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【番外編】まだ恋ははじまらない(高校生編)
1.名取晶
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彼女は大きな瞳を潤ませて、別れを告げる恋人を見上げた。
付き合いはじめて3ケ月。
楽しい思い出ばかりが蘇る。
束縛され、多少窮屈なこともあったけれど、それも愛されているからだと思えば我慢出来ないものではなかったし、眉目秀麗で頭脳明晰な彼は、誰にでも自慢が出来る欠点のない完璧な恋人だった。
「本当に、楽しかった」
優しい微笑でそう言われて、彼女は涙を堪えた。
そんな顔で見つめられたら、誰だって許してしまうだろう。
美しい思い出をいつまでも胸の中に大切にしまっておこう、と彼女は思った。
「お願い。最後にもう一度だけ…キスを」
別れのキスは唇から1センチ外して触れられた。
堪えていた涙が一筋、頬を伝った。
***
「雅治、ミス白鷺と別れたんだって?」
青山覚に言われて、雅治は来年度部活動予算案から顔も上げずに「それが」と返事を返した。
「確か、君から告白して付き合ったんだったよね。何が気にいらなかったの」
「別に……」
話しかけても適当な答えしか返ってこないことにムッとして、聞こえよがしの大きなため息を吐いてやる。
「なんだよ」
「雅治のそういうとこ、よくないよ。相手をその気にさせたあと捨てるくらいなら、告白しなければいい」
「捨てるって、大袈裟だな、おまえ。お互いに、楽しい時間を共有した、それでいいんじゃないか。だいいちおまえだって、一人の女の子とたいして続かないだろ」
「僕が別れるのは理由がある。雅治とは違う」
「理由たって、この前はなんだった?彼女が寝てるときにする歯軋りに我慢出来なかったんだっけ?おまえねえ、そんなの離婚訴訟だったら認められないぜ」
「僕は君と違ってロマンチストなんだよ」
睨み合っていた視線を覚がプイッと窓の方に向けると、校庭を一人の生徒が歩いていた。
「あれ」
と言って、覚は窓際に歩み寄った。
「名取晶が、ポケットに手を入れて偉そうに歩いている。あ、斉藤に捕まってなんか、注意されてる」
「なに言ってんだ」
つられて雅治も窓際に来た。
2階の生徒会室の窓からは、名取晶が生活指導の斉藤に何事か小言を言われている様子がよく見えた。
「なに叱られてるんだろ。茶髪のことかな。なんか、地毛証明書を偽造したとかって噂になってたけど」
やっと斉藤から解放された晶が、視線を感じたのか急に振り返って2階を見上げた。
「あ、目が合っちゃった。手、振っちゃお。顔赤くして、可愛いなあ、名取は」
「おまえ、女に失望してついに男に走るのか」
覚に呆れたように言いながら、なんとなく雅治も眼下の名取晶を見下ろした。
ふと視線が合ったのは自分のような気がした。
付き合いはじめて3ケ月。
楽しい思い出ばかりが蘇る。
束縛され、多少窮屈なこともあったけれど、それも愛されているからだと思えば我慢出来ないものではなかったし、眉目秀麗で頭脳明晰な彼は、誰にでも自慢が出来る欠点のない完璧な恋人だった。
「本当に、楽しかった」
優しい微笑でそう言われて、彼女は涙を堪えた。
そんな顔で見つめられたら、誰だって許してしまうだろう。
美しい思い出をいつまでも胸の中に大切にしまっておこう、と彼女は思った。
「お願い。最後にもう一度だけ…キスを」
別れのキスは唇から1センチ外して触れられた。
堪えていた涙が一筋、頬を伝った。
***
「雅治、ミス白鷺と別れたんだって?」
青山覚に言われて、雅治は来年度部活動予算案から顔も上げずに「それが」と返事を返した。
「確か、君から告白して付き合ったんだったよね。何が気にいらなかったの」
「別に……」
話しかけても適当な答えしか返ってこないことにムッとして、聞こえよがしの大きなため息を吐いてやる。
「なんだよ」
「雅治のそういうとこ、よくないよ。相手をその気にさせたあと捨てるくらいなら、告白しなければいい」
「捨てるって、大袈裟だな、おまえ。お互いに、楽しい時間を共有した、それでいいんじゃないか。だいいちおまえだって、一人の女の子とたいして続かないだろ」
「僕が別れるのは理由がある。雅治とは違う」
「理由たって、この前はなんだった?彼女が寝てるときにする歯軋りに我慢出来なかったんだっけ?おまえねえ、そんなの離婚訴訟だったら認められないぜ」
「僕は君と違ってロマンチストなんだよ」
睨み合っていた視線を覚がプイッと窓の方に向けると、校庭を一人の生徒が歩いていた。
「あれ」
と言って、覚は窓際に歩み寄った。
「名取晶が、ポケットに手を入れて偉そうに歩いている。あ、斉藤に捕まってなんか、注意されてる」
「なに言ってんだ」
つられて雅治も窓際に来た。
2階の生徒会室の窓からは、名取晶が生活指導の斉藤に何事か小言を言われている様子がよく見えた。
「なに叱られてるんだろ。茶髪のことかな。なんか、地毛証明書を偽造したとかって噂になってたけど」
やっと斉藤から解放された晶が、視線を感じたのか急に振り返って2階を見上げた。
「あ、目が合っちゃった。手、振っちゃお。顔赤くして、可愛いなあ、名取は」
「おまえ、女に失望してついに男に走るのか」
覚に呆れたように言いながら、なんとなく雅治も眼下の名取晶を見下ろした。
ふと視線が合ったのは自分のような気がした。
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