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冷然たる狐は甘い熱に翻弄される
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放課後。全ての講義を終えて、大学内に残る生徒の姿はまばらだった。
最近、日が暮れるのが早くなり。すでに藍色の空が窓の向こうからやってきている。
コツ...コツ...コツ。
カチャリ。
「....今日も、か。全く」
ドアのそばから教室内を見回し、十治はため息をついた。その声には、若干の諦めも滲み始めている。
今日は、黒板に真っ直ぐ向かわず、再び黒板の方から後列の席の辺りへと視線を滑らせていく。
「.....いるんだろ。橋本」
その声音は、茜を咎めるでもなく、ただ、わかっているぞと主張していた。
カタリ。
「...えへへ」
静かな物音とともに、最後列の椅子の陰に茜が姿を現す。手を後ろに回して、イタズラがバレた子供みたいに笑った。
十治は、ゆっくりと緩やかに階段になっている最後列までの道を一列目から順に進んでいった。
そして、茜のもとまでたどり着く。
「....落書きは、ダメだと言ってるだろう?」
「....ごめん、なさい」
昨日と同じ表情で、しゅんと項垂れる茜を見下ろして....十治は思わずといった声で言った。
「....何なんだ」
「....え?」
十治は、無意識に漏れたその言葉を引っ込めようと、ハッと口元を覆う。だが、すでに茜の耳に届いたあとだった。
仕方なく、続きを口にした。
「....あの、落書きは一体何なんだ」
「あ....」
やっと十治の言っている意味がわかって、茜は納得した様子を見せる。そして、ますます意味がつかめないことを言い出したのだ。
「....えへへ。内緒です。...“なぞなぞ“を解いてくれたら、きっと意味がわかりますよ?」
得意げな顔でそう口にして、嬉しそうに笑う。
しばらく何も言葉にならない十治と茜の視線は、絡まり合った。
何事にも冷静で....冷然たる十治は、何故か茜から目が離せなかった。
ハッと我に返って、十治は黒板に視線をうつす。
(この子といると...調子が狂う)
十治は、内心、乱される心を落ち着けるように茜の書いた“なぞなぞ“を読み上げていった。
「....どこにでもある身近な素材です。なんだ?...か」
口に出して読む十治の横顔を茜が見て、また嬉しそうな表情を見せる。
「....頑張って下さいね?....とうじ、せんせ?」
そして、パタパタと最前列まで足早におりていき、再び十治を振り返る。
「...また明日。さようなら、先生」
変わり身のはやさに反応が遅れたが、十治は表情を変えずに返事を返す。
「....ああ。気をつけて帰れよ」
「....はぁい」
十治は、最後の茜がドアの向こうに消えていき、誰も居なくなった教室で....今日の“なぞなぞ“を見つめ...最前列へと歩いていった。
放課後。全ての講義を終えて、大学内に残る生徒の姿はまばらだった。
最近、日が暮れるのが早くなり。すでに藍色の空が窓の向こうからやってきている。
コツ...コツ...コツ。
カチャリ。
「....今日も、か。全く」
ドアのそばから教室内を見回し、十治はため息をついた。その声には、若干の諦めも滲み始めている。
今日は、黒板に真っ直ぐ向かわず、再び黒板の方から後列の席の辺りへと視線を滑らせていく。
「.....いるんだろ。橋本」
その声音は、茜を咎めるでもなく、ただ、わかっているぞと主張していた。
カタリ。
「...えへへ」
静かな物音とともに、最後列の椅子の陰に茜が姿を現す。手を後ろに回して、イタズラがバレた子供みたいに笑った。
十治は、ゆっくりと緩やかに階段になっている最後列までの道を一列目から順に進んでいった。
そして、茜のもとまでたどり着く。
「....落書きは、ダメだと言ってるだろう?」
「....ごめん、なさい」
昨日と同じ表情で、しゅんと項垂れる茜を見下ろして....十治は思わずといった声で言った。
「....何なんだ」
「....え?」
十治は、無意識に漏れたその言葉を引っ込めようと、ハッと口元を覆う。だが、すでに茜の耳に届いたあとだった。
仕方なく、続きを口にした。
「....あの、落書きは一体何なんだ」
「あ....」
やっと十治の言っている意味がわかって、茜は納得した様子を見せる。そして、ますます意味がつかめないことを言い出したのだ。
「....えへへ。内緒です。...“なぞなぞ“を解いてくれたら、きっと意味がわかりますよ?」
得意げな顔でそう口にして、嬉しそうに笑う。
しばらく何も言葉にならない十治と茜の視線は、絡まり合った。
何事にも冷静で....冷然たる十治は、何故か茜から目が離せなかった。
ハッと我に返って、十治は黒板に視線をうつす。
(この子といると...調子が狂う)
十治は、内心、乱される心を落ち着けるように茜の書いた“なぞなぞ“を読み上げていった。
「....どこにでもある身近な素材です。なんだ?...か」
口に出して読む十治の横顔を茜が見て、また嬉しそうな表情を見せる。
「....頑張って下さいね?....とうじ、せんせ?」
そして、パタパタと最前列まで足早におりていき、再び十治を振り返る。
「...また明日。さようなら、先生」
変わり身のはやさに反応が遅れたが、十治は表情を変えずに返事を返す。
「....ああ。気をつけて帰れよ」
「....はぁい」
十治は、最後の茜がドアの向こうに消えていき、誰も居なくなった教室で....今日の“なぞなぞ“を見つめ...最前列へと歩いていった。
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