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第四章 千春
過去④
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千春は、花乃の25歳の誕生日を祝ったあと、数日は普通に勤務していた。
その日も、いつも通り病院のドアをくぐろうとしたところで、近くに男性が立っているのが見えた。
男性は、千春を見つけるなり駆け寄ってくる。
「...手越 千春さんですか?私、地方新聞の者ですが」
そして、取り出したのはメモとレコーダーだった。
千春は、内心思った。
勘づかれたか。
誰かからの密告だろうか。
隠蔽している時点で、可能性はあるだろう。
研究棟の職員や、薬の紛失はなかったというこじつけに疑問を抱いている者。時が経って、誰かがリークしたとしてもおかしくない。
「...はい」
「お話、よろしいですか?」
「...今日は、仕事がつまっておりますので」
男の視線が突き刺さったが、足早に病院のドアを通り抜けた。
それ以上男がつきまとってくることはなく、ものかげからガラス越しに様子をうかがっていると、大人しく帰っていくのが見えた。
だが、もう時間はないかもしれないと悟った。
花乃の薬の完成を急がなければならない。
花乃は、19歳のピークの頃を境に、容体は落ち着いている。一見元気に見えるが、長年投与されたものは簡単には体から抜けてくれない。何もしなければ、浸透していくだけ。
いずれ、迎える結果は遅かれ早かれ同じだろう。
新聞記者が、事件を探っているなら完成を急ぐしかない。先に、真実を明らかにされれば、今度こそ確実に研究はできず、薬を仕上げることなんて出来なくなる。
もう、千春は隠蔽に加担してしまっているのだ。
世間や法から見たら、開発のためだなんて理由にならない。
千春は、その足で祖父の執務室に向かった。
「開発に集中する時間が欲しいのです。.....私を、この病院の医師から外して下さい」
「...なぜだ」
理由を言えば、祖父はまた何か画策し始めるかもしれない。千春は薬の完成を急ぎたいだけだ。
新たな策を講じられて、その結果、花乃や...新聞記者。他の者に何か起こることは避けたい。
最終的に、完成さえすれば...花乃を如月に任せて、警察にいくつもりなのだ。罪は、償う。
逃げおおせたい祖父とは、根本的に考えていることが違った。
記者が来たことは、伏せて説明した。
花乃の容体から、完成を急ぎたくなった、と。
「...いいだろう。すぐに新しい医師を手配する」
祖父は、頷いてくれた。
花乃が亡くなれば、自分にも都合が悪いと判断したのかもしれない。
そしてーー。
千春は研究に必要なものを持って、家の別宅にこもった。
誰から連絡が来ても、出なかった。
(もう俺は、あの日常には戻れない...)
花乃とは、これっきり。
花乃の人生に、自分はいてはいけない。
ごめんな....嘘、ついてて。
ずっと、黙っててごめん。
(....これだけは...絶対完成させるから)
ーーだから、花乃。幸せになって。
千春は、花乃のことだけを考えて、昼夜問わず開発し続けた。
◇
「....で、きた」
花乃の薬が、完成した。
きっとこれでーー花乃の身体はよくなる。
千春は、すぐに如月に荷物を送った。
振り回している友人へ、お詫びも兼ねて...友人の恋のささやかな応援メッセージも最後に添えて。
如月への手紙に、花乃にはラジオもテレビも。電気機器を一切禁止してくれと頼んだ。
絶対に、ニュースが耳に入らないようにしたかった。
せめて、花乃の治療が終わるまでは....出来うる限り心穏やかに過ごしてほしい。自分たちのことで、心を乱してほしくない。
千春は警察に向かった。
如月に荷物を届けた足で、そのまままっすぐ。
ーー今から全ての事情を話す。
◇
気がかりだった、花乃への事情聴取は避けることができた。当時一歳の花乃より、保護者の事情聴取が優先されたためだ。
そしてーー。
千春は情状酌量の余地があるとして、罪に問われなかった。
花乃の両親が、必死に訴えてくれたのだ。
千春が黙っていたのは、花乃の身体を治すためだと。
事実、花乃は治療を開始しており、快方に向かっていたから。
◇
祖父と父は、隠蔽した事実は重く、執行猶予付き。
病院は数年の業務停止命令。
母は...息子の千春が薬を開発したことを鑑みて、執行猶予付きに減刑してもらうことができた。
****
全てが終わりを迎えた後ーー。
千春は、単身渡米した。
大規模な研究所に誘ってもらって。
千春は、花乃の25歳の誕生日を祝ったあと、数日は普通に勤務していた。
その日も、いつも通り病院のドアをくぐろうとしたところで、近くに男性が立っているのが見えた。
男性は、千春を見つけるなり駆け寄ってくる。
「...手越 千春さんですか?私、地方新聞の者ですが」
そして、取り出したのはメモとレコーダーだった。
千春は、内心思った。
勘づかれたか。
誰かからの密告だろうか。
隠蔽している時点で、可能性はあるだろう。
研究棟の職員や、薬の紛失はなかったというこじつけに疑問を抱いている者。時が経って、誰かがリークしたとしてもおかしくない。
「...はい」
「お話、よろしいですか?」
「...今日は、仕事がつまっておりますので」
男の視線が突き刺さったが、足早に病院のドアを通り抜けた。
それ以上男がつきまとってくることはなく、ものかげからガラス越しに様子をうかがっていると、大人しく帰っていくのが見えた。
だが、もう時間はないかもしれないと悟った。
花乃の薬の完成を急がなければならない。
花乃は、19歳のピークの頃を境に、容体は落ち着いている。一見元気に見えるが、長年投与されたものは簡単には体から抜けてくれない。何もしなければ、浸透していくだけ。
いずれ、迎える結果は遅かれ早かれ同じだろう。
新聞記者が、事件を探っているなら完成を急ぐしかない。先に、真実を明らかにされれば、今度こそ確実に研究はできず、薬を仕上げることなんて出来なくなる。
もう、千春は隠蔽に加担してしまっているのだ。
世間や法から見たら、開発のためだなんて理由にならない。
千春は、その足で祖父の執務室に向かった。
「開発に集中する時間が欲しいのです。.....私を、この病院の医師から外して下さい」
「...なぜだ」
理由を言えば、祖父はまた何か画策し始めるかもしれない。千春は薬の完成を急ぎたいだけだ。
新たな策を講じられて、その結果、花乃や...新聞記者。他の者に何か起こることは避けたい。
最終的に、完成さえすれば...花乃を如月に任せて、警察にいくつもりなのだ。罪は、償う。
逃げおおせたい祖父とは、根本的に考えていることが違った。
記者が来たことは、伏せて説明した。
花乃の容体から、完成を急ぎたくなった、と。
「...いいだろう。すぐに新しい医師を手配する」
祖父は、頷いてくれた。
花乃が亡くなれば、自分にも都合が悪いと判断したのかもしれない。
そしてーー。
千春は研究に必要なものを持って、家の別宅にこもった。
誰から連絡が来ても、出なかった。
(もう俺は、あの日常には戻れない...)
花乃とは、これっきり。
花乃の人生に、自分はいてはいけない。
ごめんな....嘘、ついてて。
ずっと、黙っててごめん。
(....これだけは...絶対完成させるから)
ーーだから、花乃。幸せになって。
千春は、花乃のことだけを考えて、昼夜問わず開発し続けた。
◇
「....で、きた」
花乃の薬が、完成した。
きっとこれでーー花乃の身体はよくなる。
千春は、すぐに如月に荷物を送った。
振り回している友人へ、お詫びも兼ねて...友人の恋のささやかな応援メッセージも最後に添えて。
如月への手紙に、花乃にはラジオもテレビも。電気機器を一切禁止してくれと頼んだ。
絶対に、ニュースが耳に入らないようにしたかった。
せめて、花乃の治療が終わるまでは....出来うる限り心穏やかに過ごしてほしい。自分たちのことで、心を乱してほしくない。
千春は警察に向かった。
如月に荷物を届けた足で、そのまままっすぐ。
ーー今から全ての事情を話す。
◇
気がかりだった、花乃への事情聴取は避けることができた。当時一歳の花乃より、保護者の事情聴取が優先されたためだ。
そしてーー。
千春は情状酌量の余地があるとして、罪に問われなかった。
花乃の両親が、必死に訴えてくれたのだ。
千春が黙っていたのは、花乃の身体を治すためだと。
事実、花乃は治療を開始しており、快方に向かっていたから。
◇
祖父と父は、隠蔽した事実は重く、執行猶予付き。
病院は数年の業務停止命令。
母は...息子の千春が薬を開発したことを鑑みて、執行猶予付きに減刑してもらうことができた。
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全てが終わりを迎えた後ーー。
千春は、単身渡米した。
大規模な研究所に誘ってもらって。
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