お妃さま誕生物語

すみれ

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番外編 ディビット

ディビット・ハリンストン

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マクレンジー帝国軍では模擬戦闘が始まっていた。
「面白いのがいるな。」
少年の細い体格ながら戦闘訓練場を走るのがいる。
大人の男達の中で小さいから目立つ、狙われるはずだが、上手くかわしている。
体格の差を俊敏さや知能でカバーして大人に負けていない。
もう一人の子供ポールの息子のアーサーを庇い、指示を出して大人達に反撃をしている。
「やはり目を付けられましたか。」
「ケインズお前目を付けてながら黙っていたな。」

「我が国に現れた時は7歳、満身創痍まんしんそういの状態でした。マクレンジー軍兵に志願したいと来たのです。
名前をディビット・ハリンストンといいます、現在11歳です。」
立派な軍馬に乗っていたが、馬も本人も大ケガを負っていた。不審者が国境を越えたとの通報で駆けつけて見た瞳の衝撃を忘れない。
意識があるのが不思議な程の傷を負いながら、子供の体で国境の高い山脈を越えた意志、稀なる瞳。

「なるほどな。」
ハリンストン王国メーソン王の廃嫡された息子か。
「息子の方が出来できがいいな。」
廃嫡されても自らの意志で生きる道を選んだ、そしてあの高い能力。

メーソンも賢い王なら傀儡かいらいの真似をしていたろうに、議長の傀儡から今は軍属の傀儡だ。所詮は小物だ。
自分が政権を取った後の方針も考えずに、議長を打ち倒せばいいとだけで軍に力を借りた。
良い人間ではなかったが、有能な議長であった。
それをメーソンはわかろうとしなかったのだろうが、議長はわかっていたんだろう。
だから、メーソンを飛ばして孫に権力を持たせようとした、私でもそうする。
メーソンは息子と協力して政権奪還をすべきだったのだ、手軽で最低の道を選んだな。
「ケインズ、あれにガサフィと同じ教育を与えよ。」
「はっ。」


ディビットは夕食前に救護室で傷の手当てをしてもらっていた。
アーサーは帰る屋敷があるが、僕は兵舎住まいなので訓練の後はいつも世話になっている。
ここでは年下だからといって手加減などない。力の足りない分を俊敏力や知能など他の能力で補うしかない、必ず生き延びてやる。
「今日も派手にやったな。」
宰相であるケインズ・ガンター侯爵が顔をだした。この人は、大ケガを負ってこの国に入った僕を軍の救護室に入れてくれた人だ。
「侯爵、見られてたんですか。」
「リヒトール陛下も見られてた。」
思いがけない名前を聞いて驚いた、こんな下級兵士の訓練を見るのか。
「明日、朝食の後に私の部屋に来るように。」
「はい。」
何かがあるんだとわかる、覚悟がいるかもしれない。

僕はハリンストン王国の正妃の産んだ第1王子として誕生した。
残念ながら父には望まれていなかった。あの人は母の父である議長憎しで、それに関連したものは何でも憎かった。
僕を母の不義の子と決めつけ廃嫡にしたが、不義をしていたのは父の方だ。女性にだらしのない男で子供も何人かいたと聞く。
母と離婚して新しい王妃を迎え王太子を儲けたそうだが、すでに何人も寵妃がいるらしい。
僕が父の子供であることは、父が一番よく知っている。だから僕を殺そうとしたが、思い通りにはさせない。
あんな父の血が流れているかと思うと恥ずかしいぐらいだ。
追っ手をまきながら国境を越えたのは4年前のことだ、自分の力で生きるためにマクレンジー軍隊を目指した。
刺客が母を斬った、その後の母の事は知らない。僕も傷を負ったが馬に飛び乗り逃げることが出来た。
夢中で逃げた僕は一人で険しい山脈ルートに入り、隊商が通る道を暗闇の中手探りで辿った。一緒に逃げた愛馬はもういない、追手につけられた傷口から感染症になった。僕を運ぶために死力を尽くしたのだ、国境の山脈を越えると倒れた愛馬。僕が生きている事が父の最大の不安になる、絶対に死んでやるものか。

軍ではマクレンジー私兵隊の出身者はよく分かる。能力がまるで違うし、フェアである。能力のある者全てがフェアとは限らないが、フェアでいるためには高い能力がいるのだ。彼らが僕を保護し生き残る術を教えてくれた。自分達が国を出た時の姿と重なるものがあるのだろう。

僕はここで、王子の生活とは違う農民や兵士達、市民の生活を知った。たくさんの国から集まる私兵隊出身者の過去こそが世界の底辺の話だった。
尊敬される人間というのは地位の高い者や英雄がそうなるのかもしれない、だがすぐ側にも尊敬できる人間はいるというのも知った。父は王という地位でありながらさげすむべき人間であった。


コンコン、宰相の部屋をノックすると、直ぐに扉が開き中に通された。
そこには、宰相を従えた男性がいた、つまりリヒトール・マクレンジー皇帝だ。
「おはようございます。」
正面に向かい敬礼をした。
「その目がある限り、王太子であるということだな。」
ほお、昨日は遠目でわからなかったな、と陛下が感嘆してそう言った。
リヒトール陛下はこの目の意味を知っているらしい。
「父には現れませんでしたが、祖父も曾祖父もその父も代々、僕と同じオッドアイであったと聞いてます。」
「そうだ、オッドアイがハリンストン王国の王位継承の条件だ。現王太子と言ってるレオナールはオッドアイではない。」

しかも色がきまっている、右が青、左が金だ。

よくぞこれで不義だと言った、それを周りは認めたと笑ってしまう。
オッドアイは1代に1人しかでない、つまりは王とその後継者にしかでない。
祖父は早くに亡くなったが、本来なら祖父から父を飛ばして、僕に後継される王位だったのだ。
そして僕が生きている限り、父がいくら子供を作ってもオッドアイは生まれない。
何故だかわからないが14代それが続いたのだ、15代の父だけが違う。
ハリンストン王国第15代国王だけがオッドアイではない。
だから父は僕が恐いんだ。


「どうする。」
リヒトール陛下が僕に問いかける、子供相手の問答ではない。
「さあ。まず見ます。あの父に国は治められないでしょう。
その国が、僕に必要であるかどうかです。」
リヒトール陛下と目が合う、面白いといってるのが聞こえるようだ。
「その目は血だけではなく、限られた能力を引き継いだ者の特徴だろうな。」
能力を引き継いだ証、その能力とはなんだろう。

陛下は僕に数冊の外国語の本を与えて言った。
「ガサフィ・ロナウド、極東首長国の王太子だ、月の半分はマクレンジー帝国に来る。行動を共にせよ。」
リデル皇女の婚約者でマクレンジー帝国の教育をうけている男だ、たしか8歳のはず。それと共にという事は同じ教育を受けるという事だ。
この国で最高の教育を受けるに値する男になれと言われたとわかる。
「了解いたしました。」
その夜から、独学で本を読んだ。軍には様々な国からの志願兵がいた、彼らを捕まえては言葉を実践した。
元々、ハリンストン王国で王太子としての教育を受けていた、ブランクはあるがすぐに取り戻した。
マクレンジー帝国では実践あるのみだ、年齢にあった教育などではなく実務を経験するのだ。机上の空論になりがちな教育ではない。



その時に兵舎をでて、ガンター侯爵の家に入った。
名前を変える訳にはいかないので、養子ではないが保護者となった。
侯爵夫妻には子供がなく、夫人に喜んで迎えられた。僕はここで普通の母親の愛情というものを受けた。
「子供のいない私に、あなたは神さまからのプレゼントよ。とてもうれしいわ。」
抱き締められて額にキスを受け、家族で朝食を食べるという初めての経験に緊張した。
実の母はドレスが汚れる、と僕を側に寄せなかった。
父からも母からも愛情を受けなかった僕が得た家族だった。



僕にとって運命の出会いは何度もあった。
最初はケインズ・ガンター侯爵、リヒトール陛下、アーサー、軍の仲間達やガンター侯爵夫人、側近の子供達、そして王太子ガサフィ・ロナウド。
「お前は僕の従者か。」
初めて会った時に、僕よりずっとチビのくせに偉そうに言う。
「僕より優れているのか。」
バカにしてやった。
「今は違うな。」
こいつはバカでない。
「僕はリデルの為に世界の半分を手に入れる。リヒトール・マクレンジーを越えるんだ。」
僕にはない目標を持っている。その時は子供が幼児になに言ってると思っていた。
それから何年も共に行動することになる。

次は皇太子ジェラルド・マクレンジー、さらにチビだ。
11歳年下だ。執務室には2歳で、軍には6歳で放り込まれた。
僕が育てたと言ってもいいほど、一緒にいた。
こいつは血が大好きな変態だ。
「僕は趣味より理性が勝ってますから。」
言う事がすでに変態である、あの母親の息子でどうしてこうなるんだか。

最後に産まれてきたのが、サーシャ・マクレンジー、僕の最愛。
マクレンジー陛下の第2皇女、僕より14歳年下だ。
僕はサーシャの為にハリンストン王国をることを決めた。
ガサフィの気持ちがわかる、僕たちは同じだ、そしてリヒトール・マクレンジーもだ。


男が全てを賭けるに値する女に巡り合ったのだ。
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