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美しき雪豹は桃の香りに包まれていたい(八章の『その後』です)
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「....遅くなっちゃった」
教授に呼び出され少し話をしていた桃は、腕時計をチラリと見た。もう雪が待っているはずの時間を過ぎている。
門まで急いでいると、ふと窓から雪の車とそばに立つ人影が見えた。
「あ、雪さん!やっぱりもう来てる.....ん?」
慌てて向かおうとしたところで、雪の隣にもう一人人影を見つける。目を凝らせば、それは萌子だとすぐにわかった。
「....萌子」
きゅっと心臓が嫌な音を立てて、苦しくなった。
桃は全力で走って...息を切らして門の数メートル手前までたどり着く。
と、目の前の光景に、ぐらりと目眩を覚えた。
萌子が雪の腕に絡みついて、豊満な体を押し付けていたのだ。ぷるんと艶やかな唇とふさふさのまつ毛に囲まれた大きな目を色っぽく細めて雪を見ていた。
見たくなくて顔を下に向けたら、怒りや不安、焦り、嫉妬。色々な感情でプルプル身体が震え始める。
力が入っていた拳をさらに握って...桃はもう堪忍ならなかった。
バッと顔を上げると、ズカズカと二人のそばまで歩いていく。
「ちょっと、萌子.....っ」
ガシッと萌子の肩を掴んで、雪からひっぺがす勢いで引いたら.....
「...えっ」
そこには、萌子の泣き顔があった。
思わず後ろに身を引いて固まってしまったら、萌子はさらに顔をぐしゃぐしゃにしていく。
そしてーー。
「ひ、ひひ、ひどーーい!!パパに言いつけてやるんだからー!!」
雪に捨て台詞を吐いて、悲劇のヒロイン風に両手で顔を覆って、走り去ってしまった。
(な、なんだったの?...というか『パパ』って...)
ガクッと桃のかたっぽの肩が下がった。
「....桃、おかえり」
ちゅっ、と背後からつむじにキスされて、萌子を追っていた視線を反対へと戻す。
「....雪さん」
ご機嫌に目尻を垂れて。雪は、桃だけを見つめていた。
「...迎えにきたよ。今日はちょっと遅かったね。何かあった?」
「あ...ごめんなさい。レポートのことで、教授に呼び出されて」
ごく自然に会話が展開されて、桃は今起きた出来事が頭から抜けてしまった。
顔は笑顔のまま、雪が間をおいて尋ねる。
「.......男?」
「へ?....ううん、教授は女性だよ」
「そう。....例え、相手が教授でも密室に二人きりになっちゃダメだよ?危ないから」
雪は心配そうに眉を下げて、桃を片手で抱き寄せた。
「...心配しすぎ」
「桃は、危機感がなさすぎるんだよ」
穏やかだが、キッパリと注意されて桃は「ふぅ」と息を吐いた。
「わかった。気をつけるね」
「ああ、そうしてね」
と、やっと桃の頭に萌子の一件が思い出されて。
...はぐらかされてはダメだ。聞かねばなるまい。
「....雪さん」
「ん?」
ちゅっ、ちゅっ、とご機嫌に桃の額や頬、頭に口付けを落とす雪は...はぐらかした感じはない。
(...本当に忘れてる?さっきのことなのに?)
「...さっきの女の子...萌子のことですけど」
「うん?」
話題を出してもやはりケロッとした態度だ。
逆に、桃が狼狽えてしまう。
「...えっと、あの...その」
「うん?なぁに?」
ニコニコと目を逸らさず聞き返す雪。
落ち着こう。最初に聞くことは...
「...泣いてませんでした?」
「うん?そうだね?」
そう、まずそこからだ。
だが、雪はケロッと。本当にカラッと。
事実に同意する感じで答えた。
「え、え...どうしてですか?二人の時に何かあったんじゃないんですか?」
だって、おかしい。門の手前まで出てきた時は、まだ萌子は泣いていなかった。さすがにそれを見逃すほど、距離は遠くなかったし、目も悪くない。
「ん~」
「..........」
「何もなかったよ」
ニコっといい笑みを浮かべて、雪が答える。
だがその後に続く言葉に不穏さを感じ始める。
「普通に会話しただけ」
「普通に?」
「うん」
ーー思ったことを、そのまま伝えただけだよ。
「...思ったことを、そのまま」
「うん」
「....ちなみに....どんな会話を?」
「ん~」
一瞬。ほんの一瞬...ニヤァと悪い笑みを刻んで。
雪は言った。
ーー君の香り。香水かな?....『僕は苦手だけど』好きな男もいるのかもね。『僕は苦手だけど』、とか?
(...2回言った)
ーー『お化粧が』上手なんだね。その『技術に』惚れ惚れするよ、とか?
(...それって褒めてるの)
「....なるほど」
「だって、僕は極上の香りを知ってるし。僕の中で、桃以上に綺麗で、可愛くて、美しい人はいないしね」
「.........」
「それに...あの子距離感が不快だったんだ。僕に触れていいのは桃だけなのに、それがわからないようだったから。....少しばかり正直に伝えすぎたかもね」
「.........」
「ダメだった?」
覗き込まれて、桃はゆるゆる目を見開いた。
口の端がぷるぷる震えて、弧を描いて上がっていく。
「ううん、ダメじゃない」
ふふ、とついに弾んだ笑いが溢れた。
雪は桃しか見ていない。それが嬉しかった。
「帰ろっか」
「うん!」
桃と雪は、手を繋いで車まで戻っていった。
「....遅くなっちゃった」
教授に呼び出され少し話をしていた桃は、腕時計をチラリと見た。もう雪が待っているはずの時間を過ぎている。
門まで急いでいると、ふと窓から雪の車とそばに立つ人影が見えた。
「あ、雪さん!やっぱりもう来てる.....ん?」
慌てて向かおうとしたところで、雪の隣にもう一人人影を見つける。目を凝らせば、それは萌子だとすぐにわかった。
「....萌子」
きゅっと心臓が嫌な音を立てて、苦しくなった。
桃は全力で走って...息を切らして門の数メートル手前までたどり着く。
と、目の前の光景に、ぐらりと目眩を覚えた。
萌子が雪の腕に絡みついて、豊満な体を押し付けていたのだ。ぷるんと艶やかな唇とふさふさのまつ毛に囲まれた大きな目を色っぽく細めて雪を見ていた。
見たくなくて顔を下に向けたら、怒りや不安、焦り、嫉妬。色々な感情でプルプル身体が震え始める。
力が入っていた拳をさらに握って...桃はもう堪忍ならなかった。
バッと顔を上げると、ズカズカと二人のそばまで歩いていく。
「ちょっと、萌子.....っ」
ガシッと萌子の肩を掴んで、雪からひっぺがす勢いで引いたら.....
「...えっ」
そこには、萌子の泣き顔があった。
思わず後ろに身を引いて固まってしまったら、萌子はさらに顔をぐしゃぐしゃにしていく。
そしてーー。
「ひ、ひひ、ひどーーい!!パパに言いつけてやるんだからー!!」
雪に捨て台詞を吐いて、悲劇のヒロイン風に両手で顔を覆って、走り去ってしまった。
(な、なんだったの?...というか『パパ』って...)
ガクッと桃のかたっぽの肩が下がった。
「....桃、おかえり」
ちゅっ、と背後からつむじにキスされて、萌子を追っていた視線を反対へと戻す。
「....雪さん」
ご機嫌に目尻を垂れて。雪は、桃だけを見つめていた。
「...迎えにきたよ。今日はちょっと遅かったね。何かあった?」
「あ...ごめんなさい。レポートのことで、教授に呼び出されて」
ごく自然に会話が展開されて、桃は今起きた出来事が頭から抜けてしまった。
顔は笑顔のまま、雪が間をおいて尋ねる。
「.......男?」
「へ?....ううん、教授は女性だよ」
「そう。....例え、相手が教授でも密室に二人きりになっちゃダメだよ?危ないから」
雪は心配そうに眉を下げて、桃を片手で抱き寄せた。
「...心配しすぎ」
「桃は、危機感がなさすぎるんだよ」
穏やかだが、キッパリと注意されて桃は「ふぅ」と息を吐いた。
「わかった。気をつけるね」
「ああ、そうしてね」
と、やっと桃の頭に萌子の一件が思い出されて。
...はぐらかされてはダメだ。聞かねばなるまい。
「....雪さん」
「ん?」
ちゅっ、ちゅっ、とご機嫌に桃の額や頬、頭に口付けを落とす雪は...はぐらかした感じはない。
(...本当に忘れてる?さっきのことなのに?)
「...さっきの女の子...萌子のことですけど」
「うん?」
話題を出してもやはりケロッとした態度だ。
逆に、桃が狼狽えてしまう。
「...えっと、あの...その」
「うん?なぁに?」
ニコニコと目を逸らさず聞き返す雪。
落ち着こう。最初に聞くことは...
「...泣いてませんでした?」
「うん?そうだね?」
そう、まずそこからだ。
だが、雪はケロッと。本当にカラッと。
事実に同意する感じで答えた。
「え、え...どうしてですか?二人の時に何かあったんじゃないんですか?」
だって、おかしい。門の手前まで出てきた時は、まだ萌子は泣いていなかった。さすがにそれを見逃すほど、距離は遠くなかったし、目も悪くない。
「ん~」
「..........」
「何もなかったよ」
ニコっといい笑みを浮かべて、雪が答える。
だがその後に続く言葉に不穏さを感じ始める。
「普通に会話しただけ」
「普通に?」
「うん」
ーー思ったことを、そのまま伝えただけだよ。
「...思ったことを、そのまま」
「うん」
「....ちなみに....どんな会話を?」
「ん~」
一瞬。ほんの一瞬...ニヤァと悪い笑みを刻んで。
雪は言った。
ーー君の香り。香水かな?....『僕は苦手だけど』好きな男もいるのかもね。『僕は苦手だけど』、とか?
(...2回言った)
ーー『お化粧が』上手なんだね。その『技術に』惚れ惚れするよ、とか?
(...それって褒めてるの)
「....なるほど」
「だって、僕は極上の香りを知ってるし。僕の中で、桃以上に綺麗で、可愛くて、美しい人はいないしね」
「.........」
「それに...あの子距離感が不快だったんだ。僕に触れていいのは桃だけなのに、それがわからないようだったから。....少しばかり正直に伝えすぎたかもね」
「.........」
「ダメだった?」
覗き込まれて、桃はゆるゆる目を見開いた。
口の端がぷるぷる震えて、弧を描いて上がっていく。
「ううん、ダメじゃない」
ふふ、とついに弾んだ笑いが溢れた。
雪は桃しか見ていない。それが嬉しかった。
「帰ろっか」
「うん!」
桃と雪は、手を繋いで車まで戻っていった。
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