兄の光春は、将来の後継ぎとして優秀な人間だった。
頭もよく、常に成績はトップクラス。聞き分けもいい。大人に反論など、ただの一度もしたことがない。
そんな人間を、祖父や父、母。周りの近しい大人たちは自慢に思っていたのだろう。
光春の注目度が高まれば高まるほど、弟・千春への関心が薄れた。元々高圧的な祖父や、祖父の操り人形でしかない父には嫌気がさしていたからそれでよかった。むしろ、ありがたかった。
あんな家でも、比較的、千春は自由を与えてもらっていたのは間違いなく、兄のおかげだった。
大きくなった今なら、それがよくわかる。
もしかしたら、光春は千春に重圧がのしかからないように隠れ蓑になってくれていたのかもしれない。
そんなことを考えると、急に涙腺が緩んだ。
優しい兄だったと思う。常に大人たちが周りにいて、兄弟同士で話す時間などほとんどなかったけれど。
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後悔しても遅い、ということを千春は身にしみて感じていた。
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