4 / 81
04月夜の宴①
しおりを挟む
ルイとレオポルド王子の婚礼から半月過ぎた。新たに王族として加えられたルイは、まだ宮殿の色に染まりきることができていない。
夫妻は別々に暮らしていて、ルイは婚礼の日以降は夫と会っていない。もちろん、王宮のなかでは単独行動が基本となる。侍女たちがいなければ心細くて辛い。
ここに来てから今日の日まで、祝宴が立て続けに行われている。何をお祝いしているのかは知らされていないが、毎日が酒盛りというのはおめでたいことである。
婚礼では雑な扱いをされたかと思えば、このような宴には律儀に招いてくれたりする。ルイは静かに暮らしたいと望んでいたが、王族からの誘いとあっては一度は受けておくべきだ。
できるだけ宴席の端のほうにちょこんと座る。目立たないように辺りに視線をやらずに存在感を消す。
「やぁ、これはルイ妃」
それでも話しかけてくる相手はいる。
声を掛けてきたのは老年の国王、フェリペ王である。レオポルドの実父だが顔はあまり似ていない。いや、王が老け顔すぎてわからないだけかもしれない。覇気のない老人のような風体であった。
「レオポルドの妃なのに、たしか君は男だったな。それとも実は君は女性なのかな」
「恐れながら、身も心も男でございます」
こちらの返答に大爆笑する王は、宴でかなり飲み過ぎているらしい。最近は酒と女に現を抜かしているという宮内の噂のとおり。王は俗物であった。
「もったいない‼その美貌で男とは、さぞや両親は長男であったかと嘆かれただろう」
「さぁ、どうでしょう」
「はははっ。いやはや、まぁ飲みたまえ。エスペランサの姫君よ」
わざとらしく姫などと呼んでくる。人を小馬鹿にしながら王は宴席に戻っていった。新たな仲間のことにはあまり興味がないらしく、ルイとは数回やり取りを重ねただけであった。
ルイと同じように端でひかえていた王妃からも挨拶がなされた。だがこちらも、彼のことはあまり関心がない様子であった。
「レオポルドをよろしくね」と声は柔らかいものだったが、こちらに向ける表情は素っ気ない。石ころでも見るかのような冷めた視線に、周りの従者も慌てだす始末である。
ルイは自分が王や王妃に嫌われていることを雰囲気からわかってしまった。
(予想はしていたけど、やはり歓迎されているはずがない)
他にもレオポルド王子の兄君であるマルクス王子、ロイド王子といった同世代の相手からも、ルイはもてなしを受けた。
ただ特に長男マルクスからはあらかじめ厳しく釘を刺された。「王宮で変な気は起こすなよ」とか「弟にはあまり近づくな」とか言われる。敵意むき出しの彼にも、ルイは朗らかに受け答えをした。
「レオポルドに変な色目でも使ってみろ、ただでは済まさないからな」
脅迫めいたことを言われたが、そのような危ないことをする気力はない。そんな趣味も経験も持ち合わせてはいない。まぁ故郷で母にさんざん知識を入れ込まれたが。
マルクス王子もロイド王子も外見だけならもう立派な大人のように見える。年齢はわからないが、弟のレオポルド王子があれだけ幼いため、大事に思っているのだろう。
「ご忠告ありがとうございます」
笑顔を絶やさずに、王族からの攻撃をすべて回避していく。ルイは早々に宴の席から抜け出したかった。面倒な人たちとの交流は、これ以上は気持ちが耐えられない。自分の心が擦り切れる前に気分転換に出かけたくなる。
幸いなことに外は静かで、鳥の声が響くほど穏やかな月夜であった。王宮のちょうど真裏には、張りつくように天然の湖が広がっている。知る人ぞ知る憩いの場として有名だ。
王宮暮らしのなかで発見したルイも、この湖畔を頻繁に訪れていた。
「ここだけはいいな」
湖は暗闇に満ちていた。
虫の羽音と、植物が風に揺らされる音。
水のせせらぎが耳にこもると心が洗われる。自然のなかで悦に浸りながら、片手間で自分の至らない点を考えてみた。人間関係を良好にできないのはどうしてか。どのように人と接していくべきか。
父と母から授けられた助言を思い起こしてみるが、今はそれらがまるで役に立っていない。やはり実際には難儀なことばかりで、言葉にできるほど単純なことではない。
「息が詰まるなぁ」
やるせなさにため息が漏れていく。弱音をはいた途端、近くの木々からガサガサとかすかな物音がした。
夫妻は別々に暮らしていて、ルイは婚礼の日以降は夫と会っていない。もちろん、王宮のなかでは単独行動が基本となる。侍女たちがいなければ心細くて辛い。
ここに来てから今日の日まで、祝宴が立て続けに行われている。何をお祝いしているのかは知らされていないが、毎日が酒盛りというのはおめでたいことである。
婚礼では雑な扱いをされたかと思えば、このような宴には律儀に招いてくれたりする。ルイは静かに暮らしたいと望んでいたが、王族からの誘いとあっては一度は受けておくべきだ。
できるだけ宴席の端のほうにちょこんと座る。目立たないように辺りに視線をやらずに存在感を消す。
「やぁ、これはルイ妃」
それでも話しかけてくる相手はいる。
声を掛けてきたのは老年の国王、フェリペ王である。レオポルドの実父だが顔はあまり似ていない。いや、王が老け顔すぎてわからないだけかもしれない。覇気のない老人のような風体であった。
「レオポルドの妃なのに、たしか君は男だったな。それとも実は君は女性なのかな」
「恐れながら、身も心も男でございます」
こちらの返答に大爆笑する王は、宴でかなり飲み過ぎているらしい。最近は酒と女に現を抜かしているという宮内の噂のとおり。王は俗物であった。
「もったいない‼その美貌で男とは、さぞや両親は長男であったかと嘆かれただろう」
「さぁ、どうでしょう」
「はははっ。いやはや、まぁ飲みたまえ。エスペランサの姫君よ」
わざとらしく姫などと呼んでくる。人を小馬鹿にしながら王は宴席に戻っていった。新たな仲間のことにはあまり興味がないらしく、ルイとは数回やり取りを重ねただけであった。
ルイと同じように端でひかえていた王妃からも挨拶がなされた。だがこちらも、彼のことはあまり関心がない様子であった。
「レオポルドをよろしくね」と声は柔らかいものだったが、こちらに向ける表情は素っ気ない。石ころでも見るかのような冷めた視線に、周りの従者も慌てだす始末である。
ルイは自分が王や王妃に嫌われていることを雰囲気からわかってしまった。
(予想はしていたけど、やはり歓迎されているはずがない)
他にもレオポルド王子の兄君であるマルクス王子、ロイド王子といった同世代の相手からも、ルイはもてなしを受けた。
ただ特に長男マルクスからはあらかじめ厳しく釘を刺された。「王宮で変な気は起こすなよ」とか「弟にはあまり近づくな」とか言われる。敵意むき出しの彼にも、ルイは朗らかに受け答えをした。
「レオポルドに変な色目でも使ってみろ、ただでは済まさないからな」
脅迫めいたことを言われたが、そのような危ないことをする気力はない。そんな趣味も経験も持ち合わせてはいない。まぁ故郷で母にさんざん知識を入れ込まれたが。
マルクス王子もロイド王子も外見だけならもう立派な大人のように見える。年齢はわからないが、弟のレオポルド王子があれだけ幼いため、大事に思っているのだろう。
「ご忠告ありがとうございます」
笑顔を絶やさずに、王族からの攻撃をすべて回避していく。ルイは早々に宴の席から抜け出したかった。面倒な人たちとの交流は、これ以上は気持ちが耐えられない。自分の心が擦り切れる前に気分転換に出かけたくなる。
幸いなことに外は静かで、鳥の声が響くほど穏やかな月夜であった。王宮のちょうど真裏には、張りつくように天然の湖が広がっている。知る人ぞ知る憩いの場として有名だ。
王宮暮らしのなかで発見したルイも、この湖畔を頻繁に訪れていた。
「ここだけはいいな」
湖は暗闇に満ちていた。
虫の羽音と、植物が風に揺らされる音。
水のせせらぎが耳にこもると心が洗われる。自然のなかで悦に浸りながら、片手間で自分の至らない点を考えてみた。人間関係を良好にできないのはどうしてか。どのように人と接していくべきか。
父と母から授けられた助言を思い起こしてみるが、今はそれらがまるで役に立っていない。やはり実際には難儀なことばかりで、言葉にできるほど単純なことではない。
「息が詰まるなぁ」
やるせなさにため息が漏れていく。弱音をはいた途端、近くの木々からガサガサとかすかな物音がした。
359
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる