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ジャッカルはひたすらに愛を囁く
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「...ここか」
異国情緒あふれる建物が建ち並ぶ坂道を、長くのぼった先...赤い屋根、壁は黄みがかったクリーム色に塗られた大きなお屋敷。
高台に建つその家は、玄翠がのぼってきた坂道とは反対側に青く大きな海が広がっていた。
とても景色がいい場所だ。
ものかげから、そっと頭を出して様子をうかがった玄翠は、すぐに気づいた。広く整えられた庭に、誰かいるのだ。季節の花が咲き乱れ、大事に育てられているのがありありとわかる。
「...か、彼女だ」
明るく陽のあたる美しい庭で、何やらせっせと作業している女性。
日差し避けのつばの広い帽子を被り、着物スタイルだが、長い袂をたすきであげている。細く白い手でホースを持って、花に水をやっていた。
絹のように滑らかな黒髪はひとつに結われ、日に焼けていない肌は透き通るような白。儚い雰囲気をもつ大和撫子だ。大きな目と長いまつ毛、通った鼻筋、ふっくら柔らかそうな赤い唇の...美しい女性。
玄翠が会いたくてたまらなかった人物。
心臓の鼓動は、どんどんスピードをあげ早鐘を打ち始めた。
(...やっぱり彼女だ)
自分の直感は正しかった。
****
ガタッ。
「...ふぅ。これくらいかしら?...いたた。だめね、無理をしたら」
ヒョコっと片足を引き摺りながら、庭の真ん中に置いてある木製の一人がけ椅子まで戻り、腰掛けた。
「...はぁ。綺麗ね。お花さんたちが喜んでくれてるわ」
お水をやったあとの庭が、好きだ。水の粒がキラキラ光を反射して綺麗だし....花はふるふると揺れ、美味しい水をコクコク飲んでいるみたい。美波には、そう見えていた。
「...気持ちいい。本当、いい天気」
あったかい陽だまりで、いつしか美波はうとうとし始めるーー。
****
そうして、いつの間にか眠っていたらしい。
ふと意識が浮上して、むくっと体を起こした。
「...ふぁ。やだ、私...寝ちゃってた?」
目を擦り、ゆっくりと周りを見回す。
と、そこに見慣れない影が見えた。
起きたばかりで焦点の合わない目でじっと見据えて、ぼんやりする頭で考える。
「...どなたですか?」
ようやく覚醒してきて、美波はゆっくり口を開いてその影に尋ねた。声は強張り、警戒していることが伝わる。
「ああ。...突然、申し訳ない。あまりにもお花が綺麗に咲いていたものですから。失礼かと思いながら、眺めさせて頂いておりました」
家の庭をぐるりと囲んでいる、白く塗られた背の低い木の柵の向こうに....知らない男性が立っていた。
仕立てのいいスーツを着て、スラッとしてとても背が高い。中性的で綺麗な顔立ちをしている、爽やかな男性。
男性は、何とも優しげな笑みを浮かべて、聞いているだけで力が抜けてしまいそうになるほど耳に心地いい声で答えた。
「...お花を?」
だが、美波は警戒を緩めない。
明らかに、不審者に向ける目をしていた。
そろそろと立ち上がり、椅子の背の方へ回る。
いつでも家に駆け込める体勢をとった。
「....あの、怪しい者じゃありません。僕は」
男が少しだけ慌てて、何か言おうとしたが、美波はこれ以上会話する気はなかった。怪しい者じゃないという人ほど、怪しい。美波の警戒心は、最高値まで高まっていた。
「...申し訳ありません。知らない方とは話さないよう言われておりますので」
「あ...」
それだけ言って、美波は急いでドアをくぐって中に入ってしまった。
****
ガックリ。
玄翠は閉じられたドアを見ながら、項垂れた。
やってしまった。データにも、警戒心が強いとあったはずなのに。
(...寝顔、可愛すぎるだろ)
彼女の立てる甘い寝息が、玄翠の人よりいい耳に届いて、誘われるようにものかげから離れ近づいた。
そして、のぞいた先に見える愛らしい寝顔に、見惚れていた。
「俺は、君と話したいんだ。...仲良く、なりたいんだよ」
会う前より、枯渇感がひどくなる。
まるで、太陽が照りつける砂漠に立っている気分だ。
(...もっと君を知りたい)
だって、できたら君に想ってもらいたい。
法で花嫁になってもらうより、君の意思で...俺を選んでほしいんだ。
さっきまで、最後は、強制的にでも君を手に入れられると知って...誰にも渡さないで済むと安心していたはずなのに。
君に会えたら、自分と同じように君にも愛されたくてたまらなくなるなんて。
はぁ、とため息をついたまま、玄翠はしばらく立ち上がれなかった。
ーーそして、そこから、玄翠の猛アプローチ...求愛行動の日々が始まったのだ。
異国情緒あふれる建物が建ち並ぶ坂道を、長くのぼった先...赤い屋根、壁は黄みがかったクリーム色に塗られた大きなお屋敷。
高台に建つその家は、玄翠がのぼってきた坂道とは反対側に青く大きな海が広がっていた。
とても景色がいい場所だ。
ものかげから、そっと頭を出して様子をうかがった玄翠は、すぐに気づいた。広く整えられた庭に、誰かいるのだ。季節の花が咲き乱れ、大事に育てられているのがありありとわかる。
「...か、彼女だ」
明るく陽のあたる美しい庭で、何やらせっせと作業している女性。
日差し避けのつばの広い帽子を被り、着物スタイルだが、長い袂をたすきであげている。細く白い手でホースを持って、花に水をやっていた。
絹のように滑らかな黒髪はひとつに結われ、日に焼けていない肌は透き通るような白。儚い雰囲気をもつ大和撫子だ。大きな目と長いまつ毛、通った鼻筋、ふっくら柔らかそうな赤い唇の...美しい女性。
玄翠が会いたくてたまらなかった人物。
心臓の鼓動は、どんどんスピードをあげ早鐘を打ち始めた。
(...やっぱり彼女だ)
自分の直感は正しかった。
****
ガタッ。
「...ふぅ。これくらいかしら?...いたた。だめね、無理をしたら」
ヒョコっと片足を引き摺りながら、庭の真ん中に置いてある木製の一人がけ椅子まで戻り、腰掛けた。
「...はぁ。綺麗ね。お花さんたちが喜んでくれてるわ」
お水をやったあとの庭が、好きだ。水の粒がキラキラ光を反射して綺麗だし....花はふるふると揺れ、美味しい水をコクコク飲んでいるみたい。美波には、そう見えていた。
「...気持ちいい。本当、いい天気」
あったかい陽だまりで、いつしか美波はうとうとし始めるーー。
****
そうして、いつの間にか眠っていたらしい。
ふと意識が浮上して、むくっと体を起こした。
「...ふぁ。やだ、私...寝ちゃってた?」
目を擦り、ゆっくりと周りを見回す。
と、そこに見慣れない影が見えた。
起きたばかりで焦点の合わない目でじっと見据えて、ぼんやりする頭で考える。
「...どなたですか?」
ようやく覚醒してきて、美波はゆっくり口を開いてその影に尋ねた。声は強張り、警戒していることが伝わる。
「ああ。...突然、申し訳ない。あまりにもお花が綺麗に咲いていたものですから。失礼かと思いながら、眺めさせて頂いておりました」
家の庭をぐるりと囲んでいる、白く塗られた背の低い木の柵の向こうに....知らない男性が立っていた。
仕立てのいいスーツを着て、スラッとしてとても背が高い。中性的で綺麗な顔立ちをしている、爽やかな男性。
男性は、何とも優しげな笑みを浮かべて、聞いているだけで力が抜けてしまいそうになるほど耳に心地いい声で答えた。
「...お花を?」
だが、美波は警戒を緩めない。
明らかに、不審者に向ける目をしていた。
そろそろと立ち上がり、椅子の背の方へ回る。
いつでも家に駆け込める体勢をとった。
「....あの、怪しい者じゃありません。僕は」
男が少しだけ慌てて、何か言おうとしたが、美波はこれ以上会話する気はなかった。怪しい者じゃないという人ほど、怪しい。美波の警戒心は、最高値まで高まっていた。
「...申し訳ありません。知らない方とは話さないよう言われておりますので」
「あ...」
それだけ言って、美波は急いでドアをくぐって中に入ってしまった。
****
ガックリ。
玄翠は閉じられたドアを見ながら、項垂れた。
やってしまった。データにも、警戒心が強いとあったはずなのに。
(...寝顔、可愛すぎるだろ)
彼女の立てる甘い寝息が、玄翠の人よりいい耳に届いて、誘われるようにものかげから離れ近づいた。
そして、のぞいた先に見える愛らしい寝顔に、見惚れていた。
「俺は、君と話したいんだ。...仲良く、なりたいんだよ」
会う前より、枯渇感がひどくなる。
まるで、太陽が照りつける砂漠に立っている気分だ。
(...もっと君を知りたい)
だって、できたら君に想ってもらいたい。
法で花嫁になってもらうより、君の意思で...俺を選んでほしいんだ。
さっきまで、最後は、強制的にでも君を手に入れられると知って...誰にも渡さないで済むと安心していたはずなのに。
君に会えたら、自分と同じように君にも愛されたくてたまらなくなるなんて。
はぁ、とため息をついたまま、玄翠はしばらく立ち上がれなかった。
ーーそして、そこから、玄翠の猛アプローチ...求愛行動の日々が始まったのだ。
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