【13章まで完結】25人の花嫁候補から、獣人の愛され花嫁に選ばれました。

こころ ゆい

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ハシビロコウの夫婦二人で(三章の『その後』です)

2 〔完〕

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 カチャ....。

「あ...青司さん。寝かしつけ、ありがとう」

 どのくらい経っただろうか。
 青司が寝かしつけを終え、再びリビングに入ってきた。ソファに腰掛けて考え事をしていた桜子は、振り返る。

「ああ、どうってことないよ。...絵本を読んだらすぐに寝ついてくれた」
「ふふ、久しぶりにパパに会えてはしゃいでたから。きっと疲れてたんでしょうね」

 笑った桜子は、「あ、コーヒーでも淹れましょうか?」と立ち上がった。

「....いや....コーヒーより」
「.......?」

 青司は桜子の隣までやってきて、また彼女をソファへと促した。

 先ほどまでの賑やかさはなく。二人だけのリビングはシンと落ち着いた静けさが際立っている。
 照明は、控えめの明るさに照度を下げていて。
 大きな窓からのぞく夜景が、煌めきを増していた。
 久しぶりの二人きりの空間。

 隣にゆっくり腰を下ろした青司は、じっと桜子を見つめた。
 青司の瞳が鏡みたいに、桜子の姿をうつしているのがよく見える。

 と、おもむろに青司が口を開いた。
 その声は、ただただ穏やかで....
 何でも話してしまいそうになる安心感があった。

「....何か悩んでる?」
「あ.......」

 青司は、何でもお見通しだったようだ。
 隠しはしていても、やはり彼は桜子のことをよくわかっていた。

「.....何でもないの。本当に些細なことで」

 桜子は俯いて...青司と目を合わせられなかった。
 何だか、泣いてしまいそうな気がしたから。

 頼りになる夫に、今すぐに甘えて縋りつきたくなってしまいそうだったから。

 でも、それではダメだ。
 きっと自分が夫に甘えて...頼りないから。
 青都は自分に甘えられないのかもしれない。

 ーーしっかりしなければ。

「..........」

 そんな心の葛藤を見透かすみたいに、顔を俯ける桜子を青司の視線が貫いてくる。

「...なぁ、桜子」

 青司はそっと大きな手を桜子の華奢な手に重ねて...
 ぴったり寄り添い、彼女の身体を温める。

「......はい」

 桜子は青司の体温にホッとしながら....
 でも顔をあげられない。

「....僕は君の...夫だよね」
「........」

 確かめる言い方に、意図をつかめず。
 だが、桜子は言葉なく...こくり頷いた。

「....僕は頼りないかな?」

 バッと顔をあげて桜子は勢いよく首を振った。

「そんなことない!...青司さんは、いつもとても頼りになるわ」
「..........」

 青司は、何も答えない。ただ黙って桜子を見つめる。

「...違うの。青司さんが頼りないなんてありえない。頼りないのは...」

 ーー私なの。

「.....桜子が?」

 青司は、目を見開いて聞き返す。
 桜子は、空いた片手できゅっと....ルームウェアのパンツの生地を握った。

「....青都が」

 ーーあまり甘えてくれないの。

「..........」

 静まり返った部屋に桜子の声だけが響く。

「....あの子、とても優しいでしょ?本当...青司さんそっくりで。....私の体調が悪い時や疲れている時を敏感に感じ取って、自分で頑張っちゃうの。...あんなに小さいのに....私、情けなくて。あの子は青司さんがいる時の方がワガママ言ったり....子供らしく居られてる気がして」

「...........」
「あなたは、一生懸命家族のために頑張ってくれてるのに、私....あなたが留守の間さえ、子供のこと満足に甘やかしてあげられないなんて....ごめんなさい」

 そこまで言って黙った桜子を...青司は優しく包み込む。

 ぎゅうと大きな胸に顔を埋めた桜子は、ついに涙腺が緩んだ。

「....桜子?」
「....はい」
「....一人で背負いこまなくていい。君は十分やってくれてる」
「..........」
「....君は一人じゃない。青都は、僕と...君の。“二人の“子供なんだ。二人で育てればいいんだよ?」
「....うん」
「青都は優しい子だ。....ママが大好きで、ママが元気に笑ってくれてるのが嬉しいんだろう。だから頑張る」

「....笑ってるのが嬉しいから?」

 桜子がゆるゆる目を見開いて聞き返すと、青司は優しく...目尻を垂れながら頷いた。

「ああ。....大切な人のために頑張るって、悪いことだと僕は思わないんだ。どんなに小さくても、あの子は男の子だからね。きっとママに優しくしたいって思いが強いんだろう」
「.......ええ」

「....それに僕からすると、青都は十分君に甘えているよ。ふいに抱きついて君の胸に頬擦りして。『ママ』と呼んでは『こっちを見て』といわんばかりの顔をして、色々披露している。君は『すごいね』と頭を撫でたり笑いかけたり。さっきだって...濡れた髪をごく自然に君が拭いてあげていて。それを当然のごとく彼は受け入れていた。青都は青都の思う形で、君を頼りにしているし....君は、十分青都を甘えさせてやっている」
「......そう、かしら」

 桜子の頬が紅潮して、みるみると表情が明るくなってくる。

「ああ、僕はそう思うよ。....だって、僕は時々、大人気なくあの子に妬いてしまうんだから」

 そう言って青司は、また笑った。

「....青司さんが、あの子に?」
「そうだよ?いつも桜子に抱きしめてもらって、優しく笑いかけてもらっているのを見ると、こう.....ちょっぴりね。.....羨ましいなって」

 照れながら、ぽりぽりと頭をかく。

「.....ふ、ふふふ。青司さんったら」

 そして、二人で笑い合った。
 桜子の心は軽やかで。さっきまで悩んでいたことが嘘のようにふわふわしていた。

「ありがとう、青司さん。私、何だか視野が狭くなっていたみたい。あなたの言う通りかもしれません」
「うん。きっと大丈夫だよ。桜子はとてもよくやってくれてる。.....僕こそ、いつも子供を守ってくれてありがとう」
「....はい」

 優しい言葉と共に、触れるだけのあたたかなキスが落ちてくる。桜子は目を閉じてしっとり触れる青司の肌を感じていた。

 と、スッと青司が立ち上がって、ソファの背に回り込む。

「....肩、凝ってる?」

 言いながら、桜子の肩を揉んでくれた。

「よくわかりましたね。最近痛くて。....肌も、手入れする前に寝てしまったりで....出会った頃より、年齢を重ねたのがわかってしまうでしょ?....嫌に、なってない?」

 何だか恥ずかしくなってしまって、桜子は頬を両手で覆いながらこぼした。

「そんなことないよ。....君は会うたびに素敵になっていく。出会った頃から素敵なのに、今はもっと...色香が増して....離れているのが心配になるほどだ」
「.....本当?」
「もちろん。.....今だって」

 ーーずっと我慢してるんだよ?

「..........っ」

 耳元で言われて、カァと桜子の頬が熱をもつ。
 結われてあらわになった桜子の白いなうなじは、みるみる赤く染まり.....青司は背後からそれをじっと見下ろしていたーー。

 彼の長い指の背が、うなじをスルリと滑る。

 ピクリと桜子は体を揺らすーー。

「....綺麗だ」

 その、甘さと....妖しさを含んだ声音を。
 桜子はただ...胸を高鳴らし。身体を緊張させて。
 聞いていたーー。


「....ねぇ、桜子?」

 ーーそろそろ僕のことも....構ってほしいな。

 それは、色気と懇願と....桜子へのたっぷりの愛情を閉じ込めた言葉。

 桜子は、そろりと....振り返り。
 青司を見上げるーー。

 その目はすでに潤んでいて....小さく開いた唇、火照った頬と相まって。まさに青司の言う『色香』を漂わせていたーー。

「.....たまらないな」

 青司はごくりと喉を鳴らして....桜子をギラギラと見つめた。

 そしてーー。

「....桜子....愛してるよ」

 グイッと力強く手を引いて....
 夫婦の部屋へと向かっていったーー。
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