【完】25年後、君と答え合わせ

こころ ゆい

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第四章 千春

過去④

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****

 千春は、花乃の25歳の誕生日を祝ったあと、数日は普通に勤務していた。

 その日も、いつも通り病院のドアをくぐろうとしたところで、近くに男性が立っているのが見えた。

 男性は、千春を見つけるなり駆け寄ってくる。

「...手越 千春さんですか?私、地方新聞の者ですが」

 そして、取り出したのはメモとレコーダーだった。

 千春は、内心思った。
 勘づかれたか。

 誰かからの密告だろうか。
 隠蔽している時点で、可能性はあるだろう。
 研究棟の職員や、薬の紛失はなかったというこじつけに疑問を抱いている者。時が経って、誰かがリークしたとしてもおかしくない。

「...はい」
「お話、よろしいですか?」
「...今日は、仕事がつまっておりますので」

 男の視線が突き刺さったが、足早に病院のドアを通り抜けた。
 それ以上男がつきまとってくることはなく、ものかげからガラス越しに様子をうかがっていると、大人しく帰っていくのが見えた。

 だが、もう時間はないかもしれないと悟った。
 花乃の薬の完成を急がなければならない。

 花乃は、19歳のピークの頃を境に、容体は落ち着いている。一見元気に見えるが、長年投与されたものは簡単には体から抜けてくれない。何もしなければ、浸透していくだけ。
 いずれ、迎える結果は遅かれ早かれ同じだろう。

 新聞記者が、事件を探っているなら完成を急ぐしかない。先に、真実を明らかにされれば、今度こそ確実に研究はできず、薬を仕上げることなんて出来なくなる。

 もう、千春は隠蔽に加担してしまっているのだ。
 世間や法から見たら、開発のためだなんて理由にならない。

 千春は、その足で祖父の執務室に向かった。

「開発に集中する時間が欲しいのです。.....私を、この病院の医師から外して下さい」
「...なぜだ」

 理由を言えば、祖父はまた何か画策し始めるかもしれない。千春は薬の完成を急ぎたいだけだ。
 新たな策を講じられて、その結果、花乃や...新聞記者。他の者に何か起こることは避けたい。

 最終的に、完成さえすれば...花乃を如月に任せて、警察にいくつもりなのだ。罪は、償う。
 逃げおおせたい祖父とは、根本的に考えていることが違った。

 記者が来たことは、伏せて説明した。
 花乃の容体から、完成を急ぎたくなった、と。

「...いいだろう。すぐに新しい医師を手配する」

 祖父は、頷いてくれた。
 花乃が亡くなれば、自分にも都合が悪いと判断したのかもしれない。

 そしてーー。

 千春は研究に必要なものを持って、家の別宅にこもった。

 誰から連絡が来ても、出なかった。

(もう俺は、あの日常には戻れない...)

 花乃とは、これっきり。
 花乃の人生に、自分はいてはいけない。

 ごめんな....嘘、ついてて。
 ずっと、黙っててごめん。

(....これだけは...絶対完成させるから)

 ーーだから、花乃。幸せになって。

 千春は、花乃のことだけを考えて、昼夜問わず開発し続けた。



「....で、きた」

 花乃の薬が、完成した。
 きっとこれでーー花乃の身体はよくなる。

 千春は、すぐに如月に荷物を送った。
 振り回している友人へ、お詫びも兼ねて...友人の恋のささやかな応援メッセージも最後に添えて。

 如月への手紙に、花乃にはラジオもテレビも。電気機器を一切禁止してくれと頼んだ。

 絶対に、ニュースが耳に入らないようにしたかった。

 せめて、花乃の治療が終わるまでは....出来うる限り心穏やかに過ごしてほしい。自分たちのことで、心を乱してほしくない。

 千春は警察に向かった。
 如月に荷物を届けた足で、そのまままっすぐ。

 ーー今から全ての事情を話す。



 気がかりだった、花乃への事情聴取は避けることができた。当時一歳の花乃より、保護者の事情聴取が優先されたためだ。

 そしてーー。
 
 千春は情状酌量の余地があるとして、罪に問われなかった。

 花乃の両親が、必死に訴えてくれたのだ。
 千春が黙っていたのは、花乃の身体を治すためだと。

 事実、花乃は治療を開始しており、快方に向かっていたから。



 祖父と父は、隠蔽した事実は重く、執行猶予付き。
 病院は数年の業務停止命令。

 母は...息子の千春が薬を開発したことを鑑みて、執行猶予付きに減刑してもらうことができた。

****

 全てが終わりを迎えた後ーー。
 千春は、単身渡米した。
 大規模な研究所に誘ってもらって。








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