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美しき雪豹は凍える少女を包み込みたい
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「おい。ここは相談室じゃないぞ」
「狐火先生...桃ちゃんが....僕の『花嫁』が....可愛すぎるんです」
「....聞いてるのか?」
「...はぁ~。僕、最近困ってて」
「...........」
ここは、都内にある名門国立大学。学長であり、講師でもある 狐火 十治の執務室で、一人の学生 神田 雪が項垂れていた。桃を『花嫁』として選んだ男であり、現在24歳を迎えようとしていた。
「そういえば、神田。お前、国家試験はどうだったんだ?」
「....聞いてます?...それはもちろん大丈夫です。合格発表はまだですけど、自己採点では満点でした」
「...満点か。相変わらず優秀だな。春から研修医か」
「はい。今後は、大学院で学んで研究の道に進もうかと」
「そうか。頑張れよ」
「ありがとうございます。でも...」
「ん?」
「桃ちゃんが可愛すぎて」
「...また戻るのか」
呆れてもうツッコむことをやめた十治は、耳だけ傾けつつ、机に向かう。サラサラと書類に書き込み、仕事を開始した。
◇
二人は、獣人同士。
入学前、呼び出された雪は大学を訪れた。
「...え?先生の奥さんは『花嫁』なんですか?」
「ああ。茜はここの学生で、次は三年になる」
「僕の...三つ上」
「そうだ」
「.....先生、相談があるのですが」
「ん?」
雪は学長である彼と話し、お互い獣人であること、十治の奥さんは『花嫁』であることを知った。
正直冷たい印象を抱いていた十治は、奥さんの話しをする時、表情が優しく崩れる。
雪は 『花嫁』をもらって幸せに暮らしている夫婦が近くにいることを知って嬉しくて....同時に桃の相談をした。
十治は真剣に話しを聞いてくれ、『花嫁』である茜にも桃への贈り物についてアドバイスをもらった。
おかげで、女の子の服などてんでわからなかった雪だが、桃は喜んでくれた。
そしてーー。
「...これで、きっと桃ちゃんには手を出せない」
「ありがとうございます」
「俺も弁護士としてついていこう。協力する」
「お願いします」
十治には、桃の親戚についてアドバイスをもらい、協力してもらった。書類を準備して、桃への扱いが好転するよう取り計らった。今後、桃に理不尽なことは絶対できないはずで.....実際そうなった。
桃の日常は平穏を取り戻してーー。
会うたびに子供らしい表情で擦り寄ってくる桃は、本当に愛らしかった。その笑顔を守りたくて、雪は何でもした。
だが、数年も経てば、今度は会うたびに違う桃を見つけるようになった。
それこそ、蕾が花開くさまを、眼前でまざまざと見ている心地になるほどに。
「雪さん...」
桃に呼ばれるたびに、ぐらりと目の前が揺れた。
桃は、良家の出だ。今は親戚に引き取られているが、元々の血と気品はずっと桃の中にある。
成長とともにそれが色濃くなっていき、美しく、女性らしくなっていく桃を前に、雪は戸惑うことが増えた。
◇
「...僕、まだ桃ちゃんの中で、『お友達』なんです」
「....お前が最初に友達になろうって言ったんだろう?」
「あの時は...それが一番いいと思ったんです。今でも間違いではなかったと思ってます」
そうだ。それで桃は抱いていた孤独から、逃れられたはず。間違いではなかった。
「...初めは良かった。桃ちゃんは僕にとっても『将来の』花嫁で。大切な人....『大切にするべき人』で。まだそれだけだったんです」
「...........」
真剣に話し始めた雪に、十治は執務をこなす手をとめ、雪の正面に移動する。
「でも....」
雪はそれ以上何も言わない。だが、十治には理解できた。
「..........」
「....獣人が恋心を募らせれば危うい。本能と対峙することになるからな。お前の『花嫁』は18になるまでまだ二年残されている」
ーー辛くなるなら、会うのはやめておけ。
「そうですね....」
雪は俯いて、十治の執務室はシンと静寂に包まれた。
桃は幼い。桃の中で、雪は未だ優しい兄や友人程度。せめて、一片の恋心でも彼女の言動に見え隠れしていれば、雪は焦りもせず....いつまでも待てた。
だが、そんな日は一向にやってこない。
無邪気に抱きついてきては、頭を撫でて欲しそうにする。「雪さん大好き」と甘えてくる。
それは恋心ではなく、信頼する保護者のような感覚なのだろうと雪は感じていた。
そもそも18歳まで待つつもりだったのだ。
それは今も変わっていない。
辛いのは待つことではなく....桃が雪を保護者としか見ていないことだった。
*****
「狐火先生...桃ちゃんが....僕の『花嫁』が....可愛すぎるんです」
「....聞いてるのか?」
「...はぁ~。僕、最近困ってて」
「...........」
ここは、都内にある名門国立大学。学長であり、講師でもある 狐火 十治の執務室で、一人の学生 神田 雪が項垂れていた。桃を『花嫁』として選んだ男であり、現在24歳を迎えようとしていた。
「そういえば、神田。お前、国家試験はどうだったんだ?」
「....聞いてます?...それはもちろん大丈夫です。合格発表はまだですけど、自己採点では満点でした」
「...満点か。相変わらず優秀だな。春から研修医か」
「はい。今後は、大学院で学んで研究の道に進もうかと」
「そうか。頑張れよ」
「ありがとうございます。でも...」
「ん?」
「桃ちゃんが可愛すぎて」
「...また戻るのか」
呆れてもうツッコむことをやめた十治は、耳だけ傾けつつ、机に向かう。サラサラと書類に書き込み、仕事を開始した。
◇
二人は、獣人同士。
入学前、呼び出された雪は大学を訪れた。
「...え?先生の奥さんは『花嫁』なんですか?」
「ああ。茜はここの学生で、次は三年になる」
「僕の...三つ上」
「そうだ」
「.....先生、相談があるのですが」
「ん?」
雪は学長である彼と話し、お互い獣人であること、十治の奥さんは『花嫁』であることを知った。
正直冷たい印象を抱いていた十治は、奥さんの話しをする時、表情が優しく崩れる。
雪は 『花嫁』をもらって幸せに暮らしている夫婦が近くにいることを知って嬉しくて....同時に桃の相談をした。
十治は真剣に話しを聞いてくれ、『花嫁』である茜にも桃への贈り物についてアドバイスをもらった。
おかげで、女の子の服などてんでわからなかった雪だが、桃は喜んでくれた。
そしてーー。
「...これで、きっと桃ちゃんには手を出せない」
「ありがとうございます」
「俺も弁護士としてついていこう。協力する」
「お願いします」
十治には、桃の親戚についてアドバイスをもらい、協力してもらった。書類を準備して、桃への扱いが好転するよう取り計らった。今後、桃に理不尽なことは絶対できないはずで.....実際そうなった。
桃の日常は平穏を取り戻してーー。
会うたびに子供らしい表情で擦り寄ってくる桃は、本当に愛らしかった。その笑顔を守りたくて、雪は何でもした。
だが、数年も経てば、今度は会うたびに違う桃を見つけるようになった。
それこそ、蕾が花開くさまを、眼前でまざまざと見ている心地になるほどに。
「雪さん...」
桃に呼ばれるたびに、ぐらりと目の前が揺れた。
桃は、良家の出だ。今は親戚に引き取られているが、元々の血と気品はずっと桃の中にある。
成長とともにそれが色濃くなっていき、美しく、女性らしくなっていく桃を前に、雪は戸惑うことが増えた。
◇
「...僕、まだ桃ちゃんの中で、『お友達』なんです」
「....お前が最初に友達になろうって言ったんだろう?」
「あの時は...それが一番いいと思ったんです。今でも間違いではなかったと思ってます」
そうだ。それで桃は抱いていた孤独から、逃れられたはず。間違いではなかった。
「...初めは良かった。桃ちゃんは僕にとっても『将来の』花嫁で。大切な人....『大切にするべき人』で。まだそれだけだったんです」
「...........」
真剣に話し始めた雪に、十治は執務をこなす手をとめ、雪の正面に移動する。
「でも....」
雪はそれ以上何も言わない。だが、十治には理解できた。
「..........」
「....獣人が恋心を募らせれば危うい。本能と対峙することになるからな。お前の『花嫁』は18になるまでまだ二年残されている」
ーー辛くなるなら、会うのはやめておけ。
「そうですね....」
雪は俯いて、十治の執務室はシンと静寂に包まれた。
桃は幼い。桃の中で、雪は未だ優しい兄や友人程度。せめて、一片の恋心でも彼女の言動に見え隠れしていれば、雪は焦りもせず....いつまでも待てた。
だが、そんな日は一向にやってこない。
無邪気に抱きついてきては、頭を撫でて欲しそうにする。「雪さん大好き」と甘えてくる。
それは恋心ではなく、信頼する保護者のような感覚なのだろうと雪は感じていた。
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