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31杜撰
しおりを挟む儀礼の内容は単なる性交である。
これに作法やら格式のある動きがあるわけではない。引くか押すかは王子次第、受けるも拒むも相手次第。どのようなやり取りが巻き起こっても両者間の問題となる。これを上手く操っていくのは、経験と技巧に富んだ指南役の裁量にかかっているといえた。
王宮から指南役へ、特別に言い渡されることは「つつがなく済ませよ」の言葉だけ。つまり、問題なく王子に大人の手練手管を授けることが求められるわけだ。
責任重大な勤めであるから、指南役にはありとあらゆる王宮側の助けが入ることになる。特に同衾中の振る舞いや美徳とされる言動。貴族の性教育と似たりよったりだが、それなりの手引ぐらいはある。
女官や世話役との頻繁なやり取りから、ルイも膨大な資料と情報を受け取っていた。儀礼のお勤めにあたっての注意点、禁句とされる言葉遣いや単語。加えて以前までの儀礼の公開情報なども、包み隠さずにもらっていた。
マルクス王子の時は2時間で、ロイド王子の時には1時間で儀礼は終わったという。
「男の私でも、こちらは守るべきでしょうか」
「いえ。儀礼にかける時間は任意でございます。王子へ適切なことが教示されていれば十分です」
「その教示とは、どのような手順で進めていけばよいのでしょうか」
「ルイ様のなすがままで大丈夫ですよ。普段通りで、まったく構いません」
時間による拘束はないことがわかって少しだけ安心する。
厳粛な公文書のなかで、たまに猥雑な言葉が混じることがある。公的な記録がつくのは時間と儀礼者の言葉のやり取りだけで、内容そのものに触れた文書は存在しなかった。
女官からの説明を受けている途中でも、ルイは妙な違和感がぬぐえなかった。これほどまで自分が周りに信頼を置かれていることもそうだし、見切り発車の勢いが感じられることもそう。ひどく悠長な雰囲気がしたのだ。
淡々としている女性の顔に変化はない。男に責務を担わせても、後ろめたさはないらしい。むしろこちらを落ち着かせようと、わずかに緊張感を緩めてさえいる。
「普段通り、とは?」
「ルイ様が進めている手筈で良いという意味でございますが」
「……」
「日頃の床での経験を教えていただければ、我々も助言することはできますよ」
ここで食い違いが生じていることに、ルイはようやく気づいた。女官は何を勘違いしていたのか、ルイたち夫婦の関係がかなり進展していると思っているらしかった。
「私、こういった経験がなくて」
「え……?」
「ですから……!!私は今まで男性とも女性とも性行為をしたことがなくて、そういうのはわからないんです」
この発言に、女官は座椅子から転げ落ちそうなほど動揺していた。ベテランであるはずの女官たちも、想定していたことと違って、非常に焦っている。
「うそでしょう」
「嘘じゃありません。本当に初めてなんです、私自身も」
「で、殿下との経験はないのでございますか?」
「ありませんし、そもそも王子は未成年ですよ?法律でそういうことは禁じられているでしょうに」
「他の殿方とは」
「まさか」
周りの女官が引き気味に、発言者の勢いを止めにかかった。
動揺が顔だけでなく、思考にも影響を及ぼしているらしい。女官は無礼を平謝りしつつ、なおも驚きを全面に出していた。
「話が変わってきます」
小さな相手の呟きにルイはにらみつけた。それらも把握したうえで、自分を選んだわけではないのか。どこまで杜撰で適当な人事管理をしているんだと吐き捨てたくなる。
「てっきりルイ様は経験豊富なのかと、あぁいえいえ。許されてはいませんが、レオポルド殿下とは、すでに接触があるものと考えておりました」
「夫はまともですし、私も彼も同性愛を共有しているつもりはありません」
腕を組んでいる向かいの相手に対して、ルイは嫌悪感を抱いた。自分がまるで変態か、未成年を誑かしている犯罪者のように扱われたからだ。彼女が王宮を取り仕切っている人間とは信じたくない、断じて。
「ま、まぁ。ルイ様ですから、なんとかなるでしょう。儀礼は形だけのもの。やり様はいくらでもあるというものです」
「では……私が勤めをすることは変わらないと」
「そうなります。書面に記してしまったので、その点はご了承ください」
有無を言わせないという女官の対応は、なかなかに手厳しいものであった。もはや後戻りは考えられない。そもそもが王妃と王子の進言によって決まった指南役の勤めである。これを覆すことができないことは、ルイもなんとなく理解していた。
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